国際貿易に携わる企業は、企業防衛の観点から法令違反を未然に防止し、懸念取引への巻き添えリスクを回避するためにも、安全保障貿易管理(輸出管理)の実施が必須です。中でも引き合いがあった際に取引の可否を判断する取引先審査は、営業部門においては顧客審査、調達部門においては調達先審査と呼ばれます。
本記事ではいずれも顧客審査とみなし、安全保障貿易管理(輸出管理)の顧客審査の概要や関連する法令について見ていきましょう。常にビジネス上のリスクを最小限に抑えるために、最新の規制や制度変更に対応できるONESOURCE Export Complianceについても紹介しますので、輸出管理の実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
安全保障貿易管理の顧客審査とは
大量破壊兵器等の開発・製造等に関与する懸念のある国・組織に貨物や技術が渡ることを未然に防止するための国際的なレジーム(枠組み)の下、安全保障貿易管理(輸出管理)は国際的な平和と安全の維持を目的に、各国によって実施されています。
この安全保障貿易管理における顧客審査とは、貨物および技術の輸出に関連して需要者及び用途確認などを勘案し、取引可否を決定する取引審査の一部です。製品および技術がエンドユーザーに到着するまでに関わる全ての関係者を対象に顧客審査を実施することが、リスクを軽減する上で重要になります。
顧客審査と取引審査の違い
取引審査では、用途及び需要者等を調査して安全保障上の懸念がないかどうかを確認した上で、取引の可否を判断します。顧客審査とは、この取引審査に内包される需要者の確認のことです。政府は、「顧客審査」と「需要者の確認」について、その具体的な内容においては大きく変わらないとの見解を示しています。
これから輸出する貨物や提供する技術の用途確認(エンドユース)、需要者確認(エンドユーザー)の2点が、安全保障貿易管理における輸出者による確認のポイントです。「国際的な平和及び安全の維持を妨げるおそれのある用途に使用されないことが確からしいか否か」等、輸出許可基準の内容を企業は考慮しなくてはなりません。
顧客審査が必要とされる理由
取引相手の実在性を確認し事業内容を把握する顧客審査は、企業防衛の観点から非常に有益であるために、安全保障貿易管理において必要とされているのです。許可を取得せずに、リスト規制あるいはキャッチオール規制の対象である貨物の輸出や技術の提供を行うと外為法違反となり、下記のような刑事罰や行政制裁が科せられます。
| 刑罰 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 刑事罰 | 10年以下の懲役10億円以下の罰金(法人)3千万円以下の罰金(個人)※当該違反行為の目的物の価格の5倍が上記の罰金額を超える場合、当該価の5倍以下の罰金を科される |
| 行政制裁 | 3年以内の、貨物の輸出や技術の提供の禁止別会社の担当役員等への就任禁止 |
| 警告 | 経済産業省からの違反企業に対する警告(原則公表) |
| 経緯書・報告書の提出 | 違反原因の究明と再発防止に重点をおいた経緯書又は報告書の提出を求める対応(原則非公表) |
出典:安全保障貿易管理ガイダンス[入門編](第2.3版 | 令和6年5月)|経済産業省
さらに企業イメージが悪化したり信用が失墜したり、社会的制裁などの影響が甚大になるリスクがあります。また外為法違反においては、貨物の輸出や技術の提供を行う者の責任が問われる点に注意が必要です。例えば間接輸出のケースでは、貨物の輸出を行う商社の責任を問われることになります。(注1
コンプライアンスの向上とコスト削減を実現する安全保障貿易管理システム/ソリューションの重要性については「安全保障貿易管理システム/ソリューションの重要性とは?規制強化への対応が必須」からご覧ください。
安全保障貿易管理における顧客審査の実際
大企業はもとより大学・研究機関や中小企業も含めて、業として輸出等を行う者は法令を遵守しながら、適切に輸出管理を行う必要があります。ここでは、安全保障貿易管理における顧客審査の具体的な方法について見ていきましょう。
顧客審査の対象
顧客審査の対象は、貨物および技術の輸出に関わる需要者等(企業・組織)です。需要者等とは、「技術取引の相手方若しくは技術を利用する者若しくは貨物の輸入者若しくは需要者又はこれらの代理人をいう」と定義されています(輸出者等遵守基準を定める省令第1条第二号ニ)。また「みなし輸出」管理の運用明確化に伴う「特定類型該当者の確認」も含まれますので、留意してください。(注2(注3
顧客審査のプロセス
顧客審査においては、まず需要者が「外国ユーザーリスト」掲載の企業・組織かどうかを確認します。外国ユーザーリストは毎年改訂されることから、最新リストを参照するようにしてください。外国ユーザーリストは安全保障貿易管理上の顧客審査において基本となる参照資料ですが、禁輸顧客リストではないために、どの程度の懸念度であるかを輸出者側が判断しづらい点は否めません。
