デュアルユースとは何か?安全保障貿易管理の観点から品目例も解説

日本を含む一部の国では、ワッセナー・アレンジメントや条約などの国際的な輸出管理の枠組みでデュアルユース技術の管理が厳正に行われています。近年では、地政学的リスクの高まりを背景に安全保障上の懸念から、軍事転用されるリスクのある民間の技術・製品に対して輸出管理上の規制を強化する動きが見られます。

例えば、欧州委員会は2023年6月、新たな経済安全保障戦略を発表し、輸出規制などによる安全保障の強化を打ち出しました。日本でも2023年7月23日、改正・貨物等省令等が施行されています。これにより「全地域向け」に、半導体製造装置(23品目)が輸出貿易管理対象に追加されたことをご存知の方も多いでしょう。

そこで本記事では、安全保障貿易管理の観点からデュアルユースの概要や品目例などを解説します。複雑化する輸出管理の業務フローやオペレーションを刷新できるONESOURCE Export Complianceについても紹介しますので、貿易実務担当者の方はぜひ参考にしてください。

デュアルユースとは

デュアルユースとは、民間と軍事どちらにも適用できる技術・製品のことを指します。ただし技術に境界はなく、常にデュアルユースである点が大事です。軍事技術はより高度な最先端技術のことであり、民生技術が軍事転用される時にデュアルユース技術として議論されることが一般的だと言えます。

ここでスピンオン・スピンオフという用語を押さえておきましょう。「軍事技術として開発された技術が民間に適用されること」をスピンオフ、逆に「民生技術として開発された技術が軍事に適用されること」をスピンオンといいます。(注1

増加傾向にあるスピンオン

特に防衛技術と民生技術が相互にスピンオフ・スピンオンを繰り返すことよって、技術水準は大きく向上してきました。かつてはスピンオフが主流であり、長期的な経済発展に寄与してきたのです。

例えば米国からは、電子レンジ、インターネット、全地球測位システム及びSiri等が民生波及を果たし、今では生活に欠かせない製品・技術になりました。日本からは、F-2から派生した各種技術が、ETC、RFID電子タグ、医療用骨折時補強チタンボルトなどとして一般に波及しています。

一方、2022年2月から続くウクライナ紛争など直近の戦闘では、スピンオンが増加傾向にあるのです。例えば民間エンジニアとIT専門家の支援を受けて、従来にはない斬新な発想で無人水上航走体『Sea Baby』の開発にウクライナ保安庁は成功しています。(注2

軍事転用されるリスクのある民間の技術・製品

そもそも輸出管理とは、「国際的な平和と安全の維持のために武器や軍事転用可能な貨物や技術が兵器等の開発等を行っている国などに渡らないように管理すること」とされています。輸出管理において懸念されるのは、民生用の貨物や技術であっても気づかないままに軍事用途に転用されるリスクが高まっており、企業がトラブルに巻き込まれる可能性が増している点です。

ここでは、軍事転用されるリスクのある民生用の技術・製品についてまとめました。(注3

技術・製品民生用途懸念される用途
工作機械自動車の製造や切削ウラン濃縮用遠心分離機の製造
シアン化ナトリウム金属メッキ工程化学兵器の原材料
ろ過器海水の淡水化細菌兵器製造のための細菌の抽出
炭素繊維ゴルフクラブのシャフトミサイル構造部材
レンズスマートフォン用カメラ軍事ドローン用カメラ
冷凍凍結乾燥器インスタントコーヒーの製造生物兵器となる細菌を保存
トリエタノールアミンシャンプー化学兵器
パワー半導体(窒化ガリウム、ガリウムヒ素半導体など)通信機器、衛星通信機器戦闘機レーダー

輸出管理で注意したい仲介貿易取引にかかる規制については「仲介貿易取引とは?輸出管理における規制との対象範囲と留意点を解説」からご覧ください。

複雑化するデュアルユース技術・製品の流通経路

防衛関係者は、デュアルユース技術の育成・活用は技術基盤の維持の観点から極めて利点が大きいと考えています。実際に近年では、民生技術が技術革新を主導する傾向にあり、軍事分野において機微性の高い民生技術が及ぼす影響が拡大しているのです。そのため日本企業は、機微性の高い民生技術が懸念国やテロ組織等によって軍事用途に転用・悪用され得るというリスク認識を持つ必要があるでしょう。

軍事分野で注目される先端技術

民間のみならず、デジタルツインを活用した精緻な未来予測や、再現度の高い大規模訓練等は軍事トレンドの1つです。軍事分野においてもAIによる状況予測・意思決定支援技術、無人化や自律化に貢献する自律AI及び脳と機械を繋ぐBMI、簡易に製造できる3Dプリンタ等の先端技術への需要は当然ながら高まっています。

