関税の削減や撤廃など、特恵税率の適用を受けるためには、必要書類を準備して税関で適切に手続きをする必要があります。また、産品の原産性に疑義があると、輸入国側の税関から原産性確認のための情報を書面あるいは訪問によって求められるため、資料の保存も必要です。
本記事では、CPTPPの特恵税率適用を要求する際の必要書類や、その保存ルールについて解説します。また複数のEPAのうち、どれを適用するかをスムーズに判断できる「ONESOURCE FTA Analyzer」についても紹介するので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
CPTPP協定利用時に税関に提出する必要書類
CPTPPでは、特恵税率の適用を求める手続きとして自己申告制度のみが採用されています。CPTPP協定の条文では、自己申告制度において使用される原産品申告書は「原産地証明書」と表記されています。
CPTPPを利用して日本で輸入申告をする場合に、税関に提出する必要書類は次の通りです。
- 原産品申告書
- 原産品申告明細書と明細書に記載した説明内容を確認できる書類
原産品申告書とは、輸入者、輸出者または生産者が、産品がCPTPP協定上の原産品であると申告する書類です。一方、原産品申告明細書とは、産品がCPTPP協定上の原産品であることを明らかにする書類となります。なおNACCSを利用して電子的に提出できることから、原本の提出は不要です。(注1、注2
必要書類の提出を省略できる場合
原産品申告書の提出を省略できるケースは、次の通りです。
- 課税価格の総額が20万円以下
明細書等の提出を省略できるケースは、次の通りです。
- 文書による事前教示を取得済み
- 鉱物等の一次産品であり、通関関係書類によりCPTPPの完全生産品であることが確認可能
- 課税価格の総額が20万円以下
(注3
原産地証明書を作成する際に負う義務
CPTPP協定では、原産地証明書を作成する輸入者、輸出者、生産者は、どのような義務を負うかが示されています。ここでは、それぞれの義務について見ていきましょう。なお義務の解説では、便宜的に「原産地証明書」を使用しています。
輸入者の義務
輸入者は、産品が原産品であることを申告し、申告時には有効な原産地証明書を所持する義務があります。「輸入国」税関の要求に応じて、原産地証明書の写し、運送書類や税関の書類なども提出することが必要です。申告の誤りは、輸入国税関が発見する前であれば、自発的に申告内容を修正して関税を納めた場合罰則に問われません。
輸出者・生産者の義務
輸出者、あるいは生産者が原産地証明書を作成するケースでは、「輸出国」の要求に応じて原産地証明書の写しを提出しなければいけません。原産地証明書の作成者である輸出者あるいは生産者は、作成した証明書に不正確な情報を発見した際には、書面で速やかに通知を行う義務があります。通知先は、原産地証明書を提出した全ての当事者とCPTPP域内国です。(注4
広域FTA/EPAの利用時には、サプライチェーンを介した原産性を論理的に証明するほか、検認リスクへの対応を万全にしておく必要があります。
FTAを戦略的に活用する方法や貿易リスクの管理方法について、詳しく解説したトムソン・ロイター主催のオンデマンドウェビナーが下記リンクからご覧いただけます。
原産地証明書の記載事項9つのポイント
必要的記載事項は、FTA/EPAごとに異なります(協定附属書3-B)。ここでは、原産地申告書に記載すべき9つのポイントについて見ていきましょう。
- 証明者は誰か
- 証明者の情報
- 輸出者 (証明者ではない場合) の情報
- 生産者 (証明者あるいは輸出者ではない場合) の情報
- 輸入者 (判明している場合) の情報
- 産品の品名及びHSコード(6桁、HS2012)
- 適用する原産性の基準(WO、PE、PSR)、適用するその他の原産性の基準(DMI、ACU)
- 包括的な期間(同一の産品が複数回輸入される場合)
- 署名と日付、宣誓文
