ESG戦略の財務実績を把握する ~財務面における重要性~  

ESG要素の重要性が高まる中、企業の規制ならびに法務担当者や経営陣は、その財務上の重要度を改めて認識すべきでしょう。 

環境、社会、ガバナンス(ESG)要因が投資判断においてますます重要になるにつれ、ESG要因の財務的重要性は、法律と財務の両方の観点からビジネスに影響を与えるようになりました。法的には、ESG要素が誤解を招いたり、不正確に報告された場合、責任の根拠となる可能性があります。 

財務的重要度は、企業のESG課題のなかで、ある要素が財務的にどの程度重要であるかを示すもので、サステナビリティ会計基準審議会(SASB) は、重要課題を 「企業の財務状況や業績に影響を与える可能性が高く、そのため投資家にとって最も重要であるもの 」と定義しています。 

ESG評価と財務実績の相関関係

ESG評価が高い企業は、評価が低い企業と比較して、株価や基礎的な財務指標の点で優れている傾向があることは、実証されています。この実績の背景には多くの論理的要因があります。つまり、ESG課題に対応することで、様々な方法でリスクを減らし、効率性が高まるということです。例えば、ESG評価が高い企業は、不適切な廃棄物管理、過剰な土地利用、大気汚染物質の放出など、環境上の不備による金銭的な罰則や風評被害を受ける可能性が低くなります。さらに、社会的課題に対する評価が高い企業は、労働者の権利守り、機会均等を実践している雇用主である傾向があり、その結果、従業員の満足度も向上します。 

過去10年間、様々なメタ研究により、ESGの成果と財務実績の関連性が実証されています。例えば、最大規模のメタ研究では、2,000以上の実証研究の結果を統合し、90%がESG要素と財務実績の間に肯定的または中立的な相関関係を示しました。また、ニューヨーク大学MBA(NYU Stern)ならびに ロックフェラー・アセット・マネジメントのサステナブル・ビジネス・センター(Center for Sustainable Business)の分析では、ESGが財務実績を好転させる例が58%(財務実績が中立の例が13%、混合21%、悪化8%)見られ、さらに、事業の脱炭素化の取り組みも財務実績と強い相関関係があることが分かっています。 

ESGの財務的重要性は、株式投資のみならず、債券投資家の与信判断においてもますます重要な役割を果たすようになってきています。この状況を反映し、国連責任投資原則が発表した2021年の声明には、180以上の投資家と25の格付け機関が署名し、”体系的かつ透明性のある方法で “信用格付けにESGを取り入れることが確約されたのです。 

さらに、ESG要素は国レベルの実績に対する評価にも影響を及ぼしています。世界銀行は、投資家により明確な情報を提供するため、初となるソブリンESGデータベースを立ち上げました。当データベースでは、17の持続可能な開発目標すべてに関連するESGデータを組み込むことにより、投資家が国レベルのESG実績を把握することができます。 

すべては善きガバナンスから始まる 

実証研究の結果を見ると、優れたガバナンスが最も重要性に影響を及ぼしていることがわかります。例えば、ガバナンスの向上として腐敗防止の枠組みが充実しているグローバルアパレル企業では、サプライチェーンで児童労働の問題に遭遇する可能性が低くなることが考えられます。 

調査によると、贈収賄防止や汚職防止プログラム、役員報酬、役員会の多様性などの要素が最も強い相関を示しており、ガバナンス分野の充実が最も財務実績と明確な関連性を持っています。これは債券投資家にも当てはまり、企業倫理、役員報酬の透明性、役員会の多様性は、環境・社会的要因よりも企業倒産を防ぐために重要であるとしています。 

ESGをどのように統合するか? 

ESGの統合がこのように活発で新しい分野である理由は、投資家が様々な戦略を選択できるためです。 

世界持続的投資連合 (Global Sustainable Investment Alliance)は、持続可能な投資を「ポートフォリオの選択と管理においてESG要因を考慮する」ものと定義し、ESG投資を以下の共通戦略に分類しています。 

  • ESG統合(財務データの次にESGデータを使用すること) 
  • 企業参画と株主による行動(ESGに焦点を当てた投資家活動) 
  • 規範に基づく審査(最低基準に対する審査) 
  • 除外審査(排除型スクリーニング) 
  • ストインクラス(選別型スクリーニング)
  • テーマ別投資(クリーンエネルギー、社会トレンド、低炭素など) 
  • インパクト投資(社会的・環境的効果の次に財務的効果を得ること) 

これらの戦略の普及は地域によって異なりますが、 ESG統合排除型スクリーニング企業参画と株主による行動が圧倒的に多いアプローチです。これらはサステナブル資産全体の約85%を占めています。 

ESG要素の積極的な統合は、「分析および投資決定におけるESGデータの明示的かつ体系的な反映」と定義され、従来の財務分析と並んで最も実績の高い戦略となっています。実績の優位性の主要な理由は、特に社会的または経済的危機の際の下落リスクに対する管理にあります。ニューヨーク大学MBA とロックフェラー・アセット・マネジメントの報告では、これらの要因が、 ESG統合が戦略として最も支持されている理由であると説明しています。 

縮小する持続不可能な投資の世界? !

2021年初頭においては、世界の全運用資産のうち35%がサステナブル分野の資産と言われていました。過去2年間の年間成長率は15%であり、市場ではまもなく、サステナブル投資が徐々に世界の総運用資産の大半を占めるようになるでしょう。 

機関投資家のための高いガバナンス基準を定めた2020年からの英国のスチュワードシップ・コードは、欧米の各地域で遵守されています。このコードでは、増加する投資家に対して、投資プロセスにおいてESG要素を含む中長期的な持続可能性を考慮するよう求めており、投資運用におけるESGのさらなる追い風となっています。 

米国では企業報告における温室効果ガス排出量の開示、欧州では持続可能な金融情報開示の規則が提案されており、ESG型投資の重要性は今後も高まり、アドバイザーや顧客の関心に影響を与えることになるでしょう。投資顧問業協会による最近の調査では、51%近くのアドバイザーがESGまたは持続可能性を2022年の「最もホットな」コンプライアンス・トピックの1つと見ていることがわかりました。 

さらに、消費者のESG要素に対する強い関心により、報告体制、規制要件、財務実績の標準化とともに、投資プロセスにESG要素が完全に統合されることは確実です。財務実績とESGの積極的な統合の関連性は、まもなくより鮮明になり、資産運用会社の受託者責任はESG要素を十分に考慮することでしか果たすことができなくなるでしょう。 

ESGを考慮しない投資のパイが縮小していることを、”持続不可能な投資”と呼ぶべき時が来ているのかもしれません。 


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