安全保障貿易管理を踏まえたサプライチェーンリスクマネジメントの重要性と評価ステップ

技術革新が進み、AIや量子といった民生分野由来のデュアルユース技術・製品が「国際的な平和と安全の維持」に影響を与えるという懸念が広がっています。米中間の技術覇権争いは続いており、G7を中心に国家による経済安全保障優先という保護貿易主義的な通商観が台頭している昨今の状況を押さえておきましょう。

そのためグローバル・サプライチェーンを展開する日本企業は、企業防衛の観点から各国の経済安全保障に関連する輸出管理の動向により一層留意する必要があるのです。そこで本記事では、安全保障貿易管理を踏まえたサプライチェーンリスクマネジメントの重要性について解説します。

これまでにないコンプライアンスリスクへの対応をテクノロジーの力で支援するONESOURCE Export Complianceについても紹介しますので、貿易実務担当者の方は参考にしてください。

サプライチェーンリスクマネジメントとは

サプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)とは、サプライチェーンの混乱・途絶につながるリスクを特定・分析・評価した上で戦略・対策を策定し、これらを実行しながら継続的に管理していくプロセスのことです。

サプライチェーンリスクマネジメントの目的

次の2点を実現することを目的に、サプライチェーンリスクマネジメントは実施されます。

  1. サプライヤーから顧客に至るまでのモノ・サービスの流れを混乱・途絶させることなく、納期通りに稼働させる
  2. サプライチェーンリスクに対する環境・人権など社会的な共通価値、企業間の契約や政策・法規制からの要請を抜け漏れなく満たす

サプライチェーンリスクマネジメントを実施することで、混乱・途絶リスクの影響を最小化できるようになります。その結果安定したオペレーションを提供できることから、顧客からの信頼や企業ブランドの維持に繋がるのです。さらに管理を通じて、リスクや分析テクニックなどの知見を蓄積できるために、サプライチェーンリスクに対する対応力を高められるでしょう。

サプライチェーン継続戦略に必要な視点

「依存性の低下」「レジリエンスの増加」「サプライヤーとの協働」の3つが、継続戦略を策定する上で重要な視点となります。サプライチェーンの文脈におけるレジリエンス(Resilience)とは、「脆弱性が低い」「以前の状態にすばやく復旧できる」「代替の方法で対応できる」ことです。

パンデミックは、中国依存のサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしました。近年のG7や政府の政策展開スピードを考慮すると、レジリエンスを増加させるために対策優先度の高いサプライチェーンリスクとして各国の経済安全保障政策の動向が挙げられます。サプライチェーンには水平的な関係と垂直的な関係がありますが、特に垂直関係にある上流側・下流側の企業と相互にデータ連携を行うなどしてコラボレーションできる関係を構築しておくことも重要です。(注1

安全保障貿易管理とサプライチェーンリスクの関連性については「サプライチェーンリスクとは?安全保障貿易管理において企業が取るべき対応を解説」からご覧ください。

安全保障貿易管理を踏まえたサプライチェーンリスク管理の重要性

特にデュアルユースを支える先端半導体等の技術に優位性を持つ米中は覇権争いを続けており、技術流出防止の観点から制裁措置の応酬など、両国を中心に輸出管理に関連する法規制の変更が頻繁に行われています。例えば今は問題がなくても、グローバル・サプライチェーンに組み込まれたサプライヤーが米国製や中国製の部品を扱っている場合に、第三国への輸出の際に規制の変更によって輸出許可が必要になるかもしれません。

このような保護貿易主義的な動きによって、グローバル・サプライチェーンの混乱・途絶リスクは上昇しています。つまり安全保障貿易管理に取り組む日本企業は、サプライチェーンリスクに対する認識の広域化・高度化を迫られているのです。

再輸出規制、域外適用など法規制の更新に対応する観点も踏まえながら、テクノロジーの力を活用するなどしてグローバル・サプライチェーンに潜むチョークポイントを把握しなくてはなりません。従前のBCPによる対策に留まらず、「法令違反の未然防止」「懸念取引への巻き添え回避」の観点からサプライチェーンリスクマネジメントに着手し、リスク評価に取り組む必要があると言えるでしょう。(注2、(注3

国内外の大手貿易PFやデジタル化普及への課題についてこちら「貿易手続きデジタル化の動向とは?国内外の大手貿易PFやデジタル化普及への課題も解説」からご覧ください。

サプライチェーンリスク管理における評価と対策のステップ

サプライチェーンリスクマネジメントの仕組みを独立して構築する場合には、自社でなぜSCRMを行うのか、その目的と当面の目標などの基本方針を定めます。前年までの取り組みを振り返り、サプライチェーンのどの領域を対象に管理を行うのか、スコープを定めることが重要です。

