近年、貿易や国際物流のデジタル化を実現する貿易プラットフォームサービスの立ち上げがグローバルで進んでいます。日本政府も2024年6月25日、アクションプランを公表し、日本の国際競争力維持・強化には市場全体での貿易手続きのデジタル化が必要であるとして、貿易DXを推進している状況です。
そこで本記事では、貿易プラットフォームの活用により期待される効果や普及に向け解決すべき課題について解説します。安全保障貿易管理とFTA活用に役立つONESOURCE Export Compliance及びONESOURCE FTA Analyzerについても紹介するので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
貿易PFなど供給リスク低減に寄与するデジタル化
パンデミックや紛争の影響などにより、事業環境はより一層不透明さを増していることから、企業はグローバルで供給リスクにさらされています。そこで、サプライチェーンの脆弱性を解消する施策の1つとして、注目されているのが貿易データの利活用です。
ここでは、経済産業省が関係省庁と協力しながら推進する貿易プラットフォーム(以下、貿易PF)を含む、貿易手続きのデジタル化について見ていきましょう。
アナログな貿易手続きの現状と課題
一般的な貿易取引では、平均すると36種類の書類と240部のコピーを取り交わす必要があると言われているほど、貿易取引には数多くの事業者と貿易文書が介在します。一方で、WTO(世界貿易機関)および ICC(国際商工会議所)の報告書によれば、グローバルで見ると貿易文書のデジタル化率は1%未満(2022年時点)とアナログな貿易手続きが主流です。
例えば日本では、NACCSを介して税関への輸出入申告及び当該申告に関連した許可の通知は、大半がデジタル化されています。しかし、貨物情報の通知や輸出許可の報告など、民間事業者間の情報伝達は必ずしもデジタル化されていません。そのため、貿易関連業務の港湾物流手続きにおける情報伝達手段の割合は、「紙・電話等」、続いて「メール添付」が多い状況です。手作業による貿易手続きにはコストや工程がかかりますが、数多くの事業者と貿易文書が介在する貿易取引において、デジタル化は容易なことではありません。(注1
サプライチェーンの脆弱性を克服する方法
近年は、紅海・スエズ運河周辺の安全保障リスクやホルムズ海峡を巡る緊張、ウクライナ情勢の長期化などの影響により、サプライチェーンの脆弱性が顕在化しています。従来の物流ルートを代替ルートへ変更する必要性が生じた際に、人海戦術で個別に確認・調査するようではリアルタイムでの対応は不可能です。
こうした状況を踏まえると、サプライチェーンの脆弱性を克服するうえでは、貿易・物流に関するデータを収集・蓄積し、迅速に活用できる体制を整えることが不可欠です。政府も、2024年6月25日に公表した「貿易手続デジタル化に向けたアクションプラン」において、貿易PFの導入支援・促進や、貿易データと産業データの連携支援などを掲げ、省庁横断で貿易DXを推進しています。こうしたデータ基盤の整備は、物流ルートの見直しだけでなく、調達先や製造委託先の管理にも関わる重要な取り組みです。
サプライチェーン強靭化を目指すためには、特定国や特定サプライヤーへの依存度を下げる必要があります。そこで各製造工程の複数ソース化に取り組むことが重要ですが、その一方で委託先企業の増加に伴い、契約管理ほか様々な業務が煩雑化することも考えられるでしょう。また、市場の影響を受けて変動する原料及び委託コストを、迅速に価格に反映させる取り組みも必要になります。
こうした複雑な管理やコストの動向を可視化し、円滑に対応するには、貿易手続きのデジタル化を通じて、必要なデータを収集・蓄積できる状態を整えることが重要です。アナログな手続きを放置したままではデータが蓄積されず、迅速な意思決定も困難になるため、その基盤となるデジタル化の実装が急務とされています。
貿易PFの台頭と活用により期待される効果
具体的な政府のアクションプランの内容は、2028年度までに貿易PFを通じてデジタル化される貿易取引の割合を10%まで引き上げ、日本全体で年間約3,000億円のコスト削減効果を創出するというものです。(注2
日本では近年、文書の原本性やデータセキュリティを担保するために、ブロックチェーン技術を活用するなどして、複数の民間企業が貿易PFサービスを立ち上げました。下記に、貿易PFの活用による貿易手続きのデジタル化のメリットをまとめました。(注1
| 貿易PF活用による貿易手続きデジタル化のメリット | |
|---|---|
| 有事におけるサプライチェーン耐性 | 【高耐性】・リアルタイム把握(本船動静や通関状況、グローバル規模での在庫状況など)・代替の輸送ルートの調査・確保の効率化・チョークポイントの分析を通じた経済安保への効率的な対応 |
