FTA

FTA(自由貿易協定)とは?関税節税によるメリットと課題・潜在的なリスク回避の手段

FTA(自由貿易協定)とは、関税の撤廃や制限緩和などを含む国際貿易に関する協定です。

本記事では、FTAの概要や目的、内容について解説します。FTA/EPA対策にご興味のある方はご一読いただくことで、FTAについて理解を深めて頂けます。

FTAの理解を深めることにより、国際貿易や海外市場への進出のメリットを認識し、効果的な貿易戦略の構築ができるでしょう。

FTA(自由貿易協定)とは?

FTAとは、国と国が取り決めてお互いの貿易を自由化し、関税や貿易障壁を削減する協定です。FTAの概要と日本における締結状況について説明します。

FTAの基本情報

FTAは、2国以上の特定の国家間(または地域)での貿易における関税の軽減や非関税障壁(輸入規制や検査手続きなど)の緩和、規則の整備などの国際的な取り決めです。


FTAと似た目的をもつ協定に、EPA(経済連携協定)があります。どちらも貿易関係の強化のための枠組みとして使われることが多いですが、FTAとEPAの主な違いは、参加国の範囲と目的です。


FTAは、2国間の貿易関係の改善に焦点を当て、関税の軽減や障壁の緩和により貿易促進を図ります。

一方、EPAはより広範な経済的連携を目指し、貿易に関する取り決めのみでなく、投資、知的財産の保護、政府調達、電子商取引、人の交流など、さまざまな分野での協力を含む経済上の総合的な協定です。

つまり、EPAはFTAの範囲を広げた協定と言えます。

関連記事:FTA・EPA・TPPの違いとは?最新動向と貿易実務との関連性

日本におけるFTAの締結状況

日本では、2002年にシンガポールとのEPA締結を機に、世界各国とFTA/EPAを締結しています。主な締結相手国は、アジア太平洋地域、欧州連合、および一部の中南米諸国などです。

また、日本は2国間だけでなく、ASEAN・日本包括的経済連携協定(AJCEP)、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、通称TPP11)、アジア太平洋地域を中心に15の国や地域が参加する地域的な経済連携協定(RCEP)など、複数国間の協定も締結しています。現在、日本の発効・署名済みのFTAは21件です。(注1

交渉中のFTA/EPAには、日・トルコEPA、日・コロンビアEPA、日中韓FTAがあります。これらの合意が得られれば、日本企業の中東や南米市場への参入促進や、取引量の多い東アジア地域の貿易においてより経済的なメリットが期待できます。

参加国間にはさまざまな経済や政治の要素が絡み合い、合意に至るまで時間を要しますが、今後も日本は積極的にFTA/EPAの締結を進めていくでしょう。

FTA/EPAを有効活用するメリット

FTA/EPAの締結によるメリットや経済効果を見てみましょう。

・海外市場進出の拡大

関税の撤廃や削減が行われ、参加国間での市場参入が容易になるため、企業は新たな市場に進出しやすくなります。


・貿易の促進

貿易手続きの簡素化をはじめ、規制や障壁の軽減により貿易活動が円滑化されるため商品やサービスの流通が活発化します。


・競争力の向上

企業は参加国内での競争に直面し、効率性や品質の向上を追求することになります。結果的に競争力のある製品開発やサービスの提供につながります。



FTA/EPAの取り決めの中に、協定特恵税率があります。特恵税率とは、原則の関税税率より低い税率を特定の商品に適用する制度です。高い関税税率が課される輸入品に対して、関税を軽減または撤廃し、輸入の促進を図ります。


輸入品の関税が削減されることで、海外輸出企業に経済的なメリットを生みます。

特恵税率の利用について、刃物製造会社のケースを紹介します。


近年海外では日本の高品質で優れた切れ味の包丁が人気です。刀製造から現代に受け継がれる、伝統的な職人の技術と精密な製造プロセスも魅力となっています。


新潟県燕市に本社を置く包丁専門メーカーは、FTAやEPAを活用して海外市場へ進出しており、海外売上高は40~50%と大きな成果を上げています。


具体的には、マレーシア向けの貿易において、かかっていた25%の関税がEPAの導入により撤廃され、大幅な関税削減が実現できました。

また、カナダ向けの貿易では、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(TPP11)の自己証明制度を活用しています。

これにより、原産地証明書の作成が簡単になり、手続きの効率化が可能になりました。(注2


このように、企業はFTA/EPAを積極的に活用することによって競争力を向上させ、海外進出を成功させています。企業にとってFTA/EPA活用は重要な戦略であり、国際的にビジネス展開する企業において競争優位性を確保するための有力な手段と言えます。

FTA/EPA活用における慢性的な課題

特恵税率や非関税障壁の緩和など、多数の利点があるFTA/EPAですが、手続きが煩雑で費用対効果が見合わないと考える企業や事業者が多いのも事実です。

 FTA/EPAの利用が難しい理由

FTA/EPAの利用には、対象国や協定の確認、規則や手続きの理解、また、原産地証明書の取得が必須です。
日本貿易振興機構(JETRO)の調査によると、日本企業がFTA/EPA活用の障害の要因として挙げた項目に、規則や手続きの複雑さ、情報の不足、原産地証明書の取得に関する問題などがあります。(注3

