EUの炭素排出価格規制および国境税は、輸出入業者と国際貿易担当者にとって何を意味するのでしょうか?
環境・社会・ガバナンス(ESG)問題、特に炭素と持続可能性に関する EUの規制体制は、世界で最も包括的です。脱炭素化の推奨から、金融サービス業界におけるESGの法制化、企業に対するESGコミットメントと測定値の報告義務化まで、EU管轄当局は、世界が採用する標準的規制の枠組みを提供しようとしています。
同様のことが、炭素国境調整メカニズム(CBAM)と呼ばれる域内への輸入品の脱炭素化へのコミットメントにおいても言えます。つまり、 EUへと運ばれてくるセメント、鉄、スチール、アルミニウム、肥料、電力、水素など、炭素リーケージリスクのある炭素集約型製品の製造により排出される炭素に適正な価格を設定する規制を意味しています。簡単に言えば、EUに輸入されるある特定の種類の炭素集約型の製品に課される関税です。
施行は10月に始まり、CBAMの施行によりEUへの輸入業者が提出する必要がある最初の年次報告書の提出期限は、2024年1月になります。これに加え、炭素集約型製品のリストを順次拡大する計画もあります。
CBAMは、脱炭素化への大きなコミットメントの一部
CBAMの目的は、キャップ・アンド・トレードの原則に基づき運営されるEUの排出量取引制度(ETS)を補完することです。この制度では、エネルギー部門、製造業、航空機事業者、その他の産業が排出する温室効果ガスの総量に上限が設けられています。上限の範囲内で、事業者は取引可能な排出枠を購入または受け取ることができ、その価格は炭素排出量の削減と低炭素技術への投資を奨励するように設定されています。
ETSがEUの域内で生産された商品を優先するのに対し、CBAMは、EU域内への輸入に焦点を当てています。CBAMのパラメーターに該当するEUで商品を販売、輸入している輸出業者は、影響を受けるでしょう。
EUは、EU域外で炭素集約型の商品を生産する生産者と、ETSによって管理されているEU域内で炭素集約型の商品を生産する生産者の間で、炭素の影響を均等にすべくCBAMを設計しました。例えば、EU域外にあるセメントの生産者は、炭素排出基準がより低い他の管轄区域に行くことが可能です。CBAMを設けることで、最終的にEUに輸入されるセメントの生産コストが平準化されます。
CBAMは、輸入企業に炭素排出量の許容量を提示することで機能します。許容量を超えた場合は、ETSシステムから発行されるものに準拠したCBAMの証明書を購入する必要があります。追加の証明書のコストは関税となります。なぜなら、追加の証明書は、商品の生産コストを増加させるからです。
炭素排出許容枠をカバーするために追加で証書を購入するという要件は、製造業者等に低炭素技術への投資や行動変容を奨励することになります。なぜなら、そのコストがいつかは商品の買い手が支払ってもいいと思える価格を上回ってしまうからです。
コンプライアンスへの主なステップは分かっているものの、依然として疑問点が残る
これらの規制を遵守するため、EU域内の企業は、ETSに基づき、四半期ごとにEU域内の生産に基づく炭素排出量を申告します。CBAMを遵守するには、規制の対象となる輸入品について、EU域外の供給業者の炭素排出量も含めなければなりません。これは、対象製品のEU域内への輸出業者も確実に規制順守するためのプロセスの一部となることを意味します。規制に基づいて報告される排出データは、輸出業者や供給業者からEUの顧客に提供される必要があるため、規制要件を理解することは輸入業者だけにとどまらないのです。
すべての疑問に対する回答はまだ出ていないかもしれません。しかし、企業が事前に準備できる事柄には以下が含まれます。
- まず、輸入業者および輸出業者は、CBAM規則の第一段階で概説された炭素集約型製品に該当する製品があればどの製品かを確認し、その情報を収集・報告するためのプロセスを設計しなければなりません。このステップは通常、輸入業者がどの製品がCBAMの対象となるのか、またCBAM遵守プロセスの機能的な所有権が社内のどこにあるのかを把握するための影響評価によって完了します。
- 次に、製品がCBAM規制に該当することをEU域内の輸入業者が確認後、製品の原産国の特定し、それぞれの国からの輸入量を把握することが重要です。これは、今後発生する可能性のあるコストへの影響を理解するために重要だからです。
- 最後に、炭素排出量に関するデータをどのように収集し、報告するかについての報告プロセスをマッピングし、設計する必要があります。これは、報告を目的とするEU域内の輸入業者にとっても、報告のために排出量データを顧客に提供する責任を負う輸出業者にとっても重要です。
重要な疑問に対する回答がまだされておりません。そのひとつが、規制の中で明確になっていない、企業が製品の炭素排出量情報を把握するために最も効果的な方法が何であるかということでしょう。当該規制は、排出量を決定するための公式を提供してはいるものの(実績値が入手できない場合は、EUの既定値が選択肢となります)、多くの企業にとって課題となるでしょう。
国際貿易ソフトウェアは、輸出業者と輸入業者があらゆる種類のデータポイントを追跡・保存することによって、規制の順守を追跡するサポートをし、製品レベルでの森林破壊基準や温室効果ガス排出量の遵守を可能にするものを含むことが可能になります。CBAMについては、国際貿易管理によって製品がCBAMの対象であることをお知らせする内蔵型のアラートを含めることができます。より多くのCBAMガイドラインが利用可能になり、企業がそのニーズを伝えるにつれてさらなる機能が追加される可能性が高まるでしょう。
CBAMのような規制が他の管轄区域でも将来的に確実に導入されると思われますが、実施にはまだ時間がかかるでしょう。EUが環境に配慮した規制において、世界をリードしていることは周知の事実です。すでに米国などでも同様の法律が議論されていますが、米国がどのくらい迅速に前進するかはまだ分かりません。同時に、製造業者や輸入業者、その他の利害関係者らは、他の管轄区域でもEUに倣うように設計された同様の法案が提出されるのを目にすることでしょう。
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