QUAD(日米豪印)とは?インド太平洋地域における安全保障協力に注目

近年、AIなどのハイテク分野だけでなく、宇宙、外交など幅広い分野において米中間の競争が繰り広げられています。「米中覇権争い」がメディアの見出しを飾る中、存在感を増しているのが日米豪印の4か国協力体制であるQUADです。

中印の台頭に伴い、「インド太平洋」という地域概念が広がりを見せています。そのインド太平洋における軍事・非軍事の安全保障協力について日米豪印は対話を重ねていますが、どのような協力が行われているのでしょうか。

本記事では、QUAD(日米豪印)の概要や具体的な安全保障協力の取組み、その課題について解説します。また、国際貿易ならびにサプライチェーン担当者の意思決定や分析をサポートするONESOURCE FTA Analyzerについても紹介しますので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。

QUAD(日米豪印)とは

QUAD(クアッド:日米豪印)とは、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国による多国間連携のことです。法の支配や人権といった基本的価値を共有し、自由で開かれた国際秩序の強化を目指すQUADは、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて協力分野を広げています。(注1、(注2

QUADの経緯

QUADは、2004年12月に発生したインドネシア・スマトラ島沖地震やインド洋大津波の被災地を日米豪印4か国がコア・グループを結成して支援したことが発端です。2007年に安倍晋三首相(当時)の働きかけによって、事務レベル会合や4か国が揃った軍事合同演習「マラバール」が開催されたことから、4か国連携の進展が期待されていました。

しかし、日豪で国内政治面の変化が重なったことで、同年末にはQUADは失速し、2008年には豪州が離脱しました。ところが、中国が南アジア諸国との関係強化やインド洋地域への進出を強めるにつれ、インド太平洋地域の安全保障協力が再度注目され、2017年11月にQUADは復活しました。最初の試みは「QUAD1.0」、2017年以降は「QUAD2.0」と称されています。(注3

「自由で開かれたインド太平洋」とは

2016年8月、安倍晋三首相(当時)によって提唱された外交コンセプトが「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)です。世界人口の半数以上を擁するインド太平洋は世界の活力の中核であり、太平洋とインド洋の交わりによるダイナミズムは世界経済の成長エンジンになることから、日本はインド太平洋を重視しています。

2019年11月公表の「自由で開かれたインド太平洋に向けて」の中で、下記の3つが日本の取組みとして示されました。

  1. 法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着
  2. 経済的繁栄の追求
  3. 平和と安定の確保

上記の3つを柱に、自由で開かれたインド太平洋を「国際公共財」として発展させていく方針です。開かれた包摂的なコンセプトであることから、いかなる国も排除せずに考え方を共有するパートナーと広く協力していくことを明らかにしています。(注4

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インド太平洋地域における重層的な安全保障協力の取組み

「QUAD 2.0」以降、4か国間の結びつきはより一層強くなっています。ここでは、QUADの具体的な安全保障協力の取組みについて見ていきましょう。

QUAD2.0の協力分野

日米豪印4か国は、インド太平洋地域における共通の課題に共同で対処するために、適切な仕組みのあり方を長年に渡り模索してきました。その結果、2021年3月のQUAD首脳会議の共同声明「日米豪印の精神」において、 COVID-19、気候変動、重要技術、反テロリズム、質の高いインフラ投資、人道支援、海洋安全保障、災害救助など地域の共通課題に、4か国が結束して対処する地域連携であることが示されたのです。

2021年3月から2024年9月までに、テレビ会議を含むQUAD首脳会合が六度に渡り開催されています。2021年3月にはワクチン、重要・新興技術、気候変動対策の分野で、2021年9月にはインフラ、宇宙、サイバー分野で作業部会を設置することが決まりました。2023年5月には新興技術を活用した4か国共同研究の支持が表明され、共同研究プロジェクト「AI-ENGAGE」が進められることになりました。また、共同声明の中で質の高い海底ケーブルネットワークを支援する喫緊の必要性が強調されるなど、安全保障に関連する非軍事分野の協力が進んでいます。(注1、(注2、(注5

日米豪印の間で進む2国間・多国間の連携

QUADは日米豪印4か国による連携であると同時に、4か国の中で2国間、多国間の協力も含んでいます。近年、インド太平洋地域において進んでいる多層・重層的な協力関係が、QUADの安全保障協力の取組みを支えているのです。例えば、日豪は15年ぶりとなる「安全保障協力に関する日豪共同宣言」を2022年10月に発表しました。また、東京で開催されたQUAD首脳会合の前日にあたる2022年5月23日には、インド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足が発表されています。(注6

連携強化が続く背景

QUAD1.0当時を振り返ると、特に豪州やインドは中国の反感を買うことを避ける傾向がありました。しかしその後、インドは中印国境地帯での衝突を経験したり、豪州は中国からの経済的威圧や内政干渉の疑いを持っています。そのため、現在は中国に対する脅威認識が日米豪印である程度一致しており、QUADを強化していく方針です。

インドは存在感が増すグローバルサウスの1国であり、経済面や安全保障面においてその重要性はますます高まっています。そのため、インドは日米豪にとって重要なパートナーとして位置づけられています。(注3

QUAD協力体制の課題や限界

実践的な分野をメインとする連携強化は続いているものの、軍事の安全保障においては日米豪印は決して一枚岩のグループではありません。インドと日米豪の間には、課題の設定や安全保障協力の手段をめぐるギャップが存在します。現在は、自律性を重要視する戦略文化が根強いインドの姿勢を尊重し、強い圧力をかけないような外交が展開されています。

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日本企業にとってのQUAD(日米豪印)の注目点

QUADは、インド太平洋地域における協力メカニズムの1つです。日本企業は、QUADを主導する日米と中国の関係が、今後どう進展していくかを冷静に注視していく必要があります。また、共同公募による研究支援の行方もチェックするようにしましょう。

まとめ:「ネットワークの力」による建設的な役割に注目

2007年8月、インド国会にて安倍晋三首相(当時)が「日本とインドが結びつくことによって、『拡大アジア』は米国や豪州を巻き込み、太平洋全域にまで及ぶ広大なネットワークへと成長するでしょう」と演説の中で言及しました。QUADをはじめとする重層的なネットワークは、インド太平洋の安全保障協力において建設的なシナジー効果を生むことが今後期待されます。


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参考資料

注1:日米豪印|外務省

注2:日米豪印(QUAD)|首相官邸

注3:大国間競争のなかで復活したQUAD|防衛研究所

注4:自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific)|外務省

注5:Advancing Innovationに関する日米豪印(QUAD)科学技術協力(AI-ENGAGE)|内閣府
注6:インド太平洋の新しいリージョナル・アーキテクチャー|日本国際問題研究所

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