ここでは、サプライチェーンリスクマネジメントで考慮すべき評価と対策のステップについてまとめました。

評価と対策のステップステップの概要
1. サプライチェーン構成要素の定義・サプライチェーンの構成要素を洗い出し、視覚化する・一次サプライヤーに留まらず全体を把握する
2. リスクの特定・分析・評価・サプライチェーンの構成要素ごとに混乱・途絶リスクを抽出し、リスク台帳を作る・抽出したリスクを評価し、リスクマトリクスなどで相対的にマッピングした上でリスク対応の優先順位を決定する
3. 対策の検討・実行・サプライチェーンリスクマネジメント戦略を「依存性の低下」「レジリエンスの増加」「サプライヤーとの協働」の観点から策定する・戦略をもとに、テクノロジーの導入など事前予防的な対策を検討する・サプライチェーンリスクの監視体制を整え、インシデントの早期検知に向けた仕組みを作る・インシデントの報告に対して迅速に対応できる体制を構築する・具体的な対応計画や手順書を事前に策定する
4. リスクのモニタリング・サプライチェーンの構成要素及びリスクの変化をモニタリングし、顕在化したリスクを継続的に記録する・記録をもとに、自社のリスク台帳、戦略、対応計画の評価・見直しを行う

あらかじめサプライチェーンリスクとして自社で特定していなくても、他社に影響が出たケースがあれば記録するようにしましょう。時間が経過してから自社に影響がでる可能性があるために、自社のリスク台帳、戦略、対応計画の評価・見直しに活かすことが重要です。

サプライチェーン強靭化に必要なリスク評価についてはこちらについてはこちら「安全保障貿易管理を踏まえたサプライチェーンリスク評価と成功する対策ポイント」からご覧ください。

サプライチェーンリスクの対策事例

サプライチェーンリスクマネジメントの導入を検討している企業では、すでにBCM(事業継続マネジメント)やERM(全社的リスクマネジメント)、CSR調達などに取り組んでいるケースがほとんどです。そのため既存の取り組みとサプライチェーンリスクマネジメントを、うまく調和させていく必要があります。

ここでは、サプライチェーンリスクの対策事例について見ていきましょう。

素材開発メーカー

ガバナンスから社会貢献まで幅広く網羅したCSRガイドラインにおいて「リスクマネジメント」「持続可能なサプライチェーンの構築」を定めた上で、KPIを設定して評価を行っています。全社的なリスクマネジメントで「優先対応リスク」を設定しており、全社的な危機発生時には、リスクマネジメント規定に基づき対応する方針です。

「CSR調達方針」でサプライチェーンにおいて、社会的な共通価値の実現を宣言した上で「CSR調達行動指針」を策定し、サプライヤーにも遵守を求めています。またOECDのガイダンスに則り「人権方針」を制定したほか、環境保全の基本方針である「環境10原則」や「リサイクル活動指針」「生物多様性基本方針」「緑化基本方針」を制定しました。

産業用ロボットメーカー

サステナビリティに向けた施策をE、S、Gカテゴリーに分類し、G領域で「リスクマネジメント」に、S領域で「強靭なサプライチェーンの構築」に取り組んでいます。全社的なリスクマネジメントにおいて毎年リスクアセスメントを実施し、特定した重大リスクに対して各リスク主管部門が専門的知見に基づき対応策を策定し実施する流れです。

事業継続の上で重要なサプライヤーを「主要サプライヤー」として特定しており、年に一度更新をしています。主要サプライヤー選定の評価基準は、従来の取引量やQCDパフォーマンスに加え、ESGパフォーマンス、カントリーリスク及び機械セクターに属する企業としての固有リスクが2023年度から追加されました。「CSR調達方針」を改定してサプライチェーンマネジメントを一層強化することを宣言し、サプライチェーン内で潜在的な人権と環境のリスクを抱える地域を明らかにした上で、サプライヤーと協働しながらESGリスク低減に取り組んでいます。

アパレルメーカー

リスクマネジメント委員会は、事業活動における重要リスクの特定とその管理体制の強化を図り、全社のリスクを一元管理しています。サステナビリティ活動においては、6つの重点領域(マテリアリティ)を選定しました。サプライチェーン全体の人権の尊重、労働環境の改善のためにモニタリングを強化し、トレーサビリティの確立を加速させています。水資源の課題を解決するために、工場の水使用量を把握し、水使用量の削減の取り組みを協働で推進中です。

デジタル技術によるサプライチェーン全体の把握が不可欠に

グローバル・サプライチェーンの構造は非常に複雑化しており、例えば調達において原材料に遡るまで調達ルートを全て把握することは非常に困難です。サプライチェーンが考慮すべき領域は広域化・高度化していることから、相互にデータ連携を行うなど、テクノロジーの力で全体の把握や課題の解決を探ることが現実的なサプライチェーンリスク対策だと考えられます。(注4、(注5


最新のグローバル法規制を網羅的に監視するための体制を、個々の企業で整えることはリソース面から現実的ではありません。トムソン・ロイターでは、グローバル展開する企業グループ全体の状況をリアルタイムで把握し、自動的にコンプライアンスを確保できるソリューションをご提供しています。ソリューションについて詳しくは下記リンクからご確認ください。

参考資料

注1:<解説>経済安全保障を巡る米中覇権争い~輸出管理を焦点に~|防衛省

注2:第2節 主要国による輸出管理政策・投資管理政策の動向(通商白書2024)|経済産業省

注3:サプライチェーンリスクと危機からの復旧|経済産業省

注4:第4節 サプライチェーンの強靱化に向けた課題|内閣府
注5:第Ⅱ部 第1章 第3節 サプライチェーン管理における考慮事項の多角化|経済産業省

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