日EU・EPAとは、日本とEUとの間で締結された経済連携協定です。両国の間で貿易障壁を削減し、投資や人的交流を含めた経済関係の拡大を図ることが目的です。本記事では、日EU・EPAの概要、利用状況、リスクと課題について解説していきます。
日EU・EPA(経済連携協定)の概要
日EU・EPAは、EU構成国 27カ国(ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、エストニア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、クロアチア、イタリア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン)と日本との間で結ばれた経済連携協定です。(2023年7月時点)
締結の背景と経緯
1995年に設立された世界貿易機関(WTO)は、貿易交渉において全会一致の合意を必要としており、貿易交渉に難儀を極めています。そこで限られた国の間で貿易障壁を削減し、投資や人的交流等の拡大を図る目的でEPA交渉が推進され、2019年2月に日EU・EPAが発効しました。
世界のGDPの約3割,世界貿易の約4割を占める日EUによる世界で最大級規模の自由な先進経済圏が新たに誕生しました。日EU・EPAにより、日本の実質GDPを約5兆円押し上げ、雇用を約29万人増加させると見込まれています。(注1
関連記事:EPA / FTA / TPPの違いとは?最新動向と貿易実務の関連性
日EU・EPAにおける関税引き下げの概要
同EPAにおけるEU側・日本側の関税撤廃率の概要は以下のとおりです。
EU側
同EPAにより、EU側の関税の約99%(品目数ベース)が最終的に撤廃されます。工業製品は100%の関税撤廃が原則で、乗用車は8年目に撤廃予定とされています。牛肉、茶、水産物等の輸出重点品目を含め、農林水産品はほぼ全品目で関税が撤廃されました。酒類に関しては、日本ワインの輸入規制の撤廃をはじめ、酒類全ての関税が即時撤廃されています。(注1
日本側
日本側の関税撤廃率は品目数ベースで約94%であり、最終的にほぼすべての品目の関税が撤廃されます。
化学工業製品、繊維・繊維製品等は即時撤廃、皮革・履物は11あるいは16年目に撤廃予定です。農林水産品では、品目数ベースで関税撤廃率が約82%であり、ワインが即時撤廃の対象です。また、コメを関税撤廃・削減等の対象から除外する他、麦・乳製品、チーズ、牛肉等の一部品目において、セーフガードや関税割当てが適用されます。(注1
利用状況
日EU・EPAにおいて、広範な範囲で関税が撤廃され、貿易の自由化が進行中ですが、具体的な商品の分類によっては、その利用状況にはばらつきが見られます。JETROの調査によると、2019年2月から6月までの期間において、全品目合計のEPA利用率は22.9%にとどまっています。(注2
また、外務省の統計によれば、2021年の日EU・EPAの利用率は、日本からEUへの輸出で63%、日本のEUからの輸入で71%となっており、今後の利用拡大にはさまざまな課題が残されています。(注3
今後の展望
日本からEUへの乗用車の輸出は8年目(2026年)に撤廃予定。EUから日本への皮革・履物の輸出は11年目(2029年)あるいは16年目(2034年)に撤廃予定で、牛肉の輸出は15年目(2033年)までに関税が削減されます。
日EU・EPA(経済連携協定)を活用する手順
日EU・EPAを活用する具体的な手順は以下のとおりです。
1.輸出する商品の関税番号(HSコード)を特定
HSコードとは「商品の名称及び分類についての統一システム(Harmonized Commodity Description and Coding System)に関する国際条約(HS条約)」に基づいて定められたコード番号です。(注4
HSコードは協定により使用するHSコードが異なり、日EU・EPAは2017年基準(HS2017)を採用しています。EUの統計細分(HSコード7桁以降)は、CN下位品目分類とTARIC下位分類を設けており、日本と統計細分が異なるため注意が必要です。
関連記事:輸出時におけるHSコード(実行関税率表)の調べ方・HS2022更新内容(002)
2.関税率を調べる
次に通常適用される税率(MFN税率)を調べます。TARICデータベース(欧州委員会)にHSコード・輸出国名「Japan」を入力して検索する、JETROの「世界各国の関税率(WorldTariff)」にて、HSコードからMFN税率を確認する等の方法があります。
さらに、日EU・EPAで定められる特恵税率は譲許表で確認し、MFN税率と特恵税率を比較して、日EU・EPAを利用するかどうかを判断します。この比較を通じて、特恵税率を享受するための条件や利点を正確に理解し、貿易活動を最適化することができます。
