海外拠点のデジタルインボイス対応を、現地法人ごとに進めている企業は少なくありません。国によって制度が異なるため、「現地のことは現地に任せる」という対応になりがちです。しかし、対応する国が増えるにつれて、国ごとに異なるシステムや運用が積み上がり、グループ全体の構成が複雑化していきます。個々の拠点では合理的な選択であってもグループ全体で見ると、ITガバナンスの低下やTCO(総保有コスト)の増加を招く可能性があります。
各国でデジタルインボイスの義務化が進む今、日本本社は何を把握し、どの領域を共通化すべきなのでしょうか。
ドイツ、フランス、UAEなどで義務化が進展
欧州、中東、東南アジアを中心に、デジタルインボイスの制度化・義務化が急速に進んでいます。最近、特にお問い合わせが増えているのが、ドイツ、フランス、UAE、フィリピンなどです。海外拠点を持つ企業にとって、各国の制度対応は、もはや一部の現地法人だけの課題ではなくなりつつあります。
・ドイツでは、国内BtoB取引を対象に、デジタルインボイスの義務化が段階的に進んでいます。2025年1月からは、原則として国内のすべての事業者に、デジタルインボイスを受領できる体制の整備が義務づけられました。発行については、2027年1月から前年度の年間売上高が80万ユーロを超える事業者が対象となり、2028年1月からはそれ以下の事業者にも対象が広がります。
・フランスでも、国内BtoB取引を対象に、デジタルインボイスの義務化が段階的に始まります。2026年9月からは、企業規模を問わず、制度対象となるすべての企業に受領対応が義務付けられます。発行については、同月から大企業および中堅企業が対象となり、2027年9月には中小企業・零細企業にも拡大します。
・UAEでは、原則として国内で事業を行うすべての事業者によるBtoB・BtoG取引を対象に、デジタルインボイス制度が、2027年から企業の売上規模に応じて段階的に義務化されます。年間売上高5,000万AED以上の企業は2027年1月から、5,000万AED未満の企業は同年7月から、デジタルインボイスの発行・受領が義務付けられます。
・フィリピンでは、2025年にBIR(内国歳入庁)がデジタルインボイス制度に関する規則を改正し、制度対応が進展しています。対象となる大規模納税者やLTSの管轄企業、電子商取引を行う一定規模以上の事業者、会計・請求書発行システムを利用する事業者などは、2026年12月31日までにデジタルインボイスの発行体制を整える必要があります。
このように、近年デジタルインボイス制度の整備や関連法令の改正が各国で相次いでいます。義務化の開始時期や対象事業者だけでなく、発行・受領の要件、データ形式、税務当局への送信方法も国によって異なり、その内容も随時見直されています。また、請求書発行や取引発生に近いタイミングで継続的に税務当局へのデータ送信を求める国も増えており、制度対応は申告時期だけの業務ではなく、日常の請求・会計プロセスの一部になりつつあります。そのため、各拠点でシステムを一度導入すれば終わりではなく、継続的な情報収集とシステム・業務プロセスの更新が必要です。対応国が増えるほど、現地法人ごとの個別対応では、グループ全体の状況やコストを本社が把握しにくくなります。
デジタルインボイスは「PDFへの置き換え」ではない
デジタルインボイスへの対応は、紙の請求書をPDFに置き換えるだけではありません。
ERPや会計システムから必要な請求書データ等を取り出し、各国が定める構造化データの形式へ変換したうえで、取引先や税務当局、認定プラットフォームへ送信する必要があります。例えばフィリピンでは、PDFではなくJSON形式の構造化データによる対応が求められます。
データの送信方法や処理の流れも国によって異なります。請求書を取引先へ送信するとともに、その情報を税務当局へ報告する方式もあれば、税務当局や政府指定のプラットフォームによる事前検証・承認を経てから、取引先へ送信する方式もあります。国によっては、請求書の送信だけでなく、受領確認や支払状況などの報告が必要になる場合もあります。
そのため、法制度を確認するだけでなく、次のような業務・システム面の設計が欠かせません。
・既存のERPや会計システムとの連携
・請求書データの抽出・変換
・国別のフォーマットやネットワークへの対応
・送受信エラーが発生した場合の運用
・法改正や制度変更への継続的な対応
・セキュリティ、監査、データ保管への対応
デジタルインボイス対応は、経理・税務部門だけで完結するものではなく、請求・会計の業務プロセスからERP、データ管理まで広く関わるため、IT部門を含めて対応方針を設計する必要があります。
国ごとの「個別最適」が、グループ全体の複雑化を招く
例えば、ある国では自社の会計システムから政府プラットフォームへ直接接続し、別の国では現地ベンダーのサービスを介して送信する。さらに別の国では各国所定の形式に変換したデータを認定事業者経由で送信する。このように、一つひとつは各国の要件に応じた合理的な対応であっても、対象国が増えるほど、接続方式やデータ形式、利用するベンダー、運用ルールが積み重なっていきます。
その結果、本社からは各国でどのシステムを通じ、どのようなデータが送信されているのかを把握しにくくなります。制度変更のたびに個別の確認や改修が必要になるほか、障害発生時の問い合わせ先や対応手順も国ごとに異なるため、対象国が増えるほど運用負荷は次第に大きくなっていきます。
さらに、ERPの刷新・統合やM&Aに伴う拠点の追加などが生じた場合には、既存の接続方式を一つずつ見直さなければなりません。各国・地域の要件に応じて個別対応を重ねた結果、グループ全体のシステム構成が複雑化し、ITガバナンスの弱体化やTCOの増加を招く可能性があります。
本社が担うのは各国制度の管理ではなく「共通化の設計」
ただし、本社が全ての国の制度を細部まで把握し、個別の実務対応まで担うのは現実的ではありません。実際には、ERPとの接続やデータ連携、送受信状況の監視、エラー対応、セキュリティといった共通化できる領域まで、国ごとにゼロからの構築ではなく、各国固有の要件に対応しながら、共通化できる領域はグループ全体でまとめる。この役割分担を、早い段階で整理することが重要です。
まずは、次の点を確認してみてはいかがでしょうか。
・今後、どの国・地域で対応が必要になるのか
・各海外拠点では、どのような準備が進んでいるのか
・ERPと請求書受領・発行システムは、国ごとにどのように連携しているのか
・国ごとに異なるシステムやサービスを利用していないか
・将来的に共通基盤へ集約できる領域はないか
制度への対応が本格化してから個別の仕組みを継ぎ足すよりも、早い段階で全体像を整理しておくことが、将来の負荷やコストを抑える第一歩になります。
ONESOURCE Pageroでグローバル対応を一元化
トムソン・ロイターのONESOURCE Pageroは、グローバル企業のデジタルインボイス対応を支援するソリューションです。
SAP S/4HANAをはじめとするERPと連携し、複数国における電子請求書の送受信や制度対応を共通の基盤で管理できます。各国の要件に応じてデータを変換し、取引先や政府、認定プラットフォームと連携することで、国ごとに異なる制度へ対応します。
また、各海外拠点が個別に仕組みを構築するのではなく、ERPとの接続やデータ連携、送受信状況の監視などを共通化することで、システム構成と運用の複雑化を抑えることができます。同時に、日本本社からグループ全体の対応状況を把握しやすい環境を整えることも可能です。
デジタルインボイスへの対応を、一つの国の法規制への対応で終わらせるのか。
これから対象国が増えることを見据え、グループ全体の請求・会計業務を整える機会とするのか。
義務化の期限が迫ってから個別対応を重ねる前に、まずは自社の海外拠点における対応状況を整理し、グループとしての方針を検討しておくことが重要です。
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