執筆者:トムソン・ロイター Regulatory Affairs Senior Manager Abby Lee
Peppolは、民間企業と公的機関が、インボイスをはじめとする電子商取引文書を効率的かつ安全に交換できるグローバルネットワークです。近年、国境を越えた取引やデジタルインボイスに対応する有力な仕組みとして急速に普及し、世界中の数百万社が利用しています。一方、中小企業の多くはPeppolへの接続方法、Peppolによる規制要件への対応、自社固有の業務における具体的な活用方法を十分に把握していません。
本記事では、トムソン・ロイターの規制対応シニアマネージャーであるAbby Leeが、Peppolネットワークの仕組み、関連用語、接続方法を詳しく解説します。
Peppolとは
「Peppol(ペポル)」は当初、PEPPOL(Pan-European Public Procurement On-Line:汎欧州オンライン公共調達)として始まりました。その後ネットワークが世界各地へ拡大し、本来の対象である公共調達以外にも利用されるようになったため、名称が「Peppol」に変更されました。Peppolは、電子商取引文書を国境を越えて安全に交換するためのフレームワークで、企業や公的機関が既に利用している多数のプラットフォームを接続するためのネットワークでもあります。さらに、ネットワークに接続された他のシステムとの通信や、メッセージ送信を可能にするITインフラともいえます。なお、Peppolはデジタルインボイスに特化したものと思われがちですが、上述の通り、電子文書を交換するためのフレームワークで、デジタルインボイス以外の交換も可能なものとして設計されています。
Peppolの利用は、欧州各国政府間の取引を効率化することを目的として2008年に始まりました。現在は世界中の組織が電子文書を交換するための共通フレームワークとして、グローバルな役割を担っています。
Peppolの仕組みは、クレジットカードに例えることができます。VisaやMastercardが、地域のコーヒーショップにおける個々の取引を直接処理しているわけではありません。両社は、世界各地でカードを利用できるようにするためのルール、標準、インフラといった管理の枠組みを提供しています。同様に、Peppolもインボイスなどの文書を直接交換するものではありません。異なるプラットフォーム間で、文書を安全かつ円滑に交換するための枠組みを提供します。
Peppolの管理モデルにより、デジタルインボイスに関する国ごとの標準や形式の違いに個別に対応する煩雑さが解消されます。送信者と受信者の双方がPeppolに準拠したソフトウェアとサービスプロバイダーを利用していれば、自社の文書と受信者側のシステムとの互換性を気にする必要はありません。この統一された仕組みにより、各国のデジタルインボイスの規制にも対応しやすくなります。
Peppolの世界的な普及
Peppolが世界各地へ拡大している背景には、調達プロセスを効率化し、国境を越えた取引の効率を高める仕組みとして、その将来性が広く認識されるようになったことがあります。
シンガポールは、欧州以外でPeppolの利点を早期に認識した国の一つであり、国内のデジタルインボイスネットワークにPeppolを導入しました。その後、オーストラリアとニュージーランドも、デジタル経済の効率性と相互運用性を高めるためにPeppolを採用しました。Peppolで送受信する文書は通常Peppol BISの仕様に準拠しており、PINT (Peppol International)の導入により、相互運用は日本、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドなどの国々に拡大しました。さらに近年では、UAEとオマーンでもデジタルインボイス制度にPeppolを採用しています。
Peppolを支える主な関係者
Peppolを円滑に導入・利用するには、主要な関係者の役割と相互関係を理解することが重要です。ここでは、Peppolの構造と管理体制、およびネットワークの安定した運営を支える主な関係者を説明します。
OpenPeppol
OpenPeppolは、Peppolネットワークの管理と戦略的な発展を担う非営利組織です。会員の共通目的に基づき、ネットワークの標準と枠組みを調整し、相互運用を「例外ではなく原則とする」環境を整備しています。Peppol仕様の管理主体として、ネットワーク上のすべてのやり取りについて一貫性、安全性、規則への準拠を実現できるよう、ネットワーク全体を統括しています。
