実は特許法と輸出管理の根拠法である外為法では、公知の概念に違いをあることをご存知でしょうか?輸出管理を行う上で、技術の管理は貨物の管理よりも複雑です。そのため技術の提供に関わる日本企業は、許可例外の特例である「公知の技術」の適用にあたっては正しく理解するよう努めなくてはなりません。
そこで本記事では、輸出管理上の「公知の技術」特例について根拠となる規定や法令構造とともに詳しく解説します。また輸出コンプライアンスのプロセスを一元化できるONESOURCE Export Complianceについても紹介するので、国際貿易の実務担当者の方はぜひ参考にしてください。
安全保障貿易管理における「公知の技術」特例の適用とは
特許庁の用語解説によると、「公知」とは「不特定の者に秘密でないものとしてその内容が知られること」です。特許法では、特定の者しか知らなくても「秘密を脱した状態」にあること、つまり他者が合法かつ容易に知り得る技術情報は公知とみなされます。人数が多い少ないという問題ではない点がポイントです。
一方、安全保障貿易管理制度を運用する礎となる外為法では、不特定多数の者にすでに公開されていないと「公知の技術」とはみなされません。現在公知であるもの、または将来公知となるものは不特定多数者が入手あるいは閲覧・聴講可能であることから、規制対象外とされています。このような観点から、これから提供する技術が「公知の技術」に該当するかを判断しなくてはなりません。
ここでは上述の公知の概念の違いを踏まえながら、特例の適用における注意点や根拠となる規定及び許可例外となる技術提供の例について見ていきましょう。
「公知の技術」特例の適用において注意すべき点
「公知の技術」特例の対象は、「公知技術の提供および技術を公知化する行為そのもの」です。当該技術を「不特定多数」の者が入手・閲覧できるかどうかが、「公知の技術」特例適用を判断する際のポイントとなります(貿易外省令第9条第2項第九号ホ)。つまり「特定多数」は対象外である点に注意が必要です。
結果的に公知とみなされないケースでは、役務許可を取得する必要が生じます。海外研究者との共同研究の過程など、将来的に公知とするために技術を提供する取引において、提供時点で不確定要素が認められる場合には許可を取得するようにしましょう。
例えば参加者に守秘義務を課して発表を行うケースでは、情報を公開する対象が制限されることから「公知の技術」特例は適用できません。また国際会議・学会等において、発表そのものは技術の公知化であっても、発表後に発表内容を超える議論を個別に行う場合も同様に、公知の特例は適用されないのです。(注1
根拠となる規定と許可例外となる技術提供
許可例外の特例である「公知の技術」特例は、外為令17条5項に基づき貿易外省令第9条第2項第九号で規定されています(役務通達)。「公知の技術」特例が適用され、許可例外となる技術提供の例は下記の通りです。
| 【貿易外省令第9条】(第2項) |
| 九:公知の技術を提供する取引又は技術を公知とするために当該技術を提供する取引(特定の者に提供することを目的として公知とする取引を除く。)であって、以下のいずれかに該当するもの |
| イ 新聞、書籍、雑誌、カタログ、電気通信ネットワーク上のファイル等により、既に不特定多数の者に対して公開されている技術を提供する取引 |
| ロ 学会誌、公開特許情報、公開シンポジウムの議事録等不特定多数の者が入手可能な技術を提供する取引 |
| ハ 工場の見学コース、講演会、展示会等において不特定多数の者が入手又は聴講可能な技術を提供する取引 |
| ニ ソースコードが公開されているプログラムを提供する取引 |
| ホ 学会発表用の原稿又は展示会等での配布資料の送付、雑誌への投稿等、当該技術を不特定多数の者が入手又は閲覧可能とすることを目的とする取引 |
出典:貿易関係貿易外取引等に関する省令(貿易外省令)
なお許可例外の特例を適用できる場合には、客観的にリスト規制に該当する場合であっても、役務許可の申請は必要ありません。
安全保障貿易管理制度に係る法令構造の全体像と「役務取引」
日本の安全保障貿易管理制度は、ワッセナー・アレンジメントをはじめとする国際輸出管理レジームでの合意を踏まえて、外為法を根拠法とする様々な法令等に基づき実施されています。
日本の安全保障貿易管理に係る関係法令の改正状況については「安全保障貿易管理に係る関係法令の改正状況は?その影響や備えについて解説」からご覧ください。
法令構造の全体像
安全保障貿易管理制度に関連する外為法に基づく規制は、次の2つの仕組みで実施されています。
リスト規制:武器、軍事転用の可能性が高い機微な貨物や技術をリスト化して規制
キャッチオール規制:リスト規制品以外を補完的に規制
