安全保障貿易管理システム/ソリューションの重要性とは?規制強化への対応が必須

近年、米中の覇権争いやウクライナにおける紛争、2025年10月に停戦が成立したものの緊張が続くイスラエル・パレスチナ情勢など、地政学リスクが顕在化しています。これに伴い、各国では国家および国民の安全を経済的な視点で確保する「経済安全保障」を重視する傾向にあることから、貨物の輸出や技術の提供にまつわる規制がグローバル規模で強化されている状況です。

そこで本記事では、コンプライアンス向上とコスト削減に役立つ安全保障貿易管理システム/ソリューションの重要性について解説します。グローバル規模で最新の規制や制度変更に対応できるONESOURCE Export Complianceについて紹介しますので、国際貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。

安全保障貿易管理を巡る各国の動向、規制強化の流れ

近年では、重要技術の保全を通じて「自国の技術的優位性や不可欠性を維持・確保する」考え方が広がっています。そこで経済安全保障の観点から、有効なツールとして安全保障貿易管理(輸出管理)の強化が注目されています。

ここでは技術覇権争い、香港・台湾や人権問題の対応をめぐって対立構造にあるアメリカと中国の動向について見ていきましょう。

アメリカ

米国商務省産業安全保障局(以下、BIS)は2024年4月、中国向け半導体関連の輸出管理規則を明確化するなど、先端技術の中国向け輸出管理等の規制を強化しています。また米国輸出管理規則(以下、EAR)の対象品目を日本から再輸出する場合、外為法に加えてBISに事前許可申請が必要になるケースがあるので、日本企業は留意が必要です。

EARでは、軍民両用(デュアルユース)が可能であるなど一定の品目について、自国だけでなく日本など第三国から外国への「再輸出(Reexport)」も規制しています。これは域外適用と呼ばれるものです。米国から仕入れた製品、あるいは米国製の部品やソフトウェアを組み込み製造した製品を日本の倉庫で保管した後、第三国へ向けて出荷する企業はEARも遵守しなくてはなりません。(注1

中国

日本企業は、日本の外為法や米国のEARだけでなく、中国の反外国制裁法等についても把握しておく必要があります。香港、新疆ウイグル自治区、台湾などの問題に関する中国の対応について、中国および中国企業等に対する規制や制裁措置を欧米諸国は進めてきました。これを受けて2020年以降、欧米諸国の制裁措置等に対する対抗措置を規定した法令等を下記の通り相次いで施行し、中国は管理の動きを強めています。(注2

  • 「信頼できないエンティティー・リスト」制度(2020年9月施行)
  • 輸出管理法(2020年12月施行)
  • 外国の法律および措置の不当な域外適用を阻止する規則(2021年1月施行)
  • 反外国制裁法(2021年6月施行)

日本の安全保障貿易管理に係る関係法令の改正状況については「安全保障貿易管理に係る関係法令の改正状況は?その影響や備えについて解説」からご覧ください。

安全保障貿易管理システム/ソリューションの重要性

安全保障貿易管理ソリューション/システムとは、貨物輸出や技術提供の引き合い等から、輸出・提供に至るまでの輸出コンプライアンスのプロセスを一元化し、支援するものです。システム自動処理の支援によって、大幅な輸出管理業務の効率化やコスト削減を期待できます。

原則として「特定の貨物の輸出」「海外向け、または非居住者への特定の技術の提供」を行う際には、経済産業大臣の事前許可が必要です。しかし輸出者の責任において、膨大な製品数の該非判定から取引審査を経て、出荷まで管理する安全保障貿易管理業務には多大なコストと労力がかかります。

既存顧客を最新の懸念取引先リストと照合したり、政省令改正を踏まえて該非判定を見直したり、煩雑な業務を手作業で行いながら輸出コンプライアンスを確保することは容易ではありません。法令違反リスクおよびコスト低減を図るためにも、安全保障貿易管理のプロセスをDX(デジタル活用によって変革)していくことが非常に重要になるのです。

安全保障貿易管理プロセスのDXが必要とされる理由

安全保障貿易管理プロセスのDXは、競争優位性および確実な国際貿易コンプライアンスの確保のために必要です。DXによって、グローバル規模で日々更新される法令を見落とすことなく追従できるために、法令の変化を実務担当者が意識せずに業務に従事できるようなります。グローバル全体で取引状況とリスクを掌握し、最小化に向けて対策を打てるようになるほか、経済安全保障を念頭に戦略的調達やサプライチェーンの安定化、さらには強靭化にも寄与できるようになるのです。

日本の場合で言えば、外為法体系や規定は複雑かつ難解であるために、新しく安全保障貿易管理に従事する実務担当者が理解に費やす時間や労力は多大だと言わざるを得ません。しかも昨今では、大量破壊兵器等の開発等に使用される貨物・技術の多くが軍民両用(デュアルユース)であることから、偽装も巧妙化しています。軍事分野において民生技術が活用されるケースも多いために、輸出管理が不十分な組織が狙われる可能性も高く、事故が生じやすい状況にあるのです。高度技術が無許可で流出すれば、自社が法令違反で罰せられるだけでなく、国際的な平和と安全の維持に影響を及ぼす恐れもあります。(注3

