RCEP特定原産地証明書の発給にあたり必要な原産品判定基準について解説

RCEP協定の利用にあたり特定原産地証明書を取得する目的は、輸入通関の関税減免です。輸出する産品がRCEP域内の原産品として認められなければ、輸入国側の税関でRCEP協定税率の適用ではなく、通常の関税率(または輸出国に応じた譲許税率)が適用され、RCEP協定税率の優遇を受けることができません。

そこで本記事では、RCEP協定において原産地を証明する制度の概要や原産品判定の基準について解説します。またRCEP品目リストなどの情報をもとに、どの調達国、取引経路、貿易協定が最も有利な費用対効果をもたらすかを示す「ONESOURCE FTA Analyzer」についても紹介しますので参考にしてください。

RCEP協定における3種類の原産地証明書

各EPAにおいて採用されている証明制度は異なります。そこで、ここではRCEP協定における原産地証明制度について見ていきましょう。制度は3つに大別されており、各原産地証明制度の対応状況は国ごとに異なる点に注意が必要です。いずれの証明制度においても「RCEP原産国」を決定することが求められます。

さらに日本への輸入時のみ認められる「輸入者による原産地申告」についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。(注1、(注2

1.第三者証明制度

日本商工会議所(以下、日商)において企業登録および手続きを経て「第一種特定原産地証明書」を取得する方法が第三者証明制度です。日商で証明書発給までにかかる時間やコストを下記にまとめました。

第一種特定原産地証明書
時間企業登録:原則7営業日判定依頼〜承認:原則3営業日発給申請〜取得:原則2営業日
コスト発給申請1件につき 2千円加算額:輸出産品数 × 加算単価500円

2.認定輸出者自己証明制度

認定輸出者による原産地申告が、認定輸出者自己証明制度です。経済産業省の認定を受けると「第二種特定原産地証明書」を自ら発行できるようになるために、日商での手続きは不要になります。認定輸出者の有効期間は3年であり、かかるコストは下記のとおりです。(注3

第二種特定原産地証明書
時間認定輸出者自らが原産地証明書を作成できるようになるために、第三者証明制度と比較すると書類準備にかかる時間を削減できる
コスト登録免許税法に基づく登録免許税(認定時のみ):9万円認定更新手数料:5千円(電子申請では4,550円)登録・更新手数料以外の費用は発生しない

3.輸出者・生産者による自己申告制度

輸出者または生産者による原産地申告が自己申告制度です。日商手続きや経済産業省の認定は不要ですが、協定発行日から自己申告制度の導入を決めている締約国は日本・豪州・ニュージーランドのみです。

原産品申告書
時間輸出者自らが原産地を証明するために、第三者証明制度と比較すると書類準備にかかる時間を削減できる
コスト公的な手続きが不要なために、他の2つの制度のような費用も発生しない

日本への輸入のみ「輸入者による原産地申告」が追加

輸入者による原産地の自己申告は、日本への輸入についてのみRCEP協定発効時から追加されています。輸入者による原産地申告とは、産品が原産品であることを証明する十分な情報を有している場合に限って、原産品申告書を輸入者が作成できるというものです。

なお日本以外の締約国は、すべての署名国においてRCEP協定が発効した後に導入を検討することになっています。(注4

RCEP協定を活用し特定原産地証明書を取得するステップ

原産性を有する産品は、EPAにおいて「特定原産品」と呼ばれます。ここでは、RCEPを活用した特定原産地証明書取得までの7つのステップについて確認しておきましょう。(注5

ステップ1:輸出産品のHSコードを確認する

ステップ2:税率を確認する

ステップ3:輸出産品にかかる規則を確認する

ステップ4:輸出産品にかかる原産性を確認する

ステップ5:企業登録をする

ステップ6:原産品判定依頼を行う

ステップ7:特定原産地証明書の発給申請を行う

RCEP特定原産地証明書の発行に必要な「原産品判定」

EPA税率を利用するためには、関税削減対象品目であることを前提として次の3つの条件を満たす必要があります。

  1. 原産地規則に基づいた原産品であること
  2. 積送基準を満たすこと
  3. 原産地証明書を輸入国税関へ提出すること

ここではRCEP協定における原産品判定基準について見ていきましょう。

RCEP協定における原産品判定基準

RCEP協定の原産地規則において、原産品は次のいずれかの産品であることが定められています(第3.2条)。(注6

  1. 完全生産品:1つの締約国において完全に得られ、または生産される産品であって、次条(完全に得られ、または生産される産品)に定めるもの
  2. 締約国の原産材料のみから生産される産品:1つの締約国において、1または2以上の締約国からの原産材料のみから生産される産品
  3. 非原産材料を使用し、品目別規則(PSR)を満たす産品:1つの締約国において非原産材料を使用して生産される産品であって、附属書3A(品目別規則)に定める要件を満たすもの

