企業のサプライチェーンとESG戦略の関係は強固に共生しており、経営陣も注目しています。
環境・社会・ガバナンス(ESG)の取り組みにおいて、サプライチェーンが主要な成長ドライバーとなり、また重要な役割を担うようになったことで、多くの企業においてサプライチェーンが重要視されるようになってきています。
その結果、サプライチェーンの行動と成果に関する可視性は多くの企業が望むリストの上位に躍り出ました。しかし、多くの経営陣は可視化がオペレーションとテクノロジーにおいて実現していないことに不満を感じています。専門家は、企業のサプライチェーンの可視化は企業がより革新的な方法でサプライチェーンの取り組みについて考える場合にのみ実現可能であると述べています。
持続可能なサプライチェーンに関するEYレポート(英文)によると、可視性はサプライチェーン担当役員の最優先事項の一つとなっています。調査対象となった大企業525社のうち、58%が過去2年間と今後2年間の両方で、サプライチェーンのエンドツーエンドの可視性の向上が最優先事項であると回答しています。しかし、そのような状況にもかかわらず、過去2年間に可視化を達成したと回答したサプライチェーン担当はわずか37%であり、可視化に対する要望と進捗との間に大きなギャップがあることを示しています。
EY AmericasのESG & Sustainability サプライチェーンリーダー であり、本レポートの共同執筆者であるライアン・アルヴェス氏は、可視化こそがコンプライアンスへの重要な第一歩であると述べています。「企業がサプライチェーンについて考え、より持続可能なものにしようとするとき、何が起こっているかを知るためにエンドツーエンドの可視性が必要です」とアルヴェス氏はいいます。「企業は、サプライヤーから物流に至るまで特に社外の領域で必要とされる透明性を欠いています。 この透明性を実現することで、サプライチェーン全体で必要な可視性を得ることができるのです。」
この結果は、トムソン・ロイターのマーケットリサーチ&コンペティティブインサイトチームによる最近の調査でも反映されています。ESGの取り組みを調査している米国企業のシニアリーダーへのインタビューでは、多くの企業がESGの取り組みを確立しているが、データの収集とその測定はバラバラで一貫性がないと答えています。
可視化性を高める上での課題
サプライチェーンの活動と成果を可視化しようとするとき、多くの企業経営陣は異なるシステムに存在するデータを集めて統合することの難しさに直面しています。ある上場企業のESG担当者は、サプライチェーンの調査では、リスク管理・運用ソフトウェア、人事ソフトウェア、調達・サプライヤー向けソフトウェアなど幅広いシステムからデータを取り込むと説明しています。
このような種類のデータをすべて統合して一つにすることは依然として困難です。ある上場企業のサプライチェーン担当者は、「どのようにデータを収集しているのかさえ分からない、どのベンダーも独自の工程を持っているのです」と述べています。
この問題は企業が収集するデータの種類を増やし始めているため、ますます大きくなっているとEYのアルベス氏は付け加えています。サプライチェーンをより詳細に把握するため、多くの企業は、スコープ1(企業が直接所有するもの)とスコープ2(企業が購入するエネルギーの間接使用)の排出量だけでなく、企業のバリューチェーンの上下に生じるスコープ3の排出量もカタログ化しようと考えているようです。実際、企業のデータ収集範囲が広がれば広がるほど、可視化の問題はより複雑になっていきます。近年、これらのデータソースをすべて集計・表示しようとするサプライチェーン中心のソフトウェアプロバイダーが数多く誕生していますが現在のところ、市場で大きなシェアを獲得しているリーダー企業は存在しません。
サプライチェーンの可視性を高め、”透明性を極限まで追求した “持続可能なサプライチェーンの “先駆者 “となった企業もあります。
EYのパートナーでアメリカサプライチェーンテクノロジーリーダーであるガウラブ・マルホトラ氏は、「デジタルネットワークでつながったサプライチェーンに必要なエンドツーエンドの機能を提供できるプロバイダーが存在するかどうかはまだ不明です。コントロールタワーや可視性の観点から単一のプラットフォームでオーケストレーションを実現するのではなく、多くの要素を組み合わせる必要があります」と説明しています。
