これまで日本とEPAを締結していなかった中国や韓国も参加しているために、物品の貿易を行う日本企業の間で非常に注目されているのがRCEPです。日本はRCEP交渉時に、中国・韓国との間で清酒などの日本産酒類の関税撤廃を獲得したほか、工業製品においても14カ国全体で約92%の品目の対日関税撤廃を獲得しました。
本記事では、これらの関税引き下げ対象品目と税率の確認方法や、業界別にRCEPの活用事例をご紹介します。またFTA分析・管理プロセスを自動化できる「ONESOURCE FTA Analyzer」についても紹介するので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
関税引き下げ対象品目とRCEP税率の確認方法
RCEPをはじめとするEPAでは、協定の原産地規則を満たした締約国の物品について、段階的に関税を撤廃あるいは引き下げの約束をしています。この約束は「関税譲許」と呼ばれており、対象品目ごとに関税引き下げのスケジュールが記載されたものが「譲許表」です。(注1
日本側の関税率は、「RCEP協定附属書I(関税に係る約束の表)」や税関が公開しているRCEP協定ステージング表で確認できます。同じ関税引き下げ対象品目であっても、相手国によって異なる待遇を設けているために、譲許表の備考欄をよく確認することが大切です。日本における譲許内容は、国ごとに次のとおり3つに大別されます。
(注2 (注3
- ASEAN・豪州・ニュージーランド向け
- 中国向け
- 韓国向け
輸出相手国側の関税率は、税関サイトの「相手国譲許表」やRCEP協定の英語版「Annex I Schedules of Tariff Commitments」、以下の記事に掲載されている国別の譲許表を見るようにしましょう。なお相手国別に表が作成されている国もあります。(注4
関連記事:RCEP税率とMFN税率の比較に有用な譲許表(関税率表)について解説
次に、譲許表で税率を確認するときの留意点について見ていきましょう。
留意点1. 対象国によって関税引き下げの期間が異なる
関税引き下げのスケージュールを見るときの1年目、2年目といった期間、つまり年度の考え方は、対象国によって次のとおり異なります。
対象国 | 関税引き下げの期間 |
日本、インドネシア、フィリピン | ・1年目:協定の発効日からその後の最初の3月31日までの期間・その後の各年:4月1日〜3月31日までの期間 |
中国、韓国、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、ラオス、 マレーシア、ミャンマー、ニュージーランド、シンガポール、タイ、 ベトナム | ・1年目:協定の発効日からその後の最初の12月31日までの期間・その後の各年:1月1日〜12月31日までの期間 |
出典:主要輸出入品目に着目したRCEP協定の原産地規則【輸出編】|名古屋税関業務部
留意点2. 関税引き下げ対象品目でも逆転現象が生じる品目がある
RCEP税率が、MFN税率より高くなる「逆転現象」が生じている品目があります。MFN税率とは、固定税率(基本税率または暫定税率)とWTO協定税率のいずれか低い税率のことです。通常、協定交渉時のMFN税率から対象品目の関税の引き下げは行われます。
しかし協定交渉が合意に至った後に、通商政策の変更などによって固定税率の引き下げ等が行われたことで、一部の対象品目においてはRCEP税率のほうが高くなるケースがあるのです。逆転現象が生じている対象品目については、税関サイトで公開されています。(注5
留意点3. EPAごとに原産地規則は異なる
RCEP税率の適用を受けるためには、RCEP協定に定められた原産地規則を満たす必要があります。RCEP協定の原産地規則は、RCEP交渉の結果として定められたものなので、他のEPAとは異なる点に留意しましょう。
税率の確認に必須のHSコード特定方法
税率を確認する際には、貨物のHSコードを特定する必要があります。その際に、EPAごとに採用しているHSバージョンが異なる点に留意が必要です。RCEP協定では、2023年1月1日から「HS2022(2022版HSコード)」を運用しています。(注6
関連記事:輸出時におけるHSコード(実行関税率表)の調べ方・HS2022更新内容
ここでは輸出貨物と輸入貨物の場合に分けて、HSコードを特定する方法について見ていきましょう。(注7
輸出貨物の場合
HSコードは、税関サイトの「輸出統計品目表」で確認します。
- 税関トップページの「輸出入の手続きを調べたい」をクリック
- ポップアップメニューから「輸出入の手続きトップ」を選択
- 「輸出統計品目表」をクリックして、対象年版の「輸出統計品目表」を選択
原産地規則ポータルに設けられた「品目別規則の検索ページ」において、HSコードのバージョンの移行関係を確認できる相関表が掲載されています。
輸出貨物の品目分類・関税率についての相談先は関税鑑査官ですが、この相談は輸出先でのRCEP税率の適用を保証するものではありません。RCEP税率を確実に利用するためには、輸入国の税関にHSコードを確認するか、輸入国の事前教示制度を利用します。
