サステナビリティ情報開示基準統一への道のり:欧州基準と世界基準の狭間で

企業報告向けの世界的なサステナビリティ基準への取り組みは進んではいるものの、完全な統合には至っていません。

国際サステナビリティ基準

国際的なサステナビリティ基準の構築は、この2年間で非常に速いペースで進展しています。実際、当プロジェクトの準備作業部会の議論から、国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)の設立、そしてパブリックコメントのための要求事項提案に至るまで、そのスピードは極めて順調であったと言えます。国際財務報告基準が整うまでに10年を要したことを考えると、異例の速さで進んでいることがわかります。

ISSBによるサステナビリティ基準の構築と同様に、EUの対応もまた迅速でした。しかし、ISSBとEUの2つの枠組みには、大きな違いがあります。国際財務報告基準と同様に、ISSB基準で作成された報告書の主な利用者は投資家であることが想定されているのに対し、EUの基準は、投資家だけでなく、幅広いステークホルダー を対象とした報告書が求められるのです。

両者には大きな相違があるにもかかわらず、統一基準に対する要望は高く、統一と分断のせめぎ合いは依然として続いています。

ISSBの着想は、世界中で統一性と互換性を確保するために、基準のベースラインを形成することです。欧州を含め、異なる地域が異なる政策目標を持っている場合、このアプローチに従って基準を追加することができるでしょう。ISSBは、新たなサステナビリティ基準の構築を大いに推進していくと見られています。

両者の相違がもたらすもの

両者の相違点は、その目的と対象者の違いによってもたらされるものです。ISSBは投資家のみを対象としているのに対し、EUはより広範なステークホルダーを対象としています。この違いは、次のような異なる要因に影響を及ぼしています。

  • 重要性の定義の相違

企業が報告すべき事項における重要性の定義がEU基準と国際基準で異なることが、両基準間の最大の障害であるという見方があります。EU基準は、二重の重要性原則に基づいて策定されており、企業の財務的影響と社会・環境への影響の両方の観点から開示が求められています。一方で、国際基準では、持続可能性の影響を企業自体の財政状態や将来性への影響という観点から測定するという、いわば企業価値の創造、あるいは財務的側面からのアプローチに基づいています。

  • 基準の違い

会計コンサルティング会社の大手4社であるEY社は、EUの環境・社会基準が他の国や地域に比べて厳しいことを指摘し、両者の乖離は避けられないと述べています。この見解は、より高い基準を確保するためには欧州型のアプローチが必要であり、一方、世界で受け入れられるには、グローバルな基準が最小公倍数に引きずられる危険性があることを示唆しています。

  • 注力分野の違い

ISSBは、気候変動開示から始めることを明言している一方で、EUは、より包括的なアプローチを求めており、企業が与える様々な環境、社会、ガバナンス(ESG)影響の相互関連性を重視しつつ、気候変動基準自体も強化していく方針です。

基準の統一がもたらすもの

企業のサステナビリティ報告に関する基準設定の加速は、持続可能性課題の緊急性と、その実現を支持する投資家の圧倒的な意見の推移の両面からもたらされたものでしょう。国際統合報告評議会(IIRC)の調査では、82%以上の投資家が、規制に裏打ちされた標準的なサステナビリティ報告を支持しているという結果が出ています。

この標準へのプレッシャーは、単にプロセスとしての標準化にとどまらず、その実現に向けてISSBとEUの双方が互いに歩み寄り、整合性を見出すことに向けられているのでしょう。

さらに、2025年には、世界の投資資産の3分の1、欧州の投資資産の半分以上がESG投資専用ファンドになると予想され、サステナビリティの実績を理解することは、単にリスク評価の向上だけでなく、投資家のニーズと期待に応えるための鍵になると思われます。それに加え、環境負荷の測定や財務業績に関連付ける手法がさらに発展し、サステナビリティ情報の信頼性や 総合的な情報の整合性に関する従来の不確実性が急速に解消されることが予想されます。

この2つの取り組みの背後にある規制当局の力の差は、一見したところ小さいようです。国際財務報告基準財団は、その財務報告基準がすでに世界144カ国で採用されていることから、まさに国際的なサステナビリティ基準の策定母体として選ばれたのです。40カ国(うち10カ国は欧州内)の財務大臣と中央銀行総裁がISBの設立を支持しました。投資家と同様に、規制当局も収斂に向けて動き出しているのでしょう。

融合に向けた3つのアプローチ

欧州と世界基準の整合性を高め、連携を前進させるために、以下の3つのアプローチがあると考えられます。

協力型アプローチ – ISSBとEUが協力型アプローチをとるには合理的な選択肢としては、共通の知的財産、それぞれの協議の時期と内容の一部を調整するための協議、またはそれぞれの役割を明確にして合意するために、上位協定の交渉があります。

ガバナンス型アプローチ – 同時に、両機関はガバナンスモデルに移行するための行動をとることも可能です。これには、両イニシアティブのためのそれぞれの概念的枠組みを緊密に連携して開発すること、共同の技術調整メカニズムを設けること、または異なる標準セット間の同等性を評価する独立したメカニズムを確立することが含まれます。これには、両者間の紛争を解決する能力も含まれるはずです。

収束推進型アプローチ – ISSBとEUは、収束への道筋を打ち出すこともでき、その方法は複数考えられます。まず、収束の方向性に対して双方が明確に合意することが必要です。他の選択肢として考えられるのは、相互運用性の概念に基づくもので、2つの基準が可能な限り互いに補完的であるように、共通標準を設定するよう努力することを意味します。そのためには、互いに尊重し、あらゆる段階において協調し、相互に支えあうという姿勢が欠かせません。

最後に、標準基準を設定することの利点は、それが活用されることによって生じることを決して忘れてはなりません。標準基準が成立するために必要なのは、その標準を受け入れることなのです。


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