Peppol Authorities
Peppol Authoritiesは、Peppolの枠組みを特定の国・地域、またはマーケットで監督する指定機関です。政府機関や特定の業界と関係のある組織がこの役割を担うことが一般的です。主な責務には、サービスプロバイダーの認定、Peppol標準への準拠状況の監視、地域内での普及促進などがあります。Peppolの共通原則を、各地域の要件や法的枠組みに合わせて適用する役割も担っています。日本では、デジタル庁(JDA)がPeppolの管理機関(Peppol Authority)として国内の運用体制を統括し、国全体のデジタル化推進の一環としてPeppolの導入・普及を支援しています。
サービスプロバイダー(SP)
サービスプロバイダー(アクセスポイントと呼ばれることもあります)は、OpenPeppolのメンバーのうちサービスを提供する事業者で、Peppolネットワークを支える重要な役割を担っています。サービスプロバイダーは、利用者がPeppolを通じて電子文書を送受信するための技術インフラを提供します。ゲートウェイとして取引文書をPeppolの共通形式に変換し、異なるシステム間で情報を円滑に交換できるようにします。企業がサービスプロバイダーに接続すると、サービスプロバイダーはPeppolネットワーク内であれば所在地や業種を問わず、どの組織へも文書を安全に転送します。
Peppolコミュニティ
Peppolコミュニティは、企業、政府機関、サービスプロバイダーなどの利用者と関係者で構成されます。各コミュニティは、ベストプラクティスや知識を共有するための協働の場です。参加者は、Peppolの導入、技術革新、変化する業務要件や規制環境への対応について意見を交換できます。こうしたコミュニティは関係者間の協力を支えるだけでなく、Peppol標準を共同で発展・改善する役割も果たします。
OpenPeppol、Peppol Authorities、サービスプロバイダー、Peppolコミュニティが一体となって、Peppolの全体構造を形成しています。それぞれがネットワークの堅牢性と持続性に貢献し、世界各地の企業が共通の仕組みで確実に接続できる環境を支えています。
Peppolの重要用語
Peppol BISとPINT
Peppol BIS(Business Interoperability Specifications:ビジネス相互運用仕様)は、Peppolネットワークを通じてサービスプロバイダー間で検証し、安全に交換できるよう電子文書を標準化したものです。Peppolにおける共通言語の文法に相当し、ある企業から別の企業へ送られた文書が正しく理解・処理されるようにします。
PINTはPeppol BISの一部であり、デジタルインボイスに関する相互運用性を実現するとともに、各地域固有の要件にも柔軟に対応できるよう設計されています。
Peppol AS4
Peppol AS4は、Peppolで文書を安全に転送するための通信方式です。ネットワークを通じて送信されるデータを保護し、改ざんされることなく送信先へ届けるためのルールを定めています。
SMP、SML、Peppol Directory
SMP(Service Metadata Publisher)は、Peppolネットワークにおける各企業の送信先アドレスを登録したディレクトリです。SML(Service Metadata Locator)は中央のアドレス帳として機能し、ネットワーク上の特定企業に対応するSMPを検索できるようにします。両者は郵便システムのように連携し、文書を正しい宛先へ届けます。Peppol Directoryは、Peppolネットワークに参加している組織を検索できる公開アドレス帳です。
PASR(Peppol Authority Specific Requirement)
PASRは、Peppol共通ルールに加え、各地域のPeppol Authorityが独自で求める要件がある場合に定められる追加のルールまたは標準です。
PeppolにおけるKYC
KYC(Know Your Customer:顧客確認)は、金融業界で用いられてきた手続きです。Peppolでは、ネットワークに参加する企業の特定と本人確認を意味します。取引の各当事者について、その当事者が申告通りの組織であることを特定・確認することで、Peppolを通じた取引の信頼性を高めます。
Peppolの仕組み
Peppolは、原則として次の4者から成る4コーナーモデルを採用しています。
• 送信者
