日本では、武器や軍事転用可能な貨物や技術が、国際社会の安全を脅かす国家やテロリストなどに渡らないよう、輸出などの管理を行っています。それらは、外国為替及び外国貿易法(外為法)と、これに基づく輸出貿易管理令・外国為替令・貨物等省令などの関連法令によって管理されています。本記事では、安全保障貿易管理の役割、規制や実務の内容、そして管理体制の構築方法とその注意点について解説します。
また、コンプライアンスを遵守しながら輸出手続きを円滑に進めるための輸出管理ソフトウェアや、厳格化する輸出規制リスクに対処するためのオンデマンドウェビナー配信についても紹介するので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
安全保障貿易管理の概要
安全保障貿易管理の役割、規制内容、管理の対象、申請手続き、輸出者等遵守基準、法令違反に対する罰則について解説します。
安全保障貿易管理とは?
安全保障貿易管理とは、武器や軍事転用が可能な貨物の輸出、技術の提供を管理することです。この管理は、日本および国際社会の安全性を脅かす国家やテロリストなどに、大量破壊兵器や通常兵器への転用が可能な貨物・技術が渡ることを防ぐために行われます。企業はこうしたリスクを回避し、このような取引に自社が巻き込まれないよう、安全保障貿易管理への対策が不可欠です。
近年世界各地では、中東を中心に勃発する紛争や戦争、北朝鮮の核・ミサイル問題、ロシアによるウクライナ侵攻など、懸念事項が多発しています。日本は国際社会と協調し、原子力供給国グループ(NSG)などの国際輸出管理レジームを通じて輸出管理を行っています。
こういった枠組みのもと、日本では外国為替及び外国貿易法(外為法)および、これに基づく輸出貿易管理令・外国為替令・貨物等省令などにより、安全保障貿易管理が行われています。規制対象となる貨物の輸出、技術の提供をする際には、経済産業大臣の許可が必要です。(注1、(注2、(注3
安全保障貿易管理の規制内容
日本の安全保障貿易管理は、リスト規制とキャッチオール規制から成り立っています。
リスト規制
リスト規制とは、輸出しようとする貨物・技術のうち軍事転用の可能性が高いものを法令などでリスト化して規制する制度です。輸出しようとする貨物が、輸出貿易管理令(輸出令)別表第1の1~15項に指定された軍事転用の可能性が高い貨物に該当する場合、または提供しようとする技術が、外国為替令(外為令)の別表の1~15項に該当する場合、貨物の輸出先や技術の提供先がいずれの国であっても事前に経済産業大臣の許可が必要となります。
キャッチオール規制
キャッチオール規制とは、リスト規制品以外の貨物を輸出、技術を提供する際でも、大量破壊兵器等の開発・製造・使用・貯蔵、または通常兵器の開発・製造・使用に用いられるおそれがある場合、経済産業大臣の許可が必要となる制度です。以下の2種類を含みます。(注3
- 大量破壊兵器等キャッチオール規制
- 通常兵器キャッチオール規制
リスト規制に関する詳しい解説は「外為法に基づくリスト規制とは?事例・手続きをする際の注意点を解説」からご覧ください。
キャッチオール規制に関する詳しい解説は「キャッチオール規制(補完的輸出規制)とは?-規制要件や役割-」からご覧ください。
安全保障貿易管理の対象
管理の対象は、「貨物の輸出」と「技術の提供」の2つです。さらに規制対象地域を示します。
貨物の輸出
貨物を日本から外国に向けて送付するケースです。製品の輸出のほか、無償サンプルの輸出、海外出張者によるハンドキャリー、海外展示会のための一時的な持ち出し、輸入品の返品なども対象です。
技術の提供
対象となる貨物の設計、製造、使用に必要な技術データ、技術支援を提供することです。USBメモリの持ち出し、電子メールの送信、海外での技術指導などを含みます。以下のようなケースが対象です。
- 日本から国境を越えた外国への技術の提供
- 居住者から非居住者への技術の提供
- 居住者から特定類型に該当する居住者への技術の提供
- USBメモリ等の記録媒体を外国へ持ち出す行為
- 電子データを外国へ送信する行為
国境を越えない場合でも、非居住者や特定類型に該当する居住者への技術提供は規制の対象となります。これらの「みなし輸出規制」に関する詳しい解説は「みなし輸出規制とは?規制該当者の判断方法、注意点について解説」からご覧ください。
規制対象国
リスト規制の対象地域は世界の全ての地域です。
キャッチオール規制の客観要件(用途要件・需要者要件)が課されるのは、輸出令別表第3の地域(グループA)を除く全ての地域です。特に、国連武器禁輸国・地域には注意を要します。
輸出令別表第3の地域とは、輸出管理に関する国際的な条約及び4つの国際的なレジームに参加し、輸出管理を厳格に実施している、アメリカ・英国などを含む27か国です。グループAとも呼ばれます。ただし、2025年10月9日施行の改正により、グループA向けであっても、懸念国への迂回輸出のおそれがある場合などに経済産業大臣から通知を受けたときは、許可申請が必要です。
キャッチオール規制の対象国に関する詳しい解説は「キャッチオール規制の対象国は?規制の範囲と注意点について解説」からご覧ください。
安全保障貿易管理許可申請手続きについて
申請の手続きには、個別許可申請と包括許可申請の2種類があります。
