経産省が政省令改正案を公表 -キャッチオール規制の改正を含む安全保障貿易管理の強化-

引用元:[EY税理士法人-2025年2月6日掲載-ニュースレター]

1. 概要

経済産業省は2025年1月31日付で、外為法に関連する政省令の改正案を発表しました。今回の改正では、産業構造審議会・安全保障貿易管理小委員会の中間報告1(以下、「中間報告」)の内容を受けた改正が含まれています。特に、補完的輸出規制(以下、「キャッチオール規制」)の強化においては、HSコード2により対象貨物を指定した上で、それらの貨物の一般国向けの輸出において用途要件・需要者要件の確認を求めるものとなっており、従来のキャッチオール規制から大きく規制が強化されています。

経済産業省の発表によれば、今回の改正案発表と同時にパブリックコメントの募集が開始されており、キャッチオール規制の改正を含む政省令については2025年3月末頃に閣議決定・公布、以降6カ月後の9月末頃に施行される見通しです。

2. 政省令改正の内容

経産省の2025年1月31日付の発表では、別表に記載のある項目に対する政省令改正案が発表されています。

これらの改正項目の中でも、通常兵器のキャッチオール規制の見直しにおいては、

  • 懸念が高い品目を特定品目としてHSコードで指定される。これによって、企業において、輸出貨物に対する取引審査実施時までのHSコードの付番、製品品目別の適切なHSコード管理が求められる。
  • 一般国3に対しても、特定貨物の場合には需要者要件の確認が求められる。一般国向けの輸出取引に対しても、広く取引関係者の確認を行う必要がある。
  • 外国ユーザーリストに通常兵器の開発懸念に関する団体等の情報が追加される。懸念される需要者が増えることで、効率的な審査工程を整える必要がある。
  • 明らかガイドラインにおいて、米国輸出管理規制の「Red Flag」を参考に具体的な例示が追加される。追加された例示では、取引方から明確な情報の開示がない限りは懸念があるものと推定するとしていることから、企業の取引審査でも需要者に懸念がある場合の審査をより厳格に行う必要がある。

など、新たに法令上の確認事項が求められることで、多くの企業にとって影響を及ぼす可能性があります。

また、グループA国を経由した懸念対象者への迂回輸出防止を念頭に、グループA国向けでもインフォーム4要件が追加されます。企業でも自らの輸出取引における販売先・最終需要者、用途に関して、迂回輸出の観点から懸念がないか、留意して取引審査を進める必要性が高まります。

<外国為替令等の一部を改正する政令案等(補完的輸出規制等)>

項目 概要
(1)補完的輸出規制の見直し
 ① 通常兵器キャッチオール規制の見直し一般国向け:貨物輸出・技術提供の際に、懸念が高い品目(特定品目)として輸出令別表1に16項(1)を新設、輸出者に通常兵器開発における「用途要件」「需要者要件」の確認を求め、該当する場合には輸出許可を求める。国連武器禁輸国向け:貨物輸出・技術提供の際に、現在求められている、通常兵器開発における「用途要件」に加えて、新たに「需要者要件」を追加し、該当する場合に輸出許可を求める。用途要件の確認における明らかガイドラインについて、米国輸出管理規制におけるRed Flagを参考に、懸念判断における例示を追加する。
 ② グループA国経由での迂回対策グループA国向けの貨物輸出・技術提供の際に、懸念国等の迂回調達の懸念がある場合、インフォームを行うことができる。
(2)輸出管理に係る制度・運用の合理化
 ① チェックリストの見直し輸出管理内部規程(CP)の届出企業等が毎年提出する「輸出者等概要・自己管理チェックリスト(CL)」について簡素化を図り、一部を企業等の自主管理に委ねる。
 ② 外国軍隊の防衛装備の持ち帰りに係る手続の合理化自衛隊との合同訓練による外国軍隊の防衛装備品の持ち帰りについて、許可を不要とする。
(3)技術管理強化のための官民対話スキームに係る対象技術の追加「技術管理強化のための官民対話スキーム」について、安全保障上の観点から、特に流出リスクが高く、管理が重要と考えられる技術の提供に係る取引を、経済産業大臣への事前報告を求める対象として新たに追加する。

<外国為替令及び輸出貿易管理令の一部を改正する政令案等(重要・新興品目等)>

項目 概要
(1)重要・新興技術関連品目等に係る改正重要・新興技術の軍事転用防止を目的に、リスト規制の対象にワッセナー・アレンジメント等での議論で合意された重要・新興技術を加える。
(2)規制の合理化・適正化に係る改正
 ① 包括許可制度の見直し(合理化)包括許可の適用範囲を緩和する。
 ② 特定の品目に係る輸出管理の見直し(適正化)国際的な平和及び安全の維持の観点から、特定の貨物・技術の輸出管理を強化します。
 ③ 返品等に伴う輸出管理の見直し(合理化)特別返品等包括許可に係る申請者の要件を緩和する。また、貨物を製造元に返品する際の輸出許可申請において、要件を満たす場合は提出義務を一部緩和する。

