会計事務所のESGへの関与増加により、コンプライアンス監視の必要性

ESGがより重要になるにつれ,会計事務所は企業がESGをどのように管理しているかというコンプライアンスに関する理解や情報が必要になるでしょう。

過去数年間、監査部門は様々な問題に直面してきました。大きな失敗をきっかけに会計事務所の監査とコンサルティングの分離、新たな規制当局の導入、共同監査の見通しなど、広範かつ体系的な改革が行われました。

会計事務所は新しい環境に適応し始めていますが、まだ移行期にあります。導入の期限は2025年ですが、2023年に入っても劣悪な監査行為の事例が後を絶ちません。

例えばオーストラリアでは、PwCの国際税務の元責任者が、自身が委員を務めていた政府の審査委員会についての情報を同僚や顧客に無許可で開示したとして、出入り禁止処分を受けました。英国では、PwCが取引交渉中に機密情報を漏らしたとして元クライアントのクインデル社から訴えられています。一方、ドイツでは、監査規制当局がEYのワイヤカード監査への対応に関する調査を打ち切りました。

この移行期では、税務・会計事務所をより危うい立場に置き、特に会計事務所が組織の環境・社会・ガバナンス(ESG)データの作成と監査に関する助言に携わる機会が増えているため、企業リスクが高まっています。

ESGの動向

ESGに対する規制の動きはここ数年強まっています。国際レベルでは、気候関連財務情報開示タスクフォースが、一貫性、比較可能性、信頼性、明確性、効率性のある気候関連財務情報開示の最終提言を行い、国際サステナビリティ基準委員会が、質の高いサステナビリティ情報開示のための包括的基準に関する公開草案を協議しています。

欧州連合では、持続可能金融開示規則(SFDR)により詳細な開示体制を定めており、組織と製品の両方のレベルでの開示が求められています。つまり、企業は自社の製品やサービスの構成について詳細に理解する必要があるのです。英国では、英国プレミアム上場企業に対する新しい開示規則がすでに施行されており英国版SFDRは今年中に施行される予定です。

まだ始まったばかりですが欧州銀行監督機構からの報告書や、英国の金融行動監視機構(FCA)と財務報告評議会(FRC)の共同報告書により、完全な情報開示に対する準備の度合いがまちまちであることが明らかにされました。欧州中央銀行は、「銀行によるストレステストの枠組みや内部モデルには、2020年以降、一定の進展が見られるものの、気候変動リスクはまだ十分に組み込まれていない」と報告し、FCAとFRCは気候関連報告にはまだ改善が必要であると報告しています。

会計事務所の利用

多くの企業はこのようにESG開示に関する様々な規制に対応するための報告書を作成する際に、必要な詳細なデータがないことに気付き、そのようなデータを抽出する方法を検討するようになりました。限られた時間の中で適切な専門知識を得る必要があるため、多くの企業が会計事務所にサポートや指導を依頼するのは自然な流れだと思われます。会計事務所は、規制やガイダンスに関する最新の知識を有しているため、ESG開示の準備において企業を支援できることは間違いありません。

繰り返される失敗

しかし、会計事務所はESG対応準備の際に過去の誤りを繰り返さないように注意しなければなりません。監査改革は、企業の会計監査を行う一方で、より有利なコンサルティングの仕事を請け負うことの間に内在する矛盾に対処する必要性など、多くの懸念から始まりました。この明らかな利益相反に対する懸念の一つは、監査人が経営者の仮定に十分な厳密さで異議を唱えることを躊躇するようになるかもしれないということです。

また、FRC による品質調査では、監査人が経営陣に対して十分な異議を唱えられないことが発覚しました。会計規則自体が細かすぎるため、会計事務所がESGの評価には簡略化しすぎてしまうリスクがあるという懸念もありました。そのため、FRCは、ESGデータを扱う際の会計専門家のガイダンスとなる「ESGに関する意向表明書」を発行しました。2021年に初めて発行されたこの声明は、”ESG情報の作成、監査、保証、配布、消費、監督、規制に関する根本的な問題を特定 “しました。また、FRCは、ESG報告において課題がまだ残っている分野を概説するアップデートを発表しました。

コンプライアンスの果たす役割

コンプライアンス担当者は、組織がESGデータの作成や監査を行う監査人の選任をする際に、非常に重要な役割を担っています。最初のステップとしてコンプライアンス担当者は、組織の規制上のリスクを確認し、特定の 会計事務所の関与によって企業がリスクにさらされないことを確認することが得策でしょう。

i) 会計事務所のコンサルティング業務と監査業務の間の利益相反を特定する

ii) 重要なデューディリジェンス基準を遵守するために適切な時期にのみ外部委託する

iii) 特に新たに収集した情報に関して、すべての機密保持契約を遵守する

iv) コンプライアンス維持のためにとった行動を記録し、誰が記録にアクセスできるかを決定する

企業は、自社のビジネス、製品、サービスのESGに関する正確で包括的なデータを迅速に提供することに大きなプレッシャーを受けています。しかし、最近の監査改革の焦点を念頭に置き、関係の性質が変化していることを認識しそれに応じた管理を実施する必要があります。


Supply Chain Compliance

ONESOURCE Supply Chain Complianceで可視性を強化

サプライチェーンにおける情報管理の必要性は、かつてないほど高まっています。グローバルサプライチェーンにおける取引企業との連絡、管理、トラッキングを効率的に行い、リスクを特定・軽減し、コンプライアンスを維持する必要があります。CTPATやAEOなどの制度や強制労働、紛争鉱物の課題、製品の安全性や、レイシー法などESGの観点から、デューデリジェンスと情報収集が不可欠です。トムソン・ロイターの ONESOURCE Supply Chain Complianceは、サプライチェーン全体の可視性を高め、コンプライアンスを管理し、リスクを軽減するための統合的なソリューションです。データ集約型のテクノロジーによって、企業、部門、個人を問わず調査、依頼、通知をオンラインで実施、管理することができ、ペーパーレスを推進し、管理コストと業務負担を軽減することができます。


ビジネスインサイトを購読

業界最新トレンド情報をアップデート

購読する