しかし、HSコードを特定する作業はかなり煩雑です。手作業で商品分類検索や製品分類を決定していると、膨大な時間がかかります。そこで240の国・地域の最新の関税率表にアクセスできる、HSコード管理ソリューションのご利用がおすすめです。
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3.輸出産品が原産地規則を満たしているかを確認
日EU・EPA原産地規則とは、輸出入される産品が日EUの原産品として認められるかどうかを決定するための規則です。日EU・EPAの特恵税率は、相手国の原産品に対してのみ適用されます。
原産品は、以下3つの基準で認定されます。
- 完全生産品
- 原産材料のみから生産される産品
- 品目別原産地規則(PSR)を満たす産品
品目別原産地規則(PSR)
実質的変更の基準を定めた品目別原産地規則では、関税分類ごとに以下3つの基準が定められており、条件を満たす場合は原産品として認められます。
- 関税分類変更基準
輸出産品とその生産に使用された非原産材料の間で、HSコードが変更されている場合、そこに実質的な変更があったとみなし、輸出産品を原産品であると認める基準
- 付加価値基準
産品の生産工程により形成された「原産資格割合」(原産材料価額を含む)を算出し、一定の基準値(「閾値(しきいち)」といわれることもある)を超えるか否かによって原産性を判断する基準
- 加工工程基準
化学品や繊維製品等に対して定められている基準
締結国内で産品に特定の加工がなされた場合、その産品を原産地とする基準
4.原産地の証明に必要な書類を作成
日EU・EPAでは、輸出者(生産者を含む)が自身の原産地に関する申告文を作成するか、または輸入者がその知識に基づいて輸入申告時に必要な情報を提供するという自己申告(証明)制度が採用されています。
事業者からの申請に基づき、指定機関が原産地証明書の発給を行う第三者証明制度を採用していないため、日EU・EPAは他の多くのEPAと異なっています。(注5・6
日EU・EPA(経済連携協定)のリスクと課題
リスクと課題として以下の4点があります。
1.自己申告(証明)制度の手続きが複雑
日EU・EPAは、自動的に特恵税率が適用されるわけではなく、原産地証明において自己申告制が採用されています。つまり、複雑な日EU・EPAの内容を正しく理解していなければ利用することができません。多くの企業が協定の把握に苦慮し、手続きそのものや体制作りを困難とみなし、参加を見合わせている可能性があります。
2.原産地規則がネックとなることが多い
日EU・EPAの特恵税率が適用されるためには、原産地規則の基準を満たすことが必要です。とりわけ第3国から輸入した材料を加工して産生された生産品を輸出する際に、原産地規則を満たさないことがあります。
たとえば非原産品の小麦粉の方が日本国産の小麦粉より安いとの理由から、非原産品の小麦粉を10%以上用いて麺を生産すると、日本の原産品とは認められない可能性があります。つまり、規則を満たすように日本国産品に切り替えると、コストがかかり過ぎてEPAを利用する価値がなくなるといったジレンマが生じ得るということです。
3.サプライヤーや取引先との協力体制整備が困難
原産地規則において付加価値基準を適用する場合、原産性を証明するプロセスが複雑で、多額のコストがかかることがあります。材料を提供するサプライヤーは、原産地証明書を作成するために必要な資料の準備に手間がかかり、協力体制を整備することが困難です。
4.コンプライアンスコストがかかる
EPAを活用するには、製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売まで全体の流れを正確に把握する必要があります。一方で、企業は各種規制を順守するために費用が発生します。これには情報収集費用、レポートの作成・発行に関する費用、監視と体制構築のための人件費などが含まれます。結果、これらのコストが膨らみ、特恵税率を適用する価値が帳消しになってしまう可能性があります。
日EU・EPAを効果的に活用するには?
日EU・EPAを自社のサプライチェーン最適化に向けた戦略として活用するためには、まずEPA / FTAに関する理解を深めることが重要です。FTAの最適化手順について詳しく知りたい方は、こちらのリンクよりガイドブック(無料)をダウンロードしてください。
さらにコンプライアンスコストを抑えるためには、関税の最適化および大規模なサプライ管理ソリューションを導入する必要があります。FTAを遵守しながら物流プロセスを効率化できる国際貿易管理ソフトウェアに関心がある方は、以下のリンクからカタログをダウンロードしてください。
参考情報
注3:日EU・EPA第2・32条に基づく輸入統計の交換(2021年分)