非原産材料を用いて生産される産品の原産地判定には、大きな変化を意味する実質的変更基準が用いられます。実質的変更基準には関税分類変更基準、付加価値基準、加工工程基準の3類型があります。どの基準を用いるかは各EPAによって品目ごとに定められているので、必ず確認するようにしましょう。(注7

ここではRCEP協定における原産品判定基準を、原産地証明書に記載する記号とともにまとめました。なお累積と僅少の非原産材料(デミニマス)は、救済規定に該当します。(注1

原産性の判定基準を示す記号
完全生産品WO
締約国の原産材料のみから生産される産品PE
非原産材料を使用し、品目別規則(PSR)を満たす産品関税分類変更基準(非原産材料と最終産品との間に特定の関税分類番号変更があること)CC:上2桁変更 (類の変更) CTH:上4桁変更(項の変更) CTSH :上6桁変更(号の変更)CTC
付加価値基準(産品に一定上の価値を付与すること)RVC
加工工程基準(化学反応による生産品)CR
累積ACU
僅少の非原産材料(デミニマス)DMI

モノの累積

RCEP協定では、救済規定としてモノの累積を採用しているために原産品の資格を獲得しやすくなっています。モノの累積とは、他の締約国の原産材料(RCEP協定の原産品の要件を満たす産品または材料)を自国の原産材料とみなせるというものです。

累積の代表的な例として、付加価値基準を利用する際の締約国間ロールアップが挙げられます。原産品の資格を獲得しやすくするモノの累積は、広域かつ参加国が多いRCEP協定を利用する大きなメリットです。(注1、(注6

僅少の非原産材料(デミニマス)

僅少の非原産材料(デミニマス)も、原産品の資格を獲得しやすくするために設けられた原産品判定の救済規定に該当します。上述の品目別規則の関税分類変更基準であるCC、CTH、CTSHを満たさない非原産材料があった場合でも、その使用が僅かであれば、その産品をRCEP締約国の原産品として認めるというものです。(注1、(注6

原産資格が与えられない軽微な作業や加工

産品を生産する際に非原産材料に対してミニマルオペレーションのみ行われている場合は、実質的変更とみなされず、原産資格は与えられません。例外規定である「軽微な工程や加工(第3.6条)」の範囲でのみ非原産材料に対する作業や加工が行われていると、原産品として判定されないので注意が必要です。(注1、(注6

通関手続きに便利な原産地の事前教示制度

RCEP協定では、輸入予定貨物の関税分類(HS番号)、関税評価(課税評価額)および原産性の判断を輸入国税関が書面で回答する「事前教示制度」が導入されました。回答文書の内容は発出後最長で3年間、輸入申告の審査時に尊重されます。

事前教示制度のメリットは、大きく次の2点です。輸入予定貨物の原産地の扱いやRCEP協定税率の適用可否を事前に把握できるため、販売計画等が立てやすくなります。また貨物の輸入通関において適正かつ迅速な申告が可能となるために、早期に貨物を受け取れるようになるのです。(注8

RCEP協定の利用においては原産品判定基準への理解を深めることが重要


輸出する産品の製造過程ではさまざまな部品や材料が使用されています。RCEP協定税率の適用を受けるためには原産地証明書を用意する必要があるので、原産品判定基準への理解を深めておきましょう。

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参考情報:

注1:日本貿易振興機構|RCEP協定解説書

注2:財務省関税局|地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 【概要】(令和3年12月)

注3:経済産業省|認定輸出者制度(第二種特定原産地証明書を作成する者の認定)

注4:財務省関税局・税関|「自己申告制度」利用の手引き

注5:日本商工会議所|RCEP協定に関する特設サイト

注6:財務省関税局|RCEP協定原産地規則について(2021年6月)

注7:日本貿易振興機構|日本から輸出する際に相手国から求められる原産地証明書発給のための原産品判定基準について教えてください

注8:税関|地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に係る原産地の事前教示の受付開始について

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