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RCEP協定の原産地規則の確認方法とは?参加国別に原産地証明についても解説

RCEP協定では参加国内の取引における原産地規則が統一されたことから、「スパゲティボウル現象」を回避できるとして注目されています。これまでアジア太平洋地域では、原産地証明書の書式、記載要件や内容が異なる二国間協定などが域内で絡み合う「スパゲティボウル現象」が発生していました。

本記事では、利用企業側の利便性が向上したRCEP協定の原産地規則の確認方法や、主要参加国の原産地証明について解説します。また取引データに基づき、最も有利な費用対効果をもたらす調達国、取引経路、FTAを分析してレポートを提供する「ONESOURCE FTA Analyzer」についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。

RCEP協定の原産地規則

原産地規則とは、ある産品の原産地を特定するためのルールであり、EPAごとに異なります。RCEPの原産地規則を満たし、RCEP参加国の原産品とみなされた産品のみが、RCEP税率の適用を受けられるのです。

産品のすり替えや迂回輸入を防ぐための対策として、「輸出入統計品目番号」「関税番号」「税番」などと呼ばれるHSコードに対して、EPAでは原産地規則が規定されています。(注1

原産品の考え方

RCEPにおいては、「締約国原産」の考え方を採用しているために、RCEP原産品という概念はありません。「協定原産」の考え方を採用するTPP11とは異なり、原産性の判断はRCEPの一締約国単位で行われている点に留意が必要です。つまり日本やベトナムなどRCEP締約国で生産された産品は、日本原産品やベトナム原産品として取り扱われます。

原産地規則に定められた、RCEP参加国の原産品と見なす原産地基準は、次の3つです(第3.2条)。

  • 完全生産品
  • 原産材料から生産される産品
  • 非原産材料を使用し品目別規則(PSR)を満たした産品

品目別規則(PSR)とは、たとえば非原産材料である麦芽から、1つの締約国においてビールを製造するといった「実質的な変更(大きな変化)」があった場合に、その産品を原産品として認めるというものです。

この実質的な変更がなされたかどうかを判断する基準が品目別規則(PSR)であり、「関税分類変更基準」「付加価値基準」「加工工程基準」の3つの基準が定められています。PSRは産品のHSコードごとに定められていますが、RCEP協定では複数の基準が定められているケースがあるので、証明しやすい基準を選択すると良いでしょう。(注2

なおRCEP協定では、2023年1月1日から「HS2022(2022版HSコード)」を運用しています。(注3

関連記事:HSコードとは?意外と知らない貿易業務に潜むコンプライアンスリスク

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RCEP協定の手続、様式、品目別原産地規則の確認方法

RCEP協定に関する資料は、税関の「原産地規則ポータル」でまとめられています。協定条文、関税譲許、証明制度、NACCSへの原産地証明書識別コード等の入力方法など、ワンストップで確認できるので大変便利です。次の方法で、アクセスしてみてください。(注4

  1. 税関トップページにある「原産地規則について知りたい」をクリック 
  2. ポップウインドウにある「原産地規則ポータル」をクリック 
  3. 開いたページの下部にある「使いたい EPA・GSP 等について調べる」から「アジア・大洋州地域」を選択し、「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」をクリック

RCEP参加国別|特定原産地証明書の発給機関と留意点

RCEP協定における特定原産地証明書の発給機関は、第3・1条(i)に規定されています。具体的な参加国別の発給機関については、前述の原産地規則ポータル「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」から一覧を閲覧可能です。

第三者証明による特定原産地証明書の様式は、参加国間で共通のものが使用されており、正式な証明書の右上には「Form RCEP」 と記載されています。ここでは、RCEPの主な参加国における特定原産地証明書の発給機関(2023年6月23日時点)と留意点について見ていきましょう。

中国

中国における発給機関は次の2つです。

  • 中国税関(China Customs)
  • 国際貿易促進委員会(CCPIT:China Council for the Promotion of International Trade)

RCEP協定の原産地規則に関する内容についての中国国内の法令整備などを目的として、中国税関は2021年11月23日、「中華人民共和国税関『地域的な包括的経済連携協定』輸出入貨物原産地管理弁法」(以下、弁法)を公布しました。(注5

弁法のなかで、上記の2つの発給機関が発給するRCEP協定の原産地証明書は、同等の法的効力があるとされています。輸出相手国税関から発給機関を指定されない限り、企業自らが選択可能です。(注6

中国におけるRCEP協定に関する主な相談窓口は、次の3つです。

  • 中国商務部中国自由貿易服務網
  • 中国税関総署
  • 中国国際貿易単一窓口

韓国

韓国における発給機関は、次のとおりです。

  • 韓国関税庁(Korea Customs Service)
  • 韓国商工会議所(Korea Chamber of Commerce and Industry)

韓国政府によって、次のようなFTA利活用支援策が実施されています。(注7

  • 関税率・原産地情報などを検索できる「Trade NAVI」を構築(韓国貿易協会による運営)
  • 全国の税関にFTA活用支援センターを整備
  • 原産地証明、相手国の通関情報などを企業が入手できる「Yes FTA」を構築(関税庁による運営)
  • FTA活用における実務関連の問い合わせコールセンターの設置

マレーシア

マレーシアにおける発給機関は、次のとおりです。

  • マレーシア国際貿易産業省 (Ministry of International Trade and Industry)

