FTA・EPA・TPPとは、多国間または各地域間において、幅広く経済関係を強化するために貿易や投資の自由化を進める協定を指します。まずは、各協定の概要とそれぞれの違いについて解説します。
FTA(自由貿易協定)
特定の国や地域の間で、輸入品の関税やサービス貿易の障壁を取り除くことを目的とした協定です。日本におけるFTAの締結状況や、貿易実務においてFTAを有効的に活用する方法についてはこちらの記事も合わせてご覧ください。
関連記事:FTA(自由貿易協定)とは?関税節税によるメリットと課題・潜在的なリスク回避の手段
EPA(経済連携協定)
FTAに関連した貿易の自由化に加え、投資、人材の移動、知的財産などの分野でも協力し合い、幅広い経済関係の強化を目指す協定です。知的財産の保護や競争政策におけるルール作成も行います。
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)
FTAおよびEPAは原則的に2国間で結ぶ協定です。しかし、2国間で交渉を続けるのは効率が悪く、地域でまとまって交渉する動きがでてきました。これを広域型EPAと呼びます。その一つが「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」です。
TPP11協定はオーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの合計11カ国で経済連携を進めています。当初参加していた米国は2017年1月に離脱しました。2023年5月、11か国が国内手続きを完了し、協定の寄託国であるニュージーランドに対し通報を行っています。(注1
FTA/EPA協定が結ばれた背景
FTA/EPAが多く結ばれた背景には、1995年にGATT(関税および貿易に関する一般協定)を継承・拡大する形で設立された「世界貿易機関」(WTO)の発足にあります。
WTOでは、貿易交渉分野の拡大において全会一致の合意形成を必要としており、貿易交渉の拡大は難儀を極めています。たとえば、1986年に始まった関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンドは合意まで9年を要し、ドーハ・ラウンド(ドーハ開発アジェンダ)は暗礁に乗り上げています。
こうしたなか、限られた国の間で貿易障壁を削減しようとする自由貿易協定(FTA)や、
貿易だけでなく、投資や人的交流を含めた幅広い経済関係の強化を目的とする協定(EPA)が発足しました。WTOはFTA/EPAを最恵国待遇原則の例外と認めています。
日本のFTA/EPA締結状況
日本のFTA / EPAの締結状況は以下の3つに分類されています。
1.署名済み・発効済みの協定
協定は署名の後、発効されますが、2023年6月現在の締結状況は以下のとおりです。(注2
- 日・シンガポールEPA(2002年11月発効、2007年9月改正議定書発効)
- 日・メキシコEPA(2005年4月発効、2007年4月追加議定書発効、2012年4月改正議定書発効)
- 日・マレーシアEPA(2006年7月発効)
- 日・チリEPA(2007年9月発効)
- 日・タイEPA(2007年11月発効)
- 日・インドネシアEPA(2008年7月発効)
- 日・ブルネイEPA(2008年7月発効)
- 日ASEAN・EPA(2008年12月から順次発効)
- 日・フィリピンEPA(2008年12月発効)
- 日・スイスEPA(2009年9月発効)
- 日・ベトナムEPA(2009年10月発効)
- 日・インドEPA(2011年8月発効)
- 日・ペルーEPA(2012年3月発効)
- 日豪EPA(2015年1月発効)
- 日・モンゴルEPA(2016年6月発効)
- TPP12(環太平洋パートナーシップ)(2016年2月署名、日本は2017年1月締結)米国の離脱につれてTPP11に移行
- TPP11(包括的・先進的TPP協定)(2018年12月発効)
- 日EU・EPA(2019年2月発効)
- 日米貿易協定・日米デジタル貿易協定(2020年1月発効)
- 日英EPA(2021年1月発効)
- 地域的な包括的経済連携(RCEP)協定(2022年1月発効)
2.交渉中の協定
以下の4国とは交渉中です。
- 日・トルコEPA
- 日・コロンビアEPA
- 日中韓FTA
3.交渉中断の協定
政策の見直し等で交渉が中断されている事例もあります。
- 日GCC・FTA
- 日韓EPA
- 日・カナダEPA
日本のFTA/EPAの今後の動向
各協定の締結を進めていく上で、前向きな要因と後ろ向きな要因があります。