個別許可申請
個別許可申請では、個別の契約ごとに許可の申請を行います。必要な書類を用意して、原則的に電子申請(NACCS外為法関連業務)で行います。必要な書類と窓口は、経済産業省の安全保障貿易管理ホームページに掲載されています。
包括許可申請
輸出者等自身が輸出管理の体制を整備し、こうした審査機能を自主管理の下で担える場合には、個々の契約ごとに個別許可を申請することなく、一定の範囲について包括的に許可を受けることができる「包括許可制度」があります。包括許可を取得している場合は、今回の輸出・技術の提供に包括許可を適用できるかを判断し、許可証に記載された「許可の範囲」や許可条件を確認する必要があります。(注3
輸出者等遵守基準
輸出者が守らなければならない事項として、全ての輸出者等の基準と、リスト規制貨物・技術を扱っている輸出者等の基準の2種類があります。(注3
すべての輸出者等の基準
- リスト規制に該当するか否かを確認する責任者を定める
- 輸出業務の従事者に対し、最新の法令を周知・遵守させるために指導を行う
リスト規制貨物・技術を扱っている輸出者等の基準
- 代表者を輸出管理の責任者とする
- 輸出管理体制を整える
- 該非判定に係る手続きを定める
- 輸出・技術提供に当たり、用途・需要者等を確認
- 出荷時に貨物等の一致を確認
- 輸出管理の監査手続を定める
- 輸出管理の責任者・従事者の研修を行う
- 子会社に対する指導、研修、業務内容の確認を行う
- 輸出等関連文書を保存する
- 法令違反ならびにその恐れがあるときは、速やかに経済産業大臣に報告し再発防止に努める
法令違反に対する罰則
外為法に違反した場合、刑事罰や行政制裁が科されるほか、行政指導として警告や経緯書・報告書の提出を求められることがあります。(注3
刑事罰
- 10年以下の拘禁刑
- 10億円以下の罰金(法人の場合)
- 3千万円以下の罰金(個人の場合)
ただし、違反行為の目的物の価格の5倍がこれらの罰金額を超える場合には、当該価格の5倍以下の罰金となる場合があります。
行政制裁
- 3 年以内の貨物の輸出・技術の提供の禁止
- 別会社の担当役員等への就任禁止
警告
経済産業省からの違反企業に対する警告(原則公表)
経緯書・報告書の提出
違反原因の究明と再発防止を目的とする(原則非公表)
安全保障貿易管理の実務について
安全保障貿易管理では、基本的に「貨物・技術の引合い等」から始まり、該非判定、用途・需要者等を確認する取引審査、必要に応じた特例・キャッチオール規制・包括許可・個別許可申請の要否判断を経て、出荷管理を行ったうえで輸出・提供します。(注3
- 貨物・技術の引合い
- 該非判定
- 取引審査
- 出荷管理
- 輸出・提供
該非判定
該非判定とは、輸出しようとする貨物や提供しようとする技術が、リスト規制に該当するかどうかを判定することを指します。実務において、以下の手順で行います。
- 対象の特定
- 情報収集
- 法令との照合
- 判定
- 社内決裁
取引審査
取引審査とは、取り扱う貨物や技術の用途、需要者の事業内容から、安全保障上の懸念がないことを確認し、取引を行うかどうか判断するものです。実務において、以下の手順で行います。
- 用途・需要者等の確認
- 取引の可否の検討
- 社内決裁
- 完了
出荷管理
出荷管理とは、法令で規制されている貨物・技術の誤出荷を防ぐため、輸出・提供を行う前に、該非判定や取引審査が終了しているか、必要な輸出許可証等を取得しているか、出荷する貨物・提供する技術が審査・許可の対象と同一であるかを確認するものです。実務において、以下の手順で行います。
- 出荷の指示
- 該非判定・取引審査の完了および必要な許可の取得状況を確認
- 出荷する貨物・提供する技術の同一性等を確認
- 完了
安全保障貿易管理体制の構築の仕方と注意点
輸出者が適切に輸出管理を行うために必要な輸出管理体制の具体的な内容を解説します。(注3
社内管理体制を整備する
- 輸出管理責任者・該非確認責任者・各部門の責任範囲を明確にする
- 輸出管理内部規程の策定
- 最新法令の周知・指導
- 輸出等の業務に関わる子会社等への指導
- 違反時の報告、再発防止策
体制維持管理のための取り組み
- 教育・研修
- 監査
- 文書管理
手続きのプロセスが煩雑でありミスを起こしやすい点に注意
貿易管理の実務はプロセスが煩雑であり、ミスが発生しやすい状況にあります。また、規制内容が頻繁に変更されることから、無自覚のうちに違反してしまうケースもあります。特に、最新法令の確認、記録の一元管理、承認フロー、ダブルチェック、監査証跡の確保などが十分でない場合、確認漏れや判断ミスが生じ、法令違反につながるリスクが高まります。
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国際安全保障における国際合意や制裁、技術の高度化などにより、輸出相手国の規制要件が厳格化する中、正確かつ一貫した情報の入手と管理が最重要課題です。このソリューションはそのような課題解決を支援し、輸出業務の効率向上とコンプライアンスの確保を実現します。
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参考情報