米国下院の改正法案で、法務・会計業務を「関所」とするAML規則が制定

改正ENABLERS法は、弁護士や会計士などの専門的業務の「関所」にマネーロンダリング対策の監視機能と新たな義務を課すものです。

米国下院で可決された法案は、弁護士や会計士などのいわゆる「関所」業務にマネーロンダリング防止(AML)要件を課すことを目的としていますが、改正前の法案で対象となった一部の職業は除外されています。

また、この法案では、誰が対象となり、何を要求されるかを明確に特定することを米国財務省に求めています。

そして今年7月に、米国下院は、2023会計年度の国防権限法(NDAA)の一部として、ビジネス・ロンダリングおよび安全保障のリスク対策法案であるENABLERS法を可決しました。

NDAAは毎年、国防費の承認を議会で可決するという歴史的経緯があるため、下院の政策としてENABLERS法が含まれることは、特定の弁護士や会計士、投資顧問、会社や信託を設立・登録する人など、米国の金融システムにおいて重要な「関所」の役割を務める専門業務を担う業種を対象に、初めてマネロン防止義務を課す、大きなステップとなると見る向きもあるようです。

さらに、ベテランのAML専門家によると、ENABLERS法は共和党の支持を得ていることもあり、上院を通過して議会で制定される可能性が高いとのことです。しかし、下院がENABLERS法を可決したという発表を受けて、AML専門家は即座に、これまで公表されていなかった法案の重大な変更点を指摘しました。

注目される法案の変更点

2021年10月、パンドラ文書(14の「オフショア」サービス企業が富裕層や汚職政治家の資金隠しに貢献してきたという調査報道が発覚したこと)をきっかけに、超党派の有志によってENABLERS法が法案提出されました。

この法律は当初、投資アドバイザー、美術品・骨董品・収集品の販売業者、「代理人として金融活動に携わる」弁護士、信託・企業サービス業者、会計士、「第三者に匿名性や否認権を提供する」広報会社、第三者支払業者など、明確に定義された7つの職種に対して完全なAML対策を要求するものでした。

2023年国防法案の最初の草案(HR7900)には同様の職種が含まれ、完全なAMLプログラムと疑わしい活動報告の要件に例外はありませんでしたが、最終的に下院のNDAAに追加されたENABLERS法の条項には根本的な変更がなされていたのです。

NDAAの5401条は現在、不正資金防止法(STOP Dirty Money Act)、またの名を不正資金の扉を開くシステムと呼ばれ、ENABLERS法は「略称」として残されています。

レジテック・コンサルティング社の代表で米国AML対策の第一人者であるジム・リチャーズ氏は、「この法律は複雑で、信託や会社のサービスプロバイダー、第三者支払プロバイダー、特定の法律サービス、特定の会計サービスなどに特に言及しており、当初の7職種のうち、現行では4つの職種が残っています」と指摘し、「法案から削除された職種は、投資アドバイザー、美術品販売業者、広告会社などです」と説明しています。

「関所」の役割:ゲートキーパー規定

下院で可決された法案には、米国の金融システムが「関所」として対処すべき要件が含まれており、財務省は制定日から1年以内にこの定義に該当する人物を決定し、適切なAML要件を規定することができるようになっています。

財務省のAML局であるアメリカ財務省金融犯罪取締ネットワーク (FinCEN)は、この役割を担い、以下の項目に関与する人物を対象とすることが義務づけられています。

  • 会社、有限責任会社、信託、財団、有限責任パートナーシップ、パートナーシップ、その他類似の事業体の設立や登録(または持分の取得や処分)
  • 上記の事業体に登記上の事務所、住所または宿泊施設、通信先または管理上の住所を提供すること
  • 他人の名義株主として行動すること、または他人がそのように行動するよう手配すること
  • 金銭又はその他の資産に関する管理・助言又はコンサルティングを行うこと
  • 支払の処理、現金保管サービスの提供、又は金銭の送金
  • 外国通貨、デジタル通貨又はデジタル資産の交換
  • 会社、有限責任会社、信託、財団、有限責任パートナーシップ、パートナーシップ、またはその他の類似の事業体の設立、運営、または管理に関連する資本の調達、プール、組織、または管理

「当リストは、投資アドバイザーが最終的に何らかの未定義のAML対策の制定を義務付けられることを示唆しているようですが、曖昧な点が多く、明確にされるべきです」と、リチャーズ氏は指摘し、「どのような業種が対象となるかはわかりませんが、複雑であることは確かです」と語りました。

下院で可決された法案は、当初のENABLERS法とは異なり、「関所」に課すことができる要件の種類に関して、AML制度や疑わしい活動報告制度の確立から、デューデリジェンス方針の作成といった負担の少ない義務まで、FinCENに柔軟性を与えています。

しかし、この法案では、FinCENは「本章に記載されている要件の適用を、本章に記載されている、いかなる人物に対しても遅らせてはならない」と述べており、投資アドバイザー、不動産専門家、第三者支払処理業者に対するAML規則の実施を歴史的に遅らせてきたFinCENを批判しているようだと専門家は指摘しています。

下院法案に満足する反d汚職団体

米国に流入する汚職・不正資金を取り締まる重要な法案として多くの人が注目しているENABLERS法が、上院を通過する勢いを見せて下院を通過したことは、汚職防止擁護団体にとって歓迎すべきことです。

腐敗や汚職に対して取り組む国際非政府組織、トランスペアレンシー・インターナショナルUSのアドボカシー担当ディレクターであるスコット・グレイタック氏は、ロシアのウクライナ侵攻やパンドラ文書などの調査報道によって、「関所」が米国の金融システムへの不正資金流入に重要な役割を担っていることが明らかになった、と説明します。「これは、9.11以降に成立した最も重要なマネーロンダリングおよび腐敗防止法であり、不正資金の流入を追跡、検知、防止することができるという当面の課題に応えるものです」とグレイタック氏は述べています。

今後数カ月の間に、上院は独自案のNDAAを可決する見込みで、最終法案の条件について下院との会議委員会で合意する必要があります。「上院でも、ENABLERS法にはかなりの超党派の支持が得られると思うので、会議を通じて最終法案に残る可能性は非常に高いでしょう」と、グレイタック氏は付け加えました。

重要な課題

ENABLERS法の内容を含んだ法案が議会で制定される可能性は高いものの、法案の正確な文言はまだ確定しておらず、FinCENが提案するルールに反発するロビイストが続出することが予想されます。

それでも、下院の法案に列挙されている、または漠然と示唆されている業界や職業に該当する場合は、規則制定プロセスにおいて FinCEN に提出するコメントを検討し始めることが賢明でしょう。また、デューデリジェンスの要件や、将来的に発生する可能性のあるAML義務についても、計画を立て始めるべきでしょう


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