CPTPP参加国との貿易で満たすべき原産地規則についてわかりやすく解説

CPTPP協定が発効している参加国は日本、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、豪州、ベトナム、ペルー、マレーシア、チリ、ブルネイ、イギリスの計12か国です(2025年8月時点)。(注1

これらの参加国と貿易を行う際に、CPTPP原産地規則(Rules of Origin)を満たしていれば、輸入国税関において通常より低い税率が適用されます。ただし、関税削減効果が大きくてもCPTPPなどFTA / EPAの利用が企業にとってハードルが高いとされる理由の1つは、複雑な原産地規則です。

そこで本記事では、CPTPP原産地規則について実務家向けにわかりやすく解説します。自社にとって最も有利なFTA / EPAを判断する際に役立つ「ONESOURCE FTA Analyzer」についても紹介するので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。

CPTPP税率適用の要件① 原産地規則の証明手続き

協定で定められた2つの要件を満たせば、輸入するCPTPP参加国の税関においてCPTPP税率の適用を受けられます。その要件とは、「産品にCPTPP税率が設定されていること」と「原産地規則を満たすこと」の2つです。

さらに原産地規則は、「原産地基準」と「必要な手続き(産品が原産地基準を満たす証明手続き)」の2つの要件からなります。ここではまず、CPTPP税率の適用を受けるために必要な手続きについて見ていきましょう。(注2

日本が締結済みのEPAにおける原産地証明制度

CPTPP参加国の税関において、輸入申告時にCPTPP税率適用を要求する手続きは「原産地証明制度」と呼ばれています。原産地証明制度は3種類あり、日本が締結済みのEPAでは「第三者証明制度」が採用されているケースがほとんどです。一方、CPTPPは原則、自己申告制度のみを採用しています。

ここでは、原産地証明書制度についてまとめました。

第三者証明制度認定輸出者自己証明制度自己申告制度
・経済産業大臣が指定した指定発給機関が、原産地証明書を発給する制度・日本における指定発給機関は「日本商工会議所」・経済産業大臣による認定を受けた輸出者自らが原産地証明書を作成する制度※CPTPPが採用する制度・輸出者または生産者、輸入者が自ら原産地証明書を作成する制 度・国による認定は不要

出典:TPP11解説書|日本貿易振興機構

原産地証明書についてCPTPP附属書3-Aを採用する参加国

基本的にCPTPPは自己申告制度のみの採用ですが、一部の参加国は「協定書第3章付属書3-A」(以下、附属書3-A)を適用しています。附属書3-Aとは、他のCPTPP参加国に通報していた場合に限り、自国の領域から輸出される産品に関する原産地証明書について、下記のいずれかを要求できるというものです。

(A)権限のある当局が発給するものであること

(B)認定された輸出者が作成するものであること


ベトナム、マレーシア、ブルネイは、上記の(A)を採用しています。ただし権限のある当局が発給するものであっても、原産品申告書を提出する場合と同じく、原産品申告明細書などの提出もあわせて必要です。

なおCPTPP協定の条文では、CPTPP参加国の税関で輸入申告時に提出する「原産品申告書」のことを「原産地証明書」と表記しています。(注3

CPTPPに関する必要書類については「CPTPPセミナーや問合せ先を活用する意義とは?セミナー概要も解説」からご覧ください。

CPTPP税率適用の要件② 原産地規則の原産地基準

CPTPP税率は、原産品となるための要件である「原産地基準」を満たしたCPTPP原産品のみに適用されます。CPTPP原産品とは、協定の「原産地規則章」で規定された下記の原産地基準のいずれかを満たす産品のことです。

  1. 完全生産品
  2. 原産材料のみから生産される産品
  3. 品目別原産地規則(PSR:Product-Specific Rules)の実質的変更基準を満たす産品

実際にFTA / EPAを介して輸出入される多くの産品が、PSRを満たす産品です。一次材料に非原産材料を含む場合には、税関HPの原産地ポータルで産品のHSコードをもとに、PSR3類型のうちどの実質的変更基準が適用可能かを確認することから始めます。

ここでは、PSR3類型の事例について見ていきましょう。なお繊維ならびに繊維製品の原産地基準等については、別途「繊維章」が設けられている点に留意が必要です。(注4(注5

