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RCEP協定発効がもたらすメリットとは?EPA税率適用の流れも解説

日本、中国、韓国、ASEAN諸国、豪州、ニュージーランドを含む15か国が2020年11月、RCEPに署名しました。この署名により誕生した世界最大規模の自由貿易圏は、日本が中国・韓国と締結するはじめてのFTAとなるほか、日本企業に多くのメリットをもたらすとして非常に注目されているのです。

本記事では、RCEPの実態やこのRCEP協定発効がもたらすメリット、EPA税率適用の流れについて解説します。

ご承知のとおり、RCEP以外にもさまざまなEPA/FTA(経済連携協定/自由貿易協定)が発効されているため、それぞれを分析した上で関税戦略を最適化するには膨大な労力とデータが必要です。そこでEPA/FTAの分析に役立つツール「ONESOURCE FTA Analyzer」についてもご紹介しますので、国際貿易実務の効率化に興味のある方はぜひ参考にしてください。

RCEP(アールセップ)協定とは

RCEPは経済上の国益の確保・増進を目的として国が取り組むEPA/FTAのひとつです。(注1

RCEPとは英語のRegional Comprehensive Economic Partnershipの略で、地域的な包括的経済連携と訳されます。世界最大の自由貿易協定(以下、FTA)と呼ばれるとおり、世界のGDP、貿易総額(輸出)および人口の約3割を、また日本の貿易総額のうち約5割を占める地域が参加しているのです。

このアジア太平洋地域における巨大な自由貿易圏の参加国は、日本、中国、韓国、ASEAN10か国、豪州、ニュージーランドを含む15か国に上ります。インドは、残念ながらRCEP交渉から離脱したために参加していません。(注2

参加国におけるRCEP協定の発効状況

2023年9月現在、ミャンマーを除く14か国が発効手続きを終えています。RCEP協定の発効状況を下記にまとめました。(注2

発効年月日国名
2022年1月1日日本、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、豪州、中国、ニュージーランドの10か国
2022年2月1日韓国
2022年3月18日マレーシア
2023年1月2日インドネシア
2023年6月2日フィリピン

出典:外務省、財務省、農林水産省、経済産業省|地域的な包括的経済連携(RCEP)協定

メガFTA誕生の意義

RCEPが誕生するまでは、ASEAN諸国は日本、中国、韓国、豪州など周辺諸国と個別に貿易協定を締結していました。メガFTA誕生の意義は、これらを下地として地域の貿易・投資の促進およびサプライチェーンの効率化に向けて、市場アクセスを大幅に改善するためのルールが整備されたことです。

RCEP協定のルールは、全20章および17の付属書で構成されています。すべての参加国が締結しているWTO協定と比較すると、WTOには見られない競争、電子商取引、中小企業に関するルールが規定されているほか、知的財産権の保護においてはWTO協定よりも強化されている点がポイントです。例えば、悪意で行われた商標出願の拒絶、取消の権限が当局に与えられています。(注3、注4

RCEP協定による関税撤廃・削減の効果を見ると、物品貿易の関税撤廃率はRCEP参加国全体で91%(品目数ベース)になる点も見逃せません。後述しますが、日本からの中国および韓国向け輸出品に対する関税削減効果もかなり大きいです。

またRCEP協定の重要な特徴は「原産地規則」です。原産地規則とは、RCEP協定参加国の原産品として認められるための要件のことで、RCEP協定税率の適用を受けるためには、この原産地規則を満たす必要があります。既存の地域貿易協定と比べてより柔軟な品目別規則の存在、認定輸出者制度および自己申告制度の利用、累積可能な範囲の拡大の3つにより、RCEP協定は貿易創出効果が高いと期待されているのです。(注5、注6

関税を最適化し、コスト削減を最大化し、サプライチェーン強化につながるFTAを見極める方法については、下記リンクご確認いただけます。

RCEP協定が日本企業にもたらすメリットとは

RCEP協定発効によって、日本企業はさまざまな恩恵を受けることになります。ここではRCEP協定のメリットを3つ見ていきましょう。

原産地規則に関する手続きが簡素化され利便性が向上

RCEP協定の発効に伴い、品目別規則(PSR)が一層緩和されたことで原産地規則のハードルが低くなり、原産地管理も簡素化されたことで利便性が向上した点は大きなメリットです。品目別規制を見ると、他の地域貿易協定よりも柔軟な原産地規則が設定された品目が一定数存在することから、RCEP協定税率の適用を新たに受けようという輸出企業が現れ貿易が拡大することが想定されています。(注5

RCEP協定では、日本が締結した協定の中で初めて、原産地証明制度として「第三者証明制度」「認定輸出者自己証明制度」「自己申告制度」の3つが併用されることになりました。輸出者・生産者による自己申告制度は協定発効後10〜20年以内に導入されることになっているために、発効時から利用できるのは「第三者証明制度」「認定輸出者自己証明制度」の2つです。(注3

