自然災害やパンデミック、米中の技術覇権争いなど地政学的な緊張の高まりが影響し、サプライチェーンリスクは多くの日本企業の間で今やトップビジネスリスクとして認識されています。
通商白書2023によると、パンデミック以降にサプライチェーンの途絶を経験したと回答した企業の割合は約4割です。実際に地政学的、経済安全保障上のリスクの高まりを理由に、中国からASEAN6やインドに取引の比重をシフトする企業も増えてきました。(注1
そこで本記事では、サプライチェーンリスクの概要についておさらいし、安全保障貿易管理において企業が取るべき対応について解説します。また法制度モニタリングと更新で情報を集約化し、コンプライアンスリスクを抑えるONESOURCE Export Complianceについても紹介しますので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
サプライチェーンリスクとは?
サプライチェーンリスクとは、サプライチェーン(供給連鎖)が混乱・途絶しうるリスクのことです。サプライチェーンリスクが顕在化すると、下記のような脅威となって事業に影響を及ぼします。
- 製品供給の遅延・中断・停止
- コンプライアンス違反による処罰やブランドの毀損
- シェアの低下や収益の減少に伴う従業員の解雇や優秀な人材の流出
- 情報漏えいや知的財産の流出
発生の予測可能性、頻度や影響の大きさなどの観点からリスクを分類した上で、各企業は対応策を検討しなくてはなりません。ここでは外部環境・内部環境や自社内部の3つの要因別に、サプライチェーンリスクについて見ていきましょう。(注2
サプライチェーンの外部環境に起因するリスク
外部環境の変化は自社ではコントロールできないために、速やかに自社の戦略を変更して事業環境の悪化に対応していかなくてはなりません。サプライチェーンの外部環境に起因するリスクは、次のとおりです。
- パンデミックによる需要の変動
- 自然災害や異常気象・天候不順による操業中断
- テロや紛争、為替の急激な変化による経済危機
- サイバー攻撃によるシステム障害が引き起こす混乱・途絶
- 関税の引き上げや輸出規制などの貿易制限的な措置
- 米国EARなど国家による経済安全保障政策への対応
- レアアースや半導体など重要な原材料・部品の不足による減産
特に昨今ではグローバルで保護貿易主義的な動きが広がっており、米国の301条に基づく対中追加関税引き上げなど、貿易制裁や輸出規制が年々複雑化しています。日本企業は、貿易コンプライアンスの動向を常にアップデートしておくことが企業防衛策として重要です。(注3、(注4
サプライチェーンの内部環境に起因するリスク
内部環境の変化は、サプライヤーに起因するケースと顧客・マーケットに起因するケースがあります。ここでは、サプライヤーに関連して留意すべきリスクについて下記にまとめました。
- 倒産などによる生産能力の低下や納期の遅延
- 原材料・部品・資材の品質不良や安全性の不足
- 自社の取引先内部や取引先間で発生する強制労働などの人権侵害
- 気候変動など環境への配慮や生物多様性・生態系の保護への無関心
近年では従来のQCD(Quality, Cost, Delivery)だけでなく、環境や人権などの共通価値への貢献も求められており、無関心な姿勢は企業のレピュテーションリスクに繋がります。そこでESG経営を掲げ責任ある調達を実現するために、CSR調達ガイドラインを規定してサプライヤーの協力を要請する企業が増えているのです。(注5
自社内部に起因するリスク
自社に関するものとして、工場・物流施設の不具合や情報システムの障害、品質管理などサプライチェーンのオペレーションに関連したリスクが挙げられます。さらにRCEPやCPTPPなどを活用している企業では、EPA/FTAごとに異なる特恵税率や原産地規則への対応が必須です。検認の結果、特恵税率が否認されると追徴リスクがあります。
貿易コンプライアンスの概要や動向については「貿易コンプライアンスとは?その対象や近年の動向、企業がとるべき対応を解説」からご覧ください。
安全保障貿易管理とサプライチェーンリスクの関連性
近年では、経済安全保障を優先する欧米主導の通商観が台頭しています。米中の技術覇権争い、パンデミックを契機とするサプライチェーンの停滞、ウクライナ紛争などの影響で、かつての自由貿易体制は大きく揺らいでいるのです。
2023年5月のG7広島サミットでは、「経済安全保障」「サプライチェーン」をテーマに議論され、経済安全保障に関する声明が初めて採択されました。G7広島サミットで合意に至り、『経済的強靱性及び経済安全保障に関するG7首脳声明』で表明された協働・連携領域は下記のとおりです。(注6
| 協働・連携領域 | 合意内容 |
|---|---|
| 経済的強靱性及び経済安全保障に関する戦略的協調の強化 | ・「強靱で信頼性のあるサプライチェーンに関する原則(透明性、多様性、安全性、持続可能性、信頼性)」の支持を促進・特に重要鉱物、半導体及び蓄電池などの重要物資について、強靱なサプライチェーンを強化・グローバルな経済的強靱性を確保するための非市場的政策及び慣行への対応 |
