みなし輸出規制とは?規制該当者の判断方法、注意点について解説

外為法では、軍事転用が可能な機微技術について国境を越えて提供する場合、経済産業大臣の許可を必要とします。また、現時点で国境を越えていなくても居住者から非居住者への規制技術の提供は、みなし輸出規制として管理されます。

従来のみなし輸出規制では、居住者から居住者への規制技術の提供は適用外でした。しかし、2021年のみなし輸出規制改正では、居住者から居住者への技術提供であっても特定類型に該当する場合は規制されることになりました。企業内における従業員への技術開示も、国籍にかかわらず、当該従業員が特定類型に該当する場合は、みなし輸出規制の対象となる可能性があります。したがって企業は、みなし輸出規制に対するコンプライアンス管理の整備が必要です。

本記事では、みなし輸出規制とは何か、2021年に公布・2022年に施行されたみなし輸出規制改正の背景、対象となる居住者の類型、特定類型該当性の判断方法について解説します。また、みなし輸出規制に関連して企業が注意すべき点も解説します。

さらに、コンプライアンスを遵守しながら輸出手続きをスムーズに行うための輸出管理ソフトウェアや、厳格化する輸出規制リスクに対処するためのオンデマンドウェビナー配信についても紹介するので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。

みなし輸出規制とは?

外為法では、以下の行為を軍事転用が可能な機微技術(規制技術)の提供として管理し、経済産業大臣への許可申請を必要としています。

  • 国境を越える規制技術の提供(地理的視点)
  • 居住者から非居住者への規制技術の提供(人的視点)

実際に国境を越えていなくても、居住者から非居住者への規制技術の提供は、当該非居住者が最終的に出国する蓋然性が高いことから、輸出とみなして規制されます。これが「みなし輸出規制」です。(注1

居住者・非居住者とは

居住者とは、日本国内に住所・居所を有する個人、または日本国内に事務所を有する法人等のことです。また、非居住者とは居住者以外の個人・法人をいいます。この際、非居住者の日本支店などは居住者とみなされます。また、入国後6か月が経過した外国人や、日本国内の事務所に勤務する外国人は居住者として扱われます。ただし、2022年5月以降は、居住者であっても特定類型に該当する場合、みなし輸出規制の対象となる可能性があります 。(注2

2021年みなし輸出規制改正の背景

2021年6月18日に閣議決定された「統合イノベーション戦略2021」では、大学などの国際化により国際頭脳循環を促進していくことが重要とされています。日本の学生・若手研究者の海外研鑽、諸外国からの優秀な研究者の招聘、外国人研究者の雇用を推進していくという内容です。

また、同日に閣議決定された「成長戦略実行計画」では女性・外国人・中途採用者などが活躍できるように組織の変革を促すとされています。

一方で、技術窃盗や利益相反管理の必要性は無視できない重要な課題です。たとえば、中国政府は「軍民融合」によって民間の最先端技術を軍事力強化に利用しています。2020年度の「大学における教育内容等の改革状況調査」によると、中国の大学である「国防7校」から39人の学生が日本に留学していることが分かりました。当時、7校のうち、北京航空航天大学や北京理工大学など5校は、経済産業省が大量破壊兵器の開発が懸念される団体として列挙した「外国ユーザーリスト」に掲載されていました。(注3、4

海外企業・大学の研究者、技術者などを中国へリクルートする「千人計画」への対策として、米国の司法省は産業スパイを取り締まっています。また、欧州においては、2020年2月に欧州委員会が中国との研究開発協力のあり方に関するコンセプトペーパーを公表しました。

米国の輸出管理規則(EAR)では、EARの対象となる貨物・技術等について、品目や仕向地などに応じて輸出許可が必要となる場合があります。また、米国外である日本からの輸出であっても、EARの対象品目には 「再輸出規制」が適用される場合があります。そのため、海外貿易を行う日本企業はコンプライアンス対策が必要です。(注5

こういった状況下で、日本においても技術を持ち去られるリスクを防止するため、2022年5月1日、みなし輸出規制の改正が施行されました。従来は居住者とみなされ、みなし輸出規制の対象外であったものの扱いを一部改正したのです。

