貿易コンプライアンスとは?その対象や近年の動向、企業がとるべき対応を解説

2018年7月以降、1974年通商法301条に基づき米国が7.5~25%もの追加関税を中国原産品に賦課する一方で、中国も対抗措置を実行するなど保護貿易主義的な動きが広がっています。世界情勢の変化を受けて、国際貿易制裁や輸出規制が年々複雑化しているために、日本企業は貿易コンプライアンスについて今一度確認しておくことが大切です。

そこで本記事では安全保障輸出管理、FTA/EPA活用、ESG経営を実践する観点から、貿易コンプライアンスについておさらいします。広範な情報網羅とモニタリング体制を備えたONESOURCE Export Complianceについても紹介しますので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。

貿易コンプライアンスとは

貿易コンプライアンスとは、国際的な商取引・物流及びその手続きから貿易金融に至るまで、あらゆる貿易オペレーションに関連する法規制を遵守することです。貿易コンプライアンスは、貿易取引に関与する企業の責任において確保されなくてはなりません。

ここでは貿易金融には触れずに、商取引・物流面におけるコンプライアンスについて説明します。

貿易コンプライアンスが重要視される理由

貿易コンプライアンスは、貿易の円滑化はもちろんのこと、サステナブルなグローバル・サプライチェーンを実現して「企業価値」を高めていくために重要視されています。業界・業種の別や企業規模の大小に関わらず、どのような規則や規制が自社の貿易に適用されるか、企業の責任において最新情報を把握するようにしましょう。

貿易コンプライアンスが重要視されている例として、セキュリティ管理と法令遵守の体制を整えた事業者を税関が認定した上で、手続きの簡素化と迅速な通関というベネフィットを与える国際標準の枠組み「AEO制度」があります。WCO(世界税関機構)で採択された枠組みをもとに、日本でも運用されている制度です。さらに2017年に発効したWTO(世界貿易機関)のTFA(貿易円滑化協定)においても類似の概念(AO)が導入されています。(注1

遵法するメリット

法規制の管理体制を強化し、抜け漏れなく貿易コンプライアンスを確保するメリットとして、次の3つが挙げられます。

  • 責任ある取引を推進することで、企業価値や信用を高められる
  • 法令違反による行政制裁、刑事罰、罰金等による損失を回避できる
  • 目的地へのタイムリーな到着とスムーズな通関手続きの確保によって顧客満足度を高められる

多くの企業が生産・販売拠点の海外比率を増やす中、複雑化する法規制の管理体制は追いついていないのが実情です。出荷の遅れや制裁の対象にならないためにも、国際貿易に関与する企業は貿易コンプライアンスを実現するための施策を検討するようにしましょう。

貿易コンプライアンスの対象

各国の輸出入税関に提出する商業書類、各国・地域の規制、日本の安全保障貿易管理における取引品目、取引相手、仕向地などの規制、FTA/EPA活用時の関税率表など、遵守すべき法令の範囲は多岐に渡ります。そのため貿易コンプライアンスを確保するために管理する対象も、下記のとおり非常に広範囲です。(注2、(注3、(注4

対象貿易コンプライアンスに必要な対応
関税分類・正確な関税額を算出するために、HSコードを使用して商品を正しく分類する・HS条約改正に伴い、分類改訂は約5年ごとに実施されている・EPA税率の適用にあたり前提となる原産地規則や関税率はHSコードで規定されているために、HSコードの正しい理解が必要になる
税関による事後調査・税関職員によって、輸出入に関係する帳簿や書類等の確認が実施される場合に備えて、行動計画を策定しておく(帳簿書類の保存義務にも留意)
輸出規制・デュアルユースの可能性の高い製品・技術を見極めるために、照会作業を徹底する・日本の安全保障貿易管理制度への理解を深めるリスト規制キャッチオール規制積替規制仲介貿易取引規制「みなし輸出」管理 など
顧客やベンダーの審査・経産省が公表する「外国ユーザーリスト」などを活用して審査し、懸念のある顧客やベンダーと取引を行う場合には経済産業大臣の許可を取得する
制裁措置の対象・制裁措置の対象となるすべてのロケーションを把握する
経産省による事後審査・「事実関係の解明」と「再発防止」を目的として、各種通報をもとに経産省による事後審査が実施される・外為法違反の事実関係を解明するために、事情説明書や調査票を提出するなどして協力する必要がある
特恵税率、原産地規則・活用するFTA/EPAによって、異なる特恵税率や原産地規則が設定されている・検認の結果、特恵税率が否認されると修正申告や過少申告加算税などの追徴リスクがある
ESG・グローバル・サプライチェーンにおいて、強制労働や児童労働といった人権侵害を回避するために人権デュー・デリジェンスに取り組む

上記を見ても分かるとおり、抜け漏れなく遵法するためには膨大なリソースが必要です。そのため従来のように、経験値の高い担当者の知見に頼りながら、人海戦術で法規制を調査する手法は現実的ではありません。

