人権デューデリジェンス義務化の潮流、サプライチェーンにおける人権リスクとどう向き合うか?

近年、グローバル化の加速によって、企業のサプライチェーンは世界各地に広がりつつあります。また、欧米のみならず日本においても人権デューデリジェンスの義務化が避けられない流れとなってきました。

本記事においては、人権デューデリジェンス義務化の潮流、人権リスクとは何か、企業が向き合うべき人権リスクとその対策について解説します。

また「人権侵害等の特定・評価」に役立つ自動スクリーニングソフト「ONESOURCE Denied Party Screening」についてもご紹介いたします。人権への負のリスクを抑え、サプライチェーンリスク管理を効率よく実施したいとお考えのご担当者様はぜひご一読ください。

人権デューデリジェンス義務化の潮流

人権デューデリジェンスとは、企業がサプライチェーンにおいて人権への負の影響を特定し、どのように対処したかを説明・情報開示する行為のことです。企業活動における人権への負の影響を防止・軽減・救済することを目的とします。(参考1

国際社会では欧米主導で人権デューデリジェンスの義務化が進んでいます。2011年、国連人権理事会では「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致で支持されました。2022年2月には、欧州委員会において「企業持続可能性デューディリジェンス指令案」が公表されており、2027年以降より段階的に実施が義務づけられることとなります。さらに多くの日本企業が進出する東南アジアでも人権課題が注目されています。(参考2

日本においても「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定されましたが、このガイドラインに法的拘束力はありません。しかしながら、国際社会全体における人権への意識の高まりを踏まえると、日本国内においても人権デューデリジェンスの実施義務は避けられない動きと考えられます。(参考3

関連記事:人権デューデリジェンスとは?ガイドラインに沿った進め方・実務例を解説

人権リスクとは

人権リスクとは、人間が生まれながらに持つべき自由や権利を奪われるリスクのことです。たとえば、子どもたちが保護を受けて健康で安全な生活を享受する権利や、教育を受ける権利が、児童労働によって奪われる可能性があることが挙げられます。

また企業活動における人権リスクとは、企業に関わるライツホルダー(人権の主体となる人)が人権に関わる負の影響を受けるリスクのことを指します。ライツホルダーには、自社事業に関わる全ての従業員(正社員・契約社員・派遣社員・アルバイト・パート社員など)、取引先従業員、顧客、消費者、事業活動が行われる地域の住民が含まれます。

企業が人権リスクに対処しない場合はそれが問題となり、企業自体にも以下のような潜在的なリスクが生じる可能性があります。(参考4

・ストライキ・人材流出などのオペレーショナルリスク

・不買運動・SNS炎上などの評判リスク

・株価下落・投資引き揚げなどの財務リスク

・訴訟・行政罰などの法務リスク

企業が向き合うべき人権リスクの分野

サプライチェーンにおいてライツホルダーは広範囲に及び、人権リスクも非常に多岐にわたります。企業はリスクを確実に把握・特定し、適切に対処する必要があるでしょう。

以下にサプライチェーンで発生しうる人権リスクの分野を示します。(参考4

1. 賃金の不足・未払

使用者が労働契約・就業規則で定められた賃金を、所定の支払日に支払わないことです。たとえば、管理者が残業中の労働者のタイムカードを終業時刻に打たせ、残業代を支払わないといったケースが考えられます。

2. 過剰・不当な労働時間

週8時間×5日の労働時間に加え、時間外労働の上限(月45時間、年360時間)を超えて、臨時的な特別な事情がない状況で労働させることです。特別な理由があっても、月平均80時間、年720時間を超えることはできません。

3. 労働安全衛生上のリスク

労働に関係する負傷・疾病の発生、労働者の安全と健康の未確保によるリスクです。たとえば就業中の転倒・転落に対する対策が行われない、工場内の換気不足による衛生状況の悪化を放置するなどのケースがあります。

4. 社会保障を受ける権利の侵害

健康保険・年金・社会福祉制度などの仕組みによる現金・現物の給付に差別されることなくアクセスする権利が侵害されることです。労働者に業務災害手当が給付されないなどのケースがあります。

5. パワーハラスメント(パワハラ)

使用者が労働者に対して、身体的攻撃、精神的攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求などを行うことです。

6. セクシュアルハラスメント(セクハラ)

不必要に身体に接触する、執拗(しつよう)に食事やデートへ誘う、性的な事実関係を尋ねるなどのケースです。

7. マタニティハラスメント/パタニティハラスメント

労働者の妊娠・出産・育児のための育児休業等の申請・取得に対して、上司・同僚から不適切な言動などが行われることです。上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので辞めてくれ」と言われたなどのケースがこれに当たります。

8. 介護ハラスメント(ケアハラスメント)

働きながら介護を行う労働者に対して、介護休業・介護休暇・介護のための所定労働時間の短縮などの制度利用を妨害する行為です。介護休業を申請することで、同僚から批判され、休業を中止せざるをえなくなったケースなどがこれに該当します。

9. 強制的な労働

外国人労働者のパスポートを取り上げて移動の自由を奪い強制的に労働させる、暴力や脅しなどを用いて強制的な労働を強いるなどのケースです。

10. 居住移転の自由の制限

居住地や移動を強要することです。事業の関連で地域住民を無理に立ち退かせる、外国人労働者のパスポートを預かることで移動を制限するなどがあります。

11. 結社の自由の制限

労働組合加入の自由決定権を侵害したり、従業者による結社を妨げたりする行為です。たとえば労働組合に加入しないことを条件に採用する、団体交渉の申し入れに応じないなどのケースがみられます。

