SECの気候変動開示規則案により, ESGデータ戦略立案が急務に

米国規制当局による気候変動開示規則案が公表され、企業は社内およびサプライチェーン内におけるESG関連データの収集・管理方法について新たな課題に直面しています。

昨年3月、米国証券取引委員会(SEC)は、上場企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)問題の重要性に対する認識の高まりを受けて、投資家向けの気候関連情報開示強化・標準化計画を発表しました。

新しい情報開示規則案では上場企業に対し「事業、業績、財務状況に重要な影響を及ぼす可能性が高い」リスクだけでなく、「温室効果ガス(GHG)の直接排出(スコープ1)と購入電力やその他のエネルギーからの間接排出(スコープ2)」、さらに「バリューチェーンの上流と下流の活動からの一定の種類のGHG排出(スコープ3)」の情報開示を求めていくことにしています。

490ページに及ぶSECの提案は、当初2022年10月が策定期限として公表されました。しかし、Scope3の開示や重要性の定義などの提案について議論が行われ、また6月に最高裁がウエストバージニア州対環境保護庁において発電所の排出量に関する連邦規制を制限する判決を下したことから、最終規則の策定時期が延期されることになったのです。

しかし、多くの投資家が新しい開示規則の基本的な考え方を支持していることから、2023年には確定し実施プロセスが開始されると予想されています。そして専門家は、その準備として各企業が新規則発効時に正確な数値を報告できるよう、今すぐ行うべき多くのステップがあると述べています。

今こそが、その時

SGソリューションのソフトウェア会社であるスフェラ社、サステナビリティ・コンサルティング事業開発ディレクター、マーク・エヴァンス氏によると、現在、SECの次期規則への対応について、企業の意見は分かれているといいます。エヴァンス氏の顧客企業の中には、以前からScope 3排出量を追跡している企業もあり、そうした企業は今後予想される規制に適合させるために自社の手順を大きく変更する必要はないと考えている、と述べています。また、多くの企業はすでにスコープ3排出量を公表しており、今回の規則案は、削減目標よりも透明性と情報開示に重点を置いたものだと説明しています。

ただ、その認識は万国共通ではありません。たとえ企業が組織内にデータを蓄積していても、効率的・効果的に報告するための社内インフラが整っているとは限りません。一晩で解決できるようなエキスパート・チームは存在せず、投資が必要となります。まずは何からどう始めたらよいのか、そして最も簡単な方法は何でしょうか?

Benchmark Digital PartnersのCEOである ムクンド氏は最も簡単方法として「この巨大な問題を、いくつかの構成要素に分割する」ことを指摘しています。企業は「購買データ、支出データ、一般に公開されている情報、を使い多くのことができる」とし、外部に働きかける前にできる限り自社でデータを取得することを積極的に検討すべきであると述べています。

最後に重い荷物を運ぶのは大変なことです、その重さを軽くすることはできませんが、事前準備は可能です。サプライヤーにまず連絡を取りましょう。サプライチェーン内では他社から同じ情報を要求されることもあります。

データ標準化の決断

製造業ではすでに解決策に取り組んでいるかもしれませんが、ESGデータの多くが標準化されていない、あるいは異なるスタイルやフォーマットで残されていることも事態を難しくしています。ムクンド氏は、コロナ禍で業界のクライアントと協力して、同じような状況にある企業のためのパンデミックエクスポージャーのトラッキングモジュールを作成したと述べています。2011年に開始された化学業界のTogether for Sustainabilityイニシアチブでは、カテゴリー1の購入品や Scope3のサービスを計算する方法として、ライフサイクルアセスメント(LCA)による製品のカーボンフットプリントデータの活用が推奨されています。

「しかし多くの業界で共通適用されるアプローチはありません」とエヴァンス氏は指摘します。「温室効果ガスプロトコルはさまざまな計算方法を認めているためそれ自体が課題となっているのです。」

実際、多くの企業は使用した材料に応じて排出量を追跡する従来のインプット/アウトプット支出モデルをオンライン上の計算を用いて作成しています。例えば、Yドルの数字でX量の鉄鋼を購入する企業は、排出される二酸化炭素の出力換算量を一定量決定できるとエヴァンス氏は説明します。

「しかし、ここでの課題は、支出ベースの計算方法が統合されていることです。計算の背後にあるデータこそが価値をもたらすのです。6年前のデータを見ましたが、現在電力構成がより環境に配慮していることを考えると、かなり時代遅れです」。そのため、ビジネス的な価値は限定的で、「企業の脱炭素化の道筋をつけたいのであれば、調達費用を削減する以外に何かあるでしょうか?これは、ある意味行き止まりの状態とも言えるでしょう」とエヴァンス氏は指摘しています。

「サプライヤーへの調査も、規模を把握する事は困難です。また、どのようなデータであっても、完全な排出量(Cradle to Gate Emission)を表しているとは限りません」。企業は可能な限りLCAデータを活用すべきです。LCAデータは他のアプローチよりもはるかに詳細で拡張性があり、実行可能であると彼は付け加えています。

プロアクティブ型 vs リアクティブ型 アプローチ

多くの企業にとって、これらの計算を取りまとめることは、テクノロジーの導入と活用と密接に関係しています。そしてこの種のデータを追跡する最も簡単な方法はスプレッドシートを用いたものでしょう。しかし、スプレッドシートに頼っている企業は新たな規制に対して消極的な対応をとっていると考えられます。

「表計算はすべての目的に合うように見えるかもしれません。しかし、それは最も消極的なアプローチなのです」。残念ながら表計算ソフトは、それしかないから使うという単に問題を解決しようとするだけのアプローチになってしまう、とムクンド氏は付け加えています。

しかし、より先進的な企業は最終的な解決策としてテクノロジーに頼ってはいない、とムクンド氏は指摘します。その代わり、ESGデータはテクノロジーだけでなく、どのように使うかという要素や ESGデータの枠組みが守られているかどうかを確認するための人的要素も含むより大きな戦略として考えるべきでしょう。

「フレームワークと戦略をまとめ、ESGプログラムが何を達成しようとしているかを示すのです」と彼は説明し、戦略にはステークホルダーと経営陣が最も関心を寄せる項目と、経営陣が従業員と社内グループにどのように働きかけるかを含めるべきだと指摘します。

しかし、この戦略には将来を見据えた取り組みが必要であり、SECからの最終草案は 近いうちに出される可能性があります。そのため、SECの新しい温室効果ガス開示規則が確定する前でも、今すぐESGデータ戦略に着手すべきなのです。


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