多くの企業は他の技術的な修正を適用しようとしたが、多くは成功しませんでした。ある企業のサプライチェーン担当者は「環境関連のツールはほとんどありません。すべてがエクセルで報告され、すべてがエクセルで測定され、すべてがエクセルでまとめられ、さまざまな部門で別々に管理されているため非常に非効率的です」と述べています。
可視性の向上
それでも、サプライチェーンの可視性を高めることができた企業もあります。EYのレポートでは、特定の企業を持続可能なサプライチェーンの「先駆者」と位置づけ、これらの企業に共通する特徴の1つとして、「極めて高い透明性を重視」、ティア2および3のサプライネットワークを「広く、あるいは適度に見通すことができる」としています。
EYのマルホトラ氏は、透明性を高めるために経営陣はしばしば2つのシフトを同時に行っていると述べています。1つは、サプライチェーンの各機能を自動化し、より効率的で一貫した信頼性を確保できるようにすること。もう一つは、個々の機能を統合し、その出力データを社内および外部のサプライチェーンエコシステムパートナーとの間で効果的に共有するためのポータビリティを確保することです。
現在、ほとんどのサプライチェーンネットワークは、複数の段階で運用されているため、「本当の意味でのデジタル統合がなされていない」と同氏は説明します。データは、サプライチェーンエコシステムの各セクションを管理する1つの企業で処理され、その後他の企業で消費または処理できるように送信されます。マルホトラ氏は「最終的にほぼ自動化した状態にするためには時間と労力がかかる」と認めながらも、これらのステップを組み合わせ、統合し、自動化することがサプライチェーン・マネジメントの未来になると考えています。
「我々が気づいたことは、一部の大手企業は、サプライチェーンネットワークパートナーとの適切なレベルでの可視性、オーケストレーション、実行を可能にする統合プロセスと単一プラットフォームに移行しているということです」とマルホトラ氏は述べています。「その結果、高度に効率的で、統合され、差別化された、信頼性の高い サプライチェーンが実現されるのです」
また、大手企業は、一般的なサプライチェーンの業者間でデータの標準化を推進していると、アルヴェス氏は付け加えています。サステナビリティのフレームワークは数多く存在し、規制の強化によってさらに複雑化しています。標準化が進めば、サプライチェーンデータはより実用的で、監査可能なものとなり、企業の潜在的なリスクを低下させることができます。ある上場企業のESG担当者は、来年度のサプライチェーンにおける最優先事項について尋ねたところ「監査可能なプロセスを導入し、データが健全であることを確認したいのです」と回答しました。
しかし、アルヴェス氏は持続可能なサプライチェーンの測定と報告に関して企業は「間違いなくまだそこに到達していない」と付け加えました。この分野で社会と規制の両方が注目する中、サプライチェーンのプロセスとデータの可視化はさらに重要になり、主要企業はサプライチェーンのデータハウスを整えるために資源と人材を投入し続けるでしょう。
Supply Chain Compliance
ONESOURCE Supply Chain Complianceで可視性を強化
サプライチェーンにおける情報管理の必要性は、かつてないほど高まっています。グローバルサプライチェーンにおける取引企業との連絡、管理、トラッキングを効率的に行い、リスクを特定・軽減し、コンプライアンスを維持する必要があります。CTPATやAEOなどの制度や強制労働、紛争鉱物の課題、製品の安全性や、レイシー法などESGの観点から、デューデリジェンスと情報収集が不可欠です。トムソン・ロイターの ONESOURCE Supply Chain Complianceは、サプライチェーン全体の可視性を高め、コンプライアンスを管理し、リスクを軽減するための統合的なソリューションです。データ集約型のテクノロジーによって、企業、部門、個人を問わず調査、依頼、通知をオンラインで実施、管理することができ、ペーパーレスを推進し、管理コストと業務負担を軽減することができます。