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RCEP協定の問題点や日本企業に与える影響とは?活用時の注意点を解説      


中国と韓国という東アジアの大きな市場を網羅するRCEP協定の誕生は、日本のFTA・EPAの歴史において大きな意味を持つ出来事です。RCEP協定は日本企業にどのような影響を与えるのでしょうか。

本記事ではRCEP協定発効が日本企業に与える影響や問題点を整理し、活用時の注意点を解説します。

企業がRCEPをはじめとするFTAの活用において、品目別の関税削減メリットを最大化することは容易ではありません。そこで効果的な意思決定に役立つ「ONESOURCE FTA Analyzer」についてもご紹介しますので、FTAの導入を検討中の担当者様は参考にしてください。

RCEP協定発効が日本企業に与える影響

RCEP協定は2020年11月、ASEANを含む15カ国によって署名されました。2022年1月1日、日本を含む10カ国において発効し、同年2月1日に韓国、同年3月18日にマレーシアにおいて発効しました。また、2023年1月2日にはインドネシア、同年6月2日にフィリピンにおいて発効しました。(注1

ミャンマーでは不透明な政治情勢が続いており、同国の政治的危機への対処に懸念を抱く加盟国が存在します。そのため、ミャンマーにおけるRCEP協定の発効については加盟国によって対応が分かれている状態です。(注2

上記を踏まえると、RCEP協定はミャンマーを除くすべての加盟国で発効していることになります。この発効が日本企業に与える影響は、大きく次の2つが考えられます。

1つめは、関税および貿易コストの削減が見込まれることから、大きな貿易創出効果を期待できる点です。近年ではたとえ中小企業であっても、海外市場への販路拡大の重要性が増しています。そのためRCEPのようなFTAの活用によって関税削減効果が高いことが確実であれば、今まで輸出をためらっていた中小企業がFTAの活用を決断することもあるでしょう。

2つめは、近年台頭している経済安全保障の観点から見たサプライチェーンの再編です。中国への過度の依存はリスキーであるために、RCEPを利用することでサプライチェーンの偏りを是正できるようになります。なおFTA(自由貿易協定)についての理解を深めたい方は、下記のリンク先をぜひご覧ください。

RCEP活用が進むと想定される理由


ここでは、数あるFTAの中でもとくにRCEP協定の活用が進むと想定される理由を2つ見ていきましょう。

1.原産地規則が使いやすい

1つめは、RCEPの原産地規則は使いやすく設計されている点です。実際にジェトロが2018年に実施した調査によると、「原産地規則を満たすための事務的負担」「輸出のたびに証明書発給申請が必要であり、手間」「品目ごとに原産地判定基準が異なり、煩雑」といった問題が企業から指摘されていました。(注3

しかしメガFTAにもかかわらずRCEPにおいては、域内における「原産地規則の統一」を実現しているのです。そのため異なる原産地規則が絡み合うこともなく、貿易実務の効率化やコストの低減が期待されています。(注4

2.貿易コスト削減効果を期待できる

2つめは、既存のFTAより利用を促すルールが設けられているために貿易コストの削減効果を期待できる点です。

新しく導入された「認定輸出者自己証明制度」によって証明手続きもビジネスフレンドリーになります。本制度は日本商工会議所が発給する「第三者証明制度」と輸出者自らが証明書を作成する「自己証明制度」に分けられます。自己証明制度は、認定を受けるための費用がかかりますが、発給コストの軽減や必要なタイミングで原産地証明書を作成できる点は大きなメリットです。

さらに原産地規則には「累積」規定も採用されています。もともと原産地規定の目的は、迂回行為の回避です。たとえば加盟国以外の国の非原産品が、加盟国で付加価値が低いごく簡単な工程を経て原産品となることは防止しなければなりません。

RCEPでは「域内原産比率が40%以上」などの累積規定を満たすことで、原産性が認められます。そのため域内で複数国にまたがるサプライチェーンにおいても、RCEPの特恵関税を享受しやすいのです。(注5

関連記事:RCEP協定発効がもたらすメリットとは?EPA税率適用の流れも解説

RCEP協定の問題点とは

ここではRCEP協定の問題点とは何か、利用時に注意すべき点とは何かについて見ていきましょう。

自社にとってベストな協定を選択することが重要

RCEP協定の利用はその経済規模、原産地規則のルール統一による企業の負担軽減、関税手続きの簡素化など多くのメリットがあります。しかしRCEPが自社にとってベストな協定かどうかは、調査してみなければ分かりません。

日本企業においては自社のサプライチェーン戦略を踏まえ、RCEP以外にも利用可能なFTAを含めて分析し、関税削減メリットを最大化できるFTAを選ぶ必要があります。自社の品目が協定上の利用条件を満たしているかなども含めて、ベストな協定を選択することが重要になるのです。

