強制労働や児童労働などの人権リスクとどう向き合うか?人権デューデリジェンスの進め方 

欧州を中心に、人権デューデリジェンスの実施を企業に求める法制化が進んでいることをご存じでしょうか?海外サプライヤーと取引を行う日本企業は、強制労働や児童労働などの人権リスクが依然として存在している可能性を認識し、対応する必要があります。

サプライチェーンの人権リスクを管理する必要性を感じていても、対応すべき範囲が広いために人権デューデリジェンスへの対応をためらう企業も少なくありません。そこで本記事では、強制労働などの人権リスクとは何か、サプライチェーンに潜む強制労働の実態や人権デューデリジェンスの進め方について解説します。

また、国際取引における制裁対象者や取引禁止対象者の確認を効率化する自動スクリーニングソフト「ONESOURCE Denied Party Screening」についてもご紹介しますので、国際取引における制裁・取引禁止リスクを効率的に管理したいとお考えのご担当者様は、ぜひご一読ください。 

人権デューデリジェンスをめぐる法制化の進展 

人権デューデリジェンスとは、企業が自社の事業活動や取引関係などを通じて生じる実際または潜在的な人権への負の影響を特定・評価し、防止・軽減するとともに、取り組みの実効性を評価し、その対応について説明・情報開示する継続的なプロセスです。英語では

「Human Rights Due Diligence」になるため、人権DDと略されることもあります。

人権デューデリジェンスの考え方は、国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、救済へのアクセスという3つの柱を示し、国連人権理事会が2011年に支持した「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、国連指導原則)」を基礎としています。(注1

近年では欧州を中心に、人権デューデリジェンスの実施を企業に求める法制化が進んでいます。EUでは、企業に人権および環境に関するデューデリジェンスを義務付ける「コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)」が2024年7月に発効しました。

CSDDDはその後、企業の負担軽減などを目的とした見直しが行われ、2025年および2026年の改正により、適用時期や対象範囲などが変更されました。EU加盟国は2028年7月26日までに国内法化を行い、原則として2029年7月26日から対象企業への適用を開始する予定です。

同指令は、一定の条件を満たすEU域外の企業も適用対象としています。また、直接の適用対象ではない日本企業であっても、対象企業のサプライチェーンや取引関係に含まれる場合、人権・環境リスクに関する情報提供や対応を求められる可能性があります。

日本政府も人権尊重にまつわる主要な国際規範を踏まえ、企業の人権DDへの理解促進を目的とした「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(以下、ガイドライン)」を策定し、2022年9月に公表しました。(注2

なお人権侵害の把握は、実際に発生しているものだけでなく、これから発生する可能性のあるものも対象です。ガイドラインでは、人権への負の影響の深刻度が高く特に留意が必要なものとして強制労働や児童労働が挙げられています。

強制労働と人権リスクについて

国連指導原則によると、人権リスクとはサプライチェーンにおける取引やその他の事業活動を通じて、人権の主体である「ライツホルダー」に対して引き起こす可能性のある負の影響を意味します。たとえば、強制労働や児童労働が挙げられます。

保障されるべきライツホルダーの権利を侵すことのないように、企業は人権リスクとは何かについて正しく認識するようにしましょう。

人権リスクが企業経営に与える影響

人権リスクを放置すれば、企業経営に負の影響を及ぼす可能性があります。サプライチェーンにおいて人権侵害が認められた場合に、たとえ直接の取引先でなくても企業の責任が問われることがあります。

国連指導原則では、企業は自らが人権への負の影響を引き起こす、または助長する場合だけでなく、取引関係を通じて自社の事業・製品・サービスと負の影響が直接関連する場合にも、その防止・軽減に取り組むことが求められています。

そのため、人権侵害を行った主体が直接の取引先ではない場合でも、サプライチェーン上の人権問題が自社の事業や製品と関係していれば、企業としての対応を求められる可能性があります。

企業が配慮すべき人権や人権リスクの例

人権リスクはライツホルダー目線の考え方であることに加え、その領域が多岐にわたるため企業にとって認識しづらいという難点があります。そこで法務省は、公表した報告書の中で「企業が尊重すべき人権の範囲と取組に関する考え方」をまとめました。(注3

ここでは、その中から人権に関する主要な国際規範やフレームワークなどを参照して導き出された「企業が配慮すべき主要な人権リスク類型とその内容・近年の動向」の具体例を下記のとおり示します。

  1. 賃金の不足・未払、生活賃金
  2. 過剰・不当な労働時間
  3. 安全で健康的な作業環境(労働安全衛生)
  4. 社会保障を受ける権利
  5. パワーハラスメント(パワハラ)
  6. セクシュアルハラスメント(セクハラ)
  7. マタニティハラスメント/パタニティハラスメント(マタハラ/パタハラ)
  8. 介護休業等ハラスメント(ケアハラ)
  9. 強制労働
  10. 居住移転の自由
  11. 結社の自由・団体交渉権
  12. 外国人労働者の権利
  13. 児童労働・こどもの権利
  14. テクノロジー・AIに関する人権問題
  15. プライバシーの権利
  16. 消費者の安全と知る権利
  17. 差別
  18. ジェンダー(性的マイノリティを含む)に関する人権問題
  19. 表現の自由
  20. 先住民・地域住民の権利
  21. 環境・気候変動に関する人権問題
  22. 知的財産権
  23. 賄賂・腐敗
  24. サプライチェーン上の人権問題
  25. 紛争等の影響を受ける地域における人権問題
  26. 救済へアクセスする権利

