今後のマネーロンダリング対策(AML)システムは 、人工知能(AI)と機械学習を使い、予測可能となると考えられており、AMLコンプライアンスのコストは最大で80%削減できると、金融業界の国際会議で発表されました。
マネーロンダリング対策とAIの活用
Sibos会議に出席したパネリストは、「各金融機関で匿名加工データが共有され、同時に、機械学習に基づいて疑わしい取引を探し出すアルゴリズムが採用されるようになると、金融機関は、はるかに効率的に業界からマネーロンダリング活動を一掃できるようになる」と発言しました。
「銀行業務において、将来のあらゆるサプライチェーンアプリケーションが予測的なものになるでしょう」C3.ai社のトム・シーベル会長兼最高経営責任者はこう前置きし、次のような見解を示しました。「現在のシステムは、規則的なものを基にしていますが、これは1979年レベルのテクノロジーに近いものです。AIをこれらのシステムに統合すれば、AMLコンプライアンスの費用を、おそらく80%削減することができます」
AIの可能性
多くの銀行は、テクノロジーを利用したAMLコンプライアンスプロセスの効率化について慎重に検討しています。ドイツ銀行のラファエル・オテロ最高情報責任者兼最高製品責任者は「ドイツ銀行では、異常検知やパターン認識から文書認識に至るまで、現在のほとんどの業務に機械学習や、自然言語処理(NLP)などのプロセスを利用している」と話しました。
「社内に多くのユースケースをすでに持っており、実際のところ、文書認識に多くの資源を割いていますが、ではどうすれば、私たちが抱えている文書そしてドキュメントフローをデジタル化できるでしょうか」
「たとえば貿易金融では、文書から文脈を引き出して、その内容をよく理解するために自然言語処理テクノロジーが使用されており、同じ技法をAMLでも応用できるでしょう。」
「会話、テキスト、ソーシャルメディア、CRMシステム、ケーブル指令などから抽出できるセマンティクスが大量に存在しており、そこから私たちは、金融犯罪やAMLプロセス関連の情報の真相を突き止めることができるのです」
金融業界と国際機関の緊密な連携
C3.ai社は数多くの大手金融機関と共同して、AIをAMLなどのプロセスに適用し、効率化するプロジェクトを推進している、と、シーベル会長は現状を説明し、金融業界がAML対策の効率化とコスト削減を実現させるためには、 SWIFTなどの国際組織と連携し、匿名でデータを共有する方法を模索すべきだと指摘しました。そうすれば、個人データや競争優位性を放棄することなく、共通のAMLアルゴリズムに注力することが可能になります。
個人情報は守られるか
「協力して取り組むことはあらゆる人にとってメリットがあり、そこにプライバシーの問題は存在しない。」「非常に正確にマネーロンダリングを予測できるような機械学習モデルを開発できれば、それを公開し、次の企業が利用できるようにすることを妨げる理由はないのです。この作業は単なる機械学習モデルによる作業に過ぎず、プライバシーに関する問題は存在しませんし、個人を特定できるような情報を扱っているわけではないのです。ある銀行が他銀行より競争優位性を持つというような領域でもありません。」
「マネーロンダリングの事例を減少させることは、すべての人にとって最善の策です。マネーロンダリング対策はドイツ銀行やUBSやバンク・オブ・アメリカが単独で取り組むようなことではありません。このゲームに参加している悪人が悪党の国に存在し、あちこちのドアベルを鳴らしているという状況なのです」
シーベル会長はさらに、機械学習モデルでは、顧客に関する情報を取り込む必要は一切ないとしたうえで、AML機械学習モデルの開発は、ドイツ銀行のデータを基にし、それをUBSのデータを使って洗練させ、さらに他の銀行で、というように進むので、実際に誰のデータか判別できないようになっている、と説明しています。
「モデル自体は、単独の取引や一連の取引、活動が実際にAML事例を構成しているかどうかを非常に正確に識別できるようになります」