金融機関の未来 : ウニクレディト社 アンドレア・オルセルCEO インタビュー

世界の金融機関は将来、どのような姿になるのでしょうか。ウニクレディト社のアンドレア・オルセルCEOは、トムソン・ロイターの最新インタビューで自身の見解を述べています。 

2021年4月、投資銀行家で名高いディールメーカーであるアンドレア・オルセル氏がイタリア第2位の商業銀行であるウニクレディト社のCEOに就任した際、オルセル氏の事業計画はヨーロッパ中の投資家から大きな注目を集めました。 

就任後半年が経過した12月、オルセル氏はかなり大胆な発表をしました。まず、今後4年間で10%のリターンを実現し、160億ユーロ(180億米ドル)を株主に還元することを約束しました。次に、M&Aによって成長を促進することも検討するが、それはタイミングが合い、条件が彼の厳選した基準を満たす場合に限ると述べました。 

ビジネスモデルの転換 

オルセル氏は、トムソン・ロイターの「Banking in Transition(銀行の転換期)」と題したインタビューの中で、「投資家が配当を祝う前に具体的な結果として株価の上昇を望むのは当然なことです。2022年のスタートは予想外に不安定だったが、銀行は計画通りに進んでいます。」と語りました。 

オルセル氏は、「当行は、非常に多様なフランチャイズを持っており、そこから利益を得ることができます。これは、様々な出来事や市場の混乱がフランチャイズ企業に同時に影響を与えることを避けるメリットがあります。」と述べ、多様化することで、良いことと悪いことのバランスをとるための「オフセット」が生まれると説明しました。「一般的に私たちは非常に保守的で、自分たちでコントロールできることにフォーカスしていますが、現時点ではそれが功を奏しているようです。」 

オルセル氏は、確約した結果を得るために、ウニクレディト社のビジネスモデルを「資本を重くし、量で勝負するアプローチ」から「資本を軽くし、ハイリターンで資本を生み出すアプローチ」に変えようとしており、それによって銀行の純利益を大きく上回る余剰資本が得られるはずだと言います。 

ウニクレディト社アンドレア・オルセルCEO 

年間約40億ユーロ(配当金と自社株買い)を株主に分配することは、多いと思われるかもしれませんが、それは純利益から出ていると考えればこそだと彼は言います。「今年を例にとると、当社は65億ユーロの追加資本を有機的に生み出し、37億5,000万ユーロを分配している」とオルセル氏は説明します。「このように考えると、決して分配は多いとは言えず、実際には資本金が増加していることになります」

合意契約すべき案件 

オルセル氏のディールメーカーとしての高評価により、ウニクレディトの株価は12月の戦略発表以来20%近く上昇し、過去6カ月間で35%以上も上昇しました。しかし、取引の面では、実際には成約した取引よりも不成約の取引の方が多く、10月には、経営不振に陥ったイタリアの銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナとの救済取引を中止し、ウクライナとの緊張関係を理由に、ロシアの国有企業オトクリチ銀行の買収に関わる話し合いからも手を引いています。 

オルセル氏は、自分のM&A戦略は必要に迫られたものではないと説明しています。「私たちは、何かをしなければならないというプレッシャーはありません。M&Aを行うための無限のキャパシティがあるわけではないので、優先順位をつける必要があるのです」。オルセル氏は、どんな案件でも検討するが、それが戦略的に合わず、フランチャイズを強化するものでなければ「パス」するといいます。 

また、12月に行った株主との確約が危うくなるような取引はしないとも言っています。「私の仕事は、適切な条件をすべて満たさない案件には「ノー」と言うことです。」と彼は付け加えます。「もし私が100の案件を見て、その理由で100回ノーと言えば、面目を失うように見えるかもしれませんが、私の考えでは、株主が私に求めていることをやっているだけにすぎません。」 

アリアンツ社との契約:その青写真 

オルセル氏が成立させた案件のひとつに、ドイツの保険大手アリアンツ社とのイタリア、ドイツ、中・東欧諸国での継続的なパートナーシップの拡大があります。この契約により、ウニクレディトは2024年にこのジョイントベンチャーを自社で運営するという選択肢を得て、アリアンツ社のデジタルプラットフォームを通じて自社の商品を販売することができるようになります。 

オルセル氏は「アリアンツ社との契約は青写真だと思っている。なぜなら、何よりもまず長期的なパートナーシップ、技術的な統合、製品の設計、共同トレーニングとマーケティング、そして彼らの有名なセールスサポートが前提になっているからだ」と説明します。数年かかるかもしれないが、アリアンツ社のデジタルプラットフォームを通じて統合することで、最終的にはウニクレディトが顧客によりよいサービスを提供できるようになるだろう、とオルセル氏は言います。 

オルセル氏は2022年は金利が上昇すると予想していますが、インフレによって銀行が金利上昇から得られる利益が目減りする可能性があることを認めています。また、パンデミックの長期化が欧州に与える経済的影響や、M&A取引を実行するために必要な規制の複雑さを考慮すると、今年は大規模な国を超えた銀行買収は起こらないと考えています。 

加速するESG 

今後5年間、ウニクレディトが注力している分野のひとつが、ESG(環境・社会・企業統治)のさまざまな取り組みを通じたサステナビリティへの貢献です。 

しかし実際には、「E」、「S」、「G」は必ずしも相互に補完し合うものではないとオルセル氏は指摘します。銀行自体も、炭素削減などのグリーン事業に伴うリスクを理解する技術的な専門知識を必ずしも持っているわけではなく、例えば、炭鉱を閉鎖することは「E」にとって良いことであっても、それによって5,000人が失業することになれば、「S」にとってはあまり良いことではないという相反する事例は多いのです。 

オルセル氏は、「ESGは非常に速い速度で加速しており、ウニクレディトを含めた金融機関は、今後の課題に対応するために新しいスキルや知識を身につける必要がある」と述べています。「しかし、私たちがやるべきことをしっかりとやれば、すべての銀行はこれらの問題の多くを社内で、あるいは議論の際に相談する専門家と一緒に、非常に深く理解することができるでしょう。」 

欧州経済がよりクリーンなエネルギーへと移行していく中で、「ウニクレディトは自らの言葉で語ることになるだろう」と、オルセル氏は断言します。 

「我々自身が正しい手本を示すことができなければ、顧客のところに行って正しい行動を促すことは難しい。ESGの観点からすると、ウニクレディトは『お客様、私たちはパートナーシップを結んでいますが、私たちが今後5年間で何を成し遂げようとしているかを見てください』と本当に言えるようになる必要があるのです。確かにそれはかなり厳しく野心的ですが、そうすべきであり、それができなければ、”偽善的な議論 “になってしまうでしょう。」と、オルセル氏は決意を込めて語りました。 


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