「がんばりすぎない働き方」から「横たわり主義」まで、世界的なスキル不足がもたらすコンプライアンスリスク

アジアを中心とした雇用の再編とスキルを持った人材が不足する中で、企業はリスクとコンプライアンスへの取り組みを停滞させないためにはどうすればよいのでしょうか。

雇用動向に関する最近の調査では、世界的に人材のスキル不足がビジネスの成長や事業継続に影響を及ぼす可能性があるとして警鐘を鳴らしています。専門的なスキルを持つ従業員を採用・定着させることができないことはすでに広く認識されていますが、スキル不足はアジア太平洋地域の企業にとって特に不安定な要素となる可能性があります。

こうした採用や雇用維持の課題は、より広範な事業の回復力に関する新たな課題を引き起こす危険性があり、雇用主は変化する労働文化や将来への見通しに適応する必要があります。

アジアのスキル不足は、コロナ禍で「特に深刻」に

コンサルティング企業のPwC社は、アジア太平洋地域の従業員18,000人が参加した最近の調査結果に基づいて、アジア全域のスキル不足を「特に深刻」であると述べています。同様に、ポリリサーチ社が3月に発表した報告書によると、アジア太平洋地域の調査対象企業の60%が、従業員の退職後、新たな人材を獲得できないというリスクに直面していることがわかりました。これは、ヨーロッパ、中東、アフリカ(EMEA)の53%、南北アメリカの53%と比較して、多い結果になりました。

アジア太平洋地域のスキル不足は、人材採用・雇用維持のリスクが企業の事業拡大を妨げる可能性があることを浮き彫りにしています。オートメーション企業のABB社とデータセンター・ダイナミックス社が実施した調査によると、アジア太平洋地域のデータセンター事業者は、今後数年間、スキル不足により需要に見合った生産能力の拡大に対して困難に直面することが予想されています。

回答者の40%以上が、この地域のデータセンター建設は、コロナ禍の需要に追いついていないと回答しています。その主な要因として、下請け業者や専門業者へのアクセスとともに、専門スキルの不足が挙げられています。

“がんばりすぎない働き方” ” 横たわり主義” が注目

コロナ禍後の大規模な退職に続き、労働力不足とスキル不足が顕在化しています。PwC社が44カ国、52,000人の労働者を対象に行った調査では、20%もの労働者が年内に仕事を辞める予定であることがわかり、雇用者にとって人材確保は今後も懸念材料となっています。

また、多くの国が仕事への不満に対し、独自の取り組みを行っています。欧州、カナダ、米国では、従業員が職務を遂行するために必要最低限のことを意図的に行う「がんばりすぎない働き方」と呼ばれる現象が見られ、企業はその緩和策を模索しはじめています。

米国の職場調査会社ギャラップ社が6月に15,000人の労働者を対象に行った調査によると、回答者の半数以上が自らを「仕事に没頭していない」と表現し、がんばりすぎない働き方をしていることがわかりました。さらに、回答者の18%が自らを「積極的に従事していない」とし、その割合は2013年以降で最も高くなりました。

実際、ヨーロッパの労働者は世界中の同業者と比較して、職場への貢献度で最下位にランクされています。ギャラップ社の調べによると、職場でエンゲージしていると答えた労働者は、米国とカナダでは33%、東南アジアでは24%、東アジア、オーストラリア、ニュージーランドでは17%だったのに対し、ヨーロッパではわずか14%でした。

中国ではこの2年間、「臥薪嘗胆」というプレッシャーのかかる労働文化を否定し、ミニマリスト的な反消費型のライフスタイルを支持する動きが活発になっています。当初は、デジタル経済下の中国企業の企業文化の特徴である高ストレスな残業に対する反発から生まれたものでしたが、「躺平」(とうへい)-頑張らない、もっと簡単に手の届く目標をもって、リラックスすること- はハイテク業界を超えて広がり、中国の経済成長により長期的な影響を与える可能性があります。

今後の人材確保にむけて

今日のスキル不足は、企業の事業継続のリスクを拡大させる可能性がある採用・雇用維持の問題を引き起こしています。企業はリスクに適応し、同時に軽減するために、仕事に対する地域の考え方がどのように変化しているかを理解するよう努めなければなりません。

欧米市場では、「がんばりすぎない働き方」についての議論から、雇用主が従業員の職務責任を見直し、正式に定められた業務のみを求めるようになってきています。このような評価の変化は、企業文化に広く影響を及ぼすと考えられ、企業はより透明で規定された業績評価方法へと移行しています。

中国では規制改革と当局からの圧力により、多くのテクノロジー企業が残業を削減し、中国の労働法の遵守をより強く意識するようになりました。

世界中の企業は、従業員のスキルアップが、退職リスクを軽減し、熟練労働者を確保するための最良の選択肢であることをますます認識するようになってきています。同様に、コロナ禍末期にはあまり強調されなかったことですが、人材確保計画に従業員の福利厚生を盛り込むことも重要です。従業員の仕事に対する満足度を見過ごすと、重要な従業員のスキルアップに費やした貴重なリソースを競合他社に奪われてしまう可能性があるのです。


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