またドローンをはじめ、過酷な環境下で長時間にわたり継続的なオペレーションが可能な無人アセットへのニーズは非常に高いです。そこで自己位置検出、動力源、センシング、群制御などの技術もAIや通信ネットワーク技術とともに必要とされています。(注2

多様化・巧妙化する調達活動の例

懸念のある主体が、その正体を隠しながら様々な経路で機微技術や軍事転用可能な貨物を狙っている可能性に、日本企業はより一層の注意を喚起する必要があります。ここではデュアルユースの調達経路についてまとめました。(注4

調達経路具体例
輸出取引フロントカンパニー、第三国経由、使用者・用途の偽装
技術取引フロントカンパニー、メール、クラウド、展示会、講演
企業買収外国政府の影響、国公営ファンドによる支援
学術交流・研究交流教員、研究者、留学生、共同研究、ピアレビュー
人材採用・求職活動ヘッドハント、重要企業への就職
技術窃取サイバー攻撃、産業スパイ

出典:安全保障貿易管理を巡る最近の動向(令和5年6月28日)|経済産業省

事故に繋がりかねないケース

人的リソースの不足はもちろん、安全保障貿易管理制度に対する担当者及びトップ層の無理解は、法令違反を発生させる大きな要因です。また後述する該非判定を誤ったり、自作の試作品は輸出管理の対象外と判断したり、海外の研究者と無自覚にやりとりしていたり、日頃の業務の中で輸出管理上の事故に繋がりかねないケースは数多くあります。

特に技術の管理は、貨物の管理よりも複雑であることから、公知の判断や手荷物の許可などの理解を深めておくようにしましょう。

輸出管理における許可例外の特例「公知の技術」については「輸出管理における公知の技術とは?許可が不要な特例適用の技術提供についても解説」からご覧ください。

外為法による規制の内容

日本において、食料品、木材等以外は、基本的に外為法令上の規制の対象であることを押さえておきましょう。外為法に基づく輸出規制は、「リスト規制」と「キャッチオール規制」の2本柱で構成されています。いずれかの規制に該当する場合には、必要な書類を用意して経済産業大臣の事前許可を申請しなくてはなりません。(注3

リスト規制

特に軍事転用の可能性が高く、外為令等に規定される機微技術は、「リスト規制」の対象です。輸出令別表第1・外為令別表で、規制対象の品目がリスト化されています。リスト化された品目であり、かつ貨物等省令に規定された仕様に該当する場合には、経済産業大臣の許可が必要です。この場合、取引の相手国が先進国であっても、貨物輸出・技術提供の許可が必要であることに変わりはありません。

キャッチオール規制

機微技術でなくても、利用用途やエンドユーザーの観点から軍事転用の危険性があると認められる場合には、「キャッチオール規制」の対象となります。ただし取引の相手国が輸出管理を厳格に実施している先進国「輸出令別表第3の地域(グループA)」であれば、キャッチオール規制に基づく事前許可の申請は不要です。

なお時間に余裕のない中で申請し、許可の取得が間に合わないといった事態は避ける必要があります。国際的な平和及び安全の維持の観点から審査は実施され、審査期間は原則として90日間です。

輸出管理のフロー

貨物の輸出や技術の提供を行う際には、下記の輸出管理のフローにそって自社内で審査を行います。

1. リスト規制に該当するかを確認する「該非判定」

2. 用途の確認

3. 需要者等の確認

4. 輸出取引の実施において安全保障上問題がないかを確認する「取引審査」

5. 審査した貨物・技術と同一のものが輸出・提供されるかを確認する「出荷管理」

法律遵守にむけ制度への理解向上と輸出管理体制の構築が必要

リスト規制やキャッチオール規制の対象であるにもかかわらず、無許可で技術の提供や貨物の輸出を行うと法令違反とみなされます。無許可での提供・輸出だけでなく、兵器転用の事実が判明した場合も、懲罰・罰金・行政制裁の対象となるのです。そのため安全保障貿易管理制度に対する理解や意識の向上に加え、組織内の輸出管理体制の整備や運用の改善が重要になります。


これからの輸出管理は、グローバル規模で日々アップデートされる法令の変化を実務担当者が意識することなく業務に携われる環境づくりが必須です。そこで「該非判定」「取引審査」「出荷管理」のフローにおいてシステム自動処理を取り入れつつ、最新の法令も一元化されているシステムが必要になります。詳しくは下記URLからご覧ください。

参考資料

注1:デュアルユース技術の現状(平成26年3月22日)|未来工学研究所

注2:防衛技術に関する戦略的取組について(令和5年11月14日)|防衛装備庁

注3:安全保障の輸出管理への入門(令和6年度)|経済産業省
注4:安全保障貿易管理を巡る最近の動向(令和5年6月28日)|経済産業省

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