CPTPPは、関税撤廃の水準が高いことから活用を検討している日本企業も多いことでしょう。もともとTPP協定として締結されていましたが、2017年1月に米国が離脱を宣言した後、残った参加国が新たに協定を締結し、それがCPTPP(TPP11)として発効しました。
本記事ではCPTPPとは何か、そのメリットやCPTPP税率の適用を受ける流れについて解説します。また自社にとって最適なFTAを判断する際に役立つ「ONESOURCE FTA Analyzer」についても紹介しますので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
CPTPPとは
CPTPPとは、米国がTPP協定からの離脱を宣言した後、残った参加国が新たに協定を締結して発効したもので、TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)とも呼ばれます。世界のGDPに占めるCPTPP参加国のシェアは、約13.5%です。
2016年11月に署名されたTPP協定は、環太平洋でモノの関税はもちろん、サービス、投資の分野においても自由化を進めることを目的としたものでした。さらには電子商取引、知的財産、政府調達、国有企業、衛生植物防疫措置など、ルールの面でも21世紀型の高度な内容を特徴とする経済連携協定です。
2017年1月、TPP協定からの離脱を米国が宣言したために、日本で3回の交渉を行うなど日本政府が強いイニシアチブを発揮し、同協定の内容を実現するCPTPP協定の署名式が2018年3月、チリにおいて行われました。(注1(注2
TPPの戦略的意義
CPTPPの特徴を把握するためにも、TPP協定の根底に流れる戦略的意義を2つご紹介します。まず1つ目は、WTOの枠組み外で高度な経済連携協定を締結し、それに適合できる国や地域のみを受け入れて同志国連合を形成することです。これにより、時代の変化に応じて通商ルールをアップデートしていく体制を構築します。
2つ目は、参加国が高度な通商ルールを遵守することによって法的安定性および予見可能性を高めて貿易関係を強化し、普遍的な価値を共有する国や地域の輪を拡大していくことです。(注3
CPTPP発効および新規加入の状況
2018年12月、日本、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、豪州の計6か国において発効した後、2023年7月までに残りのベトナム、ペルー、マレーシア、チリ、ブルネイの計5か国においても発効済みです。さらに、2024年12月には英国においても発効しました。
さらに以下の国や地域が、CPTPPに加入要請を通報しています。
- 中国(2021年9月)
- 台湾(2021年9月)
- エクアドル(2021年12月)
- コスタリカ(2022年8月)
- ウルグアイ(2022年12月)
- ウクライナ(2023年5月)
- インドネシア(2024年9月)
上記のうち、コスタリカが2024年11月よりCPTPP加盟に向けた交渉を開始しています。
CPTPPの加入プロセスによると、新規加入を希望する国や地域は、加入手続の開始にあたり全メンバーのコンセンサスが必要となります。さらに市場アクセス、ルール両面でCPTPP協定の高い水準の遵守が求められます。そのため、加入を希望する国や地域は自国の実績と意思が問われるのです。(注4
CPTPP協定の構成
CPTPP協定は、わずか7条からなる短い協定です。ただしTPP協定を基礎としているために、TPP協定が第1条に組み込まれた構成になっています。関税障壁の削減・撤廃などの実質的な内容は、TPP協定をほぼ踏襲したものです。一方、加盟・脱退・発効などの運用に関する規定については、CPTPP独自の条項が設けられています。(注5(注6
CPTPP発効によるメリットとは
ここでは、CPTPP協定が発効したことで享受できるメリットを5つご紹介します。
1.自由化水準が高いために、市場アクセスが拡大する
CPTPPは、ほぼすべての財に係る関税を撤廃することを全ての参加国が約束するなど、開放度が極めて高い貿易協定です。日本からの輸出について見ると、工業製品、農林水産品ともに8~9割以上の品目が、「関税の即時撤廃」の対象となっています。
さらに物品貿易以外のサービス、投資、政府調達においても、CPTPP参加国はWTOや他のFTAにおける自由化水準を上回る高いレベルでの自由化を約束しています。この市場アクセスの拡大によって、日本企業の事業機会は増加し、日本経済の活性化が期待されています。(注7
2.国境を越えた人、モノ、資本の移動が活発化する
多くの日本企業が進出するアジア太平洋地域の国々が参加するCPTPPにおいては、高い自由化や通商ルールの整備によってグローバルな企業活動の円滑化が図られています。CPTPPは日本企業のバリューチェーン全体を網羅しており、国境を越えた人、モノ、資本の移動が活発化することが期待されています。
例えば、輸出入許可手続きの透明化や通関手続きの迅速化が進められています。さらに製品の加工が域内の複数国にまたがる場合に、各生産国での付加価値を累積した上で原産性が判断されることから、特恵関税の適用を受けやすい点もCPTPPのメリットです。(注7
