この記事では、今回の貨物等省令の改正内容、貿易実務への影響、輸出規制への対応策について解説します。この記事を読むことで、法改正情報を把握し、社内マニュアルを適切に整備する必要性が明確になります。そして、円滑な輸出手続きを実現するために、輸出管理ソフトウェア導入の必要性が理解できるでしょう。
2023年7月施行・外為法に基づく貨物等省令の改正内容
2023年5月23日に経済産業省は、外為法にもとづく貨物等省令の改正を公布し、先端半導体の製造装置等23項目を輸出管理の規制対象に加えるとしました。そして2023年7月23日に施行されます。(注1
外為法(外国為替および外国貿易法)とは
外為法(がいためほう)とは「外国為替および外国貿易法」のことです。対外取引の正常な発展、国内および国際社会の平和・安全の維持を目的として、外国為替・外国貿易などの対外取引の管理・調整を行うための法律です。特定の国・地域を仕向地とする貨物の輸出、特定の国・地域を原産地・船積地とする貨物の輸入などを行う場合、経済産業省大臣の許可や承認を必要とします。
外為法はもともと為替管理のためにできた法律ですが、徐々に貿易管理や投資管理に拡大され、安全保障貿易管理も追加されました。(注2・3
2023年7月改正の内容
今回の施行は、米国が中国向けの先端半導体の製造装置の輸出を厳しく制限したことに足並みをそろえる形です。対象は全地域に及びますが、米国の強化された輸出規制に応じて、中国を含む一部の国々への輸出手続きが一段と厳格になります。(注4
西村経済産業省大臣の記者会見によると、高性能な先端半導体は、軍事的な用途に使用された場合、国際的な平和および安全の維持を妨げる恐れがあるため、高性能な先端半導体を輸出管理の対象に追加したとしています。(注5
規制に従い、安全保障貿易管理が行われる予定です。規制の対象となる23項目には、極端紫外線(EUV)関連製品の製造装置、記憶素子を立体的に積み上げるエッチング装置等が含まれます。
外為法改正と貿易実務への影響
2023年7月の外為法改正により、貿易実務はどのような影響を受けるかについて解説します。
外為法と貿易実務との関連
外為法にもとづく規制は、リスト規制とキャッチオール規制からなりますが、今回の規制はリスト規制の対象となる品目が追加されます。全地域の仕向け地を対象として、リストに該当する貨物や技術を輸出や提供する際に、経済産業大臣の許可が必要になります。
許可の申請の仕方は以下の2種類です。
- 個別許可申請
個々の契約ごとに許可の申請を行う
- 包括許可申請
輸出者などが自己の輸出管理体制を整備し、審査機能を自己管理の下で遂行できる場合、特定の範囲において包括的な許可を受けることが可能となります。
輸出管理として行わなければならない手続きは以下の3つです。
- 該非判定
輸出や提供しようとする貨物や技術が、リスト規制に該当するか否かを判定
- 取引審査
貨物・技術の用途、需要者などを確認し、取引するか否かを判断
- 出荷管理
貨物の出荷や技術の提供前に、同一性の確認および許可証の有無を確認
要点のみ触れましたが、必要な手続きには専門的な知識と経験が必要です。詳細情報については、関連記事をご覧いただくことをお勧めします。
対象
2023年7月の改正により、半導体製造装置等の23品目が輸出管理の対象となります。(注1
- 洗浄(3品目)
- デポジション(成膜)(11品目)
- アニーリング(熱処理)(1品目)
- リソグラフィ(露光)(4品目)
- エッチング(化学的除去)(3品目)
- 検査(1品目)
外為法に違反するとどうなるのか?
外為法において必要な許可を得ず、規制対象である貨物の輸出を行うと、刑事罰、行政制裁あるいは行政指導が行われます。社内監査等で明白な外為法違反が見つかったら速やかに安全保障貿易検査官室に問い合わせることが大事です。
罰則・処分
外為法に違反すると以下のような処分が行われることがあります。(注6
刑事罰
- 10 年以下の懲役
- 10 億円以下の罰金(法人の場合)
- 3,000万円以下の罰金(個人の場合)
行政制裁
- 3 年以内の、貨物の輸出や技術の提供の禁止
- 別会社の担当役員等への就任禁止
警告
経済産業省からの違反企業に対する警告(原則公表)
経緯書・報告書の提出
違反原因の究明と再発防止に重点をおいた経緯書または報告書の提出を求める対応(原則非公表)
違反事例
平成19~28年に、ある加工機器メーカーがイランや中国へジュエリー生産加工用装置を輸出していました。その装置はリスト規制品目の「誘導炉」にあたるものでしたが、同社は法令の知識をもたず、経済産業大臣の許可を得ないまま、輸出をくり返していました。結果、外為法に違反したと見なされ、3カ月間の輸出禁止命令の行政処分を受けました。
違反してしまう要因
外為法を遵守するためには、膨大な法律の内容を熟知しておかねばなりません。また一つ一つの法令を理解するにも時間がかかります。さらに今回の改正のように、法令・規制が目まぐるしく変わることがあり、タイムリーにキャッチアップすることが難しく、意図せず違反してしまうという事例が後を絶ちません。(注6
該非判定で違反してしまう要因
- 該非判定を最新の法令に従って行えていない
- 複数項目による規制を見落としている
- 部分品・附属品の規制を見落としている
- 法令に記載されている名称は一般に使用されている名称と異なることがある
取引審査で違反してしまう要因
- 許可を要しない特例を見誤る
出荷管理で違反してしまう要因
- 通関業者への輸出通関手続きの不備(送付書類・伝達内容など)
詳細については関連記事をご覧ください。
外為法改正等、目まぐるしく変動する輸出規制に対応するために
昨今の対外貿易に関する政治的な動きは、目まぐるしく変動し、企業経営にも多大な影響を及ぼしています。輸出管理業務においてコンプライアンスを遵守することは、企業自身を守るためにも重要です。
解決策のご提案
コンプライアンスを遵守するためには、以下のような解決策があります。
- 法改正などの情報をいち早くキャッチする
- 社内マニュアルを整える
効率よく業務を進めるためには、社内マニュアルが必須です。とはいえ人間のアナログな処理能力だけでは対応に限度があります。コンプライアンスを遵守しながら輸出手続きを正確にまた、スムーズに行うため、輸出管理システムの導入をおすすめします。
輸出管理ツールのご紹介
トムソン・ロイターの輸出管理ソリューションを活用すれば、輸出手続きをスムーズに進め、コンプライアンス違反や関税の過払いリスクを低減することが可能です。
輸出管理ソリューションのメリットを示します。
- 貿易書類の電子化
- 中央集中型データベースへ紐づけて保存
- 費用・経費の自動計算
- 多様なプロセスを一体化
- 無数の規制要件に準拠
輸出管理ソリューションに興味がある方は、以下のリンクぺージからデモ・トライアルをダウンロードしてください。
またトムソン・ロイターでは、厳格化する輸出規制リスクへの対処法に関するオンデマンドウェビナーを配信しています。玉木総合法律事務所 玉木昭久弁護士により、輸出管理の最新動向について詳しく解説します。
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参考情報
注4:日本政府、半導体製造装置を輸出管理対象に 米が対中規制要請 | ロイター