3. 企業に求められる対応

2024年4月の中間報告では、デュアルユース技術の軍事転用リスクの拡大に対して、既存のリスト規制では対応が難しく、懸念される用途・需要者への輸出を規制する方向への転換が必要であることが言及されていました。今回のキャッチオール規制の強化を含む一連の改正案は、海外に対して貨物輸出・技術提供を行う企業にとっては、既存のリスト規制に対する輸出貨物・技術の管理に加えて、用途・需要者の管理も適切に対応していく必要があることを示唆しています。

今回の政省令改正を契機として、企業においては自社の輸出管理において以下の点について検討することが必要です。

  • 輸出管理の取引審査において、一般国向けに拡大して取引先デューデリジェンス(以下、「取引先DD」)を実施する。これまでと比較して、取引先DD対象者の拡大、また、懸念対象者の増大によって、取引先DDの負荷が高まることが予想されるため、必要に応じて外部データベースの活用やITソリューションによる自動化も検討する。
  • 需要者に懸念がある場合には、より慎重に明らかガイドラインに基づく取引審査を行う必要があることから、一定の懸念がある取引については社内の専門部署・責任者による重点的な審査や取引判断を実施する手順を検討する。一方で、社内で増大する工数・リソースも考慮し、リスクの度合いに応じた濃淡管理も検討する。
  • 懸念対象者への迂回輸出防止の観点から、自社の海外グループ企業が国内販売・輸出する場合のリスクに対しても対応が求められる方向性に向かう可能性があることから、現状、チェックリストでも求められているグループ会社管理を強化し、海外拠点における取引審査の強化、輸出管理ガバナンス体制の構築を検討する。

巻末注

  1. 中間報告の内容については、以下を参照のこと。
    経済産業省:産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会 中間報告(METI/経済産業省)
    解説は、2024年7月9日付EY Japan税務ニュース「安全保障貿易管理小委員会 中間報告 ~日本の輸出規制における方針転換~」を参照。
  2. HSコードとは、貨物の種類を全世界で統一的に定義するために、HS条約で定められる共通のコードのこと。税関への輸出・輸入申告の際に貨物のHSコードが求められる。
  3. 一般国とは、輸出貿易管理令の別表第3で定めるグループA国・国連武器禁輸国以外のこと。それぞれの国名は以下の通り。
    グループA国:輸出管理に関する国際的な条約や国際レジームに参加し、輸出管理を厳格に実施している国(以下27カ国)
    アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルグ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国
    国連武器禁輸国:アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン(10カ国)
  4. 経済産業大臣が輸出取引に対して一定の懸念があると判断した場合に、輸出者に対して輸出許可の申請を求める通知を行うこと。

キャッチオール規制改正案への対応

トムソン・ロイターの安全保障貿易管理ソリューション

今回の改正案では、通常兵器に関するキャッチオール規制を見直し、輸出者が安全保障上の懸念の高いリスト規制されていない汎用品を輸出する際、通常兵器の開発等に用いられる懸念が高いと自ら判断する場合には、経産大臣への許可申請を義務付ける制度の導入が検討されております。また、グループA国向けの輸出においても、懸念国等の迂回調達の懸念がある場合には、インフォーム制度が適用されることになります。

トムソン・ロイターの国際貿易管理ソリューション「ONESOURCE Global Trade」は、これらの新たな規制(案)に対して有効な以下の特長を有しています:

  1. 取引審査の自動化: 輸出品目や取引先の情報に基づく自動チェックにより、取引に関する輸出許可の要否を迅速に特定します。
  2. 最新の規制情報: 世界各国の規制情報を公開後すぐに更新し、貴社の輸出業務が常に最新の法令に準拠するようサポートします。
  3. HSコードの重点管理: グローバルおよび各国のHSコードをキーとして品目を管理することが可能です。

これらの機能により、貴社の国際貿易業務が新たな規制環境においても円滑な進行に貢献します。

なお、今回の改正の主要ポイントのひとつとして、懸念が高い品目が特定品目としてHSコードで指定されることがあげられます。これによって、適切な取引審査のためには、貨物のHSコードを適切に管理することが求められます。

トムソン・ロイターの国際貿易管理ソリューションには、輸出入品目に関するコンプライアンス属性情報を登録/管理できる品目マスターとして機能するモジュールを有しています。同モジュールでは、グローバルおよび各国のHSコードをキーとして品目を管理することが可能です。該非判定や取引審査時にHSコードを含む品目情報を自動的にチェックすることで、新たな規制(案)に対応します。

詳細なデモンストレーションのご要望やご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

👉トムソン・ロイター ONESOURCE Global Trade 安全保障貿易管理ソリューション

参考リンク:

補完的輸出規制の見直しについて (令和7年1月 経済産業省 貿易経済安全保障局)

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