安全保障貿易管理を踏まえたサプライチェーンリスク評価と成功する対策ポイント

「国際的な平和と安全の維持」「法令違反の未然防止」「懸念取引への巻き添え回避」の3つの観点から、安全保障貿易管理(輸出管理)を徹底させる重要性が高まっています。背景にあるのは、経済安全保障を優先するG7など欧米主導の通商観の台頭です。米中の技術覇権争い、ウクライナ紛争などが契機となって、貿易制裁や輸出規制の変更・更新が頻繁に行われています。

日本企業はパンデミックによるサプライチェーン停滞の経験を糧にしながら、各国の規制動向を踏まえたサプライチェーンリスク評価を実施し、費用対効果の高い管理体制を整備することが重要です。そこで本記事では、サプライチェーンリスク評価と成功する対策ポイントについてご紹介します。

安全保障貿易管理(輸出管理)の業務効率化とコンプライアンス強化に役立つONESOURCE Export Complianceについても紹介しますので、実務担当者の方はぜひ参考にしてください。

安全保障貿易管理を踏まえたサプライチェーンリスク評価

リスク評価とは、サプライチェーンリスク分析の結果を踏まえて、リスク対策の検討やリスク対応の優先順位を決定するためのプロセスのことです。サプライチェーンのレジリエンスを高めるためにも、現行のサプライチェーンの現状分析をもとにリスクの特定・分析・評価を行い、自社サプライチェーンの特徴、強み、弱みを抽出するようにしましょう。リスク評価の範囲は重要サプライヤーから、製造委託先、物流、顧客に至るまでグローバル・サプライチェーン全体に及びます。

安全保障貿易管理が必要となるのは、政省令で定めるリスト規制品目(武器、機微な貨物や技術)やキャッチオール規制(食品、木材等を除く)に該当する貨物の輸出や技術の提供を行う企業です。今後、規制対象品目の貿易を行う可能性がある企業も含まれます。これらの企業は、日本の安全保障貿易管理制度はもちろん、各国の貿易管理制度の取引品目、取引相手、仕向地などの規制動向を情報収集しながら、管理体制を強化する必要があります。(注1

リスク評価が必要な理由

貿易を取り巻く環境が急激に変化しているトレンドを踏まえて、日本企業は新たにリスク評価を行う必要があります。対策優先度の高いサプライチェーンリスクとして、貿易コンプライアンスを含めるべき時代が到来していると言えるでしょう。

例えば自然災害やパンデミック等の発生を念頭にリスク評価を行い、拠点分散や複数調達先の確保などのサプライチェーンリスク対策は引き続き重要です。それに加えて、米中間の技術覇権争いの激化から、2018年の対中追加関税(301条関税)を契機として両国を中心とした貿易制限措置がグローバルで増加しています。

このような保護貿易主義的な動きに呼応して、国家による経済安全保障優先という通商観が台頭したことで、グローバル・サプライチェーンの混乱・途絶リスクは高まっているのです。さらにサプライチェーンの持続的な成長には、環境や人権への配慮といったESG領域への貢献も期待されるなど、貿易コンプライアンスの対象はより複雑化・高度化しています。(注2、(注3

リスク評価の方法

サプライチェーンリスク評価では、まず現状分析をもとに、停滞・途絶を引き起こす原因事象と、引き起こされる結果事象を特定します。次に原因事象と結果事象の組み合わせから、サプライチェーンリスクの発生確率とその事業影響度を定量化・指数化しましょう。その上で、総合評価を行います。この総合評価をもとに、リスク対応の優先順位を決定していく流れです。

リスク対応の優先順位を決定する判断材料はリスクレベルであり、次のアプローチから求められます。

「リスクレベル = リスクの影響度 × リスクの発生可能性」

リスクの特徴を視覚的に理解するために、簡易的なツールがよく使用されます。ここでは、代表的なリスク評価ツールを見ていきましょう。

リスクマトリクス

リスクマトリクスとは、サプライチェーンリスクの「発生確率」とその「事業影響度」を軸に2次元で構成された図表です。マトリクスを利用すると、特定したリスクの相対的な位置付けを直観的に理解できるようになります。

リスクマップ(リスク4分割マトリクス)

リスクマップとは、「発生確率」の高低や「事業影響度」の大小によって4象限化されたマトリクスです。2軸が交差して生じた4つの領域それぞれに対して、戦略を検討するといった使い方ができます。

リスク評価の準備|サプライチェーンリスクの洗い出し

近年では、パンデミックに加えて関税・貿易制限の不確実性や、重要な原材料・部品の不足がサプライチェーンリスクとして認識されています。(注4

2022年5月に経済安全保障推進法が成立し、サプライチェーン強靭化を目的に12の特定重要物資が指定されました。政府は国内の産業界・同志国と連携しながら、シナリオ分析やサプライチェーン分析を行うなどして、経済安全保障上の脅威・リスクを特定しています。政府はGX2040ビジョンを掲げて、クリーンエネルギー中心に経済社会システム全体を変革するGX(グリーン・トランスフォーメーション)も推進しているので、リスク評価の準備にあたってはこれらの政策動向も確認しておきましょう。(注5、(注6

