BEPSプロジェクトの概要と目的~企業に課された課題とは~

BEPSプロジェクトとは、多国籍企業が巧みに各国の税制の違いや矛盾を利用した税金逃れに対応すべく、OECDが2012年の6月に国際課税の規則を根本から見直すために立ち上げたプロジェクトの総称です。

このプロジェクトは、2015年の10月5日に、15の具体的な行動計画それぞれについての最終レポートを集約した結果をパッケージとして発表、国際社会に公開されました。

本記事では、BEPSプロジェクトの概要や目的、企業が認識すべきルールや課題について解説します。多国籍企業の活動実態や国際課税ルールをめぐる問題について理解を一層深めたい方はぜひご一読ください。

また、記事の最後では、BEPSプロジェクトが抱える課題についてのソリューションやツールのご紹介、詳細について解説したオンデマンド動画も合わせてご案内しております。BEPSプロジェクトの早期対策にお役立ていただければ幸いです。

BEPSプロジェクトとは

BEPSプロジェクトのBEPSとは(Base Erosion and Profit Shifting)の頭文字を取ったもので、日本語に訳すと「税源浸食と利益移転」を意味します。

このプロジェクトは、近年、企業のビジネスモデルが変化し、それに伴い税制も変わる中での課税逃れの問題に対抗することを目指しています。

1. BEPSプロジェクトの概要

BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトとは、多国籍企業の実際の活動と国際ルールの間に差異が生じていた事態に対処するために、OECDによって2012年の6月に立ち上げられたプロジェクトです。

BEPSプロジェクトは、「公平な競争条件(level playing field)」という観点から、国際課税ルールを世界経済の状況と企業の実際の行動に合わせて改定し、各国の政府とグローバルな企業の透明性を向上させることを目標としています。

G20(世界の主要20カ国の財務大臣と中央銀行総裁)からの要求に基づき、15のアクションポイントを中心に、2013年の7月には「BEPS行動計画」が立案されました。

この計画は、国際社会が一丸となってBEPS問題に取り組んでいくためのもので、その問題についての詳細な議論が行われました。それらの議論の成果は、2015年9月にまとめられ「最終報告書」として発表されています。(注1

2. BEPS 2.0の概要

「BEPS2.0」とは、多国籍企業の収益の公正な配分と、適切な最低法人税率の制定を目的に各国が共同で取り組むプロジェクトです。

税制に存在する国際的な隙間や抜け穴を活用した、BEPSによる避税対策として、OECDとG20各国が協調し、2015年11月にBEPS行動計画の最終版が発表されました。

それ以降のBEPS2.0は、デジタル経済への移行を含む多国籍企業グループのビジネスの変化に伴う税務問題への対応を重視しています。

これは、更なる収益の公正な配分と最低税率の設定、さらにデジタル課税への対応を含む取り組みを指しており、市場国への適切な収益配分を目指す第1の柱(Pillar1)と、多国籍企業に対する最低税率の導入を目指す第2の柱(Pillar2)の二つの主要な要素に分けられています。(注2

関連記事:(id002)2.0 Pillar2とはー国内法制化にともなう日系企業への影響ー

BEPSプロジェクトの最新動向・加盟国

bepsプロジェクトは2012年の立ち上げ以降は国際的なムーブメントとなり、加盟国が続々と増えてきています。

ここでは、BEPSプロジェクトの最新動向・加盟国について解説します。

1. 公的機関の公開情報など

以下は、2023年7月にOECDによって発表された「BEPS2.0プロジェクトの進捗に関する成果声明」で発表された内容です。

・第1と第2の柱の進行状況の報告

同声明では「第1と第2の柱の進行状況の報告」が発表されています。包括的フレームワークに賛同する138ヶ国と地域(カナダ、ベラルーシ、ロシア、パキスタン、スリランカを除く)によって承認され、先の2021年10月の声明に参加しなかったケニアとナイジェリアもこの声明に同意に至りました。

第1の柱、すなわち利益Aについて、2023年7月の声明は多国間条約(MLC)がその規定を作成し、署名の準備を行っていることを伝えています。署名は2023年の後半に開始され、年末までに署名式が開催される予定であり、さらに2025年にはMLCが発効することが目指されています。

第2の柱である課税対象ルール(STTR)について、このルールが途上国から第2の柱への同意を得るために欠かせない存在であると認識されています。

STTRを二国間の税条約に組み込むための規定と解釈の作成作業が完了しており、グループ内での利息、ロイヤリティ、サービスに対する全ての支払いを含む一部のグループ内支払いを対象としています。

・デジタルサービス税(DST)や類似の措置についての現行の一時停止協定について

また、同声明では、最近制定されたデジタルサービス税(DST)や類似の措置についての現行の一時停止協定(2023年12月31日まで)も触れられています。

声明によれば、年末までに30以上の国と地域が異なる国の企業の親会社の60%以上をMLCの署名対象とすることが予定されています。

その場合、包括的フレームワークに参加する国は、新たに導入されたDSTや類似の措置を2024年1月1日から2024年12月31日まで課さないことに合意し、MLCが予定よりも早く発効した場合、その日まで課さないこととしています。(注3

