暗号通貨マイニングの環境への影響:5つの質問 

暗号通貨のマイニング採掘は、環境に悪影響を及ぼすのでしょうか?この新たな状況を探るため、トムソン・ロイター専属テクノロジストに尋ねました。 

現在、ビジネスや金融の世界では、暗号通貨とESG(環境、社会、企業統治)の2つがホットワードになっていますが、この2つに相互関係があるのでしょうか。つまり、暗号通貨は環境によい影響があるのでしょうか。あるいは、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)で明示された気候変動目標の達成を脅かす存在なのでしょうか。 

暗号通貨にいち早く注目したトムソン・ロイターのテクノロジスト&フューチャリスト、ジョセフ・ラジンスキーが、暗号通貨マイニング、環境に対する負荷、今後の持続可能性について語ります。

Q1:暗号通貨マイニングとは何でしょうか。 

暗号通貨をマイニングする従来の行為は、高性能なコンピュータで、最も早く数学的問題を解いた勝者が、ブロックチェーン(暗号資産の決済や送金の際の取引データを管理するために使われている技術)に新たな取引データを追加できるようにするものです。例えば、ビットコインの送金のような取引で、取引の承認・確認作業を行うということです。

コンピュータの処理能力とは、機材が熱くなることで実感できるように、プロセッサがデータを処理をするために懸命に働いているということです。マイニングは、暗号通貨のネイティブトークンを使って数学的パズルを解いた最初のコンピュータ、またはプールされたコンピュータのグループに金銭的な報酬を与える行為です。ビットコインの例では、世界中の10万台以上のノード(コンピュータ群)が競争を行い、勝利すると、チェーン上の次のブロックに取引のグループを追加する能力として6.25ビットコイン(現在の価値は約23万7500ドル)を獲得することができます。これはおよそ10分ごとに行われます。 

トムソン・ロイター テクノロジスト&フューチャリスト
ジョセフ・ラジンスキー

コードには、時間の経過とともに報酬が減少するよう組み込まれており、ビットコインの供給量は一定であるため、ある瞬間にどれだけのコンピュータが競争しているかによって、マイニングは時間の経過とともに難しくなります。このプロセスはプルーフ・オブ・ワークと呼ばれ、エネルギーを大量に消費します。一方、マイニングの別の形態をプルーフ・オブ・ステークと呼び、こちらは、はるかに効率的な方法です。 

Q2: 暗号通貨は環境にどれだけの負担をかけているのでしょうか。 

これは非常に微妙で、意見の分かれる問題です。私は、2011年からこの分野に携わっているため、時系列的背景から議論の両面を把握し、環境への負荷に関する実態を抽出できると考えています。プルーフ・オブ・ワークは、報酬を得るためにその数学的問題を解くのに多くの電力を使うので、本質的に非効率です。つまり、そういった意味で環境的に健全ではありません。 

マイニングにとってエネルギー消費は、マイニングリグとも呼ばれる高速コンピュータやプロセッサなどのハードウェア投資の後に発生する主な経費です。そこでマイナー(マイニングで利益を得る者)は、世界で最も安くマイニングリグを電力網に接続できる場所を探します。太陽光発電、風力発電、水力発電などの自然エネルギーの可能性さえも追求し、従来は廃棄物として焼却されていた天然ガスを利用しています。 

このように、クリーンエネルギーの利用は進んでいますが、すべての暗号通貨マイナーが利用しているわけではありません。プルーフ・オブ・ワークが環境にとって負荷がかかることは疑いようがありませんが、一部で言われているほど破滅的なものではないということです。そして、無形の効果として、マイニングによるエネルギー消費と環境への影響を、暗号通貨という新たな巨大産業が生み出した利益と協調させることもできるでしょう。テクノロジーの面においては、インターネットという誰もが活用できる価値を作り出したので、コスト面でのメリットも打ち出されています。 

Q3: マイナーによる環境への影響を軽減することは可能でしょうか? 

環境への影響について、1つ良い面があるとすれば、クリプトマイナーは、基本的に新規参入者であるという点です。銀行、法務、保険、サプライチェーン、その他あらゆる取引ビジネスに携わる企業の取引は、ブロックチェーンに置き換わる可能性があります。その結果、従来の企業取引による物理的・環境的な影響は、ブロックチェーンへの移行によりすべて刷新される可能性があります。オフィスビルの建設や運営に使われる電力、移動する労働者、使用するガスや石油、必要な材料、その他あらゆる組み合わせで、そのような企業が環境に与えるエネルギーや環境への影響を考えてみてください 。それは、その目的を果たす下支えとなる技術によって削減できるはずです。最終的には、プルーフ・オブ・ステークがこの環境問題を解決しますが、プルーフ・オブ・ワークは、減少する形で存続していくものだと思われます。 

Q4:  暗号通貨の一つであるイーサリアムは、プルーフ・オブ・ステーク・プロセスへの移行により、今年中にエネルギー使用量の100%近くを削減したいと述べています。暗号通貨がどのようにプルーフ・オブ・ステークを使えば、よりサステナブルになるのでしょうか。 

電力問題、ひいては環境問題を大幅に解決する素晴らしい取り組みが進行中です。業界を主導するブロックチェーンであるイーサリアム、ソラナ、アバランチ、コスモスなどは、プルーフ・オブ・ステーク、つまりデジタル台帳に取引を確認し追加するためのメカニズムを利用しています。

プルーフ・オブ・ステークにはさまざまな種類がありますが、例えば、暗号通貨マイナーとして新規参入する場合、数学的な競争に勝つために処理能力を使うわけではありません。その代わりに、各人がお金、つまりステーク(賭け金)を出して参加し、ユーザーは、ネットワークの回復力を強化するスマートコントラクトに資金をロックすることで、ステークに対して7%から1,000%の利益を得ることを望んでいるのです。出資額が多ければ多いほど、ネットワーク効果や安全性が高まるというインセンティブが働きます。 

現在、このような高金利が見込めることから、数百億円の資金をステーキングに回しています。参加者のうち、実際にブロックチェーンに最新の取引バッチを保存するのは誰なのかは、コードで決められています。悪意ある者が台帳に情報を保存するなどして、ブロックをひっくり返したり、変更しようとしないようバリアがあります。ネットワークを混乱させようとすると、切り崩され、出資金が没収される可能性があるのです。電力を使わないプルーフ・オブ・ステークへの移行により、マイニングの電力消費を99%以上削減することが期待されています。イーサリアムは2022年にこの方式にアップグレードされるはずで、それだけで環境負荷が軽減されます。 

Q5: 暗号通貨のマイニングや取引は、実際に気候変動に寄与しているのでしょうか? 

世界で最も利用されているブロックチェーンであるイーサリアムでプルーフ・オブ・ワークが続いていれば、たしかに暗号通貨マイニングは時間とともに気候変動に悪影響を与える可能性がありました。しかし、プルーフ・オブ・ステークモデルのイーサリアム2.0(ETH2)へのアップグレードは、これを劇的に変化させるでしょう。 


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