外為法違反はなぜ起きるのか?違反事例から学ぶ原因と適切な輸出管理体制とは

国際貿易業務において、外為法の遵守は企業のコンプライアンス管理において極めて重要です。しかし、すべての規制内容を網羅し、最新の規制情報にキャッチアップすることは容易なことではありません。

この記事では、過去の違反事例をもとに、意図せずに違反してしまう要因や潜在的なリスク、罰則について詳しく解説します。さらに外為法違反を防ぎ、コンプライアンス管理を徹底するソリューションについてもご提案します。

外為法に違反した際の罰則

外為法(外国為替及び外国貿易法)とは、外国為替、外国貿易その他の対外取引は自由に行われることを基本としながら、必要最小限の管理または調整を行うための法律です。

国際収支の均衡および通貨の安定を図ること、対外取引の正常な発展、わが国や国際社会の平和・安全を維持することなどを目的とします。

関連記事:外為法改正(2023年7月施行)先端半導体の輸出規制によるコンプライアンス管理への影響とは?(id007)

罰則の概要

外為法に違反すると以下の処分が行われることがあります。(注1

刑事罰

  • 10 年以下の懲役
  • 10 億円以下の罰金(法人の場合)
  • 3,000万円以下の罰金(個人の場合)

行政制裁

  • 3 年以内の、貨物の輸出や技術の提供の禁止
  • 別会社の担当役員等への就任禁止

警告

経済産業省からの違反企業に対する警告です。原則公表のため、企業イメージの悪化、社会的制裁を受ける場合があります。

経緯書・報告書の提出

違反原因の究明と再発防止に重点をおいた経緯書または報告書の提出を求める対応(原則非公表)

外為法違反の事案分析

2022年、経済産業省が行った外為法の違反事案分析では、外為法に違反した事例について以下の統計結果が記されています。(注2

  • 処分内容の割合
  • 企業規模別違反割合
  • 違反分類原因別割合
  • 違反発覚の端緒分類別割合
  • 違反仕向地域別割合

それぞれの内訳・概要は以下のとおりです。

処分内容の割合

処分内容の割合は、大半が軽微な違反事例であることが分かります。

  • 行政制裁(悪質な違反処分):0%
  • 警告(悪質な違反処分):0%
  • 経緯書+文書注意(比較的問題が大きい事例):2%
  • 経緯書+口頭注意(比較的問題が大きい事例):14%
  • 報告書(軽微な事例):84%

企業規模別違反割合

企業規模別の分析では「CP届出企業以外」〔*1〕の割合が高く、違反した企業の約4割が資本金3億円以上・従業員数300人以上規模の企業として該当しています。

  • CP届出企業以外:70%
  • 資本金3億円以上:38%
  • 従業員数300人以上:42%

〔*1〕CP届出企業とは、経済産業省に対して輸出管理内部規程(CP)の届出を行った企業を指します。届出を行っていない企業は「CP届出企業以外」に該当し、包括許可制度という優遇措置が適用されません。

違反分類原因別割合

違反の原因については、約6割が「該非判定」のプロセスにあり、次いで「輸出管理体制の不備・形骸化(12%)」「外為法認識不足・知識欠如 (8%)」「管理ルール・体制未整備(8%)」など、管理体制の不備が要因となっていることが分かります。

  • 該非判定(該非判定未実施・判定の誤りなど):64%
  • 管理体制(輸出管理体制の不備など):28%

違反発覚の端緒分類別割合

外為法違反が発覚した端緒として、自主通報の比率が高くなっています。

  • CP届出企業は、自主通報(自社発覚・他社指摘)の割合が約7割
  • CP届出企業以外は、自主通報の割合が4割、公的機関指摘(経産省・税関)の割合が6割

違反仕向地域別割合

アジア向けの貿易が最も多い傾向にあり、次いで欧州・北米と続きます。

  • アジア:60%
  • 北中南米:17%
  • 欧州:12%
  • 中東:11%

外為法に違反してしまう理由とは?