外為法による輸出管理のフローとシステム自動処理の事例

輸出管理の手順の一例と、トムソン・ロイターによるシステム自動処理の事例を下記にまとめました。

輸出管理のフロー輸出管理の実務システム自動処理
1.製品開発(該非判定)法令確認該非登録【該非判定機能における内容チェック】
2.貨物・技術の引き合い営業:顧客審査調達:調達先審査取引先登録、スクリーニング【取引先スクリーニング機能】
3.取引審査POチェック再スクリーニング【輸出管理機能における自動チェック】
4.出荷管理DOチェック再スクリーニング【輸出管理機能における自動チェック及び書類作成】

安全保障貿易管理システム/ソリューションのメリット

年々複雑化する規制を踏まえて、グローバルに事業を展開する企業の国際貿易実務担当者は、自社の安全保障貿易管理業務の見直しに多くの時間と労力を費やしているのではないでしょうか。

ここでは、安全保障貿易管理システム/ソリューションを導入するメリットについて見ていきましょう。

属人化からの脱却を図れる

生産性が低下したりマネジメントが困難になったりするほか、ナレッジやノウハウを蓄積できないといった属人化のデメリットを解消できる点が安全保障貿易管理システム/ソリューション導入のメリットです。従前の安全保障貿易管理業務は、経験豊富なベテラン社員に依存し、属人的な管理になる傾向にありました。

海外輸出件数が増加する中、高度な管理レベルを継続的に定着させるためには、安全保障貿易管理業務を標準化し、属人化から脱却することが重要になります。その上で企業グループ全体の国際貿易を一元管理すれば、確実なコンプライアンス、取引情報やリスクの掌握、コストの適正化を実現可能です。

輸出者等遵守基準に沿った安全保障貿易管理体制を構築できる

外為法違反のリスクを回避するために、海外子会社を含む企業グループ全体のコンプライアンスやガバナンスを強化できる点も安全保障貿易管理システム/ソリューション導入のメリットです。業として輸出・技術提供を行う者は、輸出者等遵守基準に従ってガバナンスを強化し、貨物の輸出および技術の提供を行うよう義務付けられています(外為法55条の10・4項)。

輸出者等遵守基準は「輸出者等遵守基準を定める省令」により定められており、下記の2段階で構成されるものです。

  1. すべての輸出者等の基準
  2. リスト規制貨物・技術を扱っている輸出者等の基準

輸出者等遵守基準を下記にまとめ、2022年5月1日施行の改正箇所は太字で示しました。(注4

基準の種類基準の詳細
すべての輸出者等の基準(省令1条1号)該非確認責任者の選任最新法令等の周知および指導
リスト規制貨物・技術を扱っている輸出者等の基準(省令1条2号)統括責任者の選任輸出管理体制の整備該非確認の手続きの制定用途確認及び需要者等の確認を行う手続きの制定(需要者以外から用途及び需要者の確認に必要な情報を入手する場合には、信頼性を高めるための手続を定め、当該手続に従って用途及び需要者の確認を行うこと)出荷確認輸出管理の監査手続輸出管理の責任者及び従事者への研修リスト規制貨物・技術の輸出等の業務に関わる子会社に対する指導及び研修並びに当該子会社の業務体制及び業務内容の確認(指導等)を行う体制及び手続を定め、当該手続に従って定期的に指導等を行うよう努めること輸出等関連文書の保存法令違反時の報告・再発防止策

出典:輸出者等遵守基準等の改正について(令和4年3月)|経済産業省

まとめ:コンプライアンスの向上とコスト削減を実現

経済安全保障も勘案した戦略的調達や、サプライチェーンの脆弱性への対処及び適切な依存度の見直しは、多くの時間と労力がかかります。そのため属人化および手作業をベースにした人海戦術では、見落としなどが発生しがちです。コンプライアンスの向上とコスト削減を実現させるために、安全保障貿易管理システム/ソリューションの導入を検討されてはいかがでしょう。


トムソン・ロイターの安全保障貿易管理システム/ソリューションは、独自のモニタリング制度で貿易関連情報を網羅し、グローバル規模で最新の規制や制度変更に対応しています。そのため法令の変化を特定の個人が意識することなく業務を遂行でき、リスクの可視化と共有化を図れる点がポイントです。詳しくは下記リンクからご覧ください。

参考資料

注1:「安全保障貿易管理」早わかりガイド|日本貿易振興機構

注2:中国の経済安全保障に関する制度情報(2023年2月28日更新)|日本貿易振興機構

注3:安全保障貿易管理を巡る最近の動向|経済産業省
注4:輸出者等遵守基準等の改正について(令和4年3月)|経済産業省

ビジネスインサイトを購読

業界最新トレンド情報をアップデート

購読する