さらに近年では環境や人権などのコンプライアンス状況も、サプライチェーン戦略に影響を与えます。関税削減メリットはもちろん、環境や人権などの観点も踏まえて調達国や取引経路を選択・管理する必要性があるのです。

関税の引き下げが無条件で適用になるわけではない

関税引き下げのメリットを享受するためには、RCEP協定上の「原産品」として認められ、原産品としての資格を失っていないかを確認する「直接積送」などの基準を満たし、これらを証明する必要があります。(注6

品目(HSコード)ごとに原産地基準の適用が異なるために、まずは輸入相手国においてどのHSコードを適用するのかを確認した上で、求められる条件を確認することが大切です。他の協定と同様に、検認の結果、関税の減免を受けた品目が実際にはRCEP協定上の必要な条件を満たしていなかったとみなされると、マイナスの影響が発生するために注意が必要となります。

商品分類検索や製品分類の決定・維持にかかる手間や時間を軽減するには、自動化ツールの利用が効果的です。HSコード分類ソフトウェアについては、下記のリンク先から詳細をご覧いただけます。

関税の段階的削減のスピードが遅め

近年では経済安全保障の論理が台頭しているために、効率とリスク回避の均衡点を見つける目的でRCEPを活用したサプライチェーンの再構築が注目されています。ただしRCEPの問題点として、最終年に至るまでの段階的な関税削減スピードが遅いという特徴を押さえておきましょう。

この問題点のために、RCEP協定の利用をためらう企業が出てくる可能性が高い点が懸念されています。(注7

自由化、円滑化、ルールの点では見劣りする

CPTPPやAFTA(ASEAN自由貿易地域)などと比べると、RCEPは自由化、円滑化、ルール整備の点で見劣りすることは否めません。

RCEP協定には、カンボジア、ラオス、ミャンマーといった後発開発途上国が参加しています。そのためRCEPは、これらの国々が参加することで域内経済格差の縮小という恩恵を享受できる協定を目指しているのです。実際にこれから開発を目指す国々が、高い自由化率を実現したり高いレベルのルールを実施したりすることは現実的ではありません。(注8

RCEPでは人権や環境などの価値は問われていない

CPTPPでは環境、労働、国有企業、規制の整合性などの分野のルールが整備されていますが、RCEPには盛り込まれていません。しかしアジアにおいては環境、人権問題や労働者の権利保護などの問題が顕在化しているのです。そのためルールの整備の網羅性が甘い点は、RCEP協定の問題点と言えるでしょう。(注8

この背景には、RCEPに後発開発途上国が参加している点が挙げられます。RCEP交渉当時に、「環境」「労働」はこれらの国々の足枷になることが懸念されたために、CPTPPと同等の包括的かつ高いレベルの規律を含めることができませんでした。(注9

一方、米国では2022年6月21日、「ウイグル強制労働防止法」が施行されています。中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区からの物品輸入を原則禁止する法令の影響で、知らずに同自治区で生産した部材や原材料を使った場合に、最終製品を米国に輸出できなくなるリスクが高いのです。そこで人権リスクについては、自社で回避する施策が必要になります。(注10

RCEPによって自社が受ける影響を検討することが重要

RCEPの発効により、日本企業はこれまでFTAを利用できなかった中国・韓国との貿易において、新たなサプライチェーンを構築する可能性が高まります。そこでRCEPによって受ける影響について、日本企業は十分に社内で検討する必要があるでしょう。

ONESOURCE FTA Analyzer

FTA・EPAを利用して関税削減の恩恵を享受するためには、複雑な事務手続きが発生することから、利用をためらう企業も多いのです。また貿易環境の変化に迅速に対応していくためには、継続的かつ膨大なリサーチが必要となります。

手作業のみで必要なタイミングで正確な情報を入手するのは非常に困難であるために、信頼性が高く、一元化および自動化されたFTA分析・管理プロセスを導入するのがおすすめです。 

ONESOURCE FTA Analyzerについて詳しくは、下記リンクよりご覧いただけます。


参考情報:

注1:外務省ほか 地域的な包括的経済連携(RCEP)協定

注2:日本貿易振興機構 タイ閣議でRCEP協定の進捗状況報告、ミャンマーでの発効は各国の判断に

注3:日本貿易振興機構 FTA利用が拡大するも、利用企業の多くが問題点を指摘

注4:国際貿易投資研究所(ITI)「RCEPの発効は日本に何をもたらすか」

注5:日本貿易振興機構 RCEP協定解説書

注6:日本貿易振興機構 RCEP協定利活用のための理解と手続き <輸出編>

注7:国際貿易投資研究所(ITI)中国は CPTPP の代わりに RCEP によるサプライチェーン戦略を打ち出すか

注8:国際貿易投資研究所(ITI)令和4年度 RCEPが日本企業のアジア大変での活動に与える影響調査 事業結果・報告書

注9:世界経済評論 RCEPはCPTPPより劣っているのか?

注10:日本貿易振興機構 ウイグル強制労働防止法

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