外為法を遵守し、コンプライアンス管理を徹底するためには、輸出管理令をはじめとする法律知識や各国規制の情報を常に把握しておかねばなりません。しかし、関係省庁や各機関が発行しているマニュアルや一つ一つの法令を十全に理解するには、相当な時間と手間がかかります。

また、対象国への制裁措置という側面を持つ外為法は、国際情勢の変化とも連動して改正が繰り返されます。そのため、各企業はこれらの変化に対しても柔軟かつタイムリーにキャッチアップすることが求められます。しかし、企業によっては、該非判定の対象となる品目が数十万件におよぶケースもあり、これらを都度、刷新・更新することは大変な労力をともないます。

このような理由から、知らず知らずのうちに外為法に違反してしまうことは少なくありません。では、具体的にどのようなプロセスにおいて違反が発生してしまうのでしょうか。各プロセスにおける要因を紐解きます。

外為法に違反してしまうケース① 該非判定のプロセス

該非判定のプロセスにおいて、外為法への違反が発生してしまうケースとして考えられる要因は以下のとおりです。

1.最新の法令に従って行えていない

政省令改正により、リスト規制の品目は原則毎年改訂されるため、単純に前例に従うだけでは、該非判定で違反する可能性があることにご留意ください。そのため関係省庁の公式発表や政府の公式ウェブサイトを参照し、常に最新の改定情報や見直しの状況を確認することが重要です。しかし、取り扱う貨物の種類が多い場合、リスト規制に関する法令が変わるたびに、判定結果を再判定するのは相当な負担になり得ます。

2.複数項目による規制を見落す

工作機械・炭素繊維のように複数の項目で規制されていることがあります。例えば、工作機械は、核兵器関連と通常兵器関連による規制対象です。どちらかを見落とすと該非判定に違反します。

3.部分品・附属品の規制を見落す

リスト規制の品目は、貨物だけでなく部分品・附属品も対象となることがあります。貨物・技術のマトリクス表で、元になる製品とともに部分品・附属品も検索する必要があります。

4.法令に記載されている名称と一般的な名称の違い

法令に記載されている名称と一般的な名称が異なる場合があり、貨物・技術のマトリクス表に掲載されている「読み替えが必要な用語」を参照する必要があります。(注3

5.別の企業が開発・製造したものを輸出する際に該非判定が困難

他社が開発・製造したものを輸出する際、技術的な知識がなければ該非判定ができません。また、化学品や素材が分からない機器などは判定不能となります。

6.材料の輸入先がレジーム参加国でない場合、該非判定はさらに困難

材料の輸入先がレジーム参加国〔*2〕でない場合、該非判定書を輸入先から受け取ることは困難を極めます。法令を知らない外国企業を相手に、説明して回答を得なければなりません。

〔*2〕輸出管理レジーム(例:ワッセナー・アレンジメント、核供給国グループなど)に参加している国々は、輸出管理に関する共通の基準やルールを守っているため、輸出入に関する情報が比較的容易に得られます。

外為法に違反してしまうケース②  取引審査

リスト規制に該当する品目は、原則的に許可を要しますが、許可を要さない特例があります。主な貨物特例、主な技術の特例があり、それぞれに判定が必要です。ところが特例の適用を誤ると、無許可輸出などの法令違反になってしまいます。

外為法に違反してしまうケース③ 出荷管理

通関業者への輸出通関手続きの不備(送付書類・伝達内容など)が問題となるケースがあります。出荷担当者に必要な情報を伝達するための書類、出荷貨物の同一性を確認するための書類などについて慎重に取り組むことが重要です。出荷チェックリストの使用を検討することをおすすめします。

外為法違反を防ぎ、コンプライアンス管理を徹底するには

社内やグループ企業内で外為法違反を防ぎ、コンプライアンス管理を徹底するには、以下の解決策があります。

  • 法改正などの情報をいち早くキャッチし、共有する
  • 内部のコンプライアンス管理マニュアルを整備する

しかし、従来のアナログな管理体制や既存のプラットフォームに頼った方法では限界があり、個々人のスキルや知識に頼った運営では潜在的なリスクを完全に排除することは難しいと考えられます。

そのため、輸出管理のプロセスにおける透明性を確保し、誰もが同一のプロセスとフローに従い業務を効率的にするためには、社内のプラットフォームを整えることが不可欠です。

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参考情報

注1:輸出管理の基礎 | 安全保障貿易情報センター (CISTEC)

注2:外為法違反事案の分析結果について(2022年度)|経済産業省 貿易経済協力局 安全保障貿易検査官室

注3:安全保障貿易管理**Export Control*貨物・技術のマトリクス表

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