• 送信者側のサービスプロバイダー(SP)
• 受信者側のサービスプロバイダー
• 受信者
サービスプロバイダーは、既存の会計ソフトウェアをPeppol BIS仕様に対応させるためのサポートを行います。これにより、日常業務を大幅に変更することなくPeppolに準拠した形でインボイスの作成、送信、処理、受信を継続できます。4コーナーモデルでは、次の手順で文書を交換します。
- 送信者がインボイスを作成し、受信者へ直接送るのではなく、送信者側のサービスプロバイダーへ送信します。
- 送信者側のサービスプロバイダーがインボイスをPeppol標準形式へ変換・検証し、安全なAS4通信を通じて受信者側のサービスプロバイダーへ送信します。
- 受信者側のサービスプロバイダーが、文書の受領と検証結果を確認します。
- 受信者側のサービスプロバイダーがインボイスを受信者のシステムで使用する形式に変換し、会計ソフトウェアへ送信します

Peppolの管理モデルにより、デジタルインボイスに関する国ごとの標準や形式の違いに個別に対応する煩雑さが解消されます。送信者と受信者の双方がPeppolに準拠したソフトウェアとサービスプロバイダーを利用していれば、受信者側のシステムとの互換性を気にする必要はありません。
集中型、5コーナーモデルの比較
Peppolは、電子文書交換に独自のアプローチを採用しています。この点で、集中型モデルに分類できるポーランドのKSeFやイタリアのSDIなど、国ごとに構築されたシステムとは異なります。
集中型/クリアランスモデル
KSeFやSDIなどの各国制度は、単一プラットフォームを中心に運用されます。
• コーナー1:送信者 インボイスを作成する企業です。
• コーナー2:国の集中型プラットフォーム インボイスは、政府が管理する集中型プラットフォームへ送信されます。
• コーナー3:受信者 集中型プラットフォームが受信者へ文書を送信します。

Peppol 5コーナーモデル(Peppol CTC)
Peppol 5コーナーモデルは、4コーナーモデルと集中型モデルを基礎として、政府が管理する各地域のプラットフォームを第5のコーナーとして追加したものです。このモデルでは電子文書を即時に交換できるため、CTC(継続的取引管理)の目的に沿った堅牢なインフラを構築できます。取引時またはその直後に税務当局へインボイスデータを送信するよう求める政府が増える中、この機能の重要性は高まっています。

Peppol CTCは、DCTCE(分散型CTC・文書交換モデル)の考え方に沿い、業務上および法的な要件を満たすよう設計・構築されています。このモデルでは、企業は認定サービスプロバイダー(C2とC3)を選択し、標準形式で文書を交換できます。政府も、サービスプロバイダーから地域の税務当局プラットフォーム(C5)に送信される取引データを、リアルタイムで取得できます。
モデル比較と関連事項
• 柔軟性と統制 Peppolでは企業がサービスプロバイダーを選択できるため、柔軟性が高く、ネットワーク内の競争と技術革新も促進されます。集中型モデルでは、政府が規制の遵守を徹底させ、取引を監視しやすくなるという特徴があります。Peppol CTCは、企業側の柔軟性と政府によるリアルタイムのデータ管理を兼ね備えています。
• 相互運用性と国内標準 Peppolでは、同ネットワークを利用して国内外の取引を行うことができます。一方、集中型プラットフォームは各地域の標準と要件に合わせて構築されているため、国際取引をPeppolほど円滑に処理できない場合があります。
• 分散型と集中型 Peppolには、すべての取引が必ず通過しなければならない単一の中央管理点がありません。これに対し、集中型モデルでは政府が直接監督しますが、中央ハブが停止すると事業継続に影響する可能性があります。
国際取引でPeppolを利用する利点
Peppolの用途は、デジタルインボイスにとどまりません。現代の国際取引を効率的かつ安全に運営するための幅広い利点があります。Peppolを導入することで、企業は業務を大きく改善できるさまざまな効果を得られます。
• 相互運用性と標準化 Peppolにより、異なるシステム同士が円滑に通信でき、取引文書も標準化できます。海外の取引先との取引に伴う煩雑さが軽減され、新規国への進出が容易になり、業務も効率化されます。
• 効率向上とコスト削減 さまざまな取引文書をネットワーク経由で交換できるため、手作業に要する時間と費用を削減できます。自動化によって誤りが減少し、データ品質が向上するとともに、取引先との行き違いの解消に費やす時間も短縮されます。