関税分類変更基準の事例

カナダ所在の輸出者の工場にて生産される豚肉調製品のケースです。

1次材料の豚肉骨なし肩肉は、カナダで生育・屠殺・解体されていることから、CPTPP参加国の領域で完全に生産されています。しかし他の一次材料のこしょうはインド産、つまり非原産材料です。こしょうは第9類、産品は第16類となり、類の変更が認められるために関税分類変更基準を適用できます。(注6

付加価値基準の事例

メキシコ所在の輸出者の工場にて生産される自動車用・革製の腰掛けの部分品のケースです。

一次材料の牛革は、メキシコで生育・なめし加工が施されていることから、CPTPP参加国の領域で完全に生産されています。しかし他の一次材料の紡織用繊維、縫糸は非原産材料です。産品の価額は10,000USD、牛革は2,000USD、紡織用繊維は950USD、縫糸は50USDであることから、域内原産割合(以下、RVC)が40%以上の控除方式を適用できます。(注6

加工工程基準の事例

日本所在の輸出者の工場にて生産されるグリセリンのケースです。

一次材料のプロピレンは非原産材料となります。日本でのグリセリン製造において、特定の化学反応を経ていると、加工工程基準を満たせるのです。(注4

負担がより軽い原産地基準を選択して証明可能

1つの産品に対して複数の原産地基準を適用できるケースでは、証明負担がより軽いほうを選ぶことが可能です。例えばメキシコで生産されるトマト調製品にCPTPP税率を適用したい場合、次の2つのシナリオが考えられます。

1)原産材料のみから生産される産品

2)PSRの実質的変更基準(関税分類変更基準)を満たす産品

1)であれば、全ての材料がCPTPP原産材料であることを示す必要があります。一方、2)であれば材料のHSコード情報は必要ですが、原産材料の証明は不要です。(注6

貿易コンプライアンス違反と見なされないためにも、主な品目分類データ(製品情報、HSコード、概略図など)の一元管理をおすすめします。品目分類を自動化すれば、一貫性および正確性を保ち、コラボレーションやコンプライアンス強化が可能です。HSコード管理ソリューションについて、詳しくは下記リンクからご覧ください。

CPTPP品目別原産地規則の特別ルール

CPTPP協定では、自動車関連および繊維製品の品目別原産地規則について、特別ルールが設定されています。ここでは、PSRのCPTPP特別ルールについて見ていきましょう。

自動車関連(附属書3-D・付録1)

CPTPP協定では、自動車関連について付加価値基準のRVCを計算する際に、材料についての原産地規則を緩和するルールが規定されています。例えば完成車における特定の自動車部品7品目や自動車部品では、指定された工程のうち1つ以上の工程をCPTPP参加国で行えば、原産品と認められるのです。(注4

繊維製品の「ヤーンフォワード・ルール」

繊維製品のCPTPP原産地規則は、「ヤーンフォワード・ルール」と呼ばれるものです。「紡ぐ」「織る」「縫製」という3つの工程を原則CPTPP参加国で行わなければなりません。ただし域内での供給が十分ではない繊維、糸、生地などの材料については、最終用途の要件を満たせば、例外的にCPTPP参加国以外からの調達も認められます。(注4

まとめ:デジタル化がサプライチェーンの検証・最適化の鍵

今回は実務家向けに、CPTPP原産地規則についてわかりやすく解説しました。CPTPPの原産地規則には、関税削減や撤廃の対象となる膨大な品目について、独自のルールが設定されています。原産地規則の複雑さや貿易コンプライアンス違反リスクを軽減しながらコストも抑制するためには、デジタル化がおすすめです。


ONESOURCE FTA Analyzer

FTA Analyzerを導入するとサプライチェーン構造を検証・最適化でき、貿易を取り巻く変化にも迅速に対応できます。また原産地規則に基づき、サプライチェーンにとって最も有利なFTAを判断できるようになることから、コスト削減も可能です。詳しくは、下記リンクよりご覧ください。

参考URL

注1:英国がCPTPPに正式加入、日本を含む12カ国に枠組み拡大|日本貿易振興機構

注2:我が国の原産地規則 ~EPA原産地規則(詳細)~(2025年4月)|財務省関税局・税関

注3:「自己申告制度」利用の手引き~CPTPP~|財務省関税局

注4:TPP11(CPTPP)原産地規則について(2018年11月・12月)|財務省関税局・税関

注5:TPP11(CPTPP)及び日EU・EPA原産地規則について【概要】(2019年1月)|東京税関

注6:TPP11(CPTPP)及び日EU・EPA原産地規則について【実務編】(2019年4月)|東京税関

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