3.サービスや投資に関する規制緩和により、海外進出が加速する
CPTPPでは、サービスや投資に関する規制の緩和や透明性の向上が図られています。これにより海外進出への障壁がなくなることから、例えば日本のコンビニエンス・ストアのベトナムやマレーシアへの進出が加速する可能性があります。また2か国間のEPAでも解放されていなかったベトナム、マレーシア、ブルネイの政府調達市場も開放されることから、インフラ輸出などの効果も期待されています。(注5(注8
4.電子商取引の高水準な自由化により、海外での競争力強化につながる
CPTPPでは電子商取引(Eコマース)において、世界的に見ても高いレベルの自由化を目指すルールが設けられました。具体的には、企業による事業実施の目的であれば、国を越えた個人情報を含むデータ移転の自由が認められるようになったのです。
またEコマースを利用して締約国に販売する際に、サーバーなどのコンピューター関連設備を外国に用意することが求められなくなりました。さらにソースコード開示要求が禁止されたことから、必要以上に機密情報の開示を求められることがなくなりました。これらの電子商取引の自由化は、日本企業の海外での競争力強化につながるとして期待されています。(注5
5.知財の保護強化により、権利侵害の軽減やブランド化促進が可能になる
CPTPPでは、不正な商標商品や著作権侵害物品の輸出入の差止めなどの権限が各国の当局に与えられました。その結果、日本企業の商標や著作物の侵害被害の軽減が期待されています。さらにCPTPPでは、GIと呼ばれる地理的表示も保護・認定されることから、日本の農林水産物・食品・酒類のブランド化が促進され、結果として輸出拡大につながるとして期待されているのです。
ONESOURCE Denied Party Screeningは、既存の企業内システム(ERP・CRM・SRM)とデータを共有しながら、ビジネスパートナーの安全性を検証することができます。既存のERP・CRM・SRMと一体化も可能であり、データベースへ新規顧客・サプライヤーを追加、既存データを変更する度に、スクリーニングプロセスが自動的に起動します。
ONESOURCE Denied Party Screeningのデモ・トライアルについては、以下リンクからお問い合わせいただけます。
ONESOURCE Denied Party Screening
TPP11税率適用までの流れ
ここでは、CPTPPの特恵関税率(以下、TPP11税率)の適用を受けるまでの流れについて簡単にご紹介します。まず最初に、自社が輸出する品目を特定した上で、輸出相手国側で適用されるTPP11 税率を下記の手順で調べましょう。
- 輸出する品目のHSコードを特定する
- 関税率を調べる
CPTPP協定における品目分類で採用されているのは、HS2012です。MFN税率や他のEPA税率と比べて、TPP11税率が最も低いことが確認できたら原産地規則を確認します。CPTPPでは、輸出者(生産者)または輸入者自らが原産地証明書を作成する「自己申告制度」を採用しているために、国による認定は不要です。
- CPTPPの原産地規則を満たしているか確認する
- 原産資格があると判断したら原産地証明書を準備する
複数国間でシームレスな輸出入を実現するためには、品目分類データの一元化をおすすめします。ONESOURCE Global Classificationを導入し、HSコード管理の課題を解決した事例については、下記リンクをご覧ください。
まとめ:CPTPPの利用は輸出拡大に向けた施策として有効
CPTPPは関税の撤廃など物品貿易における自由化の水準が高く、サービスや投資に関する規制緩和が行われている経済連携協定です。アジア・太平洋地域において輸出拡大を目指す日本企業にとって、CPTPPの利用は有効な施策と言えます。
ONESOURCE FTA Analyzer
サプライチェーンの多様化に取り組むにあたり、関税戦略の最適化や見直しには膨大な労力とデータを必要とします。コスト削減の機会を効率よく見極めるには、意思決定・分析ツールの利用がおすすめです。
最も有利な費用対効果をもたらすEPA/FTAを判断できるレポートを提供するONESOURCE FTA Analyzerについて、詳しくは下記リンクからご覧ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
参考資料
注1:環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉|外務省
注2:TPP11について|内閣官房
注3:通商戦略の再構築 CPTPPとその先へ|アジア・パシフィック・イニシアティブ
注4:CPTPPの加入手続|内閣官房
注5:TPP11解説書|日本貿易振興機構
注6:CPTPP への新規加盟 ―英国、中国、台湾の加盟申請を中心に―|国立国会図書館
注7:第3章 グローバル化が進む中での日本経済の課題 第2節|内閣府
注8:TPP11とASEANの貿易、投資、産業への影響|国際貿易投資研究所