上記の規制に該当する貨物の輸出や技術の提供にあたっては、経済産業大臣の許可が必要です。貨物及び技術の輸出管理を行うにあたり、参照すべき法令をその構造とともに下記にまとめました。
| 貨物 | 技術 | 役割 | |
|---|---|---|---|
| 法律 | 外為法第48条(輸出の許可等) | 外為法第25条(役務取引等) | 根拠法 |
| 政令 | 輸出令(輸出貿易管理令)別表第1 | 外為令(外国為替令)別表 | 規制品目等 |
| 省令 | 貨物等省令 | 貿易外省令 | 貨物:規制対象の仕様技術:許可の手続き等、許可を要しない役務取引等 |
| 通達 | 運用通達 | 役務通達 | 対象・手続き、用語の解釈 |
出典|安全保障貿易管理ガイダンス[入門編](第2.3版 | 令和6年5月)|経済産業省
外為法の役務取引
外為法では、技術の提供を目的とした取引のことを「役務取引」と呼んでいます。役務といえば労務の提供をイメージさせますが、あくまでも「技術の提供」が規制の対象となる行為です。
輸出管理における技術とは、「貨物の設計、製造又は使用に必要な特定の情報。この情報は、技術データ又は技術支援の形態により提供される。」とその解釈が役務通達に示されています。また技術の提供とは他者が利用できる状態に置くことであり、その取引は有償無償を問いません。(注2
外為法25条第1項では、外国及び日本で提供した場合に分けて、特定技術の提供に関する規制が規定されています。特定技術とは、政令で定められた規制の対象となる貨物や技術のことです。法令との照合作業には、経済産業省が作成した最新の「貨物・技術のマトリクス表」を利用して検索すると良いでしょう。
ここでは経済産業大臣の許可を受ける必要があるとされている取引・行為を、下記にまとめました。
| 規制の対象となる技術の提供 | 根拠法 | 具体例 | 規制の対象者 |
|---|---|---|---|
| 外国において特定技術を提供することを目的とする取引 | 外為法25条1項 | ・海外での技術指導や討議・技術開発会議等 | 誰でも |
| 日本において特定技術を提供することを目的とする取引(みなし輸出) | 外為法25条1項 | ・海外からの顧客との技術討議・外国人研修生への技術指導・技術開発会議等 | 居住者から非居住者/特定類型の居住者 |
| 特定技術を内容とする特定記録媒体等(USBメモリー等)を外国に持ち出す行為 | 外為法25条3項 | ・冊子や外部記録媒体等の送付・ハンドキャリーでの持ち出し等 | 誰でも |
| 特定技術を内容とする電子データを外国へ送信する行為 | 外為法25条3項 | ・メール・電話・WEB会議システム・クラウドサービス等 | 誰でも |
出典:「安全保障貿易管理」早わかりガイド(令和6年1月)|経済産業省
「公知の技術」特例を適用できる場合とできない場合
ここではQ&A形式で、許可例外となる場合とならない場合について見ていきましょう。
Q. 特許情報を提供する場合に、許可申請は必要ですか?
A. 公開特許情報は「公知の技術」に該当するために、役務許可の取得は不要です(貿易外省令第9条第2項第九号)。
Q. 大学主催の学位論文発表会を非公開で開催する予定です。許可例外の適用は可能でしょうか?
A. 不特定多数の者が入手あるいは聴講可能な技術情報でなければ、「公知の技術」例外を適用できません。
Q. 非居住者に技術提供する際に特例の適用を検討したところ、公知の技術であると確認できました。この場合に、該非判定は必要でしょうか?
A. 貿易外省令第9条第2項第九号の要件を満たす可能性が高い場合に、提供予定の技術の該非判定より先に特例の適用について検討した上で、要件を満たすことが確認できれば、当該技術を該非判定なしで提供しても問題ありません。(注3
公知の技術特例を適用できるか否かの判断は慎重に
公知の技術などの特例を適用できると考えられる場合であっても、研究者一人に任せきりにせず、輸出管理担当部署において技術の提供の実態を慎重に審査することが大切です。また「公知の技術」特例の適用にあたって必要な「不特定多数の者が入手あるいは閲覧・聴講可能」という前提条件の周知も、徹底して行うようにしましょう。
ONESOURCE Export Compliance
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参考資料
注1:大学・研究機関における 安全保障貿易管理に関する ヒヤリハット事例集(令和5年9月)|経済産業省
注2:外国為替及び外国貿易法第25条第1項及び外国為替令第17条第2項の規定に基づき許可を要する技術を提供 する取引又は行為について|経済産業省(役務通達)
注3:Q&A(大学・研究機関向け)(令和3年2月)|経済産業省