グローバル・サプライチェーンをはじめ、貿易取引には商取引の主体である企業の他に、物流企業、保険会社、銀行、税関など国内外の多くの関係者が関与します。多種多量な書類の取り扱いと煩雑な事務処理が介在する貿易手続きを改善するために、デジタル化の取り組みは90年代終盤にスタートしました。
貿易手続きデジタル化の取り組みは停滞気味でしたが、ここ数年で起きたブロックチェーンの技術革新やコロナ禍のテレワーク需要が契機となり、急速に進展している状況です。そこで本記事では、世界各地で台頭している貿易プラットフォーム(以下、PF)など貿易手続きデジタル化の動向について解説します。
またテクノロジーの力で高まるコンプライアンスリスクに対応するONESOURCE Export Complianceについても紹介しますので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
貿易円滑化の背景とデジタル化の動き
貿易円滑化とは、クロスボーダー取引において国・地域を出入りする物品の諸手続を合理化し、簡素化するための措置です。例えばWTOの全加盟国が参加する貿易円滑化協定(TFA)では、コスト削減のために通関手続きの窓口一本化(シングルウィンドウ化)など、膨大な貿易手続きを簡素化・迅速化するためのルールが定められています。
日本が参加するTPP11協定では、必要な税関書類の提出後に急送貨物や通常貨物の引取り許可が下りるまでにかかる時間が明示されたほか、原産性の判断や関税分類、関税評価等を事前教示の対象とするなどの円滑化措置が新たに盛り込まれました。RCEP協定における貿易円滑化ルールの目的・内容は、TPP11協定と重複する部分も多くありますが、照会先の設置や船積み前検査など独自のルールも規定されています。
貿易円滑化に向けた具体的な施策の1つが、通関など貿易手続きのデジタル化です。貿易手続きのデジタル化は紙媒体の書類をPDFに変換するだけにとどまらず、ブロックチェーン技術を活用してデータの安全性を担保しながら一元的に管理する貿易PFが登場するなど、グローバル・サプライチェーン管理の高度化・可視化を実現するステージへと移行しています。(注1
貿易手続きデジタル化に向けた海外動向
貿易円滑化を目的として、民間企業等が取り組む貿易PFが世界中で台頭しています。ブロックチェーンの技術革新によって、従来は困難であったサプライチェーン管理や貿易取引のうち金融取引を担うトレード・ファイナンス機能を備えた貿易PFが登場している点を押さえておきましょう。
令和2年度経済産業省委託調査「日本の貿易円滑化強化策(FTA活用含む)にかかる国際経済調査事業」の調査報告書では、公共システムとの連携の有無、原産地証明手続きへの対応有無、ブロックチェーン技術の導入有無、プラットフォーム間の連携の有無の観点などから様々な貿易PFの存在を把握できます。
欧米だけでなくアジアでも貿易PFの取り組みは活発化しており、複数大陸で展開しているもの、東アジア、北米、欧州等の特定地域、あるいは国内のみで展開しているものなど、そのサービス範囲や機能は様々です。特にアジア地域では、中国、シンガポールのように政府主導で貿易PFが構築されるケースが散見されます。世界主要銀行が主導し設立された貿易PFは、コンソーシアムや合弁を基盤にしており、広域展開している点が特徴です。
調査報告書では、サプライチェーン管理機能を持つ大手貿易PFとしてMaerskとIBMによる「TradeLens」が挙げられていますが、2023年3月に事業の廃止が公表されています。同じく「MarcoPolo」は、ブロックチェーン貿易金融ネットワークとしてトレード・ファイナンスを手掛けていましたが、2023年2月に債務超過に陥ったとの報道があり、今では公式サイトを閲覧できない状態です。「Bolero」「ICE Digital Trade (IDT)(旧essDOCS)」「Contour」は継続していますが、大手貿易PFであっても定着するまでの道のりは険しいことがお分かりいただけるでしょう。(注1、(注2
貿易手続きデジタル化に向けた日本の動向
日本の貿易手続きデジタル化への取り組みは、貿易PF利活用を推進するステージにあります。経産省は2023年11月から検討会を開催し、製造業を営む大手荷主企業、貿易PF提供企業、関係省庁や団体とともに貿易PF利活用推進に向けた議論を進めてきました。
ここでは日本国内のデジタル化の動きや、検討会での議論をもとに公表された行動計画について見ていきましょう。
日本国内の動きと現状の課題