ここではリスク評価の準備として、サプライチェーンリスクの要素をまとめました。

リスクの領域リスクの要素
マクロ経済安全保障やGXなどの政策、貿易制裁などの法規制、為替や原料価格などの経済変動、紛争・対立などの地政学、ESG・CSR、インフラ・リソース
取引先サプライヤー、製造委託先、物流会社、顧客のコンプライアンス、拠点、供給能力など
オペレーション製品の開発、生産・供給計画、原材料の調達、製造、出荷/返品
バックオフィス国際税務・国際法務・情報システムへの対応、プロ人材の確保

クロスボーダー取引を伴うことから、遵法はグローバル・サプライチェーンリスク管理における最重要課題です。コンプライアンスによって責任ある取引を推進することで、企業価値や信用を高められます。法令違反による処罰の回避や、スムーズな通関など貿易手続きの円滑化はコスト削減に繋がる点も押さえておきましょう。

貿易コンプライアンスを確保するために管理する対象については「貿易コンプライアンスとは?その対象や近年の動向、企業がとるべき対応を解説」からご覧ください。

成功するサプライチェーンリスク対策を行うポイント

グローバル・サプライチェーンリスク管理で考慮すべきリスクは多角化しており、抜け漏れなく網羅するためには最新動向の情報収集が欠かせません。ここでは、成功するサプライチェーンリスク対策を行うポイントを3つご紹介します。

安全保障貿易管理におけるサプライチェーンリスクの可視化

自由で開かれた貿易から、政府主導で経済安全保障の確保へと比重がシフトしている認識のもと、法規制等のサプライチェーンリスクを一覧化して台帳を作成するようにしましょう。

日本の安全保障貿易管理制度では、「外国ユーザーリスト」などをもとに顧客やベンダーを審査し、懸念のある顧客やベンダーと取引を行う場合には経済産業大臣の許可を取得しなくてはなりません。例えば「リスト規制」「キャッチオール規制」「積替規制」「仲介貿易取引規制」「みなし輸出管理」などがあり、特に機微技術の流出やデュアルユースの可能性の高い製品・技術の取引について管理を強化する方向でキャッチオール規制の見直しが行われているために、その動向に留意が必要です。

制裁措置のアップデートも頻繁に行われています。対象となるすべてのロケーションを把握し、リスクのある拠点・ルートを定義した上で代替地・代替輸送ルートを検討しましょう。

サプライヤー管理基盤の整備

刻々と変化する制裁・法規制や世界情勢に対して、グローバル・サプライチェーンが一体となって機動的に対応できる仕組みづくりが重要です。サプライヤーと相互にデータ連携を行うなどして、モニタリング体制を構築するといった対策を検討すると良いでしょう。持続可能なサプライチェーンを構築するためには、「CSR調達ガイドライン」の策定と監査を実施するなど第三者を巻き込んでいくことも重要です。

事業に与える影響のシミュレーション

シミュレーションをもとにリスク評価を行い、リスクマトリクスなどを活用してインシデントの影響を可視化しましょう。事前にサプライチェーンリスクを特定することで、代替策の即時立案と安定供給の確保といった沈着・機敏な初動対応に繋がります。シミュレーションは、調達コストのマネジメントにも役立つでしょう。

安全保障貿易管理とサプライチェーンリスクの関連性については「サプライチェーンリスクとは?安全保障貿易管理において企業が取るべき対応を解説」からご覧ください。

リスク評価をベースに沈着・機敏な初動対応を実現する

考慮すべきサプライチェーンリスクは多角化していることから、リスクを一覧化した台帳をもとに、抜け漏れのないように対策することが重要です。リスク評価をもとに対応の優先順位を決定しておけば、インシデント発生時に沈着・機敏な初動対応を実現できるでしょう。


トムソン・ロイターでは、貿易管理のインフラ基盤構築を支援するソリューションをご提供しています。自動化によって、貿易コンプライアンスで必須な取引先情報のスクリーニングなどの重要作業を属人化させません。審査ロジック、情報の集約化によって、グローバル・サプライチェーン一体での貿易取引の安全性とコスト削減に貢献します。ソリューションの詳しい情報は、下記リンクよりご確認ください。

参考資料

注1:安全保障貿易管理ガイダンス [入門編](第2.3版 | 令和6年5月)|経済産業省

注2:第Ⅱ部 第1章 第3節 サプライチェーン管理における考慮事項の多角化|経済産業省

注3:第4節 サプライチェーンの強靱化に向けた課題|内閣府

注4:サプライチェーンリスクと危機からの復旧|経済産業省

注5:経済安全保障に関する産業・技術基盤強化 アクションプラン改訂版(令和6年5月)|経済産業省
注6:我が国のグリーントランスフォーメーションの加速に向けて(令和6年5月13日)|内閣官房

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