検討中の協定について
前向きな要因として「自由で開かれたインド太平洋」の外交方針に沿ったEPAの発効が期待されます。国際社会の安定と繁栄の鍵を握るのは、アジアとアフリカの2つの大陸、太平洋とインド洋の2つの大洋です。この外交方針に乗っ取り、東南アジア・南アジア・アフリカの諸国とのEPAによる協力体制が発展していくことが見込まれます。(注3
貿易の分裂が懸念される情勢
後ろ向きな要因として、米中対立の激化とロシアによるウクライナ侵攻があります。これらの要因は世界の貿易の分裂を促し、日本にも影響を与えます。
2018年米国のトランプ政権は、中国からの輸入品に幅広く25%の追加関税を設定し、中国側もアメリカからの輸入品に追加関税を設定して、米国と中国との報復合戦が始まりました。後継のバイデン政権も半導体関連の対中輸出規制を強化しています。
ロシアによるウクライナ侵攻に対する経済的制裁は、世界貿易に溝を生じさせています。制裁に参加した欧米・日本などとロシアの貿易は激減し、参加していない中国などとロシアの貿易は増加しました。さらにグローバルサウスと呼ばれる発展途上国は、このいずれの国とも貿易の維持を望んでいます。
貿易実務との関連性
FTA/EPAによる協力体制が発展していくことで、特恵税率や非関税障壁の緩和など、FTA/EPAを積極的に活用する企業には多数の利点があります。FTA/EPAを活用する手順は以下の通りです。
- 輸出相手国がFTA/EPAの対象国か否か確認
- 輸出する商品の関税番号(HSコード)を特定
- 輸出相手国で適用される関税率を調べる
- 原産地規則を満たしているか確認
- 原産地の証明に必要な書類を作成
その上で、以下2点のことに留意する必要があります。
1.全面的に関税が撤廃されているわけではない
FTA・EPA・TPPの対象国との間で、関税は全面的には撤廃されてません。協定ごとに対象となる商品が異なり、対象外の商品も多くみられます。また、協定がまだ発効されていない場合もあることに注意が必要です。
さらに協定の対象となる商品でも、無条件に関税が撤廃されるわけではありません。協定を利用する申告手続きを行うことにより、初めて関税が撤廃される仕組みです。ある意味では、貿易はまだ完全には自由化されていないと言えるでしょう。
2.自己申告制度が採用されている協定もある
原産地証明制度として①第三者証明制度、②認定輸出者自己証明制度及び③自己申告制度(完全自己証明制度)のいずれか又はそのうちの複数の制度が採用されてきました。
日EU・EPA、TPP協定の様に自己申告制のみが採用されている協定もあります。生産者、輸出者、輸入者のいずれかが「原産品申告書」を作成しなければなりません。生産者、輸出者が作成するものを「原産地に関する申告」、輸入者が作成するものを「輸入者の知識」と呼称しています。
通常、輸入者はFTA/EPA税率を適用して輸入申告をする際に、原産品申告書を輸入国の税関に提出します。その後、輸入国の税関は原産品の審査および事後確認を行う仕組みです。つまりFTA/EPAの内容を正しく理解していなければ、協定を利用できません。(注4
FTAをさらに深く理解しサプライチェーンを最適化するには
FTAを活用することで、関税の軽減・免除ができることは大きなメリットです。
例えば「ごま油」を日本からカナダへ輸出する際、関税として11%が課せられますが、TPP11を活用して関税が撤廃されたという事例があります。この事例では、現地での価格競争力の向上につながり、輸出量を相当に伸ばす結果となりました。(注5
他にも数多くの活用事例がある一方で、国内において利用可能なFTAを活用している企業はわずか23%にとどまっています。多くの企業がFTAの把握に苦慮し、参加を見合わせている可能性が考えられます。
FTAを自社のサプライチェーン最適化に向けた戦略として活用するためには、まずFTAに関する理解を深めることが重要です。FTAの最適化手順について詳しく知りたい方は、こちらのリンクよりガイドブック(無料)をダウンロードください。
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参考情報
注2:我が国の経済連携協定(EPA/FTA)等の取組|外務省
注4:条件3 輸入申告時に必要となる書類を作成又は準備し税関に提出すること : 税関 Japan Customs
注5:かどや製油、EPAを追い風にごま油の輸出拡大(インドネシア、タイ、フィリピン、カナダ、米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