CPTPP適用が有利か関税率を比較する手順
日本はすでに、カナダ、ニュージーランド以外のCPTPP加盟国との間で2国間EPAを締結しています。そのため、発効後すぐにCPTPP税率適用が自社にとって最も有利な条件になるとは限りません。そこで通常適用されるMFN税率、CPTPP税率、既存のEPA税率の順に調べて、それぞれの税率を比較することが大切です。(注1
日本の場合、関税率は基本税率、暫定税率、協定税率、GSP特恵税率 (一般・特別) 、FTA/EPA特恵税率に分類されます。MFN税率は通常の輸入で適用される税率で、国定税率(基本税率または暫定税率)、WTO税率のうち最も低い税率が適用されます。FTA/EPA特恵税率は、対象となる国あるいは域内の原産品であるなどの条件を満たす場合のみ適用されます。(注2
CPTPP協定の特徴は、国原産ではなく域内を仮想的な1つの領域とみなす協定原産を採用している点にあります。「CPTPP域内の原産品(=CPTPP域内で生産された産品)」として認められるためには、TPP第3章に規定された「原産地規則及び原産地手続」を満たす必要があります。(注3
関税削減効果を調べる際に役立つ関税率表の見方
ここでは、MFN税率やCPTPP税率を調べる際に役立つ関税率表の見方をご紹介します。
JETRO経由『World Tariff』
通常の輸入で適用されるMFN税率は、国、品目、関税削減スケジュールにより変更になる可能性があるため、定期的に確認する必要があります。輸出相手国税関が公表している情報を調べる際には、ジェトロ公式サイトの「国・地域別情報」に掲載された情報源が役立ちます。
米国のFedEx Trade Networksが提供する『World Tariff』は、輸出先とHSコードを入力するとMFN税率やEPA税率が分かる便利なデータベースです。ジェトロ経由でユーザー登録をすれば、日本国内居住者は無料で利用できます。ただし公式情報ではないため、各国当局の情報もあわせて確認することが大切です。
「譲許表(Tariff Schedule)」(関税率表)
CPTPPなどの協定において、品目ごとの関税撤廃・削減の方法やスケジュールが記載されている表が「譲許表 (Tariff Schedule) 」です。CPTPP加盟国ごとに作成されているので、輸出者は相手国の譲許表を確認します。CPTPP協定の第1条に組込まれたTPP協定第2章の「附属書2-D(関税に係る約束)」から閲覧可能ですが、英文を参照するようにしてください。(注4
なお譲許表の項目とその概要は、下記の通りです。
項目 | 項目の概要 |
---|---|
HSコード | まずは輸出入時の商品分類番号を特定することが重要(CPTPPでは、HS2012版を使用) |
品目名 | 関税分類の品目名 |
基準税率(ベースレート) | 関税の撤廃・削減の基準となる税率(CPTPPでは、2010年1月1日時点のMFN税率を使用) |
実施区分 | どのように関税の撤廃・削減が実施されるかを示す区分 |
備考 | 特恵税率が適用される国名や従うべき事項 |
N年目税率 | 実施区分に従い、それぞれの年の関税率を記載 |
出典:TPP11解説書|日本貿易振興機構
関税率表の番号「HSコード」の調べ方
ここでは、輸出入申告書に記載する日本国内細分のHSコードを参照できる表についてご紹介します。いずれも、税関公式サイトから閲覧可能です。
輸出統計品目表
日本からの「輸出」申告の場合に参照する表が「輸出統計品目表」です。
実行関税率表
日本への「輸入」申告の場合に参照する表が「実行関税率表」です。
概況品コード表
いくつかの統計品目をまとめて、より一般的な名称で記載している表が、「概況品コード表」です。財務省による貿易統計の公表のために設けられています。
関税率表解説・分類例規
関税率表、輸出統計品目表の解釈を解説した「関税率表解説」、関税率表及び輸出入統計品目表の分類基準や分類事例をまとめた「分類例規」も便利です。
(注2
トムソン・ロイターでは、商品分類検索、製品分類の決定等にかかる時間を短縮できるHSコード管理ソリューションを提供しております。部門全体の一貫性や協働態勢の向上にも役立つONESOURCE Global Classificationについて、詳しくは下記リンクよりご覧ください。
CPTPP協定における税率差ルール
CPTPPでは、一部の品目について相手国によって異なる税率を譲許する国別譲許が行われています。そこで税率差(Tariff Differentials)が発生する品目については、各国共通ルールと国別ルールから構成される「税率差ルール」が適用されます。(注5
「軽微な作業を除く最後の生産工程が行われた国の税率が適用される」という各国共通ルールは「附属書2-D第A節」に、国別ルールは「附属書2-D付録C」にて確認できます。例えば日本の国別ルールは、税率差が3%超の品目等に適用されるというものです。税率差が発生した品目に適用されるCPTPP原産地基準ごとに、どの国の税率を適用するか決定するルールが定められているので確認しておくとよいでしょう。
ただし輸入者が希望する場合には、すべてのCPTPP締約国あるいは生産に関与した国のうち、最も高い税率を適用できる選択制が採用されています。(注4
CPTPP税率適用に当たっては積送基準にも注意
輸入国税関においてCPTPP税率の適用を受けるためには、協定に定められた要件を満たす必要があります。その要件とは輸出入される産品にCPTPP税率が設定されていること、原産地規則を満たすことの2つです。
さらに原産地規則は、原産地基準を満たしていること、必要な手続きを行うことの2つの要件から構成されます。ここでは原産地規則を満たすために必要な手続的要件の中でも、特に積送基準について見ていきましょう。
積送基準とは
積送基準とは、直接運送ではなく第三国を経由して原産品を輸送した場合に、原産品の資格を失っていないかどうかを判断する基準のことです。輸入申告の際にCPTPP税率の適用を受けるためには、非原産国において積替えや一時蔵置以外の取扱いがなく、積送基準を満たしていることを証明する書類が必要になります。これが「運送要件証明書」と呼ばれるものです。
原産地証明書と一緒に提出する運送要件証明書
第三国を経由して日本に輸入する場合に、運送要件証明書として認められるものは下記の通りです(関税法施行令第61条第1項第2号ロ)。
- 当該CPTPP締約国から日本の港に至るまでの通し船荷証券の写し
- 第三国の税関等が発給した証明書
- その他税関長が適当と認める書類
ただし輸入貨物の課税価格の総額が20万円以下の場合は、 運送要件証明書の提出は必要ありません。(注6
まとめ:日本においては、21本のEPAが発効済み
日本における発効済みの2国間及びFTA/EPAの数は、21に上ります。国際貿易で活路を見出そうとしている日本企業にとって、関税削減効果の高いFTA/EPAの活用は有効な戦略の1つです。しかし品目ごとに独自の認定規則や特例が定められているため、その複雑化したルールがネックになり、使いこなすのは容易ではありません。
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参考資料
注1:我が国の経済連携協定(EPA/FTA)等の取組|外務省
注2:TPP11解説書|日本貿易振興機構
注3:TPP協定の章ごとの内容|内閣官房
注4:TPP協定(英文)|内閣官房
注5:TPP11協定(CPTPP) の概要(税率差等)|財務省関税局
注6:我が国の原産地規則 ~EPA原産地規則(詳細)~(2025年4月)|財務省関税局・税関