| 金銭・時間的コスト | 【コスト小】・書類作成及び管理にかかるコストの削減・書類到着の遅れによる貨物保管延滞リスクの回避 |
出典:貿易プラットフォームの利活用推進に向けた検討会 中間報告書|経済産業省
貿易PFの活用による貿易手続きのデジタル化は、業務の効率化や属人化からの脱却に留まらず、有事におけるサプライチェーン耐性を向上させるものとして期待されています。
プレーヤー別|貿易手続きデジタル化の現状
サプライチェーン強靱化を実現するには、一気通貫した貿易データの管理・共有が重要です。ここでは荷主企業、貿易PFサービス提供事業者、国に分けて、貿易手続きのデジタル化を進める上で、それぞれが抱える課題について見ていきましょう。
荷主企業の課題
一部の荷主企業では、貿易データの活用を見据えて社内横断的な体制を整え、貿易データ収集・蓄積につながる基盤整備を進めています。ただし、貿易PFの導入はバックオフィス業務の効率化と認識され、社内の他プロジェクトよりも優先順位が下がりがちです。
経営層、経理財務部門から理解を得ることはもちろん、取引先など社外関係者との間で貿易PF
の認知度を高めていくには、貿易PF活用の実証を行い、コスト削減やサプライチェーン強靭化につながる効果を検証していくことが重要だと言えるでしょう。また、貿易業務とテクノロジーの利用の双方について対応可能な人材育成も急務です。
貿易PFサービス提供事業者の課題
日本国内で貿易PFサービスの活用が少しずつ進んでいるとはいえ、NACCSを除き日本国内で貿易に携わる事業者の大半をユーザーとして獲得している貿易PFは存在しません。そこで、貿易PFサービス提供事業者はユーザー拡大が先決です。導入につながるように、サービス仕様を改善していく必要があります。例えば、必要に応じて他社貿易PFとの相互接続や、信用状、保険証券、原産地証明書など主要な貿易文書とのデータ連携が可能になれば、ユーザーの利便性向上に役立つでしょう。
国の課題
NACCSを介した通関手続きは、輸入消費税・関税の延納手続きの際に紙の納付書が必要となるなど、100%デジタル化されているわけではありません。サイバーポートを介した港湾手続きにおいても、一部で紙のやり取りが残っていることから、政府はデジタル化に向け環境整備を進める必要があります。
主に紙ベースの船荷証券や原産地証明書などを電子化し、一連の貿易手続きを全てデジタルで処理できるようにするには、政府によるルール整備が必須です。さらにインフラ整備のコスト負担を軽減すべく、補助金等による貿易PFの導入支援が政府には求められます。フォワーダー事業者に対しても、政府が貿易PF参画を促せば、荷主企業は共通または相互接続した貿易PFを介して、一気通貫した貿易データの管理・共有ができるようになるでしょう。
安全保障貿易管理とFTA活用への対応も急務
近年では、友好国または同盟国への生産移転を意味するフレンド・ショアリングおよびアライアンス・ショアリングという言葉がよく聞かれるようになりました。日米両国における経済安全保障アプローチの共通項は、サプライチェーンの強靱化と「志を同じくする」国・地域とともに保護連合を構築することです。(注3
しかし、国際貿易に関わる企業が対応すべきなのは、一気通貫した貿易データの管理・共有によるサプライチェーンの強靱化だけではありません。国際輸出管理レジームに則り、デュアルユース品などの輸出を管理する安全保障貿易管理や、関税削減効果など経済的合理性の高いFTAの活用も持続的な成長を果たしていくために不可欠です。
成長する市場を積極的に取り込み、競争優位性を確保しながら、頻繁に改正される各国の輸出規制などを確実に遵守していくことが企業に求められています。
安全保障貿易管理とFTA活用の両立がグローバル企業の成長に不可欠
既存のサプライチェーンの脆弱性への対処、適切な依存度バランスの見直しを進める作業と並行して、FTA分析によって最も有利な費用対効果をもたらす調達国、取引経路、貿易協定の判定を進めてみてはいかがでしょう。
ONESOURCE Export Compliance
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ONESOURCE FTA Analyzer
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参考資料
注1:貿易プラットフォームの利活用推進に向けた検討会 中間報告書|経済産業省
注2:貿易手続デジタル化に向けたアクションプラン工程表|経済産業省
注3:経済安全保障の時代におけるアジア太平洋地域統合|経済産業研究所