国際的な安全保障を巡る環境が急速に変化しているほか、民生技術の高度化に伴い、ハイレベルな技術水準で知られる日本製の汎用品あるいは汎用技術が軍事転用されるリスクが増大しています。そのため各企業は、企業防衛の観点から輸出管理をより一層厳正に行う必要に迫られているのです。
そこで本記事では、グローバル企業の本社が仲介者となるケースが多く見られる仲介貿易取引の概要と、それに係る輸出管理上の規制について解説します。今、求められる安全保障貿易管理DXに役立つONESOURCE Export Complianceについても紹介しますので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
そもそも仲介貿易取引とは
仲介貿易取引とは、外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)第25条第4項に規定される「外国相互間の貨物の移動を伴う貨物の売買、貸借又は贈与に関する取引」のことです。取引の内容等に応じて、経済産業大臣の許可が必要となる場合があります。例えば、A国とB国間のモノの取引を第三国である日本に所在するC社が仲介する貿易形態がこれに当たります。国際貿易の現場では、グローバル企業の本社(C社)が仲介する三国間貿易が多く見られます。(注1
東南アジア子会社工場の製品を米国客先に販売するケース、海外の現地法人間で取引するケース、第三国から仕入れた材料を別の国に所在する現地法人へ移動するケースなどに利用されているのです。実際には、ビジネスにおいて使用される「三国間貿易」という名称のほうが、広く知られているでしょう。なお日本では、仲介貿易取引そのものは原則自由とされています。
仲介貿易取引が行われる理由
手間のかかる仲介貿易取引が選ばれる理由は、主に2つのメリットが見込めるからです。上述の例をもとに、仲介貿易取引のメリットについて見ていきましょう。
まず1つ目は、仲介者であるC社が決済を行うことから、決済及びモノの授受ができないリスクをA国、B国双方において軽減できる点です。具体的には海外子会社に国際貿易を行う体制が整っていないケースや、C社に買主と取引実績をもとに信頼関係が構築されているケースなどが考えられるでしょう。
2つ目は、仲介者であるC社にとってのメリットです。仲介貿易取引はA国、B国間の海外取引であるために、消費税がかかりません。
仲介貿易取引の留意点
売主と仲介者、買主と仲介者という2つの商流が生まれることから、「営業秘密情報」の秘匿及び管理は仲介貿易取引において特に留意すべき点です。仕入れや販売に伴う価格情報が買主に伝わらないように、仲介者マージンを得る仲介者は情報を厳しく管理しなくてはなりません。商業送り状や原産地証明書などの貿易書類には、営業秘密情報が記載されています。子会社から入手した書類をそのまま買主に送付しないよう、本社で切り替えなどの対処が必要です。
また2009年11月1日施行の外為法改正によって、仲介貿易取引の規制対象範囲の見直しが実施されました。輸出管理の規制は強化される傾向にあるために、日頃から情報収集を欠かさないようにしましょう。(注2
コンプライアンスの向上とコスト削減を実現する安全保障貿易管理システム/ソリューションの重要性については「安全保障貿易管理システム/ソリューションの重要性とは?規制強化への対応が必須」からご覧ください。
輸出管理で注意すべき仲介貿易取引規制
2009年11月1日施行の外為法改正では、仲介貿易取引の規制対象範囲が拡大されたほか、技術の仲介行為についても新たに規制対象となりました。これらを踏まえて、ここでは仲介貿易取引(三国間貿易)にあたり、輸出管理で注意すべき規制について見ていきましょう。(注3
【貨物】仲介貿易取引規制の対象となる取引の範囲
貨物の仲介貿易取引については、もともと貨物の売買に関するものが規制の対象でした。しかし上述の外為法改正によって規制が強化され「貨物の売買、貸借又は贈与に関するもの」へと規制対象が拡大されたのです(外為法第25条4項を新設)。
外為法第25条4項にある「外国相互間の貨物の移動」で規定され、規制を受ける「貨物」とは、食料品や木材以外の全てと考えておくと良いでしょう。下記の通り、輸出貿易管理令別表第1に従い、経済産業大臣への許可申請の有無が異なります。
| 規制の対象となる貨物 | 条件 | 仲介貿易取引許可の有無 |
|---|---|---|
| 武器(輸出貿易管理令別表第1の1の項) | 船積地域と仕向地:全ての国・地域 | 必要 |
| その他の貨物(武器以外) | 船積地域と仕向地のいずれもが「輸出令別表第3の地域」を除く全ての国・地域、かつ「その他の要件」1)、2)のいずれかに該当する場合 | 必要 |