人権デューデリジェンスの義務化や人権リスク対策を解説した記事については「人権デューデリジェンス義務化の潮流、サプライチェーンにおける人権リスクとどう向き合うか? 」をご覧ください。

人権デューデリジェンスにおける強制労働の定義

強制労働は、ILO第29号条約において、処罰の脅威の下で強要され、本人が自発的に申し出たものではない、あらゆる労働またはサービスと定義されています。強制労働は、職業選択や移動の自由などを侵害し、個人の自由を奪う重大な人権侵害です。

日本における強制労働の考え方は、「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」を使って、本人の意思に反して働かせることです。憲法18条の「奴隷的拘束及び苦役の禁止」が、使用者と労働者の関係性の中で「強制労働の禁止」として労働基準法5条に規定されています。(注4、(注5

強制的に労働をさせる手段として行使される「経済的足止め策」は、次のとおり労働基準法違反です。

  • 賠償予定の禁止(16条)
  • 前借金相殺の禁止(17条)
  • 強制貯金の禁止(18条)

また、国際労働機関(以下、ILO)においても「強制労働条約(1930年、第29号)」「強制労働廃止条約(1957年、第105号)」が採択されており、日本は両方とも批准しています。

サプライチェーンに潜む強制労働の実態とリスク

ILOなどが2022年に公表した2021年の世界推計によると、世界では2,760万人が強制労働の状態にあります。そのうち86%は、企業や個人などの民間主体による強制労働とされています。また、ILOが2024年に公表した報告書では、民間経済における強制労働が生み出す違法利益は、年間2,360億米ドルに上ると推計されています。

近年では、新疆ウイグル自治区の強制労働疑惑が日系衣料大手のビジネスに影響した事例がありました。米国では人権関連規制が活発化しており、強制労働に依拠した製品の輸入差し止め(違反商品保留命令:WRO)の発出件数が伸びています。

中国政府が少数民族の人権を抑圧しているとして、2020年7月より米国が行っていた精査を受け、ロサンゼルス・ロングビーチ港では2021年1月5日、日系衣料大手の綿製の衣料品を積載した貨物輸入が保留されました。(注6

当該企業は綿の加工に携わった現地取引先は強制労働に関与していないとして再申請しましたが、米税関はその証明が不十分として申請を棄却したのです。その後、2021年1月13日に新疆ウイグル自治区からの綿など特定製品へ、初となる包括的なWROが発表されました。

なお、サプライチェーンに潜む人権リスクの把握が困難な理由は、そもそも現地の視察や当事者からの回答の入手自体が難しい場合があるためです。

強制労働を防止するために企業ができること

人権デューデリジェンスは、ステークホルダーとの対話を通じて企業の事業活動における強制労働などの人権リスクを防止・軽減することを目的としています。人権デューデリジェンスを実行する意義は、持続可能な経済・社会の実現に向けて寄与できるほか、社会からの信用を獲得し、企業価値の向上につなげられる点だと言えるでしょう。

ガイドラインによると、人権デューデリジェンスの進め方は次のとおりです。

  1. 人権侵害等の特定・評価
  2. 人権侵害等の防止・軽減
  3. 取組の実効性の評価
  4. 説明・情報開示

ガイドラインに関する詳細を知りたい方は、「人権デューデリジェンスとは?ガイドラインに沿って進め方・実務例を解説 」をご覧ください

国際貿易においては、人権デューデリジェンスに加えて、取引先が制裁対象者や取引禁止対象者に該当しないかを確認する貿易コンプライアンスへの対応も重要です。

世界各国の制裁・取引禁止対象を担当者が手作業で確認するプロセスは非常に煩雑であり、対象者の見落としや確認漏れなどのリスクを伴います。経済制裁やその他の貿易規制に抵触するリスクを低減するためには、スクリーニングを効率化・自動化できる国際貿易管理テクノロジーの活用が有効です。


取引禁止対象スクリーニングソフト「ONESOURCE Denied Party Screening」を活用すれば、カスタマーおよびサプライヤーを継続的かつ自動的にスクリーニングし、取引リスクや制裁措置を受けるリスクの低減につなげられます。

また、コンプライアンスプログラムがさらに拡大した場合の対応や、新しい取引先との関係構築を始める際の意思決定にかかる時間を短縮できるようになる点もポイントです。

国際取引における制裁・取引禁止対象リスクの管理に役立つONESOURCE Denied Party Screeningについては、以下リンクからお問い合わせください。

参考情報

注1:ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために国際連合広報センター

注2:責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン経済産業省

注3:今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応 詳細版法務省人権擁護局

注4:労働基準法厚生労働省

注5:日本国憲法国立国会図書館

注6:人権侵害に対する施策が日系企業にも影響(米国)日本貿易振興機構

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