RCEP協定を利用する前に、自社の産品にとってRCEP協定税率が最も低い税率になるか把握することが必要になります。その際に役立つのが譲許表(関税率表)です。
そこで本記事では、関税率をリサーチする手順や関税率表の見方、HSコードの特定に役立つ各種表について解説します。FTA分析・管理プロセスを自動化し、貿易実務担当者の負担軽減に役立つ「ONESOURCE FTA Analyzer」についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
RCEP協定税率を利用すべきかリサーチする手順
数多くの協定がある中で、自社の産品にとってRCEP協定税率が最も低い税率になるとは限りません。そこで品目ごとに関税率を調べて、RCEP協定税率が最も低いかどうか比較検討する必要があります。手作業で関税率をリサーチする手順は、次のとおりです。
- 実行最恵国(MFN)税率
- RCEP協定税率
- 既存のEPA税率
まずはWTO加盟国からの輸入時に、輸入国側で適用される「実行最恵国(MFN)税率」を調べます。次に輸出入を行いたい相手国が、国内手続きを経てRCEP協定の締約国になっているかを確認した上で、譲許表からRCEP協定税率を調べましょう。
また中国と韓国を除くRCEP参加国は、日本との間にすでにEPAを締結しています。そこで、商品の輸出入を検討しているRCEP締約国に適用される既存のEPA税率も調べて比較することが大切です。(注1
関税率を比較する際に使う関税率表の見方
ここでは日本より「輸出」する品目のMFN税率と、RCEPなどのEPA関税率を比較する際に使用する関税率表の見方についてご紹介します。
MFN税率を調べるための1番正確で確実な関税率表は、輸入相手国の税関が公表する情報です。公表情報源については、JETROホームページの「国・地域別情報」で紹介されています。しかし一般的には、利便性の高い「World Tariff」データベースで検索することが多いでしょう。
EPA関税率を調べるためには、EPA相手国側の「譲許表(関税率表)」を参照します。ではそれぞれの関税率表の見方について見ていきましょう。
JETRO経由『World Tariff』
JETROホームページ経由でユーザー登録すると、米国のFedEx Trade Networksが提供する「World Tariff」を日本居住者は無料で利用できます。
World Tariffは、輸出先とHSコードを入力すると世界約178カ国・地域の関税率を検索できるデータベースです。そのため利便性は非常に高いのですが、検索結果は公式情報ではありません。そこでWorld Tariffを利用する際には、同時に現地の輸入者を通じて輸出先の税関へ正確な税率を確認するようにします。
税率を確認する際には、ユーザー登録・ログイン後、「HS Number Search」を選択してください。表示された検索画面において仕向け国/輸出先を選択して、HSコード一覧から該当コードを選択すると、輸出先の国別の関税率が表示されます。(注1
EPA相手国側の譲許表(関税率表)
RCEP協定税率を調べる場合、輸入国側の「譲許表(関税率表)」を個別に参照して確認します。譲許表は関税撤廃・削減のスケジュールがまとめられたもので、RCEP協定条文の附属書I(関税に係る約束の表)に掲載されているのでチェックしてみましょう。(注2
譲許表に記載されている事項を下記にまとめました。
譲許表の項目 | 項目の内容 |
HSコード | ・輸出入時の商品分類番号を特定し、関税率や原産地規則を調べる・RCEP協定ではHS2022版の関税分類を使用している |
品目名 | ・関税分類の品目名が記載されている |
基準税率(ベースレート) | ・関税の撤廃または削減の基準となる税率のこと・RCEP協定では2014年1月1日時点のMFN税率を使用 |
N年目税率 | ・関税撤廃・削減のスケジュールを確認できる・「Free」は無税、「U」はRCEP協定において関税撤廃・削減の対象外を意味する |
備考 | ・国別の譲許内容の違いを確認できる |
出典:日本貿易振興機構|RCEP協定解説書「RCEP協定税率を調べる ~譲許表の見方~」
ほかにも税関のホームページでは、EPA相手国側譲許表の一覧が公開されています。一覧からは日本が締結している二国間、AJCEP、CPTPP、RCEPなどの経済連携協定に関する相手国情報や譲許表へスピーディにアクセス可能です。(注3
関税率表の番号「HSコード」の調べ方
日本国内で使用されているHSコードは、日本語で「輸出入統計品目番号」、「関税番号」、「税番」などと呼ばれることもあります。「関税率を調べる際には、自社の産品が関税率表のどのHSコードに分類されるのかをまず確認することが必要です。(注1
あらゆる貿易対象品目は21の「部」に大分類され、国際的には6桁の数字でHSコードは統一されています。ただし日本ではさらに細分化された9桁で構成されているほか、輸出入申告書ではオンライン処理システムのNACCS用番号を加えた10桁の番号で表記されているのです。(注4
HSコードの調べ方の詳細については「輸出時におけるHSコード(実行関税率表)の調べ方・HS2022更新内容」をご覧ください。