12. 外国人労働者の権利の侵害

外国人であることを理由に、労働条件において差別をすることです。たとえば日本国籍でないことのみを理由にして採用面接への応募を拒否する、外国人労働者の健康相談を行わないなどがこれに該当します。

13. 児童労働

法律で定められた就業最低年齢を下回る年齢の児童を労働させることです。就業最低年齢は原則15歳、健康・安全・道徳を損なう恐れのある労働では18歳とされます。

14. テクノロジー・AIに関する人権問題

インターネットやAIなどの利用を通じて名誉棄損・プライバシー侵害などが生じることです。GPSデータを利用して個人の位置や行動を追跡しプライバシーを侵害するケースがみられます。

15. プライバシーの侵害

私生活に不当に干渉したり、プライバシーに関する情報をみだりに公開したりすることです。採用に際して人種・病歴・犯罪歴等を本人の同意なしに取得するなどの行為が含まれます。

16. 消費者の安全と知る権利の侵害

消費者の心身の健康を害するような製品・サービスを提供すること、製品の不当な表示などを消費者が知る権利を侵害することです。製品の欠陥が発覚しているのに、リコールを行わないなどのケースが考えられます。

17. 差別

性別・障害・出自・国籍・宗教などを理由に差別を行うことです。国籍を理由に採用や賃金において不当な扱いをすること、特定の人種をステレオタイプ的にイメージさせる広告を表示するなどが含まれます。

18. ジェンダー(性的マイノリティを含む)に関する人権問題

性別や性的マイノリティを理由に差別、不当な扱いを受けることです。たとえば男性のみ募集する、男女間で賃金格差がみられる、女性や性別マイノリティ当事者の採用面接時に結婚の予定を尋ねるなどのケースです。

19. 表現の自由の妨害

サプライチェーンに含まれる人々、人権活動家等の自由に表現する権利を妨害することです。従業員の会社に対する意見表明を禁止するといった行為が含まれます。

20. 先住民族・地域住民の権利

土地・資源収奪・環境汚染などにより先住民・地域住民へ負の影響を与えることです。地域住民にとって伝統的な意味を持つ土地を不当に取得するなどのケースがこれに当たります。

21. 環境・気候変動に関する人権問題

事業活動により、大気・土壌・水質の汚染を引き起こし、地域住民の生活・安全を脅かすことです。たとえば自然分解されない資源を海洋に放出して、環境汚染を引き起こす行為が含まれます。

22. 知的財産権の侵害

個人がインターネット上に公開しているデザインを企業が勝手に使用する、従業員の業務上での発明に対し合理的な対価が支払われないなどのケースが考えられます。

23. 賄賂・腐敗

企業が自社の利益を得るために、贈与・謝礼・報酬などを供与または受領することです。とりわけ公務員に対する贈収賄は、人権保護のための行政サービスを妨げるものとして問題視されます。

24. サプライチェーン上の人権問題

企業は自社内部で発生する人権リスクのみならず、サプライチェーン全体で発生する人権リスクに対応することが求められます。事例として、医療機器メーカーが販売した超音波技術が、途上国において女児と判定された胎児の中絶に使用されたケースなどがあります。

25. 紛争等の影響を受ける地域における人権問題

国家間戦争や内戦、組織暴力等の武力紛争や暴力の蔓延している地域において、人権リスクだけでなく、紛争に対する潜在的・実際的影響を特定することも求められています。本問題には、一般的な人権デューデリジェンスのプロセスをさらに強化して対応することが必要です。

26. 救済へアクセスする権利の侵害

従業員がハラスメントを受けた際に利用できる相談窓口が設けられていないケースが挙げられます。企業による負の影響を受けた際に、被害者が救済へアクセスする権利は常に確保されなければなりません。

人権デューデリジェンスの実行に際し、企業は人権リスクとどう向き合うべきか?

人権デューデリジェンスは、ステークホルダーとの対話を通じて企業の事業活動における人権リスクを防止・軽減することを目的としています。人権デューデリジェンスを実行する意義は、持続可能な経済・社会の実現に向けて寄与できるほか、社会からの信用を得て企業価値の向上にも寄与できる重要なものです。

しかし、「人権侵害等の特定・評価」を行う際に取引禁止対象や制裁対象の特定を手作業で実行すると、非常に煩雑な作業となってしまい、その過程には高いリスクが伴います。

経済制裁やその他貿易制裁に抵触するリスクを回避するためにも、スクリーニングを効率よく実施できる国際貿易管理テクノロジーの活用がおすすめです。


取引禁止対象スクリーニングソフトONESOURSE Denied Party Screeningを活用すれば、リスクとペナルティを軽減可能です。コンプライアンスプログラムがさらに拡大した場合の対応や、新しい取引先との関係構築を始める際の意思決定をスムーズに行うことができます。サプライチェーンリスク管理に役立つONESOURSE Denied Party Screeningについては、以下リンクからお問い合わせください。


参考1:責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン |経済産業省

参考2:海外における人権デューデリジェンス義務化の流れ|三菱綜合研究所

参考3:欧州の人権・環境デュー・ディリジェンス義務化と日本への示唆|日本総研

参考4:今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応|法務省人権擁護局

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