| 経済的威圧への対抗 | ・「経済的威圧に対する調整プラットフォーム」を立ち上げ、早期警戒及び迅速な情報共有を利用し、定期的に協議を実施 |
| 重要・振興技術の流出防止 | ・デュアルユース技術保護を目的に、輸出管理分野の協力のために多国間の取り組みを強化・機微技術の流出防止に、既存の規制を補完する役割として、対外投資に係るリスク関連措置の重要性を認識・経済安全保障ツールキットを今日の課題に適合させ、共通の目標に関連して民間セクターに対して明確性を提供 |
出典:経済的強靱性及び経済安全保障に関するG7首脳声明(2023年5月20日)|外務省
G7と歩調を合わせて、日本国内でもデュアルユース技術保護を目的に安全保障貿易管理の見直しが進められています。2024年4月に公表された中間報告では、キャッチオール規制の見直し・活用や技術管理強化のための官民対話スキームの構築が盛り込まれました。また2023年7月23日より、日本政府は高性能な半導体製造装置(23品目)を新たに輸出管理の対象として追加しています。
サプライチェーンリスク対策と企業が取るべき対応
サプライチェーンの混乱・途絶を引き起こすリスク対策の1つの考え方が、レジリエンス(Resilience)です。サプライチェーン・レジリエンスとは、次のような特徴を持つサプライチェーンの構築を意味します。
- 脆弱性が低い
- 以前の状態にすばやく復旧できる
- 代替の方法で対応できる
ここでは、レジリエンスと安全保障貿易管理の観点から企業が取るべき対応について見ていきましょう。
脆弱性の分析とサプライチェーンの再構築
パンデミックは、中国依存のサプライチェーンの脆弱性を露呈させました。そこで脆弱性を見極めるためにも、まずは自社の現行グローバル・サプライチェーンにおけるモノの流れや工場などの展開地域を慎重に評価することが重要です。代替性の乏しい重要物資を特定の国・地域に依存している場合には、別のサプライヤーを確保しておく必要があります。異なる輸送手段を確保するなど、常にプランB (次善の策) を検討しながら、サプライチェーンを再構築しましょう。(注7
外部環境の変化を想定したシナリオプランニング
生産や輸送の大きな混乱が生じた場合に備えて、複数の異なる条件で戦略を分析しましょう。シナリオを作成し、そのシナリオをもとに戦略を立てるシナリオプランニングとリアルタイムの監視を実践することで変化への即応性を向上できます。また貿易制裁や輸出規制の変更・更新の頻度が高いことから、これらを抜け漏れなくチェックし、安全保障貿易管理を徹底するためのソリューションの導入も検討しましょう。(注8
持続可能性を向上させるサプライヤーマネジメント
グローバル・サプライチェーンは、強靭化だけでなく持続可能性も視野にいれなくてはなりません。昨今ではレピュテーションの毀損は、減収など財務的な影響を企業に与える事例が数多く見られます。児童労働・強制労働や森林の違法伐採などを放置しながらの調達は、レピュテーションリスクに繋がることから、サプライヤーにESG対応を担保するよう働きかけることが重要です。
サプライチェーン強靭化に必要なリスク評価については「安全保障貿易管理に係る関係法令の改正状況は?その影響や備えについて解説」からご覧ください。
サプライチェーン再構築を進める企業が増加中
ESG対応を担保できなければ、レピュテーションリスクに晒される時代を迎えています。かつての自由貿易体制は揺らぎ、保護貿易主義的な法規制の変更・更新が頻繁に行われているために、従来のグローバル・サプライチェーンでは競争優位性を維持できない可能性が出てきました。そのためCSR調達ガイドラインの策定や、別のサプライヤー・生産拠点の確保に着手する企業が増えています。
ONESOURCE Export Compliance
パンデミックで供給網が分散化したことで、グローバル・サプライチェーン全体が複雑化したほか、貿易制裁や輸出規制も複雑化しているために、安全保障貿易管理の徹底は企業にとって大きな課題です。抜け漏れなくコンプライアンスを遵守していくには、日本国内の法律を押さえているだけでは十分ではありません。トムソン・ロイターでは、広範な情報網羅とモニタリング体制で最新の規制や制度変更に対応するソリューションをご提供しています。詳しくは下記リンクよりご確認ください。
参考資料
注1:サプライチェーン途絶に備え。日本企業の防衛策を通商白書が分析|METI Journal
注2:サプライチェーンリスクと危機からの復旧|経済産業省
注3:米国輸出管理規則(EAR)の概要|安全保障貿易情報センター
注4:301条対中追加関税の見直し結果と今後の展望(米国)|日本貿易振興機構
注5:第3節 サプライチェーン管理における考慮事項の多角化|経済産業省
注6:経済的強靱性及び経済安全保障に関するG7首脳声明(2023年5月20日)|経済産業省
注7:COVID-19スペシャルレポート|Thomson Reuters
注8:制裁関連|経済産業省