日本国内では、港湾・空港における物流情報等を管理するPF「NACCS」が1978年より稼働しています。NACCSは「入出港する船舶・航空機及び輸出入される貨物について、税関その他の関係行政機関に対する手続及び関連する民間業務をオンラインで処理するシステム」です。さらに2021年4月からは民間事業者間の港湾物流手続きに関連した港湾電子化PF「Cyber Port」の運用もスタートしています。
日本においてブロックチェーン技術を活用した民間主導の貿易PFは、「TradeWaltz(トレードワルツ)」です。TradeWaltzはCyber Portと2024年1月に接続したことで、「輸出入通関情報連携」が可能になりました。今後TradeWaltzは、「港湾情報連携(Arrival Notice等)」や「Cyber Port経由NACCS連携」を目指して、さらに機能を強化していく意向です。
また日本では、いまだに紙媒体でのみ有効な文書や受理可能な貿易手続きが一部残っているために、手続きの上で混乱を招きやすいという課題が官民の間で共有されています。(注1、(注3
貿易手続デジタル化に向けた日本政府のアクションプラン
貿易文書・手続きのデジタル化は喫緊の課題ではあるものの、例えば電子船荷証券(eBL)を導入するためには商法改正が必要です。検討会に参加した荷主企業からも、電子船荷証券(eBL)導入に向け国内法制度化を望む声が大きく、2027年度に改正法案を施行する方向で法務省は準備を進めています。
ここでは2024年6月に経産省が示した、貿易PFを介してデジタル化された貿易取引の割合を令和10年度(2028年)までに10%とする共通目標のもとに策定された行動計画の概要をまとめました。(注3、(注4
| 取り組み | 管轄 |
|---|---|
| 電子船荷証券(eBL)の法制度の整備 | 法務省 |
| 港湾手続のデジタル化推進 | 国交省 |
| 原産地証明書のデジタル化推進 | 経産省 |
| デジタル化未対応の貿易文書・手続のデジタル化推進 | 経産省及び関係省庁 |
| 貿易PFの導入支援・促進 | 経産省・総務省 |
| 貿易PF活用によるインセンティブプランの検討 | 経産省及び関係省庁 |
| 貿易PFと貿易関連行政システムとの接続促進 | 経産省及び関係省庁 |
| NACCS機能の周知(第7次NACCSによる機能追加を含む) | 財務省及び関係省庁 |
| 貿易PFを通じた貿易相手国とのデータ連携事例の創出 | 経産省 |
| フォワーダー事業者の貿易PF参画支援・促進 | 経産省・国交省 |
| 国際標準に準拠した貿易データ連携 | 経産省 |
| 貿易PFの活用に求められるセキュリティ対策 | 経産省 |
出典:貿易手続デジタル化に向けたアクションプラン工程表|経済産業省
貿易デジタルプラットフォーム普及への課題
貿易取引全体をデジタル化するためには、各国・地域との連携、システム仕様やデータ内容の標準化、貿易手続きの商流・物流・金流の連携など複数の要素を検討する必要があります。さらに貿易取引には関係者が多いことから、業界や国を横断したコンセンサスづくりは非常に困難な状況です。
前述の大手貿易PFの例でも分かるとおり、多くの利用者を得て貿易PFとして機能するまでの道のりは平坦ではありません。貿易PF間の連携や日本のeBLのように法的な根拠の整備など、越えるべきハードルは数多くあります。しかしながら各国当局も課題解決に向けた取り組みを本格化させていることから、貿易手続きのデジタル化は大きく進展する機運が高まっていると言えるでしょう。(注5
安全保障貿易管理システム/ソリューションの重要性については「安全保障貿易管理システム/ソリューションの重要性とは?規制強化への対応が必須」からご覧ください。
業務効率化とコンプライアンス強化に対応したソリューション
貿易取引量が増える中、米中の技術覇権争いなどの影響で遵守すべき法規制は複雑化しています。その一方で、高度な知識を持つ専門人材は不足しているために、貿易実務の業務効率化とコンプライアンス強化に対応したソリューションの必要性は高まっているのです。
ONESOURCE Export Compliance
トムソン・ロイターでは法規制の複雑化に対応すべく、広範な情報網羅とモニタリング体制を備えたソリューションをご提供しています。チェック漏れによる法令違反といったビジネスリスクを最小限に抑えられるソリューションについては、下記リンクよりご確認ください。
参考資料
注1:国際的な貿易手続の円滑化・デジタル化の推進|経済産業省
注2:「日本の貿易円滑化強化策(FTA活用含む)にかかる国際経済調査事業」調査報告書|経済産業省
注3:貿易手続デジタル化に向けたアクションプラン工程表|経済産業省
注4:貿易手続デジタル化に向けたアクションプラン補足資料(案)令和6年6月25日|経済産業省
注5:本格的なデジタル化が期待される貿易取引|国際通貨研究所