FTA

CPTPP関税削減の対象品目ごとに輸出先や協定活用のメリットを紹介

現在日本では将来的な国内消費の低迷が予想されており、多くの日本企業が海外市場に関心を持っています。それに伴い、自由に海外市場へアクセスできるFTA / EPAの活用が注目されています。

相手国側の税関や法制度の情報入手、協定ごとに異なるルールや運用など多くの課題が指摘される一方で、FTA / EPAの利用率は伸びています。中でも日本にとって、カナダ・ニュージーランドと結ぶ初の協定となるCPTPPは、モノの貿易に加えサービス・直接投資の分野でも高水準の自由化率を実現しました。

本記事では、CPTPP関税削減・撤廃の対象品目ごとに輸出先や協定活用のメリットを事例とともにご紹介します。最も有利な取引経路の決定をサポートする「ONESOURCE FTA Analyzer」についても紹介するので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。

日本の輸出企業によるCPTPPなどFTA利用状況

JETROの2024年度調査によると、日本の輸出企業によるCPTPPなどのFTA利用率は6割を超えています。FTAを利用することで約2割の企業で輸出量や取引量が増加し、「繊維・アパレル」や「化学」の分野では34%の企業でFTA利用での輸出割合が拡大しています。

2022年度の調査では、回答のあった日本の輸出企業のFTA利用率が66.1%だったのに対し、2024年度では67.2%と増加しています。また、2020年度の調査で「FTAを利用していないが関心あり」と回答した企業のうち、約8割は2024年度の調査時点でFTAを利用していました。

関税削減・撤廃の対象品目別|CPTPPケーススタディ

ここでは、CPTPPをすでに活用している日本の輸出企業の事例から、輸出先、活用している協定、活用のメリット、利用に至った経緯などをご紹介します。(注1

輸出ケース1:こはぜと足袋

足袋の留め具であるこはぜの専業メーカーA社は、カナダとフランスに向けてCPTPPを活用してこはぜと足袋を輸出しています。CPTPP利用のきっかけは、現地視察の際に飛び込み営業で出会ったカナダの小売店から、協定利用の要望があったためです。

現地小売店が輸入者による自己申告制度を利用しているので、JETRO専門家に確認してもらいながら商品情報の記入など原産地証明手続きを行っています。CPTPP利用をはじめ、取引先の要望にきめ細やかに対応することが継続的な受注の鍵になっているようです。

輸出ケース2:ごま油などごま製品

ごま油・食品ごまの製造販売を手掛けるメーカーB社は、世界約30か国にごま油などのごま製品を輸出しています。CPTPP、日EU・EPA、2国間EPAを活用しており、利用のきっかけは現地ディストリビューターからの要望でした。

CPTPP発効により、カナダ向けに輸出するごま油の関税11%が即時撤廃されました。関税削減のメリットはカナダの輸入者側に帰属しますが、商品の競争力向上につながるとして、協定利用には全社的に前向きです。実際に、ごま油の輸出量は増加しています。

CPTPPでは自己申告制度が採用されていることから、ノウハウや知見の蓄積に努め、輸出手続きの内製化にも成功しました。

輸出ケース3:ピアノ

楽器メーカーのC社は、世界約40か国にグランドピアノやアップライトピアノを輸出しています。関税削減による商品の競争力強化を狙って、CPTPP、日EU・EPA、日米貿易協定、2国間EPAなど、利用できる協定は全て利用している状況です。さらに、中国やインドネシアに製造拠点を持つことから、日本を含まない第三国間で結ばれた協定も積極的に利用しています。

CPTPP発効により、カナダ向けに輸出するグランドピアノの関税7%が撤廃されました。1%程度の削減であれば手続きのコストを考えると利用メリットはありませんが、7%の削減効果は非常に大きいと言えます。第三者証明制度と比べると、CPTPPで採用されている自己申告制度では輸出手続きの負担が少なく、内製化にも成功しました。

輸出ケース4:理美容器、歯科用機器

理容美容機器、歯科用機器メーカーのD社は、昭和初期から主にアジア向けに理容イスの輸出を手掛け、1956年には海外展開を本格化させました。カナダ、英国、EU諸国、インドネシア、タイ、ベトナム、メキシコなどへ向けて理容美容機器、歯科用機器を輸出する際に、CPTPP、日EU・EPA、2国間EPAを利用しています。

CPTPP発効により、カナダ向けに輸出する歯科用ライトの関税7%が撤廃されました。カナダに現地法人を持つ同社では、CPTPPを活用することで同現地法人が支払う輸入関税コストを大幅に削減しています。現地法人の存在によって、グループ内で関税削減の直接的なメリットを享受できています。

輸出ケース5:包丁

包丁メーカーのE社は、世界約40か国にCPTPPや2国間EPAを活用して包丁を輸出しており、海外売上高は4〜5割を占めています。2019年にタイの輸入業者から日タイEPAの存在を教えられたことをきっかけに、全ての輸出相手国との間で協定が締結されていないか確認しているそうです。

協定利用の難関は、原材料の調達先から素材や原産地などの情報を収集する際に非常に手間がかかったことでした。しかし、調達先から一度協力を得られてからは大きな支障なく協定を活用できています。カナダ向け輸出にあたって利用しているCPTPPの自己申告制度は、第三者証明制度よりも書類作成時の負担が少ない点がメリットです。

対象品目ごとの関税率の調べ方

輸出企業がCPTPPを利用する場合には、対象品目ごとの関税率を調べて比較します。対象品目の中には、相手国の関税がもともと無税であったり、CPTPP税率が通常適用されるMFN税率と変わらないケースもあるからです。

対象品目ごとの関税率を調べる際には、産品を分類する番号であるHSコードを調べる必要があります。対象品目のHSコードが判明すれば、関税率と原産地規則を簡単に把握できるようになります。なお、対象品目のHSコードの詳細は、輸入国側の分類に基づきます。

次に、通常適用されるMFN税率を調べます。MNF税率の確認は、『World Tariff』が便利です。最後に、協定文に付属する譲許表(Tariff Schedule)を見て、CPTPP税率を参照します。日本から輸出する際には、相手国の譲許表を確認するのがポイントです。(注1

複数のFTA / EPAを利用する際は貿易実務の工程が複雑化するので、貿易実務担当者の負荷を軽減できるツールの導入がおすすめです。トムソン・ロイターが提供するONESOURCE Global Classificationは、製品分類の自動化をサポートし、HSコードの管理を効率化します。詳しくは下記リンクからご覧ください。

まとめ:CPTPPの活用は新たなビジネスチャンスを切り開く

海外で新たなビジネスチャンスを獲得したい場合、CPTPPの活用を検討する余地があります。対象品目の輸出企業からすると、CPTPP活用による関税削減において直接的なメリットはありません。しかし、CPTPP利用を希望する輸入者側の要望に応えることで信頼関係が生まれて受注が継続したり、商品の競争力強化に繋がるので、結果として輸出量の増加が期待できます。

ONESOURCE FTA Analyzer

サプライチェーンの最適化を考える上で、CPTPPの利用が最も関税削減効果が高いかどうかは分析するまで分かりません。そこで、意思決定・分析ツールのONESOURCE FTA Analyzerの利用を検討されてはいかがでしょう。

ONESOURCE FTA Analyzerは、取引データに基づき最も有利な費用対効果をもたらす調達国、取引経路、貿易協定を示すソリューションです。詳しくは、下記リンクからご確認いただけます。

参考資料

注1:EPAで新たなビジネスチャンスを切り開く!|日本貿易振興機構

ビジネスインサイトを購読

業界最新トレンド情報をアップデート

購読する