• セキュリティと標準準拠の強化 Peppolは厳格なセキュリティプロトコルに従い、交換する文書を保護するとともに、国際標準にも準拠しています。これはデータを保護し、デジタル環境に対する信頼を維持するうえで重要です。
• リアルタイムのデータ利用 取引データを即時に利用できるため、意思決定の迅速化と、サプライチェーンおよびキャッシュフロー管理の効率化が可能になります。リアルタイムの情報を活用することで、事業の機動性と環境変化への対応力も高まります。
• 持続可能性 紙への依存を減らすことで、消費者や規制当局が重視する持続可能性への取り組みを支援します。
• 拡張性 Peppolは、企業の成長に合わせて拡張できるよう設計されています。既存の取引プロセスを全面的に変更することなく、新しい取引先の追加や事業拡大に対応できます。
• 経営分析の高度化 Peppolを通じて得られるデータを分析に活用し、戦略的な経営判断に役立つ情報を得られます。購買動向の把握や、サプライチェーンの有効性の評価にも活用できます。
• 顧客・サプライヤーとの取引開始手続きの簡素化 電子接続を確立する際の技術的な障壁が軽減されるため、新しい顧客やサプライヤーを容易に追加できます。
Peppolとデジタルインボイス義務化
世界各国の政府がデジタルインボイスを義務化する中、国境を越えて事業を展開する企業は、国ごとに異なる複雑な要件への対応を迫られます。Peppolの標準化された枠組みを利用すれば、企業は国・地域ごとに個別のインフラを構築することなく、複数の義務化制度に対応できます。
Peppolは、EUのVAT in the Digital Age(ViDA)から、シンガポール、マレーシア、UAE、オーストラリア、ニュージーランドの制度まで、多様なマーケットでの規制対応の裏方として機能しています。事業者は、Peppol認定サービスプロバイダーに接続すれば、電子文書を安全に交換し、変化する規制要件にも継続して対応できます。
EUのViDA実証事業は、新しい規制へのPeppolの適応を示す一例としても捉えられます。税務当局、企業、Peppolサービスプロバイダーは、付加価値税(VAT)の登録事業者間のEU域内B2B取引について、PeppolネットワークをViDAの要件に適合させるために協力しています。対象には、EU域外の企業であっても、EU域内でVAT登録を行っている事業者が含まれます。
国境を越えた取引を管理する場合でも、新たな義務化に備える場合でも、Peppolは規制への対応を継続し、複数の国・地域にまたがるデジタルインボイス対応の複雑さを軽減するためのインフラを提供します。
デジタルインボイスの導入方法
デジタルインボイスは各国で義務化が進んでいますが、これを利用すると請求・支払業務を簡素化し、国境を越えた取引の機会を広げることができます。また、導入の手順も明確です。
- 部門横断チームの編成 経理、IT、財務、法務の担当者でチームを編成し、責任の所在を明確化するとともに、デジタルインボイスに関する自社の要件を確認します。
- Peppol認定サービスプロバイダーの選定 自社の事業地域に対応するサービスプロバイダーを確認します。交換する必要がある文書や、対応すべき規制など、自社の業務要件をサービスプロバイダーと共に評価します。その際、サービスプロバイダーが当該国のみをカバーするのか、あるいは複数国をカバーするのか確認することが重要です。
- Peppol IDの取得 Peppol IDは、Peppol Directoryに登録される自社の連絡先情報として機能します。
- 自社の本人確認手続 サービスプロバイダーの案内に従って、正式な本人確認手続きを行います。
- 自社ソフトウェアの接続 サービスプロバイダーのサポートを受け、会計ソフトやERPをPeppolフレームワークに接続します。
新たなマーケットに進出する場合でも、デジタルインボイス規制に対応する場合でも、Peppolは企業の成長に合わせて拡張できる仕組みです。適切なサービスプロバイダーの支援を受けて必要なシステムを整備すれば、各部門は日常業務に注力しながら、Peppolを通じて業務の規制対応を維持できます。
ONESOURCE Pageroは、世界各国・地域でサービスを提供するPeppol認定サービスプロバイダーです。各マーケット固有の規制要件に対応しながら、企業や組織のPeppolネットワーク接続をサポートします。
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