法律事務所にとって優秀な弁護士、特に新人アソシエイトの確保は大きな課題となっています。人材課題の対応策を探るために弁護士の退職理由に関するデータを検証します。
「2022年度版 英国リーガル市場の現状」レポートによると、英国企業は外部の法律事務所への支出を増やす傾向にあると報告しており、英国の法務業界に対する需要は引き続き堅調と見込まれています。”今後数ヶ月間に法務費全体の増加を見込んでいると答えた英国企業の割合は増加傾向にあり、特に規制などの業務分野で大きな増加が見られる “と調査結果を示しています。
さらに、英国の失業率は歴史的に見ても低水準にあり、2022年全体では4%未満を維持しています。しかし、ここ数ヶ月で経済の不確実性が高まり、将来の予後は多少厳しいように思われます。
法務需要の高まりと低い失業率という背景により、英国内およびヨーロッパ全域で人材獲得競争が激化し、英国の法律事務所は弁護士、特にアソシエイト確保という面において難しい状況にあります。トムソン・ロイター・インスティチュートが2022年7月に実施した最新のパルス調査によると、アソシエイトの大半(60%)がシニアアソシエイトに分類され、その退職リスクは37%まで上昇しています。スタンド・アウト弁護士調査による、アソシエイト弁護士のうち何人が現在の事務所からの退社を考えているかを示すこの指標は、パートナー弁護士の退職リスクが25%であることと比較するとさらに高いことがわかります。
離職の動機となる要因
アソシエイト弁護士が転職を検討する要因の上位5つは以下の通りです。
1.評価不足(48%のアソシエイトが重要な要因として挙げています)
2.事務所の給与制度(45%)
3.キャリアアップの欠如(38%)
4.現在の報酬 (35%)
5.アソシエイトの健康に対する配慮の欠如 (25%)
英国のアソシエイト弁護士の意見で興味深いのは、米国やカナダの同業者と比較して、法律事務所の文化やキャリアアップに関連する要因に不満を示す弁護士がより多いことです。 (下表参照)
柔軟な職場環境が満足度の主な要因
いつ、どこで、どのように仕事をするかという勤務環境の柔軟性への強い要望は、満足度の高い要因としてアソシエイト弁護士からの意見の上位を占めました。
例えば、現在の勤務先で最も満足している点についての質問では、転職先への優先順位においてアソシエイト弁護士の45%が「柔軟な働き方」を第一の要因として挙げています。その他の要因としては、人・同僚(25%)、文化・環境(22%)、仕事の質(21%)が上位に挙げられています。
また、勤務先に留まる可能性が高いアソシエイト弁護士も、65%が「柔軟な働き方」を意思決定の主な要因として挙げています。さらに、62%のアソシエイトが「公平に扱われる」を2番目に、57%が「職場で自分らしくいられる」を3番目に挙げています。
逆に、現在の事務所に留まる可能性のあると人材と離れる可能性のある人材の間で、満足度の要因に大きなギャップがあることから、法律事務所の経営者や上司、そして顧客から直接評価を受けるパートナー弁護士がとるべき行動があることが明らかになりました。(下図参照)
さらに、女性アソシエイトは男性よりも退職リスクが高いものの、その差はわずか4ポイント(36%対32%)でした。ほとんどの場合、満足度の上位3つの要因は男女とも一致していましたが、2位と3位の要因は男女で逆転していました。
人材確保のための対策
このようなデータを踏まえて、英国の法律事務所は、アソシエイト弁護士が事務所について最も高く評価している以下のような点を、さらに強化する機会があると考えるべきでしょう。
柔軟性
法律事務所は、従業員の満足度を高めるための取り組みの一環として、柔軟な働き方を引き続き重視していくべきでしょう。アソシエイト弁護士は、退職する可能性があると答えた人も、留まる可能性があると答えた人も、柔軟性が満足度を高める最大の要因であると答えています。
公平な待遇
アソシエイト弁護士の意見によると、常に公平な待遇を意識することは事務所の長所となり得ます。優秀な人材を引き留めるために法律事務所が強調すべき点でしょう。
自分らしく働ける職場環境
アソシエイト弁護士が「自分らしく働ける」環境を提供することは、法律事務所にとって重要なことです。実際、これは男女ともに上位3位の要因であり、退職を考えている人材の上位2位に上がっている要因です。
同時に、法律事務所はアソシエイト弁護士が満足度が低いと回答した分野、特に評価の低さやキャリアアップの欠如に関する不満に対処する必要があります。これらの分野に注力することは、アソシエイト弁護士が法律事務所の経営者、上司、また顧客を抱えるパートナー弁護士に対して感じている距離を縮めることにもつながるでしょう。
存在価値を認める
実際に感謝の意を表現したり、単に「ありがとう」と伝えることで、スタッフを大切している気持ちを伝えることができます。しかし、アソシエイト弁護士の満足度において最も現実との乖離が大きかったのが、事務所の経営者や管理職、顧客を抱えるパートナー弁護士などからアソシエイトの貢献に対する感謝の表現が不足していることでしした。これを改善することで、アソシエイトの士気は向上し、経営陣、上司、パートナー弁護士に対する好感度が高まり、さらに人材の定着率を高めるという相乗効果をもたらします。
また、パートナー弁護士への昇進だけでなく、法務顧問やその他の法律専門職へのキャリアパス、時間短縮やパートタイム勤務の可能性などを説明・強調し、キャリアアップの選択肢を広げる努力も必要でしょう。さらに、「キャリアアップをどのようにサポートすればよいか」「やりがいのある仕事をするために何が必要か」といった質問を常に投げかけることも、アソシエイト弁護士にキャリアアップについて配慮していることを示す方法です。
このような時間と労力を費やすことで、英国を拠点とする法律事務所はアソシエイト弁護士の定着率を高め、事務所全体の離職率の低下にもつながります。アソシエイト弁護士の多額の給与と、多くの法律事務所が直面している離職率を考慮すると、「ありがとう」と「よくやった」の一言は、重要な人材を失うコストと比較にならないほどの小さな出費でしょう。
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