みなし輸出規制の対象となる居住者の類型

2022年5月に施行されたみなし輸出規制の改正では、以下の3類型の場合は、居住者から居住者への技術提供であってもみなし輸出として規制されることになりました。

特定類型1:雇用契約に基づき、外国政府・外国法人の強い影響を受けているもの

以下に例を示します。

  • 日本の大学の教授であり、外国大学と雇用契約を結び教授職を兼職しているもの
  • 外国大学からサバティカル制度で日本の大学に研究などに来ている大学教授
  • 外国企業の従業員・取締役を兼ねている日本企業の従業員・取締役(注2

特定類型2:経済的利益に基づき、外国政府などの実質的支配下にあるもの

以下に例を示します。

  • 外国政府から留学資金の提供を受けている留学生
  • 外国政府の理工系人材獲得プログラムに参加し、多額の研究資金や生活費の提供を受けている研究者

特定類型3:国内において外国政府の指示のもとに行動するもの

たとえば、日本における行動に関して外国政府などの指示や依頼を受けている者が該当します。

みなし輸出規制における特定類型該当性の判断方法

以下の方法で特定類型に該当するかどうかを確認します。

技術の受領者が特定類型1または2で提供者の指揮命令下にない場合

学生・特別研究員・招聘教員・名誉教授などが該当します。この際は学生などを受け入れるために使用される書類(出願書類・履歴書など)において記載された内容を確認します。特別な書類は必要ありません。

技術の受領者が特定類型1または2で提供者の指揮命令下にある場合

教職員(常勤・非常勤職員)、従業員、パート、アルバイトなどが該当します。この際は以下のように対応します。

  • 採用時に、誓約書等を用いた自己申告により、特定類型1または2への該当・非該当を確認する
  • 勤務中に新たに特定類型に該当することになった場合、報告する義務を課す

なお、2022年5月1日時点ですでに勤務している従業員については、就業規則等により副業や利益相反行為の報告義務が課されている場合、追加で誓約書を取得する必要はありません。

これらの対応がされていれば、特定類型該当性の判断において注意義務を果たしていると解釈されます。

技術の受領者が特定類型3の場合

技術提供を行う上で利用する契約書などの書面に記載された内容から、受領者が特定類型3に該当するかどうかを確認します。

受領者が特定類型に該当すると分かった場合

経済産業省から特定類型に該当する可能性がある旨の連絡を受けた場合、当該対象者を特定類型に該当するものとして扱い、必要な許可申請等の対応を行います。(注6

みなし輸出規制に関して企業が注意すべき点

外国政府や外国法人と兼業契約を結んでいる、あるいはその取締役・監査役に就任している従業員への技術開示は、特定類型1に該当する場合があり、みなし輸出の対象となる可能性があります。ただし、特定類型に該当することのみをもって、安全保障上の懸念がある者とみなされるわけではありません。

しかし、実際に機微技術が流出した場合、社会的な批判を避けることは困難です。したがって、企業においてもみなし輸出規制に対するコンプライアンス管理を適切に整備する必要があります。

さらに、一般的に輸出管理の実務においては、輸出規制の手続きは煩雑であることから、ミスが発生しやすい状況にあります。加えて輸出規制の内容は頻繁に変更されるため、自覚のないまま違反してしまうケースもあります。輸出品が多い場合は各品目の判定に相当な手間がかかり、全てを手作業で行うのには非常に高いリスクを伴います。

外為法やその違反事例についての解説は「外為法違反はなぜ起きるか?違反事例から学ぶ原因と適切な輸出管理体制とは」からご覧ください。


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参考情報

注1:みなし輸出管理|経済産業省

注2:安全保障貿易管理 ガイダンス[入門編]

注3:答弁書|参議院

注4:質問主意書 | 参議院

注5:経済安全保障、8割の日本企業が経営課題と認識|日本貿易振興機構

注6:「みなし輸出」管理の明確化に関するQ&A|経済産業省