RCEPを利用して輸出する際には、第三者証明制度に加えて認定輸出者制度を利用可能になったことで証明書の発効手数料はゼロに、さらにタイムリーに原産地証明書を作成できるために時間節約になります。原産地証明にかかる実質的コストが低下することで、コンプライアンス体制を整えやすい大企業を中心に貿易創出効果が期待されています。

上述の2つの制度のメリットとデメリットは下記のとおりです。

メリットデメリット
第三者証明制度事後の検認時に発給者(日本商工会議所)経由で対応日本商工会議所の審査・判定・発給に時間と手数料がかかる
認定輸出者自己証明制度証明書の発行手数料なし時間節約事後の検認時に自社が直接対応認定を受ける際にEPA利用実績や費用がかかる

出典:中小機構 海外ビジネスナビ|第三者証明と認定輸出者、どちらが得?

中国・韓国向け輸出品において関税面で恩恵を受けやすい

日本からの中国・韓国向けた輸出品の多くで、関税面での不利益が解消される点も大きなメリットといえます。

日本にとって中国と韓国は、日本の貿易総額の4分の1以上を占める主要な貿易相手国です。日中韓がそろってRCEP協定に参加することになったために、無税品目の割合が上昇しており、特に自動車部品に期待が高まっている状況です。(注2、注3

RCEP協定発効以前は、3か国間の貿易総額6200億ドルのうち、47.5%に相当する3000億ドルが課税対象でした。とくに日本から中国・韓国に向けた輸出に対する課税割合が高く、日本が支払う関税額は3か国間で最も大きいものだったのです。(注7

サプライチェーンを再構築するチャンスになる

RCEP協定は、サプライチェーン再構築にも有効です。再構築を検討中の日本企業にとって、協定の利用はメリットが大きいでしょう。RCEPには、その他のRCEP参加国から輸入した部材を輸出国原産とみなせる「原産地規則の累積規定」があるために、複数の参加国にまたがって加工や組み立てをしても域内であれば関税が優遇されます。

例えば、中国から調達した自動車部品を用いてASEAN諸国で加工・組み立てを行いオーストラリアに輸出する、あるいは中国・アジア向けの輸出が容易かつ低コストになることを見込んで日本回帰を進めるなどの再構築に乗り出す日本企業も現れるかもしれません。

日本産品にRCEP協定税率(EPA)の適用を受ける流れ

日本産品を輸出する際に、RCEP協定税率(EPA)の適用を受けるためのポイントは次の2点です。

・RCEP協定税率(EPA)の適用を受けるためには、「原産地規則」を満たす必要がある

・原産地規則を満たし原産品であると判断された場合には、輸入国税関で原産品であることを証明する「原産地証明書」を準備する

上記を踏まえて、輸出貨物においてRCEP協定税率(EPA)を適用する流れについて見ていきましょう。(注8

  1. 輸出貨物のHSコードを特定する
  2. HSコードに基づき、RCEP協定税率を調べる
  3. 適用される原産地規則を特定する
  4. 原産地規則を満たすかどうかを確認する
  5. 輸出面での原産地手続きを行う(原産地証明、疎明資料を保存)
  6. 相手国におけるRCEP協定税率(EPA)を適用する
  7. 必要に応じて相手国からの検証に対応する

関税削減に向けたEPA活用戦略が不可欠に

日本産品を輸出する日本企業にとってメリットの大きいRCEP協定発効は、貿易創出効果を期待できることから大変喜ばしいことです。一方で、RCEPのように新たなEPA/FTAが発効するたびに、グローバル・サプライチェーンを管理する実務の現場は、関税削減に向けたEPA活用戦略が不可欠となり、常に複雑さやリスク、コストに悩まされています。

ONESOURCE FTA Analyzer

そこで関税の最適化には、意思決定・分析ツール「ONESOURCE FTA Analyzer」のご利用がおすすめです。自動化されたFTA分析・管理プロセスが可能になるために、EPA/FTAを利用する際の複雑さ、リスク、コストを大幅に軽減できます。ONESOURCE FTA Analyzerについては、以下リンクからお問い合わせいただけます。また、RCEPの実態と課題点を振り返ったレポートも無料配信しておりますので、情報収集にお役立ていただければ幸いです。


参考情報

注1:外務省 我が国の経済連携協定(EPA/FTA)等の取組

注2:外務省、財務省、農林水産省、経済産業省 RCEP協定概要

注3:日本貿易振興機構 RCEP協定解説書

注4:アジア経済研究所 「RCEPをどう見るか:政治学・経済学の研究課題」

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