FTA/EPAを利用の手順

FTA/EPAを利用する際の手順は、次の通りです。

1.協定の確認

輸出入を行う国との間でFTA/EPA締結の有無を確認します。参加国や範囲、適用される規則や関税の軽減率などの理解が必要です。

2. 取引製品のHSコード確認

相手国との間に締結されたFTA/EPAが存在する場合、取引する製品のHSコードを判定します。HSコードは、国際的に統一された商品分類番号です。


3.関税率の確認

FTA/EPAによって適用される税率が、原則の税率より低いかどうかを確認します。


4.製品の原産地確認(輸出時)

製品がFTA/EPAの原産地要件を満たしているか確認します。製品の原材料や生産過程などに関する情報を収集し、原産地証明書を取得します。


5.貿易手続きの準備

輸出入に必要な原産地証明書や輸出入申告書、検査証明書などの書類を正確に作成し、手続きを行います。



各FTA/EPAの詳細を把握し、規則を理解した上で適切な書類を用意します。特に、原産地要件や関税軽減、撤廃のスケジュールには注意が必要です。規則や関税率の変更も考えられます、また、原産地証明書や申告書などの情報は常に正確でなければなりません。


FTA/EPAの活用においては、取引する製品の正確な分類と原産地証明が不可欠です。製品のHSコードを判定し、関税率や規則の適用範囲を確認します。


また、原産地証明書を取得するには、製品材料や生産過程の詳細を把握し、原産地規則に準拠する必要があります。原産地要件は厳格に定められており、製品の生産プロセスや原材料のトレースなどが求められるでしょう。結果的に、適用要件を満たすことが難しい場合もあります。


原産地証明書の取得や書類の作成には時間と労力を要します。専門的な知識や経験がある担当者でも国や地域ごとの異なる規制を把握し、煩雑な手続きや厳格な要件への対応は困難です。

FTA/EPA活用時の潜在的なコンプライアンスリスク

FTA/EPA活用時には、原産地規則の解釈や適用方法に関する誤解などがコンプライアンス違反につながる可能性があります。


原産地基準は各FTA/EPAで異なります。同じ製品でも、異なるFTA/EPAを利用する場合は、各々の原産地規則の要件を満たす必要があります。


また、特定原産地証明書と一般の原産地証明書は異なります。特定原産地証明書は協定によって定められた特恵関税の適用を受けるための証明であり、一般の原産地証明書は製品の原産地を証明するものです。

場合によっては、両方の証明書が要求されることもありますが、それぞれ異なる内容を証明するため、適切な対応が必要です。

不適切な原産地証明書や記載の不備は、規定違反とみなされる場合があります。原産地の判定は申請者が行い、その結果に基づいて原産地証明書の申請を行うことが原則です。虚偽の申告が行われた場合、証明書の発給停止や登録抹消などの罰則が科されます。

故意ではない過失や錯誤の場合でも、一定期間の証明書発給停止処分に該当する可能性があり、商工会議所により処分が科されている企業もあります。(注4


さらに、FTA/EPAでは、製品の分類に基づいて関税率や規則の適用範囲が決定されます。品目の分類を誤った場合、規定に違反する可能性があります。


FTA/EPAの活用においては、慎重な対応とコンプライアンス違反を防ぐための十分な準備が必要です。

 FTA/EPA活用における課題解決・リスク回避の手段

FTA/EPAを利用する際、コンプライアンスを遵守し、適切な手続きを行うための対策は必須です。貿易規制は常に変化しており、最新の情報を把握し、定期的な教育やトレーニングを受け、手続き方法やコンプライアンスの理解を深めることが重要です。


また、組織内でシステムやプロセスの確立も必要です。明確なガイドラインや手順を策定し、社内の関係者が一貫した方法で手続きを進められるようにします。


さらに、外部の情報源の活用も検討しましょう。政府機関や業界団体、専門サイトなどから最新の情報を入手し、組織内の手続きに反映させることで、コンプライアンスを確保します。


そのうえで、内部監査とリスク管理を行うことも重要です。定期的な監査により、手続きが適切かどうか確認し、不正やミスの早期発見・修正が可能になります。潜在的なリスク要因を特定し、対策を講じることで、コンプライアンス違反の未然防止に努めましょう。


ONESOURCE Global Trade Content

ONESOURCE Global Trade Contentは、国際貿易における規制データを管理・把握するために有効なツールです。210以上の国と地域の最新の貿易規制データを提供します。


関税表や貿易協定の原産地規則、輸出入管理に関わる機関や公共団体(OGA、PGA)による規制内容など、広範な国際貿易の規制情報を一元化されたデータから参照可能です。


リアルタイムで更新される税関データを世界中から入手し、所在地や言語に関係なくユーザー間で情報共有もできます。これにより、国際貿易における労力を削減し、迅速かつ正確な規制情報の入手が実現します。


貿易規制の情報入手に役立つONESOURCE Global Trade Contentのデモは、以下リンクからぜひお申込みいただけます。

参考情報

注1:外務省 我が国の経済連携協定(EPA/FTA)等の取組

注2:日本貿易振興機構(ジェトロ)「ビジネス短信」藤次郎、EPA・FTA活用し海外販路開拓、大幅な関税削減実現も

注3:日本貿易振興機構(ジェトロ)地域・分析レポート FTAが利用されない理由とは何か、利用拡大に向けた支援策を探る

注4:東京商工会議所 Business Certificate News【注意喚起】原産地証明書における原産国の虚偽記載に伴う処分決定について

ビジネスインサイトを購読

業界最新トレンド情報をアップデート

購読する