炭素排出権取引における贈収賄・汚職リスクの高まりに伴い、企業は金融犯罪リスクスクリーニングにESG項目を追加 

 金融犯罪および賄賂・汚職防止に関する評価システム強化の一環として、ESG要素をリスク要素として調査する企業が増加しています。 

企業は、取引先の顧客、サプライヤー、団体を審査する金融犯罪および贈収賄防止・汚職(ABC)リスク評価システムに、環境、社会、ガバナンス(ESG)要因を追加しています。先進的にESG課題に取り組む企業は、カーボンオフセット制度などの持続可能性や気候変動緩和の取り組みが、贈収賄や汚職のリスクに対して脆弱であることを認識しています。 

「マネーロンダリングや贈収賄、汚職に関連するグリーン犯罪および人身売買にも ESGは関連しています。」と、ロンドンの金融犯罪専門機関ライシスグループの金融・フィンテック部門責任者であるガブリエル・コズマ氏は述べています。 

一部の銀行では、ABCやマネーロンダリングのリスクスクリーニングに加え、ESGの基準に従って顧客基盤や第三者との関係をリスク評価するようになっています。これらの基準を満たさない顧客や第三者との取引を行わない銀行もあると、ゴスマ氏は付け加えています。 

「サプライヤー、顧客、第三者の紹介者のリスク評価とは異なる次元で、この人物と取引したいのか?ESGを含むこの基準に基づいて、この事業者と取引したいのか?精査する必要があるでしょう。様々な国の間で行われる取引はESGの要素を含んでいますが、結局のところ、それは通常通りのビジネスと同様にお金に関することであり、また汚職やマネーロンダリング、その両方の要素があるのです。」と指摘します。 

ロンドンの法律事務所、ハーバート・スミス・フリーヒルズのパートナーであるアンドリュー・プロクター氏は、銀行のレピュテーションリスク委員会は、新規顧客や取引を審査する際にABCやグリーンウォッシュのリスクを考慮すべきであると述べています。「レピュテーションリスク委員会が対処しようとするのは、一線を越えてしまうリスクです」と、プロクター氏は説明します。 

「同委員会は、懸念事項を示す兆候を特定しようとします。汚職で評判の悪い国かどうか、取引している国の管轄区域はどこか、などです。取引の分野、取引の性質、不必要に複雑な取引になっていないか?また、グリーンウォッシュの観点があれば、それも懸念材料になるかもしれません」 

ABCとESGの関連付け 

一方で、多くの金融サービス企業、一般企業、法律事務所は、汚職とESGの関連性を十分に理解していないと、ロンドンの法律事務所、ホーガン・ロヴェルズの調査・不正・詐欺防止部門のパートナーであるリアム・ナイドゥ氏は指摘し、その理由を次のよう説明します。 

「汚職は、それ自体がESGの問題と言えるでしょう。なぜなら、倫理的に事業を行い、汚職を行わず、良い統治を行うことは、絶対に社会的な問題であるからです。そして、腐敗を防止するためには、その性質上、優れたガバナンスの方針と手順が必要だからです」 

クロール社の2022年贈収賄防止・汚職防止に関するベンチマークレポートでは、企業幹部700人を対象に調査を行い、企業がABCプログラムにESGを組み込むことの重要性を認識している一方で、北米と中東に拠点を置く企業はこうした取り組みに遅れをとっていることがわかりました。 

ESG指標を贈収賄防止・汚職防止のコンプライアンスに組み込んでいると回答したのは、北米で43%、中東で38%にとどまりました。一方、アジア太平洋地域では57%、ヨーロッパとラテンアメリカでは52%の企業がESG指標をABCのコンプライアンスに組み込んでいました。 

クロール社のレポートによると、企業はESGとABCを組み合わせたスクリーニングの一環として、大気汚染や水質汚染、労働者の権利、人身売買、人権、現代奴隷などのリスク要因に着目していました。 

カーボンオフセット制度がもたらすABCリスク 

カーボンオフセットプログラムや自然を利用した気候変動緩和策は、汚職の影響を受けやすいものです。バーゼル・インスティテュート・オン・ガバナンス(BIS)は、ガバナンスが脆弱で統制がとれていない地域に現金を流すことで、汚職を助長する可能性さえあると指摘しています。 

「持続可能なビジネス、つまり電力資源やインドネシアでの炭素クレジット農場の設立には、往々にして汚職的な行為が必要となります。健全な企業は、適切なABCの手続きに則って、そのために多くの資金を費やしています。しかし、そのような企業は、ESGの観点からリスクがどのように変化するかを理解する必要があります」と、ホーガン・ロヴェルズのナイドゥ氏は説明します。 

簡単に言えば、炭素回収貯留(CCS)プロジェクト を立ち上げるには、政府高官に賄賂を支払う必要が生じるかもしれないのです。政府間組織が支援するカーボンオフセット制度や、低炭素開発や再生可能エネルギーに充当される開発資金でさえ、汚職官僚に悪用される可能性があると、コンサルタントは警告しています。 

「腐敗したエリートは、海外からの援助を獲得することに長けています。」バーゼル・インスティテュート・オン・ガバナンスのコミュニケーション・プロジェクトオフィサーであるモニカ・ガイ氏は、「財務の不正管理疑惑がある場合はもちろんのこと、気候変動資金の配分と追跡において透明性と説明責任が欠如している場合、腐敗した役人はそのシステムを容易に利用できる」と述べています。 

持続可能な金融商品はリスクを伴う 

国際的な農業ビジネスに対する持続可能な融資は、ESGと汚職のリスクが指摘されています。これらの融資は森林伐採の資金源となり、人権侵害につながる可能性があります。また、農業関連企業が設立した現地法人が、土地や鉱物の権利と引き換えに政府関係者がその事業に関与できるような不透明な構造になっているケースもあります。 

「大量の民間投資がゴム、パーム油、畜産物、大豆、パルプ・紙、木材などの主要な農産物の生産を促進していますが、これらの産業が森林破壊や人権侵害に対して極めて脆弱であることがわかっていても、サプライチェーン、顧客、取引に関するデューディリジェンスはほとんど行われていません」と、ロンドンを拠点とする国際NGO団体、グローバル・ウィットネスの森林破壊・金融部門上級政策顧問のアレクサンドリア・リード氏は述べ、次のように警告しています。 

「このような業界のビジネスで得た不正な利益が複雑に絡み合い、資金洗浄へ流れていくのです」 


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