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CPTPP加盟国は中国・台湾の新規加入を支持するのか?TPP交渉の経緯も解説

ニュージーランド・オークランドにおいて2016年2月、米国も参加してTPP協定(TPP12)の署名式が開催されました。翌年に米国が離脱を表明したために、TPP協定の発効が困難になる中、日本がリーダーシップを発揮して発効までこぎつけたのがCPTPP(TPP11)です。(注1

2024年12月には英国がCPTPPへ加入し、中国や台湾も加入に意欲を示していますが、スムーズに加盟国となれるのでしょうか。本記事では、各国の加盟及び離脱の変遷やその理由、予測される今後の影響についてご紹介します。

また関税戦略の最適化に役立つ、意思決定・分析ツール「ONESOURCE FTA Analyzer」についても紹介しますので、貿易実務担当者の方はぜひご一読ください。

TPP交渉の経緯

TPP交渉開始のきっかけは、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4か国間において2006年に発効したP4協定(環太平洋戦略的経済連携協定)です。2008年3月、サービス貿易や投資自由化をP4協定に追加する拡大交渉の開始に伴い、米国ブッシュ政権は当該交渉に参加しました。

翌2009年11月に米国オバマ政権がP4協定への参加を表明した後、さらにオーストラリア、ペルー、ベトナムも加わり2010年3月、計8か国によるTPP協定の交渉が開始したのです。その後、マレーシア、カナダ、メキシコが、2013年7月からは日本が加わり、12か国によるTPP交渉が続けられました。(注2

米国以外の11か国でCPTPPに署名

TPP12の署名式を経た後、2017年1月に米国トランプ大統領が離脱宣言を行ったことから、TPP協定の発効が困難になりました。しかし日本を含む11か国の閣僚は、TPPの早期発効に向けた検討を行うことで合意し、CPTPP(TPP11)の議論を重ねた上で2018年3月、チリ・サンティアゴにおいて署名式を開催しました。(注1


2018年12月、日本、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、豪州6か国においてCPTPPが発効した後、2023年7月までに他の原署名国についても発効が完了しています。新しく加盟した英国においても、2024年12月に発効が行われました。(注3

米国が離脱を表明した背景

トランプ大統領がTPP反対を表明した要因の1つは、TPP発効の影響によって米国の製造業者の雇用が奪われることを憂慮したものです。実際にTPP交渉においては、日本がコメや乳製品、食肉などに聖域を設けたために輸入障壁が残った一方で、米国の自動車関税は将来的には撤廃されることになっています。

さらに過去に締結したNAFTAや米韓FTAによって、国内製造業の空洞化をもたらしたと考えるTPP反対者も米国内にいました。またTPPのような多国間交渉では、米国に利益をもたらす交渉がしづらいといった懸念も考慮されたのです。(注4

TPP12と比べると、米国不在によってCPTPPの経済規模が小さくなったことは否めません。カナダの研究機関の試算によると、TPP12発効では422億2,300万ドルの輸出押し上げ効果が見込める一方で、米国が抜けてTPP11になると172億5,300万ドルにとどまります。しかしながら21世紀型FTAとして、高いレベルの自由化を実現したCPTPPの意義は大きいと考えられるでしょう。(注5(注6

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新規加入の状況とCPTPP加盟国の反応

近年では、さまざまな国や地域が、CPTPPへの新規加入の意向を表明しています。中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイ、ウクライナが寄託国であるニュージーランドに加入要請をすでに通報済みです。(注7

新規加入交渉を開始するにあたり、CPTPP協定では全メンバーのコンセンサスが必要とされています。さらに加盟国入りを実現するためには、市場アクセス及びルール両面でCPTPP協定の高いレベルを遵守する必要があることから、当該国の実績と意思が問われるのです。(注8

ここでは、中国、台湾の加入要請の状況と加盟国の反応についてご紹介します。

中国の加入要請

中国が2021年9月16日、CPTPP加入を通報すると、6日後の22日に台湾も加入を通報しました。岸田首相は台湾の加入を歓迎すると表明する一方、CPTPPの高いレベルをクリアできるかどうかは不透明として、中国の加入には慎重な姿勢を示しました。CPTPP協定の第1条に組み込まれているTPP協定の中でも、特に国有企業(第17章)、 労働(第19章)、電子商取引(第14章)が求める基準に、中国は達していないと考えられているからです。(注8

実際にいくつかの加盟国は、中国における国有企業への補助金問題、人権や労働・環境問題等に懸念を抱えています。マレーシア、シンガポール、ベトナムは歓迎の意向を表明する一方、カナダ政府は、中国と台湾によるCPTPP加入要請への支持を見送りました。コロナ禍以来、オーストラリアは中国と確執を抱えているために、支持を打ち出しにくい状況ですが、対豪追加関税の一部が撤廃されるなど変化の兆しが見られます。(注9

いずれにせよ、加盟国のうち1か国でも不支持であれば作業部会は設置されません。中国の加入要請は棚上げになる可能性が高いとされる一方で、要件的には中国が加盟基準を満たせるはずだという専門家の声もあります。

台湾の加入要請

中国による政治的圧力や農業界などの反発を背景に、台湾のFTA政策は遅れ気味です。米国や日本をはじめとする主要貿易相手国との間で、台湾はいまだにFTAを締結していません。

台湾は、CPTPP加盟国に求められる基準を完全に満たしているものの、対処すべき政治問題があることに言及しています。実際に台湾のCPTPPへの加入要請に日本政府が歓迎の意向を示したことに対して、中国は強い不満と断固反対の立場を示しました。

英国のCPTPP加盟国入りが確定した今、いよいよ中国と台湾による加入要請についての本格的な議論がスタートすると言われています。もともとTPPには独自ルールや慣行を採用する中国の影響力拡大を牽制する思惑もあっただけに、現CPTPP加盟国は政治的に難しい決断を迫られるでしょう。(注8(注10

まとめ:CPTPPの発展の鍵は中立性の確保

2024年12月には英国がCPTPPに加入し、現在コスタリカでも加入手続きの開始が決定しています。今後、さらに多くの国が参加することで、経済圏としての影響力が一層強化されることが期待されています。米中対立が続く中でCPTPPが発展するためには、信頼性を確保し、自由で公正な経済秩序を築くことが不可欠です。そのため、加盟国間で政治的な中立性を維持することが求められるでしょう。

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参考資料

注1:TPP11について|内閣官房

注2:TPP交渉の経緯と交渉 21 分野の概要|参議院

注3:環太平洋パートナーシップ(TPP)|内閣官房

注4:第5章 米国外交と国内政治における TPP|日本国際問題研究所

注5:米国抜きTPPの行方|三井物産戦略研究所

注6:TPP11とASEANの貿易、投資、産業への影響|国際貿易投資研究所

注7:ブルネイでCPTPPが発効|日本貿易振興機構

注8:CPTPP への新規加盟 ―英国、中国、台湾の加盟申請を中心に―|国立国会図書館

注9:膠着するCPTPPをいかにして進展させるか|国際貿易投資研究所

注10:16日にCPTPP会合、中国と台湾の申請本格協議 英加盟確定へ|ロイター

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