| 1)大量破壊兵器の開発等に用いられる旨の記載のある文書等を受け取ったとき、又は、連絡を受けたとき | ||
| 2)経済産業大臣から許可申請が必要である旨の通知(インフォーム)を受けたとき | ||
| 3)1)、2)のいずれにも該当しない | 不要 |
出典:仲介貿易・技術取引規制|経済産業省
なお「輸出令別表第3の地域」とは、通称グループA(旧ホワイト国)のことです。大量破壊兵器等に関する条約に加盟し、国際輸出管理レジームに全て参加した上で国内の輸出管理制度を整備・運用している国を指します。例えば、その他の貨物(武器以外)で船積地域がタイ、仕向地がアメリカとなる仲介貿易取引は、仕向地がグループAとなるために許可は不要です。(注4
【技術】仲介貿易取引規制の対象となる取引の範囲
技術についても、貨物の仲介貿易取引と同じ要件で仲介取引が規制されています。2009年11月1日施行の外為法改正では、技術取引規制の見直しによって外為法25条第1項の見直し、及び第3項が新設されました。これに伴い、技術の仲介行為については、改正外為法25条1項の「特定の外国において提供することを目的とする取引」に含まれると考えられています。
改正前は、居住者から非居住者に対する技術提供が規制対象でした。改正後は、誰であっても、外国に向けて技術を提供する場合は規制対象となったほか、技術提供を目的として国外に技術を持ち出すこと自体が規制の対象に加わりました。
貿易外省令第9条第2項は、許可例外の役務取引等が列挙された規定です。中でも貿易外省令9条2項5号、6号で、技術の仲介取引について規定されています。日本を経由せずに客先に提供される技術取引(外国間等技術取引)として、「ただし」以下に許可が必要な場合が示されているのでチェックしておきましょう。(注4
ケース別|仲介貿易取引許可の有無と輸出管理上の留意点
仲介貿易取引の許可申請は、仲介貿易取引を行おうとする居住者本人が行います。海外支店が仲介貿易取引に関わる場合は、基本的には本店が申請者となりますが、本店に代わって海外支店が申請を行うことも可能です。
外為法第25条第4項に示された「外国相互間の移動」は、異なる国の間の移動のことです。中華人民共和国、香港、マカオはそれぞれ「外国」扱いとなり、同一国とならない点に留意してください。また移動の途中に、日本で積み替えのみ行う場合も「外国相互間の移動」として扱われます。なお仲介貿易取引規制において、少額特例は適用できません(輸出貿易管理令第4条第1項第4号)。(注5
ここでは日本国内の企業が契約当事者になるケース別に、経済産業大臣の許可を受けずに輸出可能かどうか見ていきましょう。(注6
「売り契約」「買い契約」双方の当事者
A国からB国への貨物の移動において、日本国内の企業が「売り契約」「買い契約」双方の当事者になる場合(三者間契約も含む)、前述の表の「その他の要件」に該当すれば許可が必要となります。
外国間の売買の契約を取り次ぐ
A国からB国への貨物の移動において、日本国内の企業が契約の取り次ぎを行う場合には仲介貿易取引許可は不要です。
「売り契約」「買い契約」のうち一方の相手方が日本国内企業
A国からB国への貨物の移動において、日本国内のC社が買い契約の、また日本国内のD社が売り契約の当事者である場合には仲介貿易取引許可は不要です。
海外支店が「売り契約」「買い契約」双方の当事者
A国からB国への貨物の移動において、日本国内のC社の海外支店が「売り契約」「買い契約」双方の当事者になる場合、前述の表の「その他の要件」に該当すれば許可が必要となります。
海外現地法人が「売り契約」「買い契約」双方の当事者
A国からB国への貨物の移動において、日本国内のC社の海外現地法人が「売り契約」「買い契約」双方の当事者になる場合には仲介貿易取引許可は不要です。
仲介貿易ではより一層の注意が必要
仲介貿易においては、日本を経由せずに客先へ輸送される貨物であっても、日本の安全保障貿易管理の対象です。経済産業大臣の事前許可が必要なケースに該当する場合には、三者間契約を締結する前に許可が必要となるので注意しましょう。営業秘密情報の秘匿に特に注意を払いながら、貿易書類を取り扱うよう留意が必要です。
ONESOURCE Export Compliance
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参考資料
注1:外国為替及び外国貿易法第25条第4項の規定に基づき許可を要する外国相互間の貨物の移 動を伴う取引について|経済産業省
注2:外国為替及び外国貿易法の一部改正について|経済産業省
注3:科学技術と輸出管理(経済産業省・平成22年3月)|文部科学省
注4:仲介貿易・技術取引規制|経済産業省
注5:仲介貿易取引規制について|経済産業省
注6:仲介貿易取引規制|経済産業省