輸入貨物の場合
HSコードは、税関サイトの「実行関税率表」で確認します。
- 税関トップページの「品目分類について調べたい」をクリック
- ポップアップメニューから「実行関税率表」を選択
- 対象年版の「実行関税率表」 クリック
HSコードのバージョンの移行関係は、上述のとおり相関表をご確認ください。
トムソン・ロイターでは、複数国間での輸出入をシームレスに実施するために必要な主な品目分類データの一元管理を可能にするソリューションを提供しています。HSコード管理ソリューションについて詳しくは、下記のリンクからぜひお問い合わせください。
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業界別|RCEP協定の活用事例
ここではジェトロの調査結果を踏まえて、在ASEAN非日系企業によるRCEP協定の活用事例を業界別に見ていきましょう。(注8
食品
ポテトチップ(HSコード 1905.90)の日本向け輸出におけるRCEP活用事例です。工場のあるマレーシアでベルギー、オランダから原料を輸入したうえでポテトチップを製造し、日本に輸出する際にRCEP協定を利用しています。既存EPAであるAJCEP税率9%に比べて、RCEP税率は5%と低い点がRCEPの利用メリットです。
化学
半導体化学原料であるCMPスラリー(HS コード 3405900000)の韓国、タイ、ベトナム向け輸出におけるRCEP活用事例です。工場のある日本で、中国から半導体化学原料を輸入したうえでCMPスラリーを製造し、韓国、タイ、ベトナムに輸出する際にRCEP原産地規則の累積ルールを適用しています。累積ルールによって中国産の原材料は日本原産品とみなされるために、日本を原産地としたCMPスラリーと見なされ、関税率6.5%を0%まで下げられる点がRCEPの利用メリットです。
自動車・二輪車
二輪車(HSコード 8711.50)の韓国向け輸出におけるRCEP活用事例です。工場のあるタイで、中国、ベトナム、米国、タイから部品を輸入したうえで二輪車組み立て製造を行い、韓国へ輸出する際にRCEP原産地規則の累積ルールを適用しています。中国産部品も原産地規則の付加価値基準(RVC)に算入してタイ原産品として見なせるほか、RVCも40%以上になるために、韓国向けの通常関税率8%を0%まで下げられる点がRCEPの利用メリットです。
石油製品
ASEAN加盟国域内での潤滑油の取引におけるRCEP活用事例です。工場のあるマレーシアで、シンガポールやタイから原材料の70%程度を輸入したうえで潤滑油を生産し、フィリピン、タイ、シンガポール、インドネシアに輸出する際にRCEPを利用しています。既存EPAであるATIGAと比べて関税メリットはあまりないものの、電子的な手続きの活用により手続きの迅速化・効率化が可能になることや、RCEP協定締約国間の社内リソースの相互共有などがRCEPの利用メリットです。
繊維
スイムスーツ(HS コード 61124100)、ジャケット(HS コード 61033100)、帽子(HS コード 65040090)の韓国向け輸出におけるRCEP活用事例です。工場のあるベトナムで、中国から原材料を輸入したうえで繊維製品を製造し、韓国へ輸出する際にRCEP原産地規則の累積ルールを適用しています。繊維製品では衣料品のRCEP原産地規則(主にCMT規則)に従うと、韓国向け繊維・衣料品に設定されている8~13%と高い通常関税率ではなく、RCEP税率の適用が可能になる点がRCEPの利用メリットです。ベトナム繊維製品の輸入税は、関税引き下げ対象品目によっては0%になります。
特定原産地証明書の取得準備前にRCEP税率をよく確認する
RCEP税率が、自社の製品にとって最も関税削減効果が高いかどうか、特定原産地証明書の取得準備前によく確認することが大切です。しかしながら、EPA/FTAの分析には膨大な労力とデータ収集が必要になるために、貿易実務担当者に大きな負担がかかります。
ONESOURCE FTA Analyzer
そこで関税を最適化する工程を効率化しながらコスト削減を図るためにも、デジタル化を推進するのがおすすめです。トムソン・ロイターでは、サプライチェーン戦略立案に役立つ意思決定・分析ツール「ONESOURCE FTA Analyzer」をご用意しています。詳しくは、下記のリンクからぜひお問い合わせください。
参考資料
注1:税関|関税譲許について
注2:外務省|地域的な包括的経済連携協定 附属書I 関税に係る約束の表
注3:税関|ステージング表をご利用になる前に
注4:外務省|REGIONAL COMPREHENSIVE ECONOMIC PARTNERSHIP (RCEP) AGREEMENT
注5:税関|逆転現象について
注6:日本貿易振興機構|RCEP協定、2023年1月1日からHS2022に基づく運用開始
注7:日本貿易振興機構|RCEP協定解説書
注8:日本貿易振興機構|地域的な包括的経済連携(RCEP)協定を 利活用する 在 ASEAN 非日系企業事例調査報告書