CPTPPを利用するにあたり、原産品申告書を作成する輸出者あるいは生産者は、輸出締約国に所在している必要があります。日本への輸入にあたり、輸入者が原産品申告書を作成する場合は日本語で作成できるほか、通関業者が作成することも可能です。
税関では様式見本「税関様式C第5292号-3」を公開しているので、利用することも検討しましょう。ちなみに原産品申告明細書の様式見本は「税関様式C第5293号」です。
(注1、(注2、(注4
原産地証明書の根拠資料の例
原産地証明書の根拠資料は、適用する原産地基準に応じて異なります。論理的に原産性を説明できるように、必要書類を準備することが大切です。ここでは、原産品申告明細書に記載した説明を裏付ける根拠資料の例を下記にまとめました。
| 適用するCPTPP原産地基準 | 原産品申告明細書に記載した説明内容を確認できる書類 |
|---|---|
| 完全生産品 | 契約書、生産証明書、製造証明書、漁獲証明書等 |
| 原産材料のみから完全に生産された産品 | 契約書、総部品表、製造工程フロー図、生産指図書、各材料・部品の投入記録、製造原価計算書、仕入書、価格表等 |
| 品目別原産地規則を満たす産品 | 【関税分類変更基準を適用する場合】総部品表、材料一覧表、製造工程フロー図、生産指図書等 |
| 【付加価値基準を適用する場合】製造原価計算書、仕入帳、伝票、請求書、支払記録、仕入書、価格表等 | |
| 【加工工程基準を適用する場合】契約書、製造工程フロー図、生産指図書、生産内容証明書等 | |
| その他の原産性の基準を適用する場合 | 原材料の締約国原産地証明書等、製造原価計算書、その他輸入しようとする産品が協定に規定する原産性の基準を満たしていることを示すために必要となる事実を記載した資料 |
出典:「自己申告制度」利用の手引き~CPTPP~(2024年7月)|財務省関税局・税関
JETROの解説書も参考になります。関税分類変更基準を適用する場合のHSコードの対比表、付加価値基準を適用する場合の計算ワークシート、原産材料であることを示すサプライヤーの宣誓書の例などが紹介されているので参考にしてください。(注4
必要書類の保存ルール
ここでは、特恵税率の適用のために準備した必要書類の保存ルールを下記にまとめました。
| ルールの項目 | ルールの概要 |
|---|---|
| 保存書類 | 輸入者:原産地証明書を含む特恵関税を適用した輸入に関する文書原産地証明書を作成した事業者:当該産品が原産品であることを示すために必要なすべての記録資料 |
| 保存期間 | 原産地証明書の作成から少なくとも5年間※作成者ではない輸入者は、輸入日から起算すること |
| 保存方法 | 紙、電子的媒体、光学的媒体、磁気的媒体など速やかに取り出せる状態 |
出典:TPP11解説書|日本貿易振興機構
まとめ:デジタル化で競争優位性と貿易コンプライアンスを確保
CPTPPは、関税の撤廃など自由化の度合いが高い一方で、特恵税率の適用を要求する際には的確な対応が必要です。証明に誤りがあると、輸入者に関税削減相当額とペナルティが課せられるため、輸出者は輸入者から損害賠償を請求されるリスクがあります。検認リスクを避け、競争優位性と貿易コンプライアンスを確保するためにも貿易実務のデジタル化がおすすめです。
ONESOURCE FTA Analyzer
EPA/FTAは、最適なサプライチェーンの再構築に使える戦略的なツールです。しかし、複数ある中からどれを適用するかを見極めることは容易ではありません。そこでONESOURCE FTA Analyzerの利用がおすすめです。詳しくは、下記リンクよりご覧ください。
参考資料
注1:「自己申告制度」利用の手引き~CPTPP~|財務省関税局
注2:TPP11(CPTPP)及び日EU・EPA原産地規則について【実務編】(2019年4月)|東京税関
注3:TPP11(CPTPP)原産地規則について(2018年11月・12月)|財務省関税局・税関
注4:TPP11解説書|日本貿易振興機構