国際的な輸出管理の枠組みで厳正に規制されるデュアルユース技術については「デュアルユースとは何か?安全保障貿易管理の観点から品目例も解説」からご覧ください。

近年の貿易コンプライアンスの動向と企業がとるべき対応

貿易コンプライアンスの確保に向けて企業がとるべき対応として、次の3つが挙げられます。

  • リスト規制等を考慮し、社内での該非判定手順を確立する
  • 貿易コンプライアンスの対象となる文書を適切に保存する
  • 法令違反等を未然に防ぐ社内チェック体制を整備し、発見した場合には是正措置を迅速に行う

上記は、最新の規制内容を把握した上での対応が大前提です。ここでは国際貿易に関与する企業が遵守すべき法規制等の改正状況について見ていきましょう。

米国輸出法規制の改正

米国・商務省BIS管轄の輸出管理規則「EAR」では、主にデュアルユースな産品、技術またはソフトウエア等が規制対象です。EARは米国からの輸出のみならず、例えば日本からの再輸出など米国の領域外で完結する取引であっても「域外適用」されるケースがあります。EAR違反に対しては厳格な処罰が設けられていることから、日本企業はその業態に応じて、輸出管理の確認フローにEARの遵守対応も組み込むことが重要です。

直近では、2020年にHuaweiに限定した外国直接産品ルール(FDPR)が新設され、さらに中国向けの半導体関連品目の輸出規制を強化する目的で2022年10月、当該FDPRの適用対象としてEntity List FDPRが設けられました。現時点で取引に問題がなくても、Entity List FDPRに取引先の親会社等が追加されると、BISの許可なしでは取引が禁止される可能性があります。EARは頻繁に更新・変更されるために、米国連邦官報のEAR改正告知一覧などを活用して、情報収集を徹底するようにしましょう。(注5、(注6

人権保護を目的とした輸入制限等

グローバル・サプライチェーンに関与する企業は、人権保護を目的とした輸入制限等の影響を回避するためにも、人権デュー・デリジェンスに取り組む必要があります。人権保護に関連した世界の動きは、次のとおりです。(注6、(注7

国名根拠法輸入制限の内容
米国関税法307条・外国からの「強制労働産品」の輸入が禁止されている・強制労働産品であると合理的に示されている場合に、税関国境・警備局CBPはWROを発し、当該貨物の米国への輸入を差し止めできる
ウイグル強制労働防止法(UFLPA)※2021年12月23日成立・「新疆ウイグル自治区産品」は、関税法307条の対象と推定される旨を定めている・強制労働タスクフォースが策定する「UFLPA執行戦略」によって特定された事業者が生産した産品も輸入禁止の対象と推定される
EU強制労働により生産された製品のEU市場内の流通とEU市場外への輸出を禁止する規則※2024年3月5日政治的合意・調査を実施した当局は、強制労働によって製造された製品だと判断した場合、当該製品の禁止・回収・廃棄を命ずることができる・調査および決定プロセスにおける欧州委員会と各国の管轄当局の責任を明確にするために、2022年9月に欧州委が発表した規則案に修正を加えた内容で合意に至った・今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会による正式な採択を経る必要がある
日本責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン※2022年9月13日公表・日本企業に人権尊重の取組に最大限努めるよう日本政府が促進するガイドラインであり、法的な拘束力を有するものではない

日本の安全保障貿易管理制度

グローバルな規制強化の動きを受けて、日本の安全保障貿易管理に係る関係法令も相次いで見直しが進められています。直近では輸出貿易管理令の改正、みなし輸出管理の運用明確化、半導体製造装置の輸出管理強化、通常兵器に関するキャッチオール規制の強化など、詳しくは下記の記事が参考になります。

日本の安全保障貿易管理に係る関係法令の改正状況については「安全保障貿易管理に係る関係法令の改正状況は?その影響や備えについて解説」からご覧ください。

成功する貿易コンプライアンスの鍵は「自動化」と「集約化」

ノウハウや審査ロジックを特定の担当者に依存するなど、海外拠点をうまく管理できていない日本本社も多いでしょう。そこで日本本社がグローバル拠点を含む全体を把握できるように、一連のコンプライアンスチェックを一元化する必要があります。


トムソン・ロイターでは、グローバル・サプライチェーン全体を通じた安全な貿易取引とコスト削減を両立できるソリューションをご提供しています。複雑化する法規制に対応していくためには、属人化から脱却できる自動化と、審査ロジックや法制度にかかる情報の集約化が鍵です。基幹システムとデータを連動できるソリューションについては、下記リンクよりご確認ください。

参考資料

注1)関税レポート(貿易の円滑化)|税関

注2)HS2022改正について|税関

注3)安全保障貿易管理ガイダンス [入門編]第2.3版 | 令和6年5月|経済産業省

注4)原産地規則のいろは|EPA・原産地ポータル

注5)米国輸出管理規則(EAR)の概要(2023年6月14日)|安全保障貿易情報センター(CISTEC)

注6)米国の経済安全保障に関する措置への実務的対応(概要版)|日本貿易振興機構
注7)EU、強制労働製品のEU域内での流通と域外輸出を禁止する規則案で政治合意|日本貿易振興機構

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