ここでは、HSコードを調べる際に役立つ各種表についてご紹介します。
輸出統計品目表
輸出申告の際、輸出入申告書に記載する日本国内細分のHSコードは「輸出統計品目表」で確認します。日本関税協会出版の刊行物、あるいは税関のホームページで確認しましょう。
実行関税率表
日本への輸入申告の際には、輸出入申告書に記載する日本国内細分のHSコードは「実行関税率表」で確認します。実行関税率表では、日本へ「輸入」される品目のMFN税率とEPA関税率が掲載されているので、日本関税協会出版の刊行物、あるいは税関のホームページで確認しましょう。
概況品コード表
HSコードを調べる際の入門編とも言えるのが、品目を一般的な名称で記載している「概況品コード表」です。税関ホームページ上の概況品目とHSコードの対照表を参照した上で、当該品目のHSコードを輸出統計品目表で確認しましょう。
関税率表解説・分類例規
HSコードの上2桁は「類」と呼ばれています。税関ホームページ上の「関税率表解説・分類例規」を参照して、各類の詳細を確認しましょう。
手作業で商品の分類を検索したり、製品分類を決定していると、膨大な時間がかかります。そこで220の国・地域の最新の関税率表などのコンテンツと一体として利用できるHSコード管理ソリューションのご利用がおすすめです。
詳しくは下記リンクから、ぜひお問い合わせください。
HSコード(global classification)trial
RCEP協定における税率差ルール
RCEP協定においては、相手国によって譲許内容が異なる場合があります。たとえば日本の譲許内容は、「ASEAN・豪州・NZ」「中国」「韓国」の3つに分かれているために、同一の原産品であっても相手国によって異なる税率が適用されることがあるのです。
ここでは、RCEP協定における税率差ルールについて見ていきましょう。
税率差ルール設定の目的
輸入締約国が相手国によって異なる関税率を設定している「税率差発生品目」については、迂回輸入が行われるかもしれません。そこで迂回輸入を回避する目的で、「税率差ルール」が規定されているのです(第2.6条)。
税率差ルールの基本
税率差ルールが設けられたRCEP協定では、原産地規則によって産品が原産品の資格を取得した国とは別に、「RCEP原産国」を決定する必要があります(第2.6条)。複数ある税率のうち、税率差発生品目には「RCEP原産国」に対する関税率が適用されるのです。(注6
輸出締約国は、直ちにRCEP原産国にならない場合があることを知っておきましょう。
特定の品目についての特別ルール
RCEP原産国については、産品が原産品として認められることを確認した後に検討するのが基本です。
輸入国は自国の譲許表の付録に特定の原産品を掲げています(日本は100品目)。特定の品目については、輸出国における付加価値が20%を満たした場合のみ、RCEP原産国は輸出国になるのです。(注6
RCEP協定税率の利用の流れ
関税率表を比較した結果、RCEP協定税率が自社の産品にとって最も有利と判明した後の流れをご紹介します。(注1
原産地規則(原産品、累積、積送基準)を満たすか確認する
生産された産品は、RCEP協定の原産地規則に基づく原産品か確認します。「原産品」「累積」「積送基準(直接積送)」の3つの条件を満たすことが重要です。
RCEP締約国から輸出された貨物が、原産品としての資格を維持する積送基準を満たしていることを証明するために、「運送要件証明書」の提出を輸入申告時に求められることがあります。(注7
原産品の判定基準については、「RCEP特定原産地証明書の発給にあたり必要な原産品判定基準について解説」をぜひご覧ください。
原産地証明を準備する
輸入国の税関において原産品であることを証明する原産地証明を準備して、相手国側の輸入者に送付します。
輸入申告時の必要書類については、「RCEP協定の必要書類とは?原産地証明手続ごとに税関への提出書類を解説」をぜひご覧ください。
RCEP協定税率が最もよい条件か比較することが重要
関税戦略を最適化するためにも、関税率の調査が非常に重要な鍵になります。他の税率と比較してRCEP協定税率が最も低い税率であれば、RCEP協定は自社の産品にとって最も有利なEPA/FTAです。
ONESOURCE FTA Analyzer
自社の産品にとって関税削減効果が最も大きくなるEPA/FTAを手作業で調査していると、膨大なリソースを費やすことになります。そこでEPA/FTAを最大限活用するためにも、意思決定・分析ツール「ONESOURCE FTA Analyzer」の導入がおすすめです。
詳しくは、下記のリンクからぜひお問い合わせください。
参考情報:
注1:日本貿易振興機構|RCEP協定解説書
注2:外務省|地域的な包括的経済連携協定 附属書I 関税に係る約束の表
注3:税関|EPA相手国側譲許表(関税率表)
注4:日本貿易振興機構|HSコード
注5:財務省関税局|地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 【概要】(令和3年12月)
注6:税関|RCEP原産国について
注7:税関・原産地規則ポータル|直接積送(積送基準)