2023年 OECD/G20包摂的枠組み参加国に関する情報

2023年7月12日、包摂的枠組み参加国間における第15回会議に際し、OECDはBEPS2.0に関する合意事項について声明を発表しました。(注4

2023年7月時点、OECD/G20の包摂的枠組みとして143カ国の国・地域が参加しており、そのうち、同声明においては138カ国・地域が合意に達したことを発表しています。(注5

BEPSプロジェクトの課題

2018年に公開されたOECDの中間報告では、経済のデジタル化が引き起こす具体的な国際税制上の課題として、以下の問題が提示されました。

1. 根本的な課題

BEPSプロジェクトが抱える根本的な問題として、以下の問題が指摘されています。

・一つ目の問題

企業が物理的なプレゼンスを持たなくともビジネス活動を展開できる現代において、従来の国際課税ルールがリアルな拠点の存在に重きを置いているため、利益が発生した国に税金が支払われない事例が増えていること。

・二つ目の問題

知的財産等の無形資産がビジネスにおいて中心的な役割を果たすようになった現状において、企業が関連会社間の取引などを用いて利益を税率の低い国に転送することが容易になっていること。

・三つ目の問題

ユーザー自身が生み出すコンテンツやデータが新たな価値を創造する中で、ユーザーのいる国に物理的な存在がなくてもそれらをビジネスに活用している場合、どのように課税するべきかという新たな課題が生じている。

これらの問題を解決するため、OECDは2019年6月に「経済のデジタル化に伴う課税課題への共同解決策作成向け作業計画」を公表しました。

この計画では、市場国へ適切な税収を配分するためのルール改定(第1の柱)と、税率の低い国への利益転送に対抗するための新措置(第2の柱)について検討することが決定しています。

2023年の2月には、OECDが提案した包摂的な枠組みがG20財務大臣会合で支持され、OECD/G20以外の国々も含めて、最終報告書の推奨事項の実行への取り組みが広がっています。

今後は推奨事項に従ってOECDモデル租税条約やOECD移転価格ガイドラインが改訂され、各国の国内法についても適切な整備・修正が行われると考えられます。(注5

2. 想定される企業への影響など

国際的な税制度は、企業のグローバルな環境が進化し続ける中で、日本企業の海外展開と競争力を保ちつつ、日本の税収が保証されるように、常に見直しを行う必要があります。特に、ビジネスモデルの変遷や各国の課税改革の動向には注意が必要です。

近年の企業のビジネスモデルは、グローバリゼーションやIT技術の進歩に伴い、多国籍企業の活動は更に複雑化し、生産や雇用、販売、マーケティングなどを最適な国や地域に分散する傾向があります。

さらに、無形資産である知的財産が中心的な価値を担う商品やサービスが増え、企業経営に大きな影響を与えるようになりました。このようなビジネスモデルの変化に伴い、グローバルな資本や資産の移動も明らかな変化を見せています。

増加している国境を越えた直接投資は、実体のある企業のM&Aだけでなく、投資対象国での活動を前提としないペーパーカンパニーへの投資も増加しました。また、知的財産の開発の場所とその収益が発生する場所が一致しない傾向も見られています。

このような企業の行動や国際的な資本移動の変化に対応するための国際課税制度の改革では、健全な企業活動が妨げられないようにすることはもちろんのこと、一部の過剰なタックス・プランニングを行っている企業が競争上有利にならないようにする必要があります。

公平な競争環境を全世界に整えるためには、国際的な協力と枠組みの構築が不可欠です。上記の企業の行動の変化に対して各国が個別に課税権を行使し続けると、国際的な税制の差異や隙間を利用した租税回避が増えるリスクがあります。

各国の税収へのリスクを高めるこのような状況に対応するためには、税制の抜け道を埋めるとともに、国際課税ルールを再設計する努力を各国が協力して続けることが求められています。

BEPSプロジェクトの課題に対するソリューション

BEPSプロジェクトでは経済のデジタル化が進む中で、適切な税制の実施と競争法の適用が確保されるよう、継続的な見直しと対策が要求されてきました。

各企業が公正なビジネス環境を維持し、日本企業の国際的な競争力を保つとともに向上させ、過度な事務負担や二重課税を避けるという観点を念頭に国際的な議論に取り組んでいくためのソリューションが今後は求められるでしょう。

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2. オンデマンドウェビナー
「BEPS2.0による税務への影響:グローバル企業に求められる対応策とは

オンデマンドウェビナー「BEPS2.0による税務への影響:グローバル企業に求められる対応策」では、BEPS2.0の第2の柱がもたらす問題と可能な変化への対応方法について詳細に解説します。

国際税務トレンドの振り返りから、BEPS2.0の第2の柱によって想定されるシナリオとソリューションついて、トムソンロイターの迫本、山内が解説します。

日本のビジネス環境における税務影響とその対処法について知るための情報を掲載した本ウェビナーの視聴を希望される方は、以下のリンクよりお申込みください。

オンデマンドウェビナー(BEPS2.0による税務への影響:グローバル企業に求められる対応策とは)

参考情報

注1:国税庁 BEPSプロジェクト

注2:国税庁 グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし

注3:138 countries and jurisdictions agree historic milestone to implement global tax deal – OECD

注4:Outcome Statement on the Two-Pillar Solution to Address the Tax Challenges arising from the Digitalisation of the economy-OECD

注5:Members of the OECD/G20 Inclusive Framework on BEPS

注6:経済産業省 経済のデジタル化に伴う国際課税及び競争法に関する近年の動き

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