RCEP協定の内容と整合性を図るため、国内取引・消費者省が管轄する国内法の改正手続きを行ったために、発効が2021年3月18日にずれ込みました。改正の対象となった国内法は、次のとおりです。(注8

  • 1983年特許法
  • 1987年著作権法
  • 2019年商標法

ベトナム

ベトナムにおける発給機関は、次のとおりです。

  • ベトナム商工省(Ministry of Industry and Trade) 
  • ベトナム輸出入管理事務所(Import – Export Management Office)

RCEP協定は2022年1月1日に発効しましたが、原産地証明書発給は2022年4月4日から受け付け開始となりました。これはベトナム商工省によるRCEP協定の原産地規則に関する通達5号(2月18日付)に基づき、発給するための措置です。しかし条件を満たせば、さかのぼっての発給も可能であり、いったん納税したMFN税率とRCEP税率の差額が還付されるというものでした。(注9

タイ

タイにおける発給機関は、次のとおりです。

  • タイ商務省(Department of Foreign Trade, Ministry of Commerce)

タイ商務省は、域外の原材料を利用しても生産工程を経れば原産品として輸出できる点や、貨物の到着前手続き処理の電子申請および急送貨物の6時間以内の引き取り許可が規定されるなど、効率的なビジネスが期待できるとしてRCEP協定の最大限の活用を産業界に呼びかけています。(注10

インドネシア

インドネシアにおける発給機関は、次のとおりです。

  • インドネシア商業省(Ministry of Trade)

RCEP協定が2023年1月2日、インドネシアで発効しました。インドネシア関税総局へのヒアリング結果によると、RCEP協定の利用目的は税率削減効果の最大化ではなく、原産地証明書の取得にかかるコスト削減やサプライチェーンの最適化がメインだと考えられます。(注11

オーストラリア

オーストラリアにおける発給機関は、次のとおりです。

  • ACCI(Australian Chamber of Commerce and Industry)
  • AiG(International Export Certification Services)
  • IECS(International Export Certification Services)
  • TWO(Trade Window Origin Limited)

RCEPにおいては、第三者証明制度、認定輸出者制度および自己申告制度が採用されています。RCEP参加国のなかでもオーストラリアは、ニュージーランドおよび日本と同様に、協定の発効当初から自己申告制度を利用可能です。(注12

RCEP協定が定める輸出入者に対する書類の保管義務

日本において輸出入者・生産者は、原産性を証明する書類の保管義務があります(RCEP協定の第3・27条、および国内法令)。保管すべき書類は、次のとおりです。

義務の対象年数保管すべき書類
輸入者輸入の許可の日の翌日から5年間※選択した制度によって、保管すべき書類は異なる※輸入申告の際に、税関へ提出した書類は、保管義務の対象外
【第三者証明制度、認定輸出者制度認定】原産地証明書、認定輸出者による原産地申告
【輸出者または生産者による自己申告制度】原産品申告書および申告書作成者などから提供を受けている産品が原産品だとの証明に必要な追加的な資料(「RCEP原産国」の確認に必要な関係書類を含む)
【輸入者による自己申告制度】原産品申告を含め、産品が原産品であることの証明に必要なすべての記録(「RCEP原産国」の確認に必要な関係書類を含む)
輸出者および生産者【自己申告】作成の日から3年間
【第三者証明制度および認定輸出者制度を利用】発給・作成の日の翌日から3年間
※選択した制度に関わらず、以下の書類を保管
・原産地証明書、認定輸出者による原産地申告、原産品申告書の写し
・産品が原産品であることの証明に必要なすべての記録(「RCEP原産国」の確認に必要な関係書類を含む)

出典:EPA原産地規則マニュアル(令和5年7月)より筆者作成|東京税関

RCEP利用時にはツールの活用がおすすめ

変化が著しい国際情勢のもと、関税削減効果の最大化のために、あるいはサプライチェーンの再構築のためにRCEPの利用を検討している企業も多いでしょう。そのためには既存のEPA/FTAとRCEPを比較・分析した上で意思決定をしながら、コンプライアンスを確保する貿易管理が必要となります。 

ONESOURCE FTA Analyzer

しかしEPA/FTAの管理や検証プロセスは複雑で、手作業で行うのは貿易実務担当者にとって大きな負担です。そこでデジタル化に着手し、最適化された意思決定・分析ツールである「ONESOURCE FTA Analyzer」の利用をおすすめします。詳しくは、以下リンクからお問い合わせください。

                                         


参考資料

注1:経済産業省|日本からの輸出で使うには

注2:日本貿易振興機構|RCEP協定解説書

注3:日本貿易振興機構|RCEP協定、2023年1月1日からHS2022に基づく運用開始

注4:原産地規則ポータル|地域的な包括的経済連携(RCEP)協定

注5:日本貿易振興機構|原産地証明の原産判定・証明書発行 の流れ・手続きと留意点(中国)

注6:日本貿易振興機構|中国でのRCEP協定の原産地証明に関する疑問点、弁護士に聞く

注7:日本貿易振興機構|RCEP発効から1年、活用率引き上げが課題(韓国)

注8:日本貿易振興機構|RCEP、マレーシアでは2022年3月に発効

注9:日本貿易振興機構|RCEP協定の原産地証明の発給は4月4日から

注10:日本貿易振興機構|商務省、RCEP協定の最大限の活用を産業界に呼びかけ

注11:日本貿易振興機構|インドネシアから見るRCEP協定の活用方法

注12:日本貿易振興機構|原産地規則と原産地証明書:オーストラリア

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