次に大量破壊兵器等の開発、製造、使用あるいは貯蔵を行う(行っていた)懸念顧客・テロ組織、テロリスト等かを確認します。行政処分を受けている顧客かどうかも合わせて確認するようにしましょう。 軍あるいは軍関係機関、またはこれらに類する機関であるかの確認も重要です。顧客審査のプロセスは、後述するCP等に規定しておくことが推奨されます。(注1
顧客審査を行うタイミング
顧客審査を行うタイミングは、各社CPの細則等によって定めるようにしましょう。具体的には、下記のようなタイミングが考えられます。
- 年に1度など定期的に公開情報や第三者の提供する情報を参照して確認する
- 直接訪ねる機会などを活用して直接ヒアリングする
法的な背景:輸出者等遵守基準(省令)改正とCP通達改正
業として貨物・技術の輸出等を行う輸出者等は、輸出者等遵守基準を定める省令にそって適切な輸出・技術提供を行わなくてはなりません(外為法55条の10・4項)。リスト規制貨物・技術の輸出等を行う者に対してはより厳しい基準が用意されるなど、輸出者等遵守基準は2段階で構成されています。
大量破壊兵器をはじめとする兵器の開発等に用いられるおそれが高い機微技術・製品は、日本においてはリスト規制及びキャッチオール規制で管理されている状況です。そこで「輸出者等による」安全保障上の機微技術・製品の流出を未然に防ぐ体制を強化する目的で、輸出者等遵守基準が改正されました(2025年10月9日施行)。これに伴い「輸出管理内部規程の届出等について(CP通達)」別紙1の「外為法等遵守事項」も改正されています(以下、CP通達改正)。(注2
ここでは、安全保障貿易管理における顧客審査に直結するCP通達改正について見ていきましょう。
自主管理を強化する輸出管理内部規程(CP)
輸出管理内部規程(以下、CP:コンプライアンスプログラム)は、貨物の輸出や技術の提供にあたり厳格な輸出管理を行い、外為法等の法令違反を未然に防止するために有効なツールです。そのため経済産業省は、CPを策定した上で安全保障貿易管理(輸出管理)を行うことを推奨しています。ただしCPは、法的な規制ではありません。あくまでも自主管理を強化するための任意の内部規定という位置付けです。
「輸出管理内部規程(CP)の届出について」別紙1「外為法等遵守事項」の『基本方針』及び『個別事項(8項目)』のすべてを網羅し、最新の法令・制度を反映していれば、原則、2段階の輸出者等遵守基準すべてを満たすCPとなります。
CP通達改正のポイント
改正のポイントは下記のとおりです。
1.省令第1条第二号ニを勘案し、需要者等の対象を明確にした上で顧客審査を行う
2.取引関係にある荷受人等の情報を鵜呑みにせず、補完的な措置としてその情報の信頼性を高める手続きを定めた上で用途及び需要者の確認を行う(特定重要貨物等の輸出等の場合)
輸出者等遵守基準と輸出管理内部規程(CP)の違い
輸出者等が遵守するよう義務付けられている輸出者等遵守基準では、監査、教育(研修)、子会社への指導等及び文書管理は努力義務として規定されています。一方で、任意の届出制度に則り経済産業省へCPを届け出た場合には、努力義務ではなくこれらを確実に届出企業として実施する規定となる点が違いです。
日本の安全保障貿易管理に係る関係法令の改正状況については「安全保障貿易管理に係る関係法令の改正状況は?その影響や備えについて解説」からご覧ください。
まとめ:「遵守基準」に適応した「自主管理」体制の構築が必要に
機微技術・製品の流出防止を確実にするためには、社内全体で安全保障貿易管理への意識を高めることが重要になります。機微技術・製品の流出は自社だけなく、国際的な平和と安全の維持に影響を与えることから、輸出者等遵守基準に適応した自主管理体制の構築が必要になるのです。
ONESOURCE Export Compliance
グローバル規模で安全保障貿易管理上の法令や規制が頻繁に改正される状況の中、モレや遅滞なく輸出コンプライアンスを実現することは容易ではありません。日本企業がグローバル全体で取引状況を掌握し、リスクを最小化するためには、安全保障貿易管理業務のDXが必須です。トムソン・ロイターでは、政府が求める顧客審査を通じて懸念がないことの確認を多段階で実施できるソリューションONESOURCE Export Complianceをご用意しています。詳しくは下記リンクよりご覧ください。
参考資料
注1:安全保障貿易管理ガイダンス[入門編](第2.3版 | 令和6年5月)|経済産業省
注2:輸出者等遵守基準等の改正について(令 和 4 年 3 月)|経済産